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「自然を再生させること」が経済と両立する社会を目指して。ETIC.コーディネーターインタビュー第1弾──倉辻悠平(前編)

2025.09.22 

※本記事は、NPO法人ETIC.のコーポレートサイトからの転載です。

 

WEBメディア「DRIVE」を運営しているNPO法人ETIC.(以下エティック)は創業以来30年以上にわたって、アントレプレナーシップ(起業家精神)をもつ人材の応援・支援に取り組んできましたが、「何をやっているのかよくわからない」と思われてしまうこともしばしば……

 

そこで本記事では、エティックで日々事業と社会の間に立って働く「コーディネーター」に注目!

 

エティックがいったい何をコーディネートしているのか、その具体例をお伝えしていきたいと思います。今回は、「地球環境の再生に挑む起業家の育成」に取り組む、スタッフの倉辻悠平に話を聞きました。

 

倉辻 悠平(くらつじ ゆうへい)

立命館大学時代、国際協力や世界一周にいそしむ。2014年、リクルートを退職し、フィリピンのスラム地区に住む若者を支援するソーシャルベンチャーを創業。2018年、NPO法人ETIC.に参画し、様々な起業家支援プロジェクトを手掛ける。2022年からネイチャー領域のイニシアティブ(現:PLANET KEEPERS)を立ち上げ、2024年にWWFジャパンに属しながらスタートしたBEEなど、様々な仕掛けを推進中。2025年、一般財団法人ネイチャープレナー・ジャパンの創業に関わり、同理事に就任。

 

「自然を豊かにすること」は仕事にならない? 黎明期だからこそ先駆けて応援したい

──エティックでは14のテーマ・アジェンダを掲げ、それに沿った事業を推進していますよね。倉辻さんはその中でも「地球環境の再生に挑む起業家の育成」に取り組んでいるということですが、事業を通じて目指していることを教えてください。

 

倉辻 : エティックでは長年アントレプレナーを支援してきました。90年代にITベンチャーが、2000年代には社会的企業(ソーシャルビジネス)が広まり、その後地方に目を向けるローカルベンチャー協議会の設立や、学生の起業志望者を支援するMAKERS UNIVERSITYなど、当時はまだ当たり前ではなかったアントレプレナーの裾野を拡大していく中で、環境や自然という領域にもスポットライトが当たりました。

 

今、環境分野といっても、すでにビジネスの土壌が整い始めている脱炭素のような分野もあれば、ネイチャーポジティブ(自然資本や生物多様性の保全・回復)のように、市場やキャリアパスが見えづらい領域もあります。

 

特に後者は、まだまだ黎明期。「やめとけ」と言われることは少なくても、「本当に仕事になるの?」「事業として成り立つ?」「キャリアパスは?」といった不安は多くあり、飛び込みづらい分野です。だからこそ、エティックとして先頭を切って応援していきたいと考えています。

 

それとは別に僕個人として目指していることを話すと、「負」を生む構造を変えたいという思いがあります。構造的に理不尽な思いをする人がいるというのがもともと嫌いなんです。

 

それで以前はNPO法人PALETTEという団体を創設して、フィリピンのスラム街に住む若い世代向けのキャリア支援活動に取り組んでいました。能力はあるのに大学に通えない若者やドロップアウトしてしまう人が大勢いるのですが、その背景には貧困だけではなくグローバル経済特有の構造的な問題があります。

 

PALETTEでの活動の様子

 

大量生産・大量消費に代表されるように、豊かな暮らしを享受しようとすると、誰かを搾取することを前提とした設計になっていることってありますよね。僕自身も豊かさを享受する側に入っているので否定しきれるものではありませんが、そういうのが嫌だな、もっとよくできないかなという思いがあります。

 

自然にまつわる問題もこれと同じような構造にあると思っていて、便利な生活のために消費する資源が増えているから、CO₂の排出量増加や自然破壊、生物種の減少や消滅といったさまざまな問題が起きているんです。安価な労働力に頼っている場合もあるのに、自分たちが使う資源がどこから来るのか、多くの人には分からないよう、仕組みとして埋め込まれています。

 

こういった問題に関心をもつ人が増えてきている今だからこそ、挑戦的な取り組みを仕掛けていくべき領域だと思っています。

 

あと、さらに個人的な話でいうと、ちょうど取り組みをはじめた頃に息子が生まれました。この子が100年生きるとしたら2123年。今までどおりの社会の仕組みのままで、今までどおりの豊かな環境が広がってる様子を全く想像できなかったのも大きいです。「こうなること分かってたのになんで生んだん!」と怒られないようにがんばりたいと思います。

 

 

環境領域を専門とするWWFジャパンと連携した、次世代リーダー育成プログラム「BEE」

──エティックが環境問題に取り組んでいるイメージがあまりないのですが、いつ頃から始まったのでしょうか?

 

倉辻 : 2022年頃から徐々に取り組んでいます。僕は2018年からエティックに参画しているのですが、いくつかの起業家支援プログラムの立ち上げや、主に企業の皆さんと社会課題解決に取り組む共創プラットフォーム事業に関わってきました。

 

そういった中で、僕自身の関心をもっと乗せられ、企業の皆さんのコミットも引き出しながら、ぐっと踏み込んでやれるテーマを掲げられないかと考えていたとき、当初は気候変動や脱炭素が候補として思い浮かんでいました。ですがエティックは環境領域に強みがあるわけではないですし、医療や宇宙、環境のように特定のテーマを強く打ち出して活動しているわけでもありません。

 

そこで転機となったのが、人づてでご縁のあった公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(以下WWFジャパン)との出会いです。WWFジャパンに環境・サステナビリティリーダー開発グループが誕生して間もないタイミングで、ユース世代の環境リーダーとの連携や育成を推進する人材を募集されていたんですが、そこでプロジェクトの提案をさせてもらいました。

 

当初はエティックとの連携ありきでの提案ではなかったのですが、結果的にWWFジャパン主催、エティックは共同企画・運営として関わることになりました。

 

そこから生まれたのが「Base for Environmental Entrepreneurs」・通称BEEという、環境課題解決に取り組む次世代リーダー育成プログラムです。

 

2024年度の第1期生の応募には500件近いプレエントリーがあり、その中から15名を採択しました。応募数の多さもですが、半数が学生だったことからも、社会として特に若い世代から今求められているプログラムなんだという手応えがありました。間違いなく現在取り組んでいる「PLANET KEEPERS」のきっかけとなった事業です。

 

BEE第1期の受講生たち

 

今は事業になりにくい自然領域。若い世代が挑戦しやすい社会に

──「PLANET KEEPERS」って何ですか?

 

倉辻 : 地域・企業・研究者・環境保全団体と連携して、自然領域の起業家型人材が、思いっきりチャレンジしていけるようなエコシステムの社会実装を目指すイニシアティブです。

 

2022年頃からもう1人のエティックメンバーと相談しつつ構想を温めていたのですが、話し合っているうちにどんどん壮大になっていきました(笑)。ネイチャーポジティブ(自然資本や生物多様性の保全・回復)を後押しする「自然領域」で人を中心とした本質的な変革を起こしたいというアイデアはあったものの、具体的にどんなプレイヤーを応援したいのか、どうやって社会を変えていくのか、最初はイメージがわきませんでした。

 

そこで相談した先が、ニホンウナギを食べ継ぐプロジェクトやビオトープ付きの田んぼでの米作りなど、里山の生き物や生態系に着目した事業を行っている株式会社エーゼログループ、生物多様性について研究している森章研究室(東京大学先端科学技術研究センター)、水産業の革新に取り組む一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンです。

 

写真提供 : フィッシャーマン・ジャパン

 

株式会社エーゼログループ・代表の牧大介さんが「この領域で将来のスターが生まれるのを見てみたい」と賛同してくれたのを皮切りに、若手研究者の減少に危機感をもっていた森先生、藻場の磯焼けや魚が取れないという現場の課題を科学的なアプローチで解決したいというニーズのあった一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンも、この領域の担い手を増やすという構想に乗ってくれて、少しずつ方向性が見えてきました。

 

世界では、2021年のG7で「2030 年までに生物多様性の損失を止めて反転させる」という目標(ネイチャーポジティブ)の達成を目指すことが表明されました。生物多様性をめぐる危機に対して国家レベルでのルールメイキングが進行する一方、地域や民間の担い手にとっての事業環境は、十分に整っているとは言えません。

 

つまるところ、事業になりにくい環境なのでリソースが集まらず、人材も育たないので物事が進んでいかないという悪循環を生み出しているのです。「PLANET KEEPERS」では、この現状を好転させて、基礎研究なども含め、若い人たちが環境領域の事業に挑戦しやすくなる社会を目指しています。

 

 

>> 後編へ続きます

 


 

エティック、エーゼログループ、森章研究室、フィッシャーマン・ジャパン、深尾昌峰氏(龍谷大学 副学長)の5者合同発起で設立したネイチャープレナージャパンは、将来起業や研究者を志す学生・若者を対象に「次世代ネイチャープレナー・フェローシップ制度(事業・研究探求助成)」をスタートするべく、クラウドファンディングに挑戦しております。

 

次世代の地球環境再生に挑む起業家たちの挑戦を、ぜひ一緒に応援していただきたく、ご支援よろしくお願いいたします!

 

▼クラウドファンディングページ(2025年11月24日まで)

https://for-good.net/project/1002340

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。