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2年目を迎えた釜石ローカルベンチャー 地域で奮闘する1期生に密着!

2018.08.15 

 

2017年6月。岩手県釜石市でローカルベンチャーの担い手を目指す若者たちが「釜石ローカルベンチャーズ」1期生としてそれぞれの活動を始動させました。

あれから1年と少し。4人の1期生が自分ならではのビジネスの形や働き方を模索しながら、東日本大震災からの復興に向かう地域とともに挑戦を続けています。市内北部・鵜住居町の根浜地区で地域団体「根浜MIND」とともに「稼げる地域」づくりを目指す細江絵梨さん(31)もその一人です。

根浜海岸に立つ細江さん

根浜海岸に立つ細江さん

 

震災後初のイベントの調整に奔走

2018年7月末の週末。あいにくの小雨模様の根浜海岸に細江さんの姿がありました。この日、根浜MIND主催で開催された「2018夏 根浜海岸 海あそび」は、SUP(スタンドアップパドルボート)やレスキューボートの体験乗船など海のアクティビティが用意され、悪天候にもかかわらず水着姿の子どもたちでにぎわっていました。

 

かつては美しい砂浜と松林がシンボルの三陸有数の海水浴場だった根浜海岸ですが、津波で砂浜の砂の多くが失われてしまいました。付近では復興工事も続く中、震災後初めて根浜で海水浴ができる記念すべき日となりました。

波が穏やかな根浜の海とマツ

波が穏やかな根浜の海とマツ

 

細江さんが「地域パートナー」として協働している根浜MINDは2016年に誕生したばかりの一般社団法人。まだ小さな団体です。「根浜でこんなことがしたい」「根浜をこんな地域にしたい」という熱い思いがあふれ、組織体制の在り方や資金調達方法を模索していた根浜MINDと、根浜の動きに関心を持っていた細江さん。両者が必要とするものがちょうどかみ合って、細江さんが根浜MINDの事業化に伴走することになりました。「根浜海岸 海あそび」は根浜MIND発足以来、最大の主催イベントとして取り組むものでした。

 

5年にわたり復興の後方支援の経験を積んできた細江さんはその調整能力を生かして、「海あそび」共催の釜石市のほか根浜にかかわる釜石の団体との調整や、テレビ取材の対応などのプロモーション活動などに奔走しました。

 

「根浜海あそび」当日、関係者と打ち合わせをする細江さん

「根浜海あそび」当日、関係者と打ち合わせをする細江さん

「根浜MINDとしてひとつのイベントをやりきって、根浜のみなさんが『海あそびをやってよかった』と言ってくれて、震災を経てもやっぱり根浜には魅力があるということを共有できたのがうれしかったです」と手ごたえを感じた様子。さらにもうひとつ。

 

「根浜の海にかかわる市内の団体がいくつかあるのですが、みんながひとつのチームとして根浜にかかわっていこうという雰囲気が盛り上がってきました」。地道に地区内外の調整を重ねてきたからこその充実感が表情にも浮かんでいました。

 

主体的に復興に取り組む根浜に新しいビジネスを

イベントにはもちろんたくさんの根浜の人たちの姿もありました。

 

根浜は震災前、約70世帯が暮らす集落でした。近くには、明るい女将・岩崎昭子さんが名物の宿「宝来館」、漁師の前川夫妻が営む浜料理が人気の「民宿前川」などもあり、集落の人たちが交代で海水浴客向けのレストハウスの管理をするなど、海を生かした観光が根付いていました。

海岸のマツ林復活に取り組む岩崎昭子さん(右)と漁師さん

海岸のマツ林復活に取り組む岩崎昭子さん(右)と漁師さん

 

2011年の東日本大震災はそんな根浜から多くのものを奪いました。大半の住宅が流された集落は、山を切り崩し高台に移転することを選びました。多くのものを失った一方で、地域自治の意識が高かった根浜の人たちは、集落の話し合いによって巨大な防潮堤ではなく津波の前と同じ高さの防潮堤を復旧するという決断をしたり、宅地のレイアウトなども地域主体で調整するなど、震災前からの地域の底力が発揮されることになりました。

 

「根浜は地域の人たちが主体的に動いて復興を進めてきた地域。その思いを知って、この地域に根ざして地域の人たちと一緒にここで新しいビジネスをつくっていきたいと思ったんです」と細江さんは振り返ります。

 

ローカルベンチャーが利用するシェアオフィス「co-ba 釜石マルダイ」で事務作業をする細江さん

ローカルベンチャーが利用するシェアオフィス「co-ba 釜石マルダイ」で事務作業をする細江さん

「お茶っこ」「草取り」……地道な活動で信頼関係

震災後、被災地から約100キロ離れた盛岡市や東京を拠点に、NPOでの復興支援活動にかかわってきた細江さん。次の働き方として釜石ローカルベンチャーを選んだのは「釜石が『つながり人口』を大事にするまちで、色々な切り口で釜石に興味を持った人たちを受け入れている地域だから」。復興支援を通じてさまざまな地域を見てきたからこそ、「オープンシティ」を掲げ定住にこだわらず「関係人口」としてかかわる人を増やそうと取り組んできた釜石が魅力的に映ったのかもしれません。

 

「東北の人は打ち解けるのに時間がかかるけれど、一度信頼関係を築くと深く長い関係性を築くことができる」とよく言われますが、復興支援の経験から細江さんもそう感じていました。だからこそ、着任してすぐに根浜集落の人たちが集まる「お茶っこ」に参加して顔を覚えてもらったり、集落の草取りにも参加したり、一見すると「ベンチャー」とは結びつかないような地道なコミュニケーションを積み重ねてきました。今では集落の人たちから「絵梨ちゃん、絵梨ちゃん」と、時には娘のようにかわいがられたり、時には頼りにされたりする存在になっています。

 

「地域に入って活動していると、それぞれの人の思いに直接触れることができて、でもだからこそ色んな思いを汲み取りたい、と考えすぎてどうしていいか分からなくなったり行き詰ってしまったりすることも。そんな時に、ローカルベンチャーズの仲間や事務局の存在が支えになっています」

ローカルベンチャー1期生の4名

ローカルベンチャー1期生の4名

 

 

目指すのは地域資源を磨き発信する「根浜のプロデューサー」

ローカルベンチャーとして始動して1年が経過し、当初よりも自分が目指す姿が明確になってきたという細江さん。「根浜にすでにある資源を磨いて発信していくプロデューサーのような存在になりたい」と話します。資源」として注目しているのが、根浜が持っている「学び」の機能です。宝来館の女将さんが津波から生還し地域の復興の取組みを紹介する語り部の活動は知られていますが、地域の人たちと話をする中で、津波の直後の避難や避難所の運営、復興に向けた合意形成などについて、視察に来た人たちに対して語ってくれる住民も出てきました。

 

また、根浜MINDは英国ロンドン芸術大学からの支援で根浜に導入された英国式レスキューボートを活用した水難レスキューの人材養成事業や、全国からのボランティアとともにつくった避難路での研修などの受入も行っています。細江さんは、自身が培った外部とのつながり、さらには全世界からの根浜への支援をもっと強固なものにしながら、ツアーのコンテンツを開発したり、根浜のプロモーションに取り組んだりしています。外部からの人やお金を地域につなぎ円滑に回していく仕組みづくりによって、自分たちで稼ぐことのできる持続可能な地域を目指しているのです。

地域の森林組合や全国のボランティアの協力で完成させた根浜地区の避難路

地域の森林組合や全国のボランティアの協力で完成させた根浜地区の避難路

 

「復興や防災、レスキューはもちろんですが、安全性を確保しながら子どもたちが海で遊ぶことでさまざまな生きる力を身につけることもできるはずです」と確信を深める細江さん。ローカルベンチャーも2年目に入り、新たに挑戦したいことも見えてきました。

 

「根浜の地域主体の復興の過程や地域参画型の防災教育をアジアの津波常襲地域にも伝え、相互の学び合いができたら、と考えています。根浜といえば学び、と言われるくらい、世界から学びを目的とした人が訪れる、そんな地域にしていきたい」。根浜も細江さんも進化しながら挑戦を続けています。

 

細江さんの活動、釜石ローカルベンチャーコミュニティを「もっと知りたい!」と感じた方はこちらのサイトもご覧ください

http://opencitykamaishi.jp/localventure/

 

また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2021年5月スタートの第5期生を募集中です!申し込み締切は、4/26(月) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

 

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手塚さや香

手塚さや香 ライター、釜石リージョナルコーディネーター(釜援隊)。 毎日新聞で東京、大阪、盛岡を拠点に計13年間の記者生活ののち、釜援隊に所属。東日本大震災で被災した釜石地方森林組合で人材育成事業などを担当している。副業として一次産業や復興、ローカルなできごとをテーマにwebメディア、雑誌向けの取材執筆も行う。「岩手移住計画」代表。