柏市は千葉県北西部に位置し、市の玄関口であるJR柏駅には、東京から約30分で到着します(JR上野駅から乗車の場合)。JR柏駅前には大型百貨店やカフェなどが立ち並び、買い物はもちろん、通勤・通学にも便利で、人口も年々増えている地域です(平成29年度時点)。最近では柏の葉を中心にマンションやショッピングモールが建設され、東京大学の研究施設や教育施設も充実している地域としても注目を集めています。
そんな柏市に、市街地から車で2〜30分ほど東へ進むと現れる「手賀沼」という、とても大きな沼があることをご存知でしょうか?実際に車で向かってみると、いつまでも横目に続く沼のスケールに圧倒されます。
手賀沼周辺は、明治〜大正時代には志賀直哉や柳宗悦、武者小路実篤などが別荘を構える観光地としても栄えていたそうです。そんな自然豊かな柏市では農業も盛んで、平成18年からは柏市の農政課による6次産業化のための事業もはじめられ、この10年で、市内の農家さんによる加工品等を提供できる道の駅や農家レストラン等が増えてきたとのことです。
昨年からはその取り組みをベースに、「手賀沼アグリビジネスパーク事業」が発足しました。この事業は、柏市と5つの民間団体・企業が組み、農と自然を軸とした官民連携による地域活性化のための活動です。今回は「手賀沼アグリビジネスパーク事業」のメンバーで合同会社 EDGE HAUS代表油原祐貴さんにお話を伺いました。都市部からのアクセスの良さを生かした、自然と人々の暮らしをつなぐ多様な取り組みをご紹介します。
地域の魅力を再編集。イマドキ都市型自然体験!
---まずは「手賀沼アグリビジネスパーク事業」の概要を教えていただけますか?
油原祐貴さん(以下油原さん)「昨年発足した手賀沼アグリビジネスパーク事業協議会では、手賀沼周辺の農業と自然を軸にした、観光・レクリエーション事業を進めています。協議会は、柏市と、それぞれ得意領域を持つ5つの民間団体で構成されています。柏市では10年以上前から、この地域独自の持続可能な農業のための施策が進められていたことで、農家レストランや道の駅などの施設がつくられたり、ファミリー向け農業体験などのイベントが行われていました。ただ、今はそのような体験やコンテンツが点在している状態です。それらを繋げ、より発展させることが今回の事業での大切なポイントのひとつです。
EDGE HAUSは、約10年前から柏市の農業政策に関わっています。定期的に農家さんを取材してレポートにまとめるという仕事なのですが、その仕事を通して地域の潜在的な可能性は感じ続けていましたね。また、EDGE HAUSの自主事業として、柏駅前でコミュニティカフェやシェアオフィスなどを運営しています。その場を通して柏市周辺の地域人材のネットワークを築くことができたり、地域住民向けのイベントやワークショップなどもたくさん開催していました。こうしたわたしたちの取り組みと従来の柏市の活動、さらに他4つの民間団体の皆さんの強みを生かしながら、手賀沼周辺をもっと面白くしよう!ということで今回の事業が始まりました。」
---協議会はどんなメンバーで構成されているのでしょうか?
油原さん「手賀沼の中心にあり農家さんで採れたものの直売や観光情報の発信を行う道の駅しょうなん、大規模米農家さんの有限会社しょうなんファーム、耕作放棄地など空いている土地と使いたい人をマッチングさせる活動などを行なっているNPO法人urban design partners balloon、シンクタンク杉浦環境プロジェクト株式会社です。それぞれ、農家さんとのネットワークがあったり、体験プログラムの企画力に長けていたり、強みを生かした連携を進めているところです。」
---具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
油原さん「これまでは、柏市を中心に農業体験などを行なっている農菜土さんによる年間を通した農作物の収穫イベントや、僕らが手がけているOKUTEGA TOURISMによる自然体験イベントなどが行われてきました。今はまだ、そういったイベントに参加するピンポイントな目的での日帰り観光客がほとんどです。もしも手賀沼周辺に、ゆっくり過ごすことのできるカフェやバーベキュー施設があったり、宿泊可能なキャンプ場やゲストハウスがあれば、より長い時間、手賀沼周辺の魅力を味わっていただくことができます。なので、現在具体的に取り組んでいることは、まず目的地化するわざわざ訪れたくなるような魅力的な体験型のプログラムをもっとつくること、さらに、より長く手賀沼を味わっていただくためのカフェや宿泊施設などをつくっていくことです。カフェとバーベキュー施設は昨年すでにオープンさせていて、特に土日には多くのみなさんにお越しいただけるようになりました。」
---たとえば、どのような体験プログラムがあるのでしょうか?
油原さん「夏には枝豆やトウモロコシ、秋にはさつまいもや落花生の収穫体験、手賀沼でのニジマス掴みとり体験などにはじまり、その他、様々な団体のみなさんとプログラムを企画することで新たな手賀沼の魅力を発掘することにも挑戦しています。
例えば、この春、神奈川県逗子市を中心に活動している原っぱ大学さんと"親子のための遊びの学校"柏かわせみキャンパスをスタートさせました。原っぱや川で遊んだり、焚き火でパンを焼いて食べたり、遊びの拠点となるみんなの小屋をつくったり、手賀沼の自然をより楽しむための体験を用意しています。また、手賀沼周辺はもともとサイクリングロードでも有名な土地なのですが、より多くの人にその楽しみを感じてもらうために、今子どもたちに大人気のペダルのない自転車"ランバイク”を気軽に楽しめる親子向けイベントなどを計画しています。」
---積極的に外部の方々と連携し、様々な自然体験を企画されていらっしゃいますが、大切にしていることはどのようなことでしょうか?
油原さん「ヨーロッパでは"コロニーガーデン”という暮らしの文化があります。自分たちでは庭や畑を持つことのできない都会に住む人たちが、休みの日に車や自転車で通える範囲内で、気軽に自然を楽しむというライフスタイルです。手賀沼周辺は、都市部との距離が近いことが大きな魅力の一つなので、そんなライフスタイルの魅力を発信し根付かせるにはもってこいの場所だと思います。そのためには、”いつ来ても楽しい"必要があり、そのペースを維持するためには協議会を中心に様々なプレイヤーを巻き込んでいく必要があります。連携する際には、まずその団体の方がこの地域でのイベントを体験しているとか、このエリアの魅力を体感している上で、協働できる接点を探るようにしています。」
1日だけじゃもったいない!泊まってこそわかる手賀沼の価値
---宿泊施設も準備中とのことでしたが、どのような施設となるのでしょうか?
油原さん「手賀沼アグリビジネスパーク事業では、農泊の推進が目玉として位置付けられています。農泊というと、農家さんのご自宅に観光客が宿泊するというイメージが強いですが、農家さん側の負担が非常に大きく、宿泊施設として充分な数の農家さんを探すことが難しいという課題があります。そこで、この事業では"農家さんと繋がりながら"この地域に宿泊するスタイルを進めていこうと思っています。まずは自然を生かした体験型キャンプ場のオープンを目指します。例えば、生のとうもろこしが一番おいしいのは、太陽がのぼる朝4時や5時頃なんです。これを数時間や1日だけのイベントとして行うことは時間的な制約で難しいですが、キャンプという形なら可能です。
先日は体験型キャンプ場のトライアルとして"生きものナイトキャンプ"を行いました。子どもたちの夏休みの自由研究を見据え「手賀沼の夜の生き物観察」をテーマに、柏市在住の科学ジャーナリスト柴田佳秀さんをお呼びして、様々な生き物を解説していただきました。また、農家さんのご協力で「朝採れ夏野菜の収穫体験」をしたりと、キャンプだからこそできるプログラムを組むことができました。」
---これからチャレンジしていきたいことはありますか?
油原さん「大切なことは、ただの体験やエンターテイメントだけで終わらせず、農家さんと観光客の皆さんをきちんと繋げ、良い相乗効果を生み出していくことだと思っています。農業の世界を楽しみながら学ぶ企画を多くつくることで、観光客の皆さんと農家さんとの距離をどんどん縮めていきたいと考えています。
具体的に現在考えている企画としては、農家さんのいらなくなった道具や衣服などを活用した"かかしづくり”です。ただつくるだけではなく、手賀沼の歴史を学びながら、この地域ならではのかかしを家族や友達と一緒につくるというものです。地域のことに詳しい農家さんのご自宅や畑に話を聞きに行ったり、自分で調べたりしながらアイデアを練り、実際に農家さんで使われていたものを材料にしてかかしを制作します。そのプロセス全体を通して、農家さんと観光客の皆さんの距離が縮まっていくのではないかと思っています。直接農家さんの自宅に宿泊せずとも、農家さんと繋がっていく手段はたくさんあるはずです。体験を通して地域の新しい魅力を感じられる企画をどんどん提案していければと思っています。」
農家さんにも、地域住民にも、みんなにとって"いいこと"を。
---油原さんはもともと農業や自然の分野に関心があって今の活動に繋がっているのでしょうか?
油原さん「農業や自然というより、このようにまちづくりや地域活性化の取り組みに関わるきっかけとなったのは"神社"なんです。僕が小さい頃は、神社は町の子どもたちにぴったりな遊び場でした。ですがある時、人から"最近神社に人がいない"という話を聞いてショックだったんですよね。よくよく考えてみると、神社は遊び場であることはもちろん、町の集会や行事などが行われる交流拠点の一つだったんだと思うんです。今だからこそできる神社を使った体験というのがあるのではないかと思い、地元のものづくり好きな人による手づくり市と、同じく地元の農家さんたちによる朝市をはじめました。
特に朝市は、住民の人たちからにとっては地元の土と緑を感じられるおいしい野菜が食べられることが喜びに繋がりますし、農家さんにとっても新しい販売方法になるということでとても喜んでもらえたんです。その体験が今の活動の原点の一つになっていますね。」
---その活動はどのように続いていったのでしょうか?
油原さん「その朝市は今も続いています。朝市を皮切りに、子どもたちが畑から収穫してきた野菜を提供する"子どもレストラン"という取り組みに発展させたり、マルシェを開いたり、地域での体験プログラムを多く企画していきました。その後、柏駅前に暮らしの拠点の一つとなるようなコミュニティカフェ"フロッシュ"をオープンさせました。そのうちに柏周辺にもデザイナーやプログラマーなどクリエイターの方々が多くいるということに気づきました。カフェのお客さん同士の繋がりが"暮らし"や"遊び"に留まらなくなり、"仕事"というフィールドを通しても人々がつながることのできるシェアオフィス”Nobless Oblige(通称NOB)"をつくりました。」
遊びの拠点、暮らしの拠点、仕事の拠点をつくりだしてきた経験とネットワークを活かし、これから本格的に手賀沼アグリビジネスパーク事業を推進していくEDGE HAUSでは、現在油原さんの右腕となり農泊を中心とした事業を推進してくれる方を大募集中です。(詳細はこちら)最後に、この事業にジョインすると-どんな経験ができたり、どのようなスキルの得られる仕事なのか、興味を持ってくれた方へのメッセージとともにお話を伺いました。
油原さん「まずわかりやすいところでいうと、全国で農泊を推進している自治体やグリーンツーリズムで有名な地域に視察に行く予定です。また、自然体験インストラクターという資格を取っていただくことになるのですが、そのための費用などはもちろん協議会が負担します。また、この事業は立ち上がったばかりなので、行政や様々な民間団体とタッグを組みながら企画を進めて行くという貴重な経験が詰める。日々イベントも多く、これからはキャンプもはじまるので大変なことも多いですが、新しくまちの価値を見つけながら地域を活性化させるという活動に関われるチャンスでもあると思います。ゼロから何か生みだす、ということに興味を持ってくれる人にはとても向いている仕事だと思います。まずは地域の魅力を知り、農家さんに顔を覚えてもらうこと、それが大事なことかなと考えているので、いろいろな経験を共にしていければ嬉しいですね。」
手賀沼アグリビジネスパーク事業の求人情報はこちらから!
巨大沼周辺の資源を活用した新しい「農泊」、始まる。右腕募集!
副会長・合同会社EDGE HAUS 代表社員/油原祐貴
株式会社リクルート退社後、商業デベロッパー勤務を経て独立。地域密着型のコミュニティプロダクト事業として、コミュニティカフェ、コワーキングスペースの運営の他、地域資源を活かすグリーンツーリズム事業「奥手賀ツーリズム」を2016年より展開。同年4月から手賀沼アグリビジネスパーク事業推進協議会 副会長に就任。
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