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営業はしない、縦横無尽に縁を繋ぐ。世界を魅了する「リップル洋品店」の仕事のつくり方【ローカルベンチャー最前線:後編】

2018.08.31 510view 

日本を代表する機業都市・群馬県桐生市で、毎月1日〜7日の7日間だけオープンする小さな洋品店がある。開店のその日、世界中の中学生から80代までの老若男女が、ある人は電車で、飛行機で、フェリーを乗り継いで、その小さなお店を訪れる。目的は、そこで出会える自分のためだけの、世界でただ1着の服に巡り会うこと。

今回の記事でお届けするのは、そんな「RIPPLE YōHINTEN(以下、リップル洋品店)」の8年間のストーリーだ。前編「(タイトル入る)」では、その“常識”破りのオリジナリティー溢れる事業が生まれた軌跡を、後編ではさらに踏み込んで、より具体的な2人の仕事のつくり方について届けていきたい。

(前編はこちら)

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月火水木金土日。1週間だけの店頭販売の裏にあるもの

リップル洋品店が開くのは、毎月たったの7日間。たとえば一般的な会社員の人たちからすると、まるで遊んでいるように見られてしまうと苦笑いで2人は語る。

「僕らは自営業で、2人ですべてをやらなければいけないんです。だから、店を開けていない残りの日々も、製作、打ち合わせ、取材を受けたりなど、ちゃんと働いているんですよ。そうして色んな要素が絡まって、最終的にお店に人が来てくれるような仕組みになっているんです。

そもそも、地方では歩いている人を捕まえるような商売はできません。それならば、人を雇って25日間店舗を開け続けるよりも、7日間だけ自分たちがお店に立って、お客さんの好みを直に吸い上げ、製作にダイレクトに反映できる流れを大事にしたいと思っていて」

開人さんに続けて、久美子さんはこうも語る。

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「私たちにとっては、服を製作する時間だけが仕事ではなくて、服を生み出す自分たち自身を豊かにすることも仕事だと思っていて。生活すること、人に会うこと、自分がそのとき気になったもの、例えば 絵1枚でも見に行きたいと思ったら見に行く時間を作りたい。そのために、この仕事のシステムを作ったんです」

とはいえ、最初は毎週火曜日だった営業日。しかし、製作が途中で“止まってしまう”という感覚になり、お釣りや袋の用意も疎かになった。「お店モードに切り替えなければいけない」ことが負担になっていたころ、いつも展示にきてくれていたお客さんに「自分の仕事は火曜日が休みには一生ならない」と言われたことが、この営業形態が生まれるきっかけになった。

「それを聞いて、月曜から日曜まで入るように毎月1日〜7日の開店にしたらどうかと考えたんです。これはいいアイディアだと、その月からガラッと変えてしまいました」

最初はお客さんのためのシステムだった、毎月頭の1週間営業。しかし、時間が途切れないこのシステムは、自分たちの生活にも良い影響をもたらしたのだった。

お客さんと自分たちの、“個性の交わる1点”を探して

リップル洋品店が開店する7日間、店には年代・洋服のテイストもてんでバラバラな人々が、ぎゅうぎゅうになって楽しそうに集う。その60%ほどは東京から、残りの40%は地方や海外から訪ねてきた人々だ。あまりの“カオス感”に、ある開店日に訪れた取材陣には「これは何のジャンルと言えばいいんでしょう?」と、困惑した顔で尋ねられたこともあると言う。

「商品を介して人と出会うということをずっとやってきたので、本当に大勢の方々と出会ってきて、客層がとても広いんです。中学生から80代のお客さまが来てくださっていて、近しい形のワンピースをまったく違うコーディネートで着てきてくれたりするんですよ。それがとてもその人らしくて、嬉しくて。そういうものづくりをずっと考えてきたから」

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リップル洋品店で出会う「服」と「人」の個性は、ぶつかってどちらかが負けるということは決してない。どちらの個性も残ったままで融合する、その在り方は、コミュニケーションの成立そのものだ。

「自分たちの個性が100%では売れないし、お客さんの個性が100%では自分たちの精神が潰れてしまう。お客さんと私たちの、個性の交わる1点を探しているんです。私たち夫婦もそうですし、子ども達ともそうです。混じり合わないのなら1人でいればいいように、リップルに関心を持ってくれた人たちとは、どこかしらに交じり合う1点が必ずあります。働くうえで、その1点を探すということはいつも意識しているんです」

営業はしない。縦横無尽に縁を繋ぐ

2人が紡ぐリップルという「コミュニケーション」は、そのまま店の経営方針にも繋がっている。

「僕らの性格に合っていないということもあって、いわゆる営業はしたことがないんです。展示会をして、バイヤーさんやプレスさんをお呼びしてという動きも、一度もしたことがなくて。3年目くらいまで、お客さんの繋がりの繋がりの繋がりくらいまでの口コミで続けてきました」

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営業をしない。その代わり、展示会の依頼などオファーがきた仕事は「すべて勉強だ」と、スケジュールが合う限り、物理的に不可能なことではない限り、選ばずに受ける。事業の在り方にとどまらず、その歩みも“型破り”と言えるだろう。

「たとえばある種、自分たちのセンスに合わないと感じるところからのお話でも、それは私たちの勝手な主観だと思うので引き受けます。それは、人が放っている個性というのは私たちが判断するものではないと思っているのと、その人の向こう側に500人も1000人もの人たちとの縁が存在していると思うからです。その縁がどう繋がっていくかは本当に未知数なので、縁だけはとにかく大事にしようと心がけてきました」

他者との交わる1点を見つめながら、縦横無尽に縁を繋いできたリップル洋品店。その客層のほとんどが地域外の人々というのも頷ける。それにしても、海外からの客層の多さは何が由縁しているのだろうか。

「それはInstagramですね。インスタを見て海外から足を運んでくれた方はとても多いです。8年前からホームページもブログもあったんですが、SNS を取り入れるか取り入れないかという判断は難しくて、5年目になってやっと始めました」

固定観念だけれど、流れていくものにはなりたくなかったから警戒していたと語る開人さん。SNSでは写真や文章に流行があるが、リップルが発信するうえではその点はまったく意識したことはないという。自分たちのいいと思った言葉で、いいと思った写真で載せる。そのひとつひとつの積み重ねが、SNS上でも「リップルらしさ」を保ちながら人々を魅了することに繋がっているのだろう。

私たちは機械じゃない。人間だから、その人らしさに心が動く

リップル洋品店のInstagramは、本当に美しい。どの写真をとっても、どの文章をとっても、2人の感性で満ちている。それにしても気になっていたのは、新作の洋服の投稿の間に不定期に残される、家族の旅の記憶だ。香港、アムステルダム、タイ。まるで世界中に刻むぞと言わんばかりの家族の足跡の多さには、何か秘密があるのだろうか。

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「インターネットを通してあまりにも多い情報の中で生きているから、そこで迷子にならないようにというのは家族全員で意識しているんです。気になったもの、これはすごいなと思ったものは、絶対に潜在的に自分の未来に必要なものだと思っているから、調べて満足するのではなく実際に見に行くようにしています。その土地に行って、その場所に立って音を聞いたり空気を吸ったりするということを、とても大事にしていて。だからこそ、家族でネパールの山の奥まで行ったりしているんですよ」

画面で見ることはすごく簡単だけれど、そこで満足して知ったふりをしてしまったら、「自分の人生を生きられない」と2人は口を揃える。

「自分というのは“ここ”にしかいなくて、デジタルな次元の存在ではないから、その場所に行って体感してみないと。そういった全部がものづくりに繋がってくると思っていますし、体験や記憶が絶対に“服に宿る”と信じているんです。そこにしか私が作る意味なんてなくて、主人が染める意味なんてないと思っているから」

私たちは機械じゃない。人間だから、その人らしさに心が動く。揺らぎなくまっすぐにそう語る久美子さんは、こうも続ける。

「自分たちより良いデザインをする人、良い色を染める人なんていくらでもいて、そこを目指していたら機械になってしまいます。そうではなくて、もっとハートフルに、ドラマチックに生きていかないと、やっぱり面白いものは作れないし、面白い人脈も作れないと思っているから」

それが最高に自分らしいものであれば、たとえ見切り発車でも、不格好でもいいと思っていると語る久美子さん。「そう考えたら、起業や何かを始めることも、すごく敷居が下がりますよね」という言葉に、開人さんもこう続ける。

「東京に行くと企業の規模がすごいので、あの中で何かをしようと考えたら、正直尻込みすると思います。けれど、畑に種をまいたら小さな芽が出てくるように、それくらいの小さな規模からチャレンジできることはいっぱいあります。大きな建造物もその延長線上で作っているんですから、たとえ小さなスタートだったとしても、そこには変わらない価値があるんです」

スタートからあまり大きく描きすぎずに、自分のできるところから。その在り方は、2人の仕事づくりの軌跡そのものだ。味も素っ気もない事務テーブルに載せられた5着の延長線上に、現在の2人がある。

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ものづくりも、経営も、次への踏み出し方も、すべて「自分たちのできるところから」

2人の“自分たちのできるところから”という揺らぐことのないスタンスは、経営にまで浸透している。

「経営計画はまったく作っていないです。借金をしないということだけは決めていますが、借金を否定しているわけではなく、自分たちが持てないお金は自分たちが使えないお金だと思っているからです。例えば1000万を持ったこともないのに1000万を使った経営をしようとしたら、その金額ありきの仕事になってしまうと感じていて」

そう語る開人さんに続けて、「お金ありきで繋がる人と、情熱ありきで繋がる人は全然違う」と語る久美子さん。その視点もあって、当初から自分たちの手に余る投資は一切してこなかったという。リップル洋品店のスタートは、オーガニックマルシェで初出展のときに投資した5万円。加えて、店舗は自宅の車庫をリノベーションしたものであり、響くんのホライズン・ラボも茶室をリノベーションし、初期投資は10万円だと言う。

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「自分たちのできることから」と語られるその在り方は、誰にでも“自分らしさ”を築き上げていけるのだという勇気になる。一方で、「自分たちのできることから」に躊躇を感じる人もいるのだろうと思っていたら、実は開人さんがそのタイプだったと判明した。笑いながら、久美子さんはこう語る。

「私は完成させる必要なんてないと思っていて、ある程度まできたら発表してみて、周囲の反応を見ながらその先を考えるタイプなんです。自分の中ではそのとき最大の力を持って製作したもので、それ以上はそれを受け取る相手と一緒に変化していくものだと思っているので。ただ、主人はしっかり準備したいタイプだから、そこが合わないんですよね(笑)。『5着で会議室のテーブルで出すなんて……!』と、最初は軽いケンカになりました」

思わず目を合わせて笑い合う2人。「だって、失礼かなと思って。そんなふわふわしたものからお金をいただけない」と考えを述べる開人さんに、久美子さんはこうも続ける。

「私は何も分からない状態でのブランディングは、それこそ受け手に失礼だと思っているんです。ブランディングは、お客さんや自分の変化に合わせて進化していくものだと思っていて。それに、いつまでたっても“完成”はないですし、“最高のいいもの”は存在しません。今ベストと思えるものを見てもらう、それでいいと思っています。

自分が想像していることなんて、現時点での自分の想定内でしかありません。まずはやってみて、可能性を制限せずに変化を受け入れて、想像以上に到達しないと自分も楽しくもないしお客さんも面白いと思わないと思っているんです」

加えて、“自分らしさ”がない人などいない、蓋を開けてみたら全員がすごく“変”でクレイジーだと語る久美子さん。

「それが個性というものだし、もっと多くの人が出していってくれたらと思うんです。素敵だなと思ったことを一緒にシェアすることが普通になっていったら、本当に面白いですよね」

そうした言葉たちを体現するように、世界でただ1つの自らの世界観・個性を思い切り表現した1着を生み出し続け、自分たちにとって最適だと感じる経営のあり方を妥協せずに模索し創り出し、お客さんと共に変化をし続けているリップル洋品店。そうしたものづくりへの姿勢こそが、届けたい相手に商品が届き、魅力が理解されることでファンが生まれ、口コミで静かに、けれどどこまでも遠くまで広まっていく、そんな流れを作り出しているのだろう。

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香港での新たなステージ。原点に帰る服づくりを

今、リップル洋品店は新たなステージを迎えている。製作数はこの3〜4年で一気に増加、周囲からのニーズにどうしたら応えていけるのか、人に会う時間が増え製作時間が減る中で、3倍になった製作量に押し潰された2人は岐路に立たされた。

「これは、本当に自分たちの望んでいた形なのか。そもそも本当にお客さんは何を求めているのかを立ち止まって考えたいと思いました。それこそ交じり合う1点は何なのだろうと」

開人さんの言葉を受けて、久美子さんもこう続ける。

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「今まで8年やってきて、私たちのこの作り方で作れる最大のリミットまで来たんですね。ニーズがあるならば量産に移ろうかと色々と試してみましたが、やはりその作り方は私たちには受け入れられなくて。今でももちろん仕事ですし真剣に向き合っているのですが、それをしたら例えば夫が以前苦しんだように、自分たちの暮らし方からは別のものとして存在するような“仕事”になってしまいます。そこは間違ってはいけないと思っていて」

自分たちがワクワクしたものを伝えるときには、必ずお客さんにもそのワクワクが届く。いくら策を練ってテクニックを駆使しても伝わらない感動は、例えば自分たちがラオスで布を織る民族に会いに行ったときの“あの感動”を伝えようとすれば、必ず伝わる。「根本としては、僕らが心揺さぶられるものをお客さんに伝えていきたいから」と、開人さんも続ける。

「だから、とても非効率で生産性はないけれど、僕らには今の方法じゃないと面白いものが作れないと、一度はこれ以上の量産を諦めたんです。ところが、それができることになった」

現在、リップル洋品店は香港に新たな拠点を作ろうとしている。自分たちにはできなかった“1点もののまま100着にする方法”を思い浮かぶビジネスパートナーが現れたからだ。それは、お客さんの友人、縁を繋いだ先にいた人物だった。

「私たちのやりきった精一杯の先に、引き上げてくれる人がいたんです。彼が現れたことで、私たちの洋服作りの原点『個々があるように服も一着ずつあったっていい』という想いに戻ってくることができました」

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個人と個人のままで融合し合える、面白いものが生み出せる関係性こそが自由

2人がいつだって目がけるのは、「個人のまま融合し合える、ぶつかって面白いものが生み出せる在り方」だ。それは、家族とのコミュニケーションも、お客さんとのコミュニケーションも、ビジネスパートナーとのコミュニケーションも変わらない。

「今回は香港でのビジネスパートナーとの出会いのように、自分たちの活動や考えていること、困りごとを人に伝えていくと、必ず繋がるべき相手が現れてくるんです。そうして繋がった者同士で緩やかな集合体になってビジネスが生まれていくという在り方が、自分たちには合っていると感じていて。

たとえば、その時々だけの関係性になったとしてもいいんです。違う方向性になって離れたり、一緒に仕事をすることになったり、一度離れたけれどまた何かを始めることになったり、そうした関係性の更新が、自分たちの変化に合わせて続いていくのだと思っているから」

それはとても自由な世界観で、場所を問わず世界中に働く場所が生まれるということだ。群馬県桐生市で育まれた小さな洋品店は、そうしてどこまででも歩いていける。私たちはきっと、その最高に型破りで自由な歩みに、いつまでも魅了されてやまないのだ。

(前編はこちら)

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ローカルベンチャーPROFILE

岩野開人さん、岩野久美子さん

会社名:リップル洋品店

所在地:群馬県桐生市小曾根町4-45

設立:2009年9月

資本金:非公開(個人事業のため)

従業員数:2名(2018年8月現在)

事業内容:服飾雑貨の製造、販売

URL:https://www.ripple-garden.com/

この記事を書いたユーザー

ライター・桐田理恵

ライター・桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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