今は昔ほど、NPO(Non-Profit Organization、非営利団体)で働くことが珍しくなくなりました。一方で、企業からNPOへの転職は、まだまだハードルが高いと感じます。そこで、NPO・ソーシャルベンチャーに特化した求人サイト「DRIVEキャリア」によく寄せられる相談を記事にしました。今回は、「NPOに転職したら、企業には戻れない?」を取り上げます。
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>> NPO転職!キャリア相談の現場から お悩み①「企業とNPOの働き方、違いはありますか?」
NPOか株式会社か、はただの法人格の違いでしかない
企業(株式会社)、と一言で言っても、多様な業種の会社があり、規模もさまざまです。一つの会社の中にも、経理や営業などたくさんのポジションの人が働いています。それは、NPOも同じです。
数人で運営されている小さな団体もあれば、数百人の従業員がいるNPOもあります。一つのNPOの中にも、株式会社同様にいろいろなポジションがあります。
束になったときの大きな傾向はあるものの、それでも、企業・団体やポジションによって状況はさまざま。十把一絡げに「NPOに転職したら、二度と株式会社に転職できない」と言い切ることに違和感があります。
では、冒頭の相談は、どう考えていけばよいのでしょうか?
まず、NPOを選ぶか、株式会社を選ぶかは、あくまで手段です。
最初に考えるべきは、「目的」です。あなたが仕事で大事にしたいことは何でしょうか?そして、その目的を達成するため、仕事でどんな役割を担いたいでしょうか(何のプロフェッショナルになりたいのでしょうか)?
そこが明らかになって初めて、どこに参画するか(NPOなのか、株式会社なのか)、の話になります。
NPOを選ぶときに生まれる、2つの不安
相談者の方は、「子どもの貧困の課題解決」に関心がある、と書かれています。
前段で、最初に考えるべきは「目的」で、どこに参画するかはその後、と書きました。今回の記事では、「どこに参画するか」のお悩みに焦点をあてるため、いったん、相談者さんはよく考えた末、次のように目的や役割を決めた、と仮定します。
ここまで来たら、「子どもの貧困課題解決」×「広報職」の求人案件を探すことになるのですが、よく相談に寄せられる不安は大きくわけると2つあります。「スキルの不安」と「収入の不安」です。
スキルの不安とは、「NPOの広報職を極めたとしても、汎用性が高いスキルが積み上がらず、食いっぱぐれないだろうか・・・」という、将来の稼ぐ力に対しての心配です。
収入の不安とは、「課題解決の仕事はしたいけど、あまりに貧乏な暮らしになるのも困る・・・」という、目先の収入面の心配です。
一つひとつ紐解いていきます。
スキルの不安
NPOの広報職を極めてプロフェッショナルになれたとしても、その団体を辞めたら社会に必要とされずに、食いっぱぐれてしまうのではないか。
冒頭の転職エージェントの方の話に近いですね。「一度NPOに転職したら、もう他には転職できないのでは・・・」という恐れです。
最近の大きな潮流として、企業も社会的責任が大きく問われるようになってきています。
利益だけでなく、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の情報を考慮して投資先を選ぶ、ESG投資が世界的に加速しているのです。環境や社会に悪影響を及ぼす会社には資金を貸さない、という投資家や金融機関が増えています。(※1)
あなたがもし、NPOの広報のプロフェッショナルとして活躍し、団体の社会的成果を世に広く伝えることで、資金獲得や世の中を変えるムーブメントに貢献できたら。その力は、企業・NPO問わず、重宝されるはずです。広報職に限らず、社会課題解決に寄与できる力が備わっているのであれば、企業であれNPOであれ、あなたを必要とするところは必ずあります。
何を選んだとしても、変化が激しく先が読みづらい時代です。「子どもの貧困課題解決」×「広報職」でいく!と腹をくくったのであれば、まずは、その領域で成果を出すことに、最大限注力してみましょう。
そして、ここまで考えたとき、あなたが次に挑戦する場所はどこがふさわしいでしょうか?どんな経験ができると、あなたの思い描くプロフェッショナルに近づけそうでしょうか?団体の規模や裁量などを考慮し、あなたの次の挑戦にふさわしい一手を探してみてください。
収入の不安
「課題解決の仕事はしたいけど、あまりに貧乏な暮らしになるのも困る・・・」という場合。まずは、いくらぐらい稼ぎたいのか、具体的に考えてみましょう。最低いくら欲しいのかによって、ある程度、職種や業界を選ぶ必要があります。
ちなみに、NPO職員の平均年収は、2017年の調査ですと339万円です。(新公益連盟に加盟する77団体に調査)500万円以上を考えているのであれば、管理職としてマネージメント経験を問われることが多いです。
>> ソーシャルセクターの給与・働き方・キャリアとは? ~新公益連盟ソーシャルセクター組織実態調査2017より~
もしも、「最低でも1,000万円は稼ぎたい!」のであれば、コンサルティング会社などで働き、力をつけてから副業やボランティアでNPOに関わる、という道もあります。
もし、気になるどの求人を見ても、年収が希望の下限ラインに届かない場合、今度は、あなたの解決したい課題の方を深堀りしてみます。
「子どもの貧困問題を解決したい」といった時に、解決した先に思い描いている未来は何でしょうか?子どもとは具体的に、誰をイメージしていますか?なぜ、この課題に興味をもったのでしょうか?
そうすることで、あなたの心を動かしているポイントが明確になり、応募したい求人の幅が広がる可能性があります。たとえば、子どもの貧困問題を解決した先に、「一人ひとりが『生まれてきてよかった!』と思える社会をつくりたい」と思ったのであれば、もしかしたら、子ども服ブランドや、育児関連のグッズを扱う会社でも、同じようなミッションを掲げているところがあるかもしれません。
やりがいに対して、どこまで年収を妥協できるのかは、ご家族の事情などに応じて人それぞれです。あなたが一番幸せになれるバランスを探してください。
なぜ、「NPOに転職したら、企業に戻れない」という声があがるのか?
ここまで読んだあなたは、こんな疑問を抱くかもしれません。なぜ、転職エージェントの方は、「NPOに転職したら株式会社には戻れない」と言ったのでしょうか?
それは、転職市場でNPOからビジネスセクターへの転職者の事例が少ないから、だと推察します。
NPO法人は、1998年の特定非営利活動法人(NPO法人)制度の制定によって生まれました。まだ誕生から24年あまり。NPOで働く、という選択肢が知られてきたのも、ここ数年のことです。
「営業」「マーケティング」などの経験は、転職エージェントの方の脳内で、買い手がつくイメージが湧きやすいと思います。
しかし、「NPOでファンドレイジングをやっていました」とか「NPOでボランティアスタッフを束ねていました」と言われても、スキルとして何が積み上がっているのか見えづらく、企業で活躍する絵が思い浮かばないのではないでしょうか。また、事業型NPOが増えているとはいえ、NPOは「稼げない」(個人の収入が低いという意味ではなく、組織として事業性が弱い)という印象はまだ強く、NPOでのキャリアを「稼ぐ力」や「ビジネス経験」として捉えにくいという実態もあると思います。
本来であれば、企業の採用担当者の方にもわかるように、転職エージェントがNPOで積み上げてきた経験を要素分解し、企業から期待されているニーズを満たせることを伝えなければなりません。でも、十分な情報がないのでそれができないのだと思います。
「DRIVEキャリア」には、非営利とビジネス双方に精通したコーディネーターがいます。業界をまたいでキャリアチェンジを考えてみたいという方がいれば、個別キャリアコーチングでぜひ相談してみてください。これまでのキャリアやスキルを、次の挑戦でどう活かしていけるのか、具体的な事例や情報を共有しながら、相談にのることが可能です。
※1 経済産業省『ESG投資』
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