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最終目標は、視界に入る車がどれでも自由に使える世界。カーシェアで「交通空白」解消を目指す、株式会社TRILL. 藤森研伍さん

2025.09.18 

「交通空白」という言葉を聞いたことはありますか? 利用者の減少や高齢化、人手不足などを背景として、バスや電車といった公共交通機関が十分に整備されていない、あるいは全く存在しない地域を指します。国土交通省の集計(※)によれば、こういった移動に困難のある交通空白と呼ばれる地区は全国に2,057カ所もあるとされています。

 

通勤・通学や通院、買い物で移動手段が確保しづらいという、日常生活との密接な関わりで生じる課題を、「OURCAR (アワカ)」というカーシェアリングサービスで解決しようとしているのが、株式会社TRILL.(トリル)の藤森研伍さんです。事業を立ち上げるまでの経緯や、現在準備を進めている国土交通省との実証事業などについてお話を伺いました。

(※)「交通空白」解消に向けた取組方針 2025 | 国土交通省

 

※この記事は、【特集「自分らしさ」×「ローカル」で、生き方のような仕事をつくる】の連載として、地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」を受講したプログラム修了生の事業を紹介しています。

 

藤森 研伍(ふじもり けんご)さん

株式会社TRILL.(トリル)代表取締役社長/ローカルベンチャーラボ第6期生

信州大学繊維学部卒業後、東京のIT/マーケティング会社に就職。1年後に独立し、2022年12月、長野を拠点に新たなカーシェアリングサービス「OURCAR(アワカ)」を提供する株式会社TRILL.を創業。2023年8月、信州大学発スタートアップに認定される。

 

「ベクトルを広げるための活動」を考えていたら起業に向かっていた

大学生の頃アメリカンフットボール中に大けがをしてしまい、入院することになった藤森さん。お見舞いに駆けつけたお父さんに「これからの大学生活、どう過ごしたらいいんだろう」と投げかけたところ、「大学はベクトルを広げる場所だ」と話してくれたことが印象に残っているそうです。

 

「自分なりに考えた結果、部活は高校でやりきったから、ベクトルを広げるために世界一周がしたい、社長業をやってみたいと思うようになりました」

 

お世話になった先輩が関西で光回線の事業をしていたため、ノウハウを教えてもらい、退院後にさっそく大学の仲間を集めて代理店ビジネスに挑戦します。それなりの業績を挙げたものの、身銭を切って遠方まで営業に行っても契約が取れない仲間の姿や、単純に価格の安さだけを求められることに疑問を感じるようになりました。

 

「『これって本当に社会的に価値があることなのかな?』と悩んだ経験から、『自分が本当に良いと思った事業じゃないならやらない』という軸をもつことができました」

 

その後、世界一周ではないもののインドとアフリカへ。特にアフリカでは、株式会社ボーダレス・ジャパンの関連企業・Alphajiri(アルファジリ)のインターンプログラムに参加したことで、現地の人と生活を共にするようなディープな経験ができたそうです。

 

 

「農村支援の活動で、ケニアに3カ月弱滞在しました。お金を使う場面がすごく限られていて、協力や助け合いが生活の基盤になっていることに衝撃を受けたんですが、一方で『こういうのが人間らしい生活なんじゃないか』とも感じました。シェアリングエコノミーや相互扶助に関心が向くきっかけになった経験です」

 

仲間内でのカーシェアリング体験が現在の事業の原型に

藤森さんが起業へ向けて経験を積み重ねるなかで、現在手がけているカーシェアリングサービスへと直接的につながるようなできごとが起こります。それが、2台の車を入手したことでした。

 

「アフリカから帰国後、地方での車のない生活は本当に不便でした。そんなときに友達が車を譲ってくれたんです。さらに免許返納をした祖父からも立て続けに車を譲ってもらえることになりました。

 

急に2台持ちになってどうしようかと思ったんですが、僕と同じように車がなくて困っている学生がいるんじゃないかと思い当たり、仲間内でカーシェアリングをやってみたんです。光回線のときとは違って、自分で考えてやったことが必要とされている感覚がとてもうれしかったですね。

 

当時はアナログな運用でしたが、大きなトラブルもなく、現在の『OURCAR』の原型のような経験になりました」

 

「スニーカーのように気軽に車が使えるカーシェアサービス」を掲げる「OURCAR」ですが、その強みについて藤森さんはこう語ります。

 

「『OURCAR』は、車はそこら中にあるのになぜ使えないんだろう、という発想が出発点になっています。法人の社用車や個人の自家用車を、夜間や休日など持ち主が使っていないときにいつでも無人で貸し借りできるというサービスです」

 

 

「他社のカーシェアや格安レンタカーと比較すると、車や駐車場を僕たちが所有しているわけではないという点が大きく違います。車の所有者と車を使いたい人をマッチングするという仕組みで『OURCAR』を運用しているんです。仮に1カ月利用がなかったとしても維持費などは発生しないので、サービスは継続できます。

 

車のオーナーからしてみれば、予約がなければいつも通り、予約が入れば利用に応じて副収入が得られるという感じですね。10人しかいない村でもやろうと思えば導入できますし、レンタカーより安く、毎回番号が変わるスマートキーボックスを活用することで、24時間非対面で貸し出しできる点が強みです」

 

 

2025年11月から国交省から受託した実証実験がスタート。サービス設計の検証を目指す

2025年11月からは、信州大学発のスタートアップとして、国土交通省と共に県内の交通空白の解消を目指した実証実験も始める予定です。長野市・松本市・上田市を中心に、「OURCAR」の利用によって、住民や観光客の移動の利便性向上を図ります。

 

「法人が保有する車両が本実証の対象になっています。法人の登録車両は現在40台ほどですが、実証が始まる11月までには100台を目指しています。まずはある程度の車両台数や利用者数を確保した状況で、『OURCAR』のサービス設計が成立するかを試すのが今回の狙いです。

 

そもそも僕たちのビジネスモデルは、相互扶助を基盤としています。一個人対一個人のサービスなので、細かいことに関しては車のオーナーさんとのコミュニケーションが必要です。そこに貸す人と借りる人との、肌ざわりのある関わり合いが生まれていくのではないでしょうか。

 

途上国での経験から、便利だけど人の温かさも感じられるようなサービスを作りたいと思っていたので、単に移動手段を確保するだけではなく、そういった事業として育てていけたらと考えています。いずれ利用者さんやオーナーさんのコミュニティもつくっていきたいです」

 

OURCARの利用イメージ

 

別領域で挑戦を続ける仲間の存在が励みに

藤森さんは、地域に特化した6カ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム・ローカルベンチャーラボ(以下LVL)の6期生でもあります。期間中は「OURCAR」の事業計画のブラッシュアップなどに取り組まれたそうです。

 

「長野県での起業を考えたとき、壁打ち相手がいなかったのでLVLへの参加を思いつきました。LVLを運営するNPO法人ETIC.にインターンしている友人もいたので、当時からローカルベンチャーは目指す存在に近いなという感覚もありました。

 

同時期に長野県が主催する信州アクセラレーションプログラムにも参加していたのですが、メンターの花屋雅貴さんと相談しながら、成果報告会の準備を進めて優勝できたことが印象に残っています。

 

それから、農産物などの流通業務のDX化を目指している岩本拓真さんのような同期と出会えたことは財産です。事業領域は全然違いますが、法人化してちゃんと大きくしていこうといったビジネスへのスタンスなど、目指す方向性が近い仲間の存在は大きく、特に彼のプレゼンには刺激を受けました」

 

やりたいことを叶えるために、ひとつの打席に立ち続ける

藤森さんには、長野から始まった「OURCAR」をグローバルにも展開していきたいという思いがあるそうです。

 

「移動は人間の根源的な活動のひとつだと思います。さまざまな制限があるので難しい面もありますが、いずれアフリカなどでも、収入が低く車を買えない層を中心に誰もが利用できるサービスにしていきたいです。

 

視界に入る車がどれでも使える世界って、実現したらおもしろくないですか? 『OURCAR』を利用する中で、所有という概念が変わるような、相互扶助の文化を醸成していけたらと思っています」

 

OURCARの事業を進める仲間と (撮影 : 森 裕一朗)

 

最後に、これから地域に根ざした事業を検討している方へ向けたメッセージを伺いました。

 

「事業はどこまでいっても人だな、と最近実感しています。最新技術を活かしてベンチャーを立ち上げるのもかっこいいですが、人とのつながりは大事にしたいと考えているので、そういう意味でもローカルビジネスはおもしろいです。

 

今も登録車両を増やすために飛び込み営業をしていますが、国交省の事業だとか意義だとかを説明するよりも、自分たちについて話した方がうまくいったりすることもあります。ローカルは、人の営みを豊かにするという手応えを実感しやすいフィールドです。目の前の人を大事にするという意識が大切なんじゃないでしょうか。

 

ビジネスシーンでは『たくさん打席に立った方が良い』というようにいわれることも多いですが、僕は逆にひとつの打席に執着するという勝ち方もあると思っています。大体の人はあきらめてしまうけど、あきらめずにやり続けるからこそできることもある。本当にやってみたいことがあるなら、ちゃんと打てるまでがんばり続けるという勝ち方もあるよ、と伝えたいですね」

 


 

藤森さんが受講されていた「ローカルベンチャーラボ」では、例年3月から4月に受講生を募集していますので、気になった方は公式サイトをご覧ください。

 

>> ローカルベンチャーラボ公式サイト

>> ローカルベンチャーラボ X(旧Twitter)

>> ローカルベンチャーラボ Facebook

>> ローカルベンチャーラボ Instagram

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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