※こちらはLOCAL VENTURE LAB掲載記事からの転載です。
地域のソーシャルビジネスの最前線で活躍するゲストを週替わりで迎え、お酒を飲みながら語り合うNPO法人ETIC.でのプレミアムイベント「七転び八起き酒場」。講演会では聞けないようなソーシャルイノベーターたちの失敗談とそれらを乗り越えてきたエピソードから、地域社会における社会課題解決の本質を学びました。
今回、シリーズ最終回となる第8回目のゲスト株式会社いろどり(以下、いろどり)代表取締役社長の横石知二さんのストーリーをレポートします。
いろどりは、徳島市中心部から車で1時間ほど、人口わずか1500人ほどの過疎高齢化が進む上勝町で、日本料理を美しく彩る季節の葉や花、山菜などの葉っぱ(つまもの)を栽培・出荷・販売する農業ビジネスを行う高齢者たちをサポートしている企業です。パソコンやタブレット端末を駆使し、「上勝情報ネットワーク」から入る全国の市場情報を分析して自らマーケティングを行い、栽培した葉っぱを全国に出荷するたくましい上勝の女性たち。彼女たちの活躍の場を作り上げるために奔走した仕掛け人こそ、横石さんでした。
さて、今夜の1転び目は・・・と話が続くのがこの企画の通例でしたが、なんと「働き始めたこの数十年を振り返ってみて、九死に一生はあっても転んだということは正直ないんです」という言葉から始まった最終回。
「事業も自分の人生も偶然はない」と続けながら、何か物事を進めようとして何だか上手くいかないことが重なるときは「これはやめておけ」と言われていると判断すること、また刻々と変化する物事に対して、どうにかなる前にどうすれば上手く乗り越えられるかをその場で考え、瞬間瞬間で解決し続ければ転ばないのだと秘訣を語ります。
「社員には、こうした僕の考え方が全然分からないと言われるんですけれどね。例えば何かに取り組もうと思ったときに、2〜3割程度のことを考えてこれはやれると思ったらその時点から取り組み始めて、詳細な計画は立てずにやりながら考え進めるからなのでしょう。それでも必ずゴールに辿り着けますよ。絵に描いたように物事が進むわけはないのですから、これでいいと思っています。
なぜなら、地域を相手にしていると、1割が事業内容、9割は人間関係になります。例えば中々難しい相手がいたとして、その人が奧さんには弱かったとしたら、奧さんと仲良くなれば万事がうまく進むようになったりします。そうした攻略方法は、残念ながらどこにも書いていないですよね。現場で自分で見つけるしかないんです。一方で、その状況がいつ変化するかも分かりませんから、私はできる限り現場から目を離さずに、瞬間瞬間で解決していけるようにしているんです」
様々な地域に招かれ視察をする中で、全国的にもいろどりほど地域の人と深く関わった形で事業として成功している事例はないように感じていると語る横石さん。経営状態はこの20年間、一度だけ故意に赤字にした年以外はすべて黒字経営だと語ります。
「ある側面から見たら、確かに経営者としては地域の人に関わりすぎなんです。けれど、地域の人たちと一緒にやること、それぞれが主役になっていくことが楽しいから、望んでそうしてしまう。 主役になる人が増えれば増えるほど、一人ひとりが幸せになり地域が元気になっていきます。やり方さえ工夫すれば、この循環はどの地域でも実現できると自分の中では思っているのですが、地域の人たちと深くは関わらないというのが今の地域ビジネスの一般的な実情です。“いいこと”が中々事業にならないんですよね。それがこの国の一番ダメなところだと感じます」
そんな中、横石さんが大事にしている地域の人たちと深く関わりながら事業を成功させる秘訣は、一般的には外に向いて出すことが情報戦略だと思われているところを、外と内に半々に情報を出すことに努めることなのだそう。
「外側にばかり情報を出すとそこに光が当たっていくので、内側から不満が生まれます」とその理由の一つを語りながら、先日は安倍首相がG20サミットでいろどりを紹介した記事を「上勝情報ネットワーク」というコンビニエンスストアのPOSシステム(販売時点情報管理)を参考にして作られた取引状況から激励メッセージまでを掲載しているシステムに投稿したのだと続ける横石さん。
「自分の家のものが世界各国の首相に届けられたという事実は、計り知れない誇りやパワーや自信を生んでいきます。そしてこうした情報は、仕組みがあるからこそ伝えられるものなんです。 また、私個人のその日の予定もそこで公開しているのですが、例えば今日は中央大学に行ってエティックに行って講演をするという予定がありましたが、それが地域の人たちにとっては一体どんな意味になるのか分からないと感じられてしまうんですね。ですから空いた時間には市場で視察する予定を必ず一つは入れて、地域側にも自分たちのために何かやってくれたと感じてもらえるようにバランスをとっています」
「地域や社会にとってよりも、彼・彼女ら個人にとってどうなのか?」というポイントを押さえることが、地域では大切だと語る横石さん。上勝情報ネットワークで伝える情報も、個人のニーズを踏まえて一人ひとりに宛てて送ることも度々あると言います。
そうしたバランス感覚はいつから持っていたのかという質問に対して、「20代はリーダー的な立ち位置で、事業が成功するためにがむしゃらに動いていた。けれど30代前半で全体観を持って物事をうまく運ぶプロデューサーへの変換期があった」と語ってくれた横石さん。一方で、自らの体験を振り返りながら、プロデューサーになる前に事業家として熱中して事業を前に進める時期があるのはその後に活きると語ります。
「お年寄りを守るのではなく元気にして、その結果地域や社会が元気になるような循環を生みたいなと思うんです。昔はよくそうした家がありましたけど、うちは父が気に入らないことがあると母に手を上げる家庭で、私はそれが嫌で嫌で、夫婦が対等な関係になることがずっと大事だと思ってきました。そうした想いもあって、女性が活躍できる舞台を作りたかったんですね。 地方や大企業などにその傾向が顕著だと思うのですが、言われたことをしなければいけない環境が問題なんです。ですから、考えることを毎日の習慣にするために、上勝情報ネットワークでは毎日情報を提供して、これどう思う?といった問いかけを投げかけるようにしています」
そうした習慣づくりのためにも、一度に多数の住民に情報が行き渡り、頻繁なコミュニケーションを可能にする仕組みづくりの大切さを改めて強調する横石さん。地域ビジネスにとって、コミュニティづくりと情報発信の仕組みづくりが鍵だと語ってくれました。
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全8回のレポートはLOCAL VENTURE LABアーカイブに掲載されています。ぜひ、ご覧になってみてくださいね。
1) 地域での社会課題解決の本質を学ぶ、「七転び八起き酒場」スタート!
2)「地域は人間関係だし、地域づくりは人間関係づくり」。七転び八起き酒場 第2夜目・株式会社御祓川 森山奈美さん
3)「辞表はこれまでに5回は出してる」。七転び八起き酒場 第3夜目・株式会社四万十ドラマ 畦地履正さん
4)「最後までハッピー続きの映画なんて存在しないように、人生山あり谷あり」。七転び八起き酒場 第4夜目・株式会社熊野古道おわせ 伊東将志さん
5)「1年間出口が見えなかったときだってありました」。七転び八起き酒場 第5夜目・NPO法人atamista代表理事 市来広一郎さん
6)「ハードに転ぶけど、それでも病みつきになるのが女川町」。七転び八起き酒場 第6夜目・NPO法人アスヘノキボウ 小松洋介さん
7)「地域のダイバーシティは少しずつでも進めていける!」。七転び八起き酒場 第7夜目・岩手県釜石市オープンシティ推進室 石井重成さん
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