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自然領域に挑む“ネイチャープレナー”が、社会を変える起点になる。ETIC.コーディネーターインタビュー第1弾──倉辻悠平(後編)

2025.09.24 

※本記事は、NPO法人ETIC.のコーポレートサイトからの転載です。

 

皆さんがご覧になっている、こちらの「DRIVEメディア」。運営しているのはNPO法人ETIC.(以下エティック)という組織なのですが、ご存じでしたか?

 

エティックは創業以来30年以上にわたって、アントレプレナーシップ(起業家精神)をもつ人材の応援・支援に取り組んできました。ですが、「何をやっているのかよくわからない」と思われてしまうこともしばしば……

 

そこで本記事では、エティックで日々事業と社会の間に立って働く「コーディネーター」に注目!

 

エティックがいったい何をコーディネートしているのか、その具体例をお伝えしていきたいと思います。第1回は、「地球環境の再生に挑む起業家の育成」に取り組む、スタッフの倉辻悠平に話を聞きました。

 

>> 前編はこちらからご覧いただけます

 

倉辻 悠平(くらつじ ゆうへい)

立命館大学時代、国際協力や世界一周にいそしむ。2014年、リクルートを退職し、フィリピンのスラム地区に住む若者を支援するソーシャルベンチャーを創業。2018年、NPO法人ETIC.に参画し、様々な起業家支援プロジェクトを手掛ける。2022年からネイチャー領域のイニシアティブ(現:PLANET KEEPERS)を立ち上げ、2024年にWWFジャパンに属しながらスタートしたBEEなど、様々な仕掛けを推進中。2025年、一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパンの創業に関わり、同理事に就任。

 

ネイチャープレナーを増やすために。財団の設立に向け準備中

──日本で自然領域でチャレンジする若手を増やしていこうというイニシアティブ「PLANET KEEPERS」ではどういった取り組みをされているんですか?「PLANET KEEPERS」ではどういった取り組みをされているんですか?

 

倉辻 : より一層腰を据えて推進していくために、2025年7月に「一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパン」を設立すべく動いているところです。「ネイチャープレナー」とは、Nature(自然)とEntrepreneur(つくる人)を組み合わせた造語で、自然領域を担う起業家精神あふれる人材を指しています。

 

彼らを応援する助成事業を柱にして、全国の企業・自治体・アカデミア・保全団体・市民の皆さんと、多様なリソースが循環する土壌を、オールジャパンで育てていくことを目指していきます。

 

エティックだけではなく、PLANET KEEPERSの構想段階からご一緒している、株式会社エーゼログループ森章研究室(東京大学先端科学技術研究センター)一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンとの合同発起、龍谷(りゅうこく)大学副学長の深尾昌峰さんを代表理事に迎えての設立です。

 

 

前半でもお話したように、ネイチャーポジティブの領域は事業環境が整っておらず、市場がまだ未成熟です。そのため投資や融資など、大きく資本を投下できる対象は限定的です。なので、まずは種を育てていく応援資本を集積して助成する機能が社会に必要だと考え、その器にふさわしい法人形態として財団法人を選びました。

 

かつてエティックでは、2年間で100件の事業者に最大500万円の支援金を助成する「ソーシャルベンチャー・スタートアップマーケット」という事業を手がけたことがありました。これが社会的企業を広く世の中に認知してもらうきっかけのひとつになったように思うので、そこからヒントを得ています。

 

具体的な助成事業は、2026年下半期以降に向けて準備中です。5年間で10億円を集め、50の自然再生プロジェクトへの助成と500人の人材輩出を目標としています。資金支援だけではなく、科学的知見に基づいた評価や中長期的なモニタリング体制づくりや、メンターマッチングなどの伴走支援も予定しています。

 

2025年4月Beyondカンファレンス2025(淡路島)にて

 

その一方で、のんびりしている暇もないと感じていて、先行して「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」という人材助成を今年からスタートするべく、クラウドファンディングの準備も進めています。これは、将来この領域で起業や研究を志す学生たちが、先進的な取り組みをしている地域のネイチャープレナーのもとで、約1カ月間実践経験を積むプログラムです。

 

現在、企業さんとパートナーシップの協議を進めていますが、「ネイチャーポジティブ」をテーマに新規事業開発やオープンイノベーションに取り組む企業さんも増えていることを実感しています。その中で、協業先となる実践的なプレイヤーがまだ十分に育っていないよね、という共通の課題意識を持てるようになってきたと感じています。

 

こうしたプレイヤーの育成や応援を、将来きちんと稼いでいくための初期投資やインフラ整備と位置づける企業さんも増えてきていると想定しているので、これからどんどん出合っていきたいです。

 

 

生物多様性を守るのはなぜ大事? 経済との間に立って翻訳する存在が必要

──あらためて、「地球環境の再生に挑む起業家の育成」というテーマに取り組む意義について、倉辻さんの考えを聞かせていただけますか?

 

倉辻 : 僕は、生物多様性や生態学の専門家ではありません。でも、特に一次産業に携わる地域の方々のお話を多く聞く中で、自然資本の劣化──つまり森がやせて水が枯れる、土が痩せる、作物や魚が取れなくなるといった現象が、目に見える形で地域経済や暮らしに響きはじめているのは実感しています。

 

自然の生態系が人間に提供してくれるさまざまな恩恵や利益をひっくるめて、「生態系サービス」といいます。水や食料を提供してくれたり、CO₂を吸収して気候を調節したり、安らげる景観を生み出したり……自然は僕たちが気付かないようなところでエッセンシャルワーカーのような働きをしてくれているんです。

 

岡山県西粟倉村でエーゼログループが手がけるビオ田んぼ(写真提供 : エーゼログループ)

 

ただ、どの生き物同士が連動してどう作用するか、その結果どんな価値が提供されているのかについては、複雑すぎて解明されていない部分も多々あると、研究者の方からよくお聞きします。それでも、生物多様性の喪失が一定の範囲を超えると、突然機能しなくなり、もとには戻せない閾値があろうことははっきりしている。

 

だからこそ、生物多様性を守るとどんな“いいこと”があるのか、これから助成事業にてご一緒していくネイチャープレナーの実践現場を通じて、研究者の皆さんとも協力しながらデータをとり、意味づけし、可視化していく必要があると思っています。

 

また、森や草原、あるいはそれらと海とのつながりなど生態系自体の健全な状態を、根っこから取り戻そうとすると、10~100年といった長い戦いになります。一方でその過程において、「枯れてしまった沢に水を引いたら、数カ月後に両生類が顔を出すようになった」「有機に切り替えたその次の年に、絶滅危惧種の昆虫が田んぼにかえってきた」といったように短い期間で変化があったという声がよく届くようになりました。

 

写真提供 : 東京大学森章研究室

 

これって、純粋な驚きを与えてくれますよね。 それが人を呼ぶ力になって、観光や企業研修につながったり、そこで採れた作物や木材に付加価値をつけられたり、地域全体のブランディングにつながったり。はたまた、子どもたちが遊んだり学ぶ場になったり、その町に暮らす人たちの誇りにつながったりすることだってあるんです。

 

自然を豊かにすることがまだ直接お金にならなくても、確かな価値を地域にもたらしてくれる事例が生まれ始めていると感じています。加えて、生物多様性クレジットの実証や認証制度、企業による独自指標の設計など、自然資本の価値を直接的に経済価値へ変換する制度づくりも着実に進み始めています。

 

とはいえ、こうした仕組みが本格的に社会に根付くまでの間は、なかなか事業として成立しづらいフェーズが続くはず。なので、そういった厳しい状況下でも創意工夫を重ねて突破口を見出さそうとしているネイチャープレナーの皆さんと共に、良い実践事例を積み重ねながら、いずれ来る大きな転換点を着実に見据えていくことが、僕たちの大事な役割だと考えています。

 

写真提供 : サスティナビリティセンター

 

意志あるコーディネーターが、社会を変える起点になる

──事業を進める上で、エティックだからこそのこだわりなどはありますか?

 

倉辻 : 「ネイチャープレナー・ジャパン」という名称にも表れている通り、「人」に焦点を当てるということです。環境課題に限らず、事業そのものにどれくらい見込みがあるのかを数字で評価して、事業に対する支援を行うというのがスタンダードだと思いますが、エティックはあくまで「人」に着目しています。

 

エティックのほかのプログラムでも、本気でやっているかとか、参加者の内面を掘り下げるものが多いですよね。資金調達も難しいようなよく分からない事業に飛び込んじゃった人たちが、後々大きく社会を変えるかもしれない。ほかとは違うアプローチだからこそリスクもありますが、ほかでは拾えなかった可能性もあると思います。

 

2023年5月 Beyondカンファレンス2023(京都)にて

 

──最後に、倉辻さんにとっての「コーディネーター」とは?

 

倉辻 : 一緒に仕事をしている人に「倉辻くんは起業家なんだから」と言われることも多いので、あらためて聞かれると「僕ってほんとにコーディネーターなのかな?」と思ってしまいますね(笑)。

 

僕だけじゃなく、エティックのコーディネーターは「こうしたい」という意志やビジョンをもっている人が多い気がします。そうすると、プロデューサー的な面もあるのかもしれません。御用聞きや調整役になることも多いし、そういうスキルも必要ですが、問いを立てるということを意識しています。起業家とコーディネーターの中間みたいな感じですかね。

 

──確かに倉辻さんのお話からは、コーディネーターがプロジェクトの「起点」となっているような印象を受けました。「地球環境の再生に挑む起業家の育成」というテーマも、起業家的な側面をもつ倉辻さんだからこそ生まれたものだと思います。

 

これまでにない「ネイチャープレナー」が仕事や事業として成り立つ世界をつくろうと思うと、たくさんの人を巻き込みながらものごとを進められる、起業家的コーディネーターも必要なのかもしれません。

 

倉辻さん、いろいろとお話を聞かせていただきありがとうございました!

 


 

ネイチャープレナージャパンは、将来起業や研究者を志す学生・若者を対象に「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」をスタートするべく、クラウドファンディングに挑戦しております。

次世代ネイチャープレナーたちの挑戦を、ぜひ一緒に応援していただきたく、ご支援よろしくお願いいたします!

▼クラウドファンディングページ(2025年11月24日まで)https://for-good.net/project/1002340

 


 

ETIC.では、スタッフ一人ひとりが自ら実現したいテーマ・アジェンダを持ち、それを事業として推進しています。それにより、各人がアントレプレナーシップを発揮し、社会へのインパクトを最大化することを志向しています。各テーマに関心のある企業・団体・個人の方は、ぜひお問い合わせください。

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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