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おもちゃも選べる食料支援。成長を見守る大人を増やして、「子どもが子どもらしく育つ」地域を未来に──認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

2025.08.22 

 

認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

・「認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」は、東京都豊島区を中心に、子どもを地域で見守り育てる無料学習支援、子ども食堂などを提供している。

・コロナ禍以降、経済的・精神的に困難な状況に置かれているシングルマザーの子どもとその家庭に食料支援を拡大。コロナ禍以前の7倍にあたる、1ヵ月で500世帯に食料を届けた。

・子どもたちに声をかけ、関わる「おせっかいな大人」を増やす取り組みと合わせて、中学校での居場所づくりにも力を入れている。不登校の予防となり、笑顔で登校したくなる場所となることを目指す

 

「みてね基金」は2020年4月から、すべての子ども、その家族が幸せに暮らせる世界を目指して、子どもや家族を取り巻く社会課題解決のために活動している非営利団体を支援しています。

「認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下、WAKUWAKU)」は、東京都豊島区で地域の子どもや家族を対象に、プレーパーク、無料学習支援、子ども食堂、食料支援などを行っています。「みてね基金」では、第三期ステップアップ助成で採択され、未来につながる事業継続を実現するため、組織基盤の強化に注力しました。今回、理事長の栗林知絵子さんにお話を伺いました。

※こちらは、「みてね基金」掲載記事からの転載です。NPO法人ETIC.は、みてね基金に運営協力をしています。

 

中学生との出会いから学習支援、子ども食堂へ

いまでは全国に10,000ヵ所を超える(※)、子ども食堂。その先駆けの一つ、豊島区にある「要町あさやけ子ども食堂」は、認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークが地域の人と始めた活動です。2003年、豊島区内で自然環境を活かした、子どもが自由に過ごせる遊び場「池袋本町プレーパーク」の運営に携わっていた栗林知絵子さんは、様々な子どもたちと出会ったそうです。

 

理事長の栗林知絵子さん

 

「家の冷蔵庫の中が空っぽ、家に居場所がなくて土日ずっとプレーパークで遊んでいる、親御さんがいつも仕事で千円札を持って一日中買い食いをしている、車中暮らしなど。そんな話をする子どもたちとの関わりから、子どもの貧困の問題に関心を持ち始めました」

 

ある中学3年生の男の子からは、「勉強がわからない」「高校に進学できないかも」という話を聞き、2011年、大学生ボランティアと一緒に無料学習支援を自宅で開始しました。

 

その男の子はひとり親家庭で育っていました。生活がとても困窮し、孤立している様子が 次第に見えてきました。母親は朝から晩まで仕事詰めで、男の子はいつもお金を持ってコンビニでご飯を買い、一人で食べていることを知った栗林さん。「子どもが手作りのご飯をみんなでワイワイ食べる、そんな場所があったらいいね」と思うようになったそうです。

 

「そんなとき、大田区の『気まぐれ八百屋だんだん』さんが『子ども食堂』という名前で活動を始めたのを知ったんです。早速、地域の人を誘って見学に行ったらすごく良くて。『地元でも始めたいね』となって、私の自宅で『子ども食堂』を始めることになりました」

 

池袋WAKUWAKU勉強会(無料学習支援)の様子

 

当時の子ども食堂の様子

 

中学生の模擬試験のためにカンパをした人たちが団体の運営メンバーに

「たった一人の中学3年生の男の子に模擬試験を受けてもらうために、地域の人たちからお金を募りました。そうしたら10万円単位のお金が集まったんです。『せっかく集まったこのお金を、まだどこかにいるはずの、経済的な事情で困っている地域の子どもたちのために役立てたい。どうすればいいだろう』と考える過程でつながった人たちとともに2012年に立ち上げたのが、WAKUWAKUです」

 

表からは見えにくい課題を抱えた子どもたちと、どうすれば出会えるのか。彼らに声をかけ、関わるためにはどうすればいいのか。栗林さんたちは考えながら、目の前の子どもたちの課題を解決するために、無料学習支援や子ども食堂、外国ルーツの子どもたちが安心できる居場所など、必要とされる活動を一つずつ増やしました。そうして、地域にいろいろな場所が作られていきました。

 

コロナ禍で食糧支援は7倍に急拡大、組織基盤に危機感も

栗林さんたちが「みてね基金」の申請をしたきっかけには、コロナ禍に大きな需要を感じた食料支援での気づきがあります。

 

まず、初期に活動を始めた「要町あさやけ子ども食堂」は、注目される一方で、厳しい言葉も聞かれました。「週1回、月1回、子ども食堂を開いたところでどんな成果があるのか?」など。栗林さんたち自身、「人と地域のつながりは期待できるけれど、たしかに経済的な支えにはなれていない」と、大きな課題感を持ったそうです。そこで、2016年からもともと顔見知りの子たちに届けていた食料支援を、2018年からは、地域団体とつながった新しい食料支援「パントリーピックアップ」へと拡大しました。特長は、食料以外にも、洋服や日用品、おもちゃが自由に選べ、気軽に相談もできる居場所の機能を持たせたこと。

 

食料支援では、日用品や衣類だけでなくおもちゃも選べるのがうれしい

 

「その後、コロナ禍では、せっかく居場所があっても、人と人とが直接つながることなかなか難しくなりました。しかも、多くのシングルマザーたちは仕事が減ったり、家賃が払えなくなったり。困窮状態に陥った親の課題が子どもに直結する事態が起きたんです。そんな状況を受けて、私たちは新しい食料支援にすごく力を入れました」

 

コロナ禍前には100世帯ほどだった支援先は、2018年以降、行政との協働もあって200世帯、300世帯へと増加。コロナ禍の2020年9月には、コロナ禍前の7倍にあたる月700世帯ほどにまで届けることができました。

 

また、食料は各家庭に直接取りに来てもらいました。それは「顔と顔が直接つながる」ことで、お母さんや子どもたちが困ったときに頼れる人を少しでも増やしてほしいとの思いからです。栗林さんたちは、コロナ禍においても、密を避けられる屋外の場所を確保して、家族が安心して訪れられるよう環境を整えていました。

 

「区民ひろばなど13拠点のピックアップ会場を設け、企業や団体とともに地域の人たちにも協力してもらい、お母さんたちに渡したんです。よくやったと思います」

 

しかし、必然的に事業規模が拡大するなかで一つ大きな問題が発生しました。団体の組織基盤の課題が置き去りになってしまったそうなのです。コロナ禍以降も、様々な面で支障を感じるようになった栗林さんたちは、大きな危機感を拭えなかったと言います。

 

「食料支援は、いまでも地域の子どもや家族に必要とされています。でも、求められることに応えたいと動いてきたことが、団体自体に大きな負担をかけてしまっていた。これからも長く支援を続けるためには、いま、基盤強化をしなければ」

 

そこで話し合いを重ね、「みてね基金」第三期ステップアップ助成への申請を決めました。

 

これまで以上に安心して寄付できる団体に

WAKUWAKUのスタッフの皆さん

 

丁寧な支援づくりと事業拡大で、団体自体の体力を強めると決めた栗林さんたちは、「みてね基金」の助成を活用し、3つの大きな柱を軸に取り組みを始めました。1つめは、理事を中心としたマネジメント体制。2つめは、公式ウェブサイトのリニューアルなど情報発信の改革。3つめは、若手の人材が働きたいと思える職場環境づくりを含む人材育成です。

 

「それまで私たちは、目の前の課題を解決するために必要な事業を作り、現場で活動することを繰り返してきました。もともとお金が集まってできた団体だったので、何とかなるだろうという気持ちも大きかったかもしれません。今後やスタッフのことを考えれば 、もっと早く理事である私の意識が変わるべきだったと思っています。

 

今回の組織基盤づくりで、特に財政面での変化を感じています。現在は、担当者が常に注視して、定期的に寄付の推移状況を共有するほか、週1回、事務局会議を開くなど、全員で財政面を把握する体制が定着してきました。これからも、活動に関心を寄せてくださった方々が、もっと安心して寄付を預けてくださるような体制へ整えていきます」

 

地域の人たちに大切にされながら、子どもは子どもらしく育って

フードサポート活動報告会での様子

 

組織基盤を強化しながら、目指すのは「おせっかいな大人を増やす」ことです。栗林さんたちが考える「おせっかい」とは、子どもや自分以外の人に関心を持って、声をかけたり、困ったときには手助けをしたりすること。

 

「地域の人たちに大切にされながら、子どもは子どもらしく育ってほしい。遊ぶことも、みんなでご飯を食べることも大好き。楽しそうに跳ねて、笑って。子どもって、大事な部分は時代が変わっても同じだと思うんです。そんな子どもたちが、もし困ったら誰かに話せる関係性を持つことができたら、未来を変えていけるんじゃないかな」

 

WAKUWAKUでは、「みてね基金」での組織基盤づくりとあわせて、もう一つ大きな変化が生まれていました。

 

食料支援では、毎月5kgのお米を500個、600個と調達して各家庭に配ってきたそう。配る人たちも受け取る人たちも増えて、つながりも広がりましたが、一方で、物価高騰などを背景に、支出面での限界を感じたと言います。「最も有効な課題策として寄付が考えられるけれど、いますぐ支出分を補える寄付を得ることは難しい」。そう頭を悩ませた結果、自分たちの「求められる声に応えたい」気持ちを少し手放すことに決めたと、栗林さんは話します。事業縮小に踏み切ったのです。

 

「2025年4月、各拠点のリーダーに『WAKUWAKUだけでは食料支援ができない』と伝えました。そうしたら、みんなから『今までWAKUWAKUさんにばかり費用の負担を頼りすぎていました。これからは、自分たちで主体的に取り組みを続けていくために動きます』と言ってもらえたのです。いまでは社会福祉協議会や行政とも協働するなど、地域が連携して、豊島区全体が、『食でつながる文化をつないでいこう』と行動しています」

 

「学校だけで対応するのは限界」中学校で不登校予防の取り組みも

現在、栗林さんたちが新たに取り組んでいるのは、中学校での居場所づくりです。

 

「特にここ数年、不登校の子たちがとても増えています。コロナ禍後、子どもや若者の自死が深刻化しています。また、2022年には豊島区の中学校の校長先生から『学校の先生だけで対応するのは限界です』との声を聴いたんです。先生の声で私たちの心が動いて、学校の中に民間の団体として入りました」

 

池袋区内の公立中学校でWAKUWAKUが開いている「にしまるーむ」

 

大きな目的は、不登校の予防です。すべての生徒が出入り自由で、その居場所で過ごせば出席日数にもなります。親でもない、学校の先生でもない、地域の大人に生徒がつながることで、子どもは自分のしんどい気持ちが話せる。それができたらもう十分。そんな第三の地域の居場所につながる取り組みです。

 

「にしまるーむ」では、学年関係なく、たくさんの生徒が自由に過ごしている

 

「最初、先生たちからは居場所の導入に慎重な姿勢が見られました。でも、今では『生徒たちはこの場所があることで笑顔になれる』と思ってもらえているようです。うれしいですね。

 

『子育てのあるべき論』が強くうたわれる中で、『助けて』と言えない親御さんがいました。同じように、学校も先生たちだけで課題を解決することを求められる中、『できない』と言えない状況になっています。これからは、地域の人がいる学校が開かれた場になって、生徒たちが『楽しい』って登校できる、そんな居場所を増やせたらと思っています」

 

地域に見守られながら大人になる子どもが増えてほしい

 

最後に、子育てを頑張る親御さんたちにはこんなメッセージを送ってくれました。

 

「一人で頑張らないで。地域には、子どもに関わり、成長を見守りたいと思っている人がたくさんいます。子どもはみんなで育てたほうが豊かに育つと思うので、ぜひ地域の居場所をのぞいてみてほしいですね。

 

池袋で生まれ育ち、大人になって、出産をきっかけに池袋に戻って来た子もいました。いま、その子どもはプレーパークで遊んで、子ども食堂でご飯を食べて、いろんな大人や子どもたちと交流しています。みんながそうできると、子育ても楽になるし、いろんなことができると思うんです」

 

「こういうことが体験格差だと思うんですよね」と栗林さん。

 

「子どもが地域の人から声をかけてもらったり、お母さんが地域の人とおしゃべりできたり、いろんな人との関わりの中で育つ経験を持てない人もいると思います。一人ひとりが地域の人に見守られる経験を通して成長できれば、豊かな人生につながるのではないかなと考えています。難しいことではなく、人の意識が変われば、どの地域でもできることだと思うんです」

 

取材後記

目の前の子どもたちのために無料学習支援や子ども食堂など必要な支援を増やしていったWAKUWAKUのみなさん。カンパでつながった人たちが団体の運営を担ってきたと伺って驚きました。ただ、それだけ仲間と一緒に子どもたちの見守りを続けることが楽しくて、手ごたえがあるのだろうなとも思いました。学校での居場所づくりも想像すると笑顔になりました。これからも応援しています。

 


 

(※)全国のこども食堂数:1万867箇所。24年度に日本で初めて1万箇所を超え、公立中学校数を上回った「 2024年度こども食堂全国箇所数調査」より

https://musubie.org/news/press/11208

 


 

フォトグラファー : あらまこと

Lovegraph(ラブグラフ)フォトグラファー

どこか懐かしさを感じるような映画っぽい雰囲気と青や緑の爽やかさのある写真が得意です。爽やかな映画のワンシーンのような写真を撮影します。

 


 

団体名

認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

助成事業名

「WAKUWAKU基盤強化」未来につなげる組織づくり

 

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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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