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目指すは地域発のスタートアップ・エコシステム。地方創生xデジタルが日本経済に必要な理由とは?〜ローカルリーダーズミーティング2022レポート(1)〜

2022.11.28 

2022年10月8日、北海道厚真町で「ローカルリーダーズミーティング2022〜革新的ローカルインダストリー創造への挑戦〜」が開催されました。主催はローカルベンチャー協議会。地域資源を活用したビジネスの担い手(ローカルベンチャー)育成や企業と協働で産業創出に取り組む自治体を中心に構成され、その活動を通じてこれまで多くの起業家や新規事業が生まれています。

 

しかし、2016年9月の協議会発足から7年目を迎えたいま、一個人一企業によるゼロからの挑戦のみでは規模拡大の難しさも見えてきました。どうしたらより大きなインパクトを生み出せるか。今回のイベントは、ローカルベンチャーの集合を「地域発の新たな産業(ローカルインダストリー)」へとつなげる道を探るべく、自治体やセクターの枠を超えた合同戦略会議として企画されたものです。

 

この記事では、その基調セッションより、デジタル田園都市国家構想(通称:デジ田構想)を進めるデジタル庁統括官、村上敬亮氏のお話部分を抄録してお届けします。ローカルベンチャー協議会の構想段階から関わってきた氏が考える、次のステージに向けて必要なこととは?ぜひご覧ください。

 

「デジタルから考えるデジ田構想~地方創生xデジタルがなぜ必要か」

 

村上様■デジタル庁統括官 村上敬亮(むらかみ・けいすけ)氏

1990年、通商産業省入省。2014年に内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局参事官として、国家戦略特区も含め地方創生業務を担当。地域創生イニシアティブ「まち・ひと・しごと創成総合戦略」を主導。2021年からは内閣官房情報通信技術総合戦略室内閣審議官として、デジタル庁の創設に取り組み、同年9月から、デジタル庁統括官として、政府情報システムについて共通の基盤・機能となる「ガバメントクラウド」「ガバメントソリューションサービス」の利用環境や整備・運用に取り組むほか、準公共分野(健康・医療・介護、教育、農業・水産業、モビリティ、防災、港湾、インフラで国や独立行政法人、地方公共団体、民間事業者などがサービスやデータを連係させやすい環境の整備に取り組む。

 

人口減少とデジタル化

 

人口減少とデジタル化の必要性の間には、強い関係がある。

 

今の予測では、1億2,000万の人口が80年後の西暦2100年に(中位推計で)5,900万になる。今の子どもたちがまだ生きている時代だ。

 

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人口が半分になるということは、国のGDPもあなたの地域の商店街の売上も半分になるということだ。ただし、客数が半分になるからといって旅館の数は同じように半分には減っていかない。これが難しいところだ。人口減少下の撤退戦は、みんな苦しい。その最前線に立たされるのが、下請け中小企業やサービスのベースを支える地域経済だ。どう生き残るか。真剣に考えなければならない。

 

人口が減少する時代は、(需要と供給のイニシアティブが逆転して)下表のように「供給が需要に合わせにいく」必要がある。

 

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人口が減っても需要がなくなるわけではない。交通については、たとえば夜9時に地方の実家の最寄り駅に到着した人はどうすればいいか。路線バスはないし、タクシーも運転手が減って呼んでもなかなか来ない。そういう地域では、免許返上した高齢者が病院に行く足に困るのはもちろん、子どもたちが海岸のゴミ拾いをしながら生態系を観察する、といった先進的な実習をしようにも、その海岸まで行く手段がない。

 

そういう満たされない需要が依然として残っているのに、現地のバス会社もタクシー会社も経営が苦しい。超過需要があるのに供給側が全員苦しむという奇妙な現象が生まれる。その謎解きの鍵は、人口減少だ。人口が増えているときは、運行本数やルートを増やすことで需要との間が調整ができた。しかし、今はバスの台数もドライバーの人数も増やせない。そんな中で多様化するニーズに限られた供給側が合わせることは困難だ。その解決に必要となるのが、データ連携だ。

 

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必要なのは「共助」のレイヤー

 

しかし、個社単独で地域で必要なデータすべての収集・整理に投資しても、誰も回収できない。だから誰も投資しない。デジタル基盤が生まれないから、デジタルを生かしたサービスも生まれない。完全に悪循環にはまっている。

 

人口増加時代は、インフラを担う「公助」だけを支援すれば、人口と市場が拡大する中で、各社の投資、すなわち「自助」の世界だけで済んだ。だが、人口減少とライフスタイルの多様化が同時に進む現在は、需要動向を把握するためのデジタル投資を、関係者が共同で行わなければ、投資が成立しない。すなわち、自助と公助の間に「共助」のレイヤーを挟まないと経済が回らないということだ。

 

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例えば、スマートウォッチの例を引こう。すでに様々なバイタルデータを取得できる。たとえば心電図データを見て、この年齢でこの頻度でこのパターンが出るのは危険信号だからいますぐ病院へ、といった提案をするサービスは、今では簡単にできるはずだ。でもそうならないのは、スマートウォッチも複数、病院のシステムも複数あり、その間をつなぐ仕組み、つまりデータ連携基盤がないためだ。

 

技術的難易度は決して高くない。ただし、構築コストをだれがどう負担するかが課題だ。スマートウォッチのメーカーが価格に上乗せするにも、(回収ポイントは購入時だけの)一過性だし、そもそも買った人全員がその機能を使うとは限らない。かといって、スマートウォッチのバイタルデータを生かすデータ連携基盤づくりは公的部門でもできない。住民全員が使うわけではないサービスを自治体が手掛けるのは不可能だからだ。

 

ベースとなる部分のデジタル投資は特定多数の事業者が共同で行い、そのうえで、ある事業者は心電図解析サービス、ある人は皮膚病専門のコンサルティング、ある人はPHR(パーソナルヘルスレコード)で健康予防サービスを提供する、という形になっていくしか、PHRベンチャーが成立する可能性は乏しいのではないか。

 

人口減少時代に共助のレイヤーが必要なのは理論的帰結であり、これができなければ地域のサービスの生産性は上がらない。生産性が上がらなければ賃金水準も上がらず、引き続き、東京への人口流出は続く。東京でも生産性の高いビジネスは減っており、優秀な人からどんどん海外に出ていくことも懸念される。結果、日本経済はいつまでも伸び悩む。

 

ローカルのサービス業の生産性を向上させ、共助のレイヤーにおけるデジタル投資をどうやっていくか。これは地方創生だけでなく日本経済のアキレス腱そのものだと思う。

 

GP=「最後の責任をとる人」が決定的に重要

 

「GP(General Partner)」という言葉を覚えてほしい。もともとファンド用語で、LP(Limited Partner=出資額を上限に責任をもつ出資者)に対してGPは無限責任の出資者を指す。一般化すれば、「事業を⽴ち上げる際、当該事業の中⼼となる無限責任を負う者」となる。たとえば、万が⼀負債を抱えて倒産した場合、最終的な返済責務を負うのがGPだ。

 

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地域のローカルベンチャーが投資を集められず、持続可能性の足腰が弱いとすれば、その主たる原因の一つが、GPがだれなのかはっきりしないことだ。ファイナンスの世界で言えば、ガバナンスが不明確ということである。最初は補助金という安全枠があるせいで、LPからうまく資金を集められた時点で安心して事業を始めてしまう。しかし、GP不在のまま補助金が切れたら、次のステージの資金は調達できない。

 

そもそもGPの引き受け手が少ない。それは、社会的課題の解決を目指すソーシャルベンチャーの場合、「引き受け損」の構造になっているためだ。テックベンチャーなら、リスクも大きいが当たったときのリターンも大きく、GPとLPでは得られるリターンの差別化も可能だ。でも、ソーシャルベンチャーはそこまで儲からない。薄い利益の中でGPの取り分を増やすといってもわずかだから、引き受けるメリットがリスクに見合わない。だからやる人が出てこないし、育たない。

 

ローカルビジネスをリードできるGPをどう探し、どう育てるかということは、いい経営者をどう探し、どう育てるかと同じだ。経営する前から立派な経営者などいないのと同様、やる前から立派な地方創生事業のGPもいない。やりながら育てるしかない。そのためには、いない人を探すのではなく、GPが生まれやすい環境、メリットのある構造を意識的につくる必要だ。

 

潜在的なLPの引き受け手はどんどん増えつつある。ソーシャルインパクト・ファイナンスがすごい勢いで育っているからだ。世界的には、おそらく50~80兆円くらい動いているのではないか。日本でも5000億円くらいという推計がある。企業にとっては出すのが50万でも10億でもかかる人手は同じだから、高額の方が却って出しやすい。日本の企業の内部留保は500兆円あり、そのまま寝かせておけば資産課税される。最大9割を控除できる企業版ふるさと納税が盛んなのは、それが生むソーシャルインパクトが株価の下支え要因にもなり得るからだ。

 

逆にいうと、きちんとソーシャルインパクトがついてこないと企業としては大義名分がたたない。すでに著名な大企業が地域に大きなお金を出すとき、彼らが期待するのは広告宣伝効果ではなく、その資金が生み出すソーシャルインパクトだ。地域の側は、ソーシャルインパクトを明確に答えられる必要がある。Well-Being指標なども活用しつつ、そこをもっとうまくやれるよう、手伝っていきたい。

 

分配圧力に負けてはいけない

 

こうした課題の解決に、是非、デジタル技術を活用して地域の課題解決や魅力向上に取り組むための「デジタル田園都市国家(デジ田)構想推進交付金」を、是非使って見てほしい。ただし、その場合には、カギとなる事業を、最初に一つ、しっかり選択して、そこをぶれない軸として、デジタル基盤を作ってほしいと考えている。そして、カギとなる事業に選んだ事業だけは、地域の補助金分配圧力に負けてほしくない。絶対にしっかりとしたGPを置き、周りに信頼できるLPを意識的に配置して、しっかりとしたガバナンスの基に事業を進めてほしいと思っている。

 

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たとえば、地域に集客力のある宿がひとつだけあるとする。そこがオーバーキャパになったとき、客の少ない周辺の施設へ効率的に客を回せたらいいだろう。そこで共通の地域決済システムや予約管理システムをデジタル基盤として入れて、宿泊連携事業というカギとなる事業を妥協なく作り上げる。それがいったん回り始めたら、同じ基盤上で特産品の販売、アクティビティ体験サービスなどだんだん膨らませていけばいい。

 

しかし、宿泊連携事業をカギとなる事業として選ばずに、最初からこうしたプログラムを3つ4つ同時に立てると、それぞれの関係者からの補助金分配圧力に屈してしまいがちになる。だから、カギとなる事業は一つに絞って、そこだけは投資採算性をしっかりと計算できる事業とし、それをうまく生かせるデジタル基盤をきちんとつくる。そういう戦略を立ててほしい。

 

分配圧力に関しては、以前、とある地域の協会がやっと1億の事業費を国から獲得し、これで地元の産業を変革しようと意気込んで帰ってきたら、「その金を(全事業者に)いますぐ配れ」と言われたという話がある。地方創生推進交付金を作った当事者の一人として、自分もそういう現場をたくさん見てきた。地方にとって財政支援は配って使って終わり。投資活動ではなく消費活動になってしまっていることが多い。人口が育っていて、足りないところに財源を公正配分するのが求められていた時代ならそれでもゆるされたのかもしれない。しかし、今は、地域も、「選択と集中」をしない限り生き残れない。議会も、それを支える市民の思いも、そこを一緒に乗り越えていく必要がある。

 

地域発のスタートアップ・エコシステムを目指せ

 

いまはチャンスだ。人口減少がこれだけ目の前の現実になり、道具としてのデジタルもかなり値段が下がって使えるようになってきた。ここで、分配圧力に負けずに投資を積み上げて地域経済をつくるチームが、それぞれの地域で勝負して勝ち始めれば、地域発の投資循環が始められる。スタートアップ・エコシステムだ。デジ田構想もローカルベンチャー協議会も、ローカル発のスタートアップ・エコシステムをつくるのが最終ゴールなのではないか。

 

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このプロセスで多少意識すべきは、活動の輪に地元の事業者だけでなく、市民も参加させるということだ。「住民の同意を得る」といったように、地方創生絡みの事業は、どうしても住民を「お客さん」にしてしまいがちだ。しかし、大切なのは、地域の将来のためにリスクや時間を張って取り組もうとしてくれる人たちだ。既得権益同士の諍いに対して「社長さん、そう言わずに一緒にやりましょう」と言えるのは「市民」しかいない。その力を運動論に巻き込んで、地域経済全体に活力をみなぎらせていく活力を生み出す必要がある。

 

その際、「住民」と捉えるべき人に、住民票の有無は関係ない、ということを大切にしてほしいと思っている。住民票がなくても地域のことを人一倍思って活動している人、域外に住んでいてもこの町が大好きという人、ここに投資してもいいという人はたくさんいる。そういう「第二市民」や「潜在住民」たちも巻き込んでいくことが大切だ。同業者や同じベンチャー仲間だけでなく、少しずつ異質なものも含めていくことで経済循環は大きくなる。

 

また、事業をつくる側から見ると、行政区域でサービスの境界が決められることには意味がない。「行政サービスの民営化」という視点から事業を始めてしまうと、どうしても事業対象が行政区域単位に縛られてしまう。まずは、地域の公共サービスを担える地域のソーシャルベンチャーを直接育てることが大事だ。その質が良ければ、認めた自治体が、そのベンチャーのサービスをどんどん利用すれば良い。ただし、そうしたソーシャルベンチャーの事業も、最初は小さく始めることになるだろう。いろいろな自治体の支持を得ながら、徐々に大きくし、自然と自治体の境界線を越えるビジネスになっていくのが望ましいだろう。

 

今日の話が、みなさんの地域でスタートアップ・エコシステムづくりの起点、加速のきっかけになればと願っている。

 

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