#ローカルベンチャー
【ローカルの最前線を知るキーワード解説】「ローカルリーダーズミーティング 2025 in島根県雲南市」が掲げる3つのキーワード「えすこ」「総働」「鎮静化」とは?
2025.10.01
今年2025年10月7日(火)〜10月9日(木)に開催される、「ローカルリーダーズミーティング 2025」(ローカルベンチャー協議会(事務局NPO法人ETIC.)主催)。4回目を迎える今回は、島根県雲南市(うんなんし)で開催されます。
ローカルリーダーズミーティング(以下LLM)は、地域で活躍するプレイヤーや行政関係者、民間企業の担当者、地域に根ざした活動に興味を持つ個人などが全国各地から集まり、情報共有や交流、現地視察などを通じて、地域づくりのヒントを持ち帰るためのイベントです。「ローカルリーダーズミーティング 2025」(以下LLM2025)では、200名以上の参加が予定されています。
雲南市でLLM2025を開催する上で打ち出しているのが、「えすこ」・「総働」・「鎮静化」という3つのキーワードですが、どれも耳慣れない言葉ですよね。そこで今回は、この3つのキーワードについて解説します。LLM2025に参加する前の予習としても、LLM2025には参加できないけれど、ローカルでの挑戦の最前線を知りたいという方も、ぜひご一読ください。
「第3次雲南市総合計画」と3つのキーワード
今回掲げる3つのキーワードを色濃く感じられるのが、LLM2025の舞台となる雲南市が打ち出した「第3次雲南市総合計画」。
これからの10年間(2025年から2034年まで)のまちづくりの目標と方向性を示しています。これまで受け継いできた「雲南らしさ」を大切にしていくために、「変わらず、変える」を基本理念とするこの計画で目指す将来像が「えすこな 雲南市」、そしてその実現のために「総働」で取り組んでいくとされています。
「えすこ」とは、出雲地方の方言で「ちょうどよい状態」、「いい具合」を意味する言葉です。また「総働」について、総合計画の中では「世代や立場を超え、関係人口や資金を効果的に取り込みながら、自然環境や歴史文化、先人の知恵などのあらゆる資源をいかして多方面で多様な協働を行うこと」と説明されています。
これまでの雲南市では、行政と市民が互いの強みを活かしながら、共通の目的を達成するために対等な関係で取り組む「協働のまちづくり」を掲げてきました。それをさらに一歩進め、雲南に暮らす人たちだけでなく、外部の関係人口や企業の力、さらには人間以外の自然の力や、先人からの文化資本なども含めて総て(すべて)の働きをフル活用しようというのが「総働」です。
そして、総合計画内に直接出てくるキーワードではないものの、根底に感じられるのが「鎮静化」です。LLM2025の公式サイトにも掲載している「地域は鎮静化すべきだ」という言葉は、雲南市で日本初の低温殺菌牛乳を生み出した、木次乳業の創業者・佐藤忠吉さんの言葉です。
その言葉の意味するところが明確に説明されているわけではありません。ですが、地域資源を活かした事業に取り組んできた、ローカルベンチャーの草分け的存在である佐藤忠吉さんの言葉であることを踏まえると、「地域活性化」の本来の意味を問い、地域それぞれの暮らしを未来につないでいくために本当に必要なことを考え抜いて実行していこうという言葉だと考えられます。
地方創生の10年の取り組みと、その振り返りとしての「鎮静化」
雲南市では、合併後の2005年頃から地道に取り組まれてきた、住民が主体となって地域課題の解決に取り組む、小学校区ごとの「地域自主組織」の活動が注目されてきました。
その後、中高生のキャリア教育を中心とする「子どもチャレンジ」、地域プロデューサー人材を育成する「若者チャレンジ」、地域自主組織による「大人チャレンジ」が次々と立ち上がり、雲南市の地域づくりの中心には「チャレンジの連鎖による持続可能なまちづくり」が据えられます。
「若者チャレンジ」の柱のひとつである人材育成事業「幸(こう)雲南塾」からは、日常生活のなかで住民と交流し、健康相談や予防のサポートを行うコミュニティナース事業や、中間支援組織である「特定非営利活動法人 おっちラボ」が誕生するといった成果がありました。
そして2017年には、地域資源を活かした新たな経済を生み出すローカルベンチャーの輩出・育成を目指す「ローカルベンチャー協議会」に参画。ほかの参画自治体と同様、「出る杭ネットワークを育てていこう」という考え方のもと、起業家をはじめとする地域課題を解決できる人材の育成に、長年にわたって取り組んできたのが雲南市なのです。
一方で、大小さまざまなチャレンジを続けてきたこの10年を振り返ったときに見えてきたのが、一部の「出る杭」となる人たちのチャレンジの連鎖だけでは実現できない領域もあるということでした。今までの延長線上では人口減少や少子高齢化がさらに進行し、地域が衰退していくことは目に見えている以上、「出る杭」的な人材はもちろん必要です。
ですがチャレンジを続けてきた地域だからこそ、「一部でも盛り上がっていけばそれが自然と全体に伝播していく」とはならない現実も見えてきました。「チャレンジ疲れ」といった言葉も聞かれ、地域内の温度差も無視できない要素となっています。
これまでとは「違うモード」にならなければ、それぞれの地域の良さを残していくことは難しいのではないか。そういった反省から着目されたのが、「鎮静化」なのです。
「モードチェンジ」に伴う、まちづくりの変化
「鎮静化」は「活性化」とは一見正反対ですが、前述のとおり、活性化をより深く捉えた言葉だとも考えられます。ゆったり生きる、何もしない、といった状態を指すわけではありません。
例えば、地域の景観を維持するために日々草刈りにいそしむ方、伝統芸能やその地域ならではの料理などを継承してきた方、地域でずっとお母さんたちの子育ての悩みを聞いてきた方や、訪問販売の傍ら自主的に見守り活動を行ってきた企業の方……
そういった、「出る杭」的ではない人たちが力まずに続けてきた営みの音に耳を傾け、「こうありたい」という地域の未来に向けて編み直していくことが「鎮静化」なのではないでしょうか。それによって必然的に「出る杭ネットワーク」がもっと地域に開かれ、「総働」も促されていくように思います。
そして「鎮静化」や「総働」を念頭に置くことで、雲南市でもまちづくりのあり方が少しずつ変わってきたと、雲南市でLLM2025の準備を進めるメンバーは語ります。
「役場職員の私が言うのもなんですけど、これまでは正直ついていけない部分もあったというか、『自分のものじゃない』と感じる面もありました。それが、「第3次雲南市総合計画」で『えすこな 雲南市』という将来像が出てきたあたりから、ガラッと雰囲気が変わったように思います。振り向いてもらえた、という感覚がありました」と語るのは、雲南市役所の山岸さんです。
雲南市役所では、「第3次雲南市総合計画」で掲げられた12の施策に対して複数の担当課がつき、市民も交えた会議体が設定され、そこからシンボルプロジェクトとなるような動きも生まれているそうです。
具体的な活動については、LLM2025の2日目に予定されているフィールドワークで現場の様子を見にいくことができますので、参加される方はぜひご注目ください。
行政での分野の横断的な活動は、言うほど簡単ではありません。こういった活動が形になりつつあることからも、雲南市におけるまちづくりの姿勢の変化を感じます。
また、民間の中間支援組織という立場から雲南市のチャレンジを応援し続けてきた、特定非営利活動法人 おっちラボ代表理事の小俣健三郎さんも、伴走やコーディネートのやり方が変わってきたと語ります。
「地域に根ざして地道な活動をされてきた方の話を聞いて、その人たちの熱意を実現するために、都市部の企業や実行力のある起業家に力を貸してもらうという方向性のコーディネートが少しずつ増えてきました。フィールドワークでは、課題や葛藤も含めた現場のリアル感を感じ取ってもらえたらと思います」
「活性化は競争を、鎮静化は共生を生む」という佐藤忠吉さんの言葉に表れているように、誰かの一人勝ちではなく、ゆるやかな共同体の中で、それぞれが自立しながらも助け合えるような、「えすこ」なまちへ。
LLM2025では、こうした雲南市の変化を肌で感じられるのではないでしょうか。
ここまでLLM2025をより学びの深いものとするために重要な、「えすこ」・「総働」・「鎮静化」という3つのキーワードについて解説してきましたが、いかがでしたか?
ここで述べてきたのはあくまで解釈のひとつであり、参加者それぞれがその中身を考えていく過程にこそ意味があるものだとは思いますが、参加される際の一助となれば幸いです。それでは、参加される方は10月の雲南市でお会いしましょう!
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企業と行政の「同時通訳」に。東京と福島県磐梯町を行き来する地域活性化起業人・星久美子さん



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