TOP > ローカルベンチャー > 人口減少・ポストコロナ時代に、持続可能な日本をつくるには?京都大学・広井良典さん講演〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(3)

#ローカルベンチャー

人口減少・ポストコロナ時代に、持続可能な日本をつくるには?京都大学・広井良典さん講演〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(3)

2020.12.24 

10月27日~31日の5日間、「ローカルベンチャーサミット2020〜withコロナ時代のニューノーマルを創る 地域×企業連携のための戦略会議〜」が行われました。主催は、地方発ベンチャーの輩出・育成を目指すローカルベンチャー協議会。その参画自治体および各地のベンチャーたちに、メーカー、物流、ゼネコンなどの大手企業も加わり、プレイヤー連携の最新事例を共有し、協働を生み出す場として毎年開催されています。

 

サミットトップトリミング後

 

4年目となる今年は、初の全面オンラインで実施。各日の基調セッションのほか30の分科会が設定され、5日間で延べ1,700名に参加いただきました。本サイトでも各セッションの内容をダイジェストでレポートしていきます。

 

この記事では、4日目の基調セッションより、「人口減少社会のデザイン」などの著者であり、「定常型社会」の提唱者としても知られる広井良典・京都大学教授のプレゼンテーションを要約してお届けします。広井氏は2017年、「2050年、日本は持続可能か」の問いに基づき、AIを活用したシナリオ・シミュレーションを実施。その結果を「持続可能な日本の未来に向けた政策提言」として公表しました。そこで“予言”されていた日本の進路の分岐点到来が、2020年のコロナ禍で前倒しに?AIも結論した日本の目指すべき姿、「多極集中・地方分散型」シナリオとは?ぜひご覧ください。

 

 

人口減少・ポストコロナ社会のデザイン

分散型システムへの移行とローカライゼーション

 

1広井先生トリミング後

プレゼンター: 京都大学こころの未来研究センター教授 広井良典氏

人口減少社会突入で、「集中」の時代は終わった

 

日本の将来のシナリオを考える上では、まず「人口減少社会」が避けて通れない。長期トレンドで見ると、江戸時代の日本の人口は3000万ぐらいで安定していたが、明治以降、一気に人口も経済も大きくなった。それが2008年にピークを迎え、2011年からは完全な人口減少社会に突入した。今の出生率が続くと2050年過ぎには1億を切る。私たちはまさにジェットコースターが落下する淵に立っており、今は文字通り歴史のターニングポイントだ。「危機をチャンスに」という意味では、非常にエキサイティングな時代にいる。これまでの延長線上では物事は進まない。

 

2人口減少トレンド

 

コロナ禍で「ニューノーマル」と言われるようになったが、ではこれまでは「ノーマル」だったのか?首都圏の朝の通勤電車(=極度の密)などは、いささかアブノーマルと言える。ならば、今回のコロナ禍は、本来の人間的な生活を実現するチャンスだ。その鍵として、「集中から分散へ」という方向がある。

 

山登りに例えると、人口が増え続けていた時代は、ひとつの頂上に向かってみんなが集団で山を登っていたようなもの。それが、ひとたび山頂に到達すると視界は360度開ける。そこからは、それぞれが自分の道を歩んでいけばよい。まさにそれが分散型ということだ。

 

人口増加=すべてが東京に向かって流れ、日本社会の集権体制がどんどん強まる時代は終わり、私たちは新しい局面を迎えている。

若い世代の「ローカル志向」と首都圏の急速な高齢化

 

それを象徴するのが、若い世代のローカル志向だ。

 

●静岡出身の学生:「私のテーマは自分が生まれ育った町を世界一住みやすい町にすること」

●新潟出身の学生:「地元の農業を活性化することに今いちばん関心がある」

●グローバル志向で海外留学した学生:「海外に行って実は日本国内にこそ最大の課題があることに気付いた」

 

私の印象では、ここ10年ぐらいでこうした学生が非常に増えている。全体から見ればまだ一部だが、この傾向が高まっているのは確か。「内向き」と批判するのではなく、むしろこの流れを支援する政策が必要だ。

 

また、東京で毎年開催される「ふるさと回帰フェア」(自治体がブースを出して移住相談を受けるイベント)の主催者に聞くと、参加者の中心は以前は50~60代だったのが、ここ数年は20~30代にシフトしているという。

 

3ふるさと回帰フェア

 

一方、高度成長期に全国から首都圏へ大量に集まった世代が、一気に高齢化を迎えている。2010年~2040年の30年間に、東京都だけで滋賀県の人口を上回る144万人の高齢者が増えると推計される状況だ。

 

こうしたことを受けて私たちの研究グループは、持続可能な日本の未来のシナリオについて、AIを活用したシミュレーションを行ってきた。

2050年、日本は持続可能か?AIを活用した、持続可能な日本の未来に向けた政策提言

 

研究の出発点は、「2050年、日本は持続可能か」という問いである。率直に言って、今の状況では非常に危うい、というのが基本の問題意識だ。その理由はいくつかある。

 

まず政府の借金だ。1200兆という膨大な額で、国際比較でも突出している。社会保障費の膨張に見合った税負担になっていないので、「将来世代にツケを回さない」という、持続可能性の基本中の基本が非常に危うくなっている。

 

次に貧困層の増加だ。生活保護受給者の推移(下図)をみると、ずっと減少してきたのが1995年を谷としてV字カーブでまた増えている。一億総中流といわれていた日本の構造は、かなり変質してきている。

 

4生活保護

 

そこで、2050年に向けて、持続可能シナリオと破局シナリオという2つを考えてみると、破局シナリオでは財政破綻、人口減少加速、格差拡大、失業率上昇、地方都市空洞化など悪いことばかりが起こるが、このシナリオどおりになる蓋然性はかなり高い。では、持続可能シナリオへと持っていくためにはどうしたらいいのか?それを、AIを活用した定量的シミュレーションによって導き出した(日立京大ラボとの共同研究)。

 

<参考>国立大学法人京都大学、株式会社日立製作所 共同リリース (2017年9月5日)

「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言~国や自治体の戦略的な政策決定への活用をめざす」 http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/09/0905.html

 

AIが導き出した未来のシミュレーション

 

具体的には、4つの側面(①人口、②財政・社会保障、③地域、④環境・資源)に着目し、それらが持続可能であるためには何が必要かを分析した。出てきた結果は、東京一極集中に象徴されるような都市集中型で行くか、それとも地方分散型で行くか、という分岐が、日本社会の未来にとって最も本質的であり、その分岐点が、3年前に研究を発表した時点で8~10年後、つまり西暦2025~27年に起こるというものだった。

 

そしてAIは、その分岐のうち、人口や地域の持続可能性、そして健康・幸福・格差などの観点からは「地方分散型」のほうがパフォーマンスがよい、というシミュレーション結果を示した

 

そして今年、コロナ禍が起きた。AIがそれを予言していたわけではないが、コロナ禍で示された課題と、このAIシミュレーションで示唆された内容が非常に重なる内容だったので、驚いている。

 

5シミュレーション枝わかれ

 

詳しく言うと、約150の社会的要因(人口、GDP、高齢化、エネルギーなど)からなる因果連関モデルを作り、これらの要因が互いに影響を及ぼしながら、時間と共に進化して未来が枝分かれしていく、2万通りのシミュレーションを行った。すると、その2万通りが最終的に大きく6つのグループに分かれる。

 

まず、最初は都市集中型と地方分散型の2つに分かれ、次に地方分散型の中でも、比較的望ましいものと、そうでないものが分かれていく、2段階の分岐という結果だった。

 

下表は、6グループを上記4要素の持続可能性および雇用・格差・健康・幸福という軸で最終評価したものだが、最下段の都市集中型はバツが目立つ。それ以外の5つは地方分散型で、最上段のシナリオグループが相対的に望ましいという内容だった。

 

6六つのグループ比較

 

都市集中シナリオでは、主に都市の企業が主導する技術革新によって、都市への人口一極集中が進行し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下。一方、政府支出の都市への集中によって政府の財政は持ち直すが、結局、中長期的に見ると人口はどんどん減って行くので、決して持続可能性が高いとは言えないモデルだ。

 

地方分散シナリオでは、地方への人口分散が起こり、出生率が持ち直して格差が縮小し個人の健康寿命や幸福感も増大する。ただ、これも持続可能であるためには細心の注意が必要という結果だった。

分散型社会~持続可能な福祉社会のビジョン

 

ここからは、分散型社会のイメージを考えていく。「グローバル化の先」を考えたとき、一つの方向は、米国のトランプ大統領に見られるような「拡大・成長」思考と結びついたナショナリズム、排外主義である。もう一つは、ドイツや北欧に顕著だが、ローカルな経済循環や共生から出発して「持続可能な福祉社会」を志向する方向だ。私は後者の選択しかないと思っている。

 

では、「持続可能な福祉社会」とはどういうものか。たとえば、国際比較の下図では、縦軸がジニ係数(経済格差を示す度合い)で、上の方ほど格差が大きくて下が平等な社会を示す。横軸がEPI(環境パフォーマンス指数=イエール大学を中心に開発された環境関連の総合指標)で、右に行くほど環境パフォーマンスが良い。

 

7持続可能な福祉社会比較

 

これを見ると、福祉の軸と環境の軸がある程度相関していることがわかる。つまり、格差が大きい国は経済成長一辺倒で、あまり環境には配慮してない。アメリカはもちろん、残念ながら日本もそれに近い。右下のグループは、格差が小さく環境にも非常に配慮している。この方向が「持続可能な福祉社会」ではないか。

ローカライゼーションの重要性

 

もう少し具体的なイメージを見ていこう。

 

今回のコロナでもローカライゼーションの重要性が浮かび上がったと思う。例えば過度のインバウンド(海外旅行客)依存、中国・アジアの観光客だけに依存しているような事業は非常に打撃も多かったし、非常にリスクも大きい。ローカルなヒト・モノ・カネの循環から出発する経済のほうがむしろ強い、つまりレジリアンス(復元力)があることが浮き彫りになった。

 

そのローカライゼーションの例として、岐阜県の石徹白(いとしろ)地区を紹介する。Uターン組の若者が中心になって、十数年前から小水力発電を軸とした地域おこしを進めて注目されてきた。その平野さんという人は東京の外資系コンサルティング会社で働いて、バリバリのグローバル的な仕事をしていたが、だんだん疑問を感じるようになったという。グローバルな問題とは結局、資源やエネルギーを巡る奪い合い。それを解決しようと思えば、結局はローカルなレべルでできるだけ食料やエネルギーを自給・循環させていくしかない。それがグローバルな問題の解決にもつながるし、逆に言えばグローバルな問題というのはローカルから出発しないと解決できない。それで、こういう事業を始めたということだ。

 

8岐阜県石徹白地区

 

エネルギーのローカライズに関しては、日本全体ではエネルギー自給率は1割程度だが、都道府県別に見ると2割を超えているところが多数ある。たとえば、温泉の地熱利用が進む大分県では40%を超える。再生可能エネルギーで地域に必要なエネルギーを自給できる市町村は着実に増えている。

 

また、ソーラーシェアは田畑の上に特殊な形の太陽光パネルを設置して、再エネ発電と農業の一石二鳥を狙うものだ。耕作放棄地の減少にもつながるということで、いま広がりつつある。

まちづくり~ドイツの10万都市と姫路駅前のトランジットモール

 

分散型社会を考えるにあたっては、やはりまちづくりが重要だ。社会の持続可能性については、ヨーロッパから学ぶべきものが圧倒的に大きいと感じる。

 

下の写真はドイツのエアランゲンという10万人ぐらいの地方都市。ドイツの地方都市はどこへ行っても中心部から自動車をシャットアウトして、歩行者だけの空間にしている。ベビーカーを押した女性や車いすの高齢者が普通に過ごせる。福祉的な意味もあるし、もちろんCO2排出削減など環境的な意味もある。加えて、10万人の都市がこれだけの賑わいを見せているということを評価したい。

 

いま日本で人口10万の地方都市といったら、まず間違いなくシャッター通りで空洞化しているが、ドイツの地方都市では福祉・環境・経済が相乗効果を出している。これが分散型、持続可能な福祉社会のイメージだ。

 

9エアランゲン

 

しかし、課題が山積している日本でも、新しい動きは活発になってきている。香川県高松市の商店街再生や姫路駅前のトランジットモール(歩行者と公共交通だけの空間)化などだ。

 

10姫路駅前

 

一極集中から「少極集中」をへて「多極集中」へ

 

いまは本当に「東京一極集中」かというと、実はそうではない。札幌、仙台、広島、福岡といったいくつかの地方都市に「少極集中」が進んでいる。特に福岡の人口増加率は東京よりも高い。近年の地価上昇率も、これらの地方4都市の平均は東京圏を上回っている。 この少極集中状態を、上記のドイツのイメージのような多極集中にもっていくのが分散型社会のビジョンである。私たちは、ちょうどいまその分岐点にいると思う。

 

グローバル化が進み、経済が成熟化して行く中で、分散型システム、ローカライゼーション、持続可能な福祉社会が並行して進んでいくのがこれからの時代ではないか。

 

▷視聴者からの質問1 「都市部企業の強さの源は“リソースの集中”だと思うが、分散型となるとその強みはどうなるか?」

非常に重要なポイントだ。AIのシミュレーションによると、「分散型」5パターンの中でも「集中」の要素を取り入れたものが最もパフォーマンスが良かった。つまり、単純に分散すればいいというのではなく、集中と分散のバランスの取れた形。その一つのイメージが「多極集中」という姿だ。

 

実際、日本中が同じような均質な地域になるのが望ましいとは思えない。極はたくさんあるが、それぞれはある程度集約的な街になっていること。それも、東京のような大都市圏あり、地方都市あり、農山村の中心あり、さまざまなタイプの極がある姿を目指すべきだ。「重層的な多極集中」とも言える。

 

また、産業構造的にも、日本はこれから分散的な領域が非常に重要になってくる。いちばん分かりやすい例はエネルギーだが、他にもある。たとえばヘルスケアや介護などの生活福祉は非常に分散的。農業はもちろん分散的だ。それらを私は「生命関連産業」と呼んでいるが、高齢化を迎え、これから需要が伸びていくのもそういう領域だ。それらを日本はどうしても工業化社会の集中モデルで考えてしまうが、それではうまく行かない面が出てくる。産業構造的にも分散的なものにうまく適応していくことが重要だ。

 

▷視聴者からの質問2 「分散だけを進めると地方のインフラコストが膨らむのではないか?」

まさにその通りで、だからこそ「多極分散」ではなく「多極集中」が望ましいといえる。多極分散は一極集中の逆の概念で、人口増加期でのコインの表裏だ。ところが今、人口減少の時代に多極分散にすると、スカスカの低密度になり過ぎてうまく行かない。多極化しつつ、ある程度は集中する形が避けられない。「集中」とは人々が集まるコミュニティ空間ができるということだ。先ほどのドイツのような姿が考えられるのではないか。

 

▷視聴者からの質問3 「ドイツの事例でいう福祉・環境・経済の相乗効果について、もう少し詳しく」

福祉・環境・経済の関係を語るとき、肝になるのは時間軸だ。短期的には環境と経済は対立するように見えるが、時間軸を長くとれば、福祉と環境と経済はかなりの部分、相乗効果があり、補完的な関係にある。資源をどんどん浪費していったら、いずれ経済も成り立たなくなる。社会格差があまりにも広がり過ぎると、今度は活躍する人材自体が減っていく。福祉のマイナスが経済のマイナスにもなる。日本は、高度成長期に短期の時間軸で見る傾向が強まったが、いまはそれを見直すべき曲がり角に来ている。

 


 

この記事でとりあげた、ローカルベンチャーサミット2020、4日目基調セッション「コロナ禍で加速する分散型社会」の動画は、ローカルベンチャー協議会情報会員の登録で、無料視聴いただけます。

>> ローカルベンチャーサミット2020基調セッションを無料公開

 

関連記事はこちら

>> 地方で次々にチャレンジを生み出せる理由とは?雲南市・上勝町の首長・起業家座談会〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(1)

>> 「ベンチャー自治体」の首長が語る、地域の改革の進め方―西粟倉村・日南市・厚真町のケース〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(2)

>> 企業にイノベーションを起こすのは「戦略的不良社員」!?〜ローカルベンチャーサミット2020レポート(4)

 

Facebookページ「ローカルベンチャーラボ」、Twitter「ローカルベンチャーサミット」では、ここでご紹介したような地方でのチャレンジに関する情報を日々お届けしています。ぜひチェックしてみてください。

 

この記事を書いたユーザー
アバター画像

中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com