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フィランソロピーが創り出す未来とは? 「ビル・ゲイツと語る、日本、未来」イベントレポート

2015.12.19 

「寄付月間-Giving December-」という言葉を耳にしたことはあるだろうか? 日本の歴史上初めての試みとなるこの寄付月間は、多くの人が寄付に関心をよせ、行動をするきっかけとなることを目指し今年の12月にスタートした。

さまざまな想いから名づけられた「Giving December」という名称は、国境を越え世界最大規模の慈善団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のビル・ゲイツ氏のもとまで届く。 「ビル・ゲイツと語る日本、未来」につく写真?

寄付から個人を基盤とした参加型社会を

12月16日に開催された、「ビル・ゲイツと語る、日本、未来」と題されたイベント。マイクロソフト創業者であり世界的なソーシャル・アントレプレナーが語る未来を共有したいと、多くの参加希望者が殺到し、当日は抽選で選ばれた500名、そして現在日本における課題解決の最先端を担うソーシャル・アントレプレナー一堂が浜離宮朝日ホールに集った。

 

熱気に包まれた会場を前に、Giving December委員長である小宮山宏氏(三菱総研理事長、東京大学第28代総長)は「この寄付月間の本当の背景は、参加型の社会をつくろうという想いにある」と語る。

 

「日本では、ずっと“稲作”という強い絆のあるコミュニティーが続いてきました。しかし工業社会になってからは、“会社”が参加型社会の場を提供するようになりました。そして現在、個人と社会の絆が段々と弱くなってきています。そのような課題先進国の日本において、寄付を通し個人の意志を基盤とした参加型社会をつくっていきたい。今回は、ビル・ゲイツ氏が助太刀に来てくれました」

 

成功する秘訣は、成功するまでやることだと語る小宮山氏。「この寄付月間は、来年も再来年も、成功するまで続ける」と宣言し、今回のイベントでもぜひ参加者には積極的に参加してもらいたいと会場に投げかけた。

12,000人のイノベーターが日本を変える

続くソーシャルセクターの最先端をゆくアントレプレナーのピッチでは、途上国の人々へ革新的なテクノロジーを届けている「コペルニク・ジャパン」の中村俊裕氏、途上国の子どもに給食を届けることができるレストラン予約の無料アプリ「テーブルクロス」の城宝薫氏、シリコンバレーで起業し、既存の車椅子の概念を覆すスタイリッシュな次世代パーソナルモビリティ 「WHILL」を開発した杉江理氏、病児保育など七つの事業を通しすべての親子が自己実現できるしなやかな社会を目指す「フローレンス」の駒崎弘樹氏が登壇し、それぞれが想い描く未来を語った。

 

フローレンスの駒崎氏は、このGiving Decemberでの寄付を「赤ちゃん縁組モデル」の立ち上げのために使いたいとし、これから日本は4割が高齢者で労働人口が3分の2に縮小する時代が訪れると続けた。

 

「これは、世界でも経験されたことないこと。でも僕は、絶望していません。社会を変えていくイノベーターがいるから。日本がこれまでに経験した最も大きな改革である明治維新で、志士と呼ばれた人は1,000万人。そのたったの1,000万人が本気で志士となったから、現在の私たちは改革の恩恵を受けています。この1,000万人は、現在の人口比率に考えなおしてみればたったの12,000人になります。みなさんがその12,000分の1であることを、祈ってやみません」

貧困の連鎖をなくすフィランソロピー

ビル・ゲイツ氏との対談相手を担うのは、日本のベンチャー界へのフィランソロピー文化の浸透を志している株式会社楽天・三木谷浩史氏。

 

日本人にとって、寄付の中でも「フィランソロピー」と「チャリティー」の違いは分かりづらい。「フィランソロピー」を、起業家精神のために投資をすることだとした三木谷氏に続き、ビル・ゲイツ氏はこう応える。

 

「チャリティーは良いことです。しかしながら、その社会的インパクトは少ない。一方で、フィランソロピーはインパクトが大きいのです。人々は、何か大災害があると寄付します。特に日本の方々は、本当に苦しんでいる人をみてお金を使おうとする傾向があるように思います。でも、たとえ災害がなかったとしても、日々起こり続けていることにもぜひ投資してほしい」

 

たとえば「マラリアにも新薬ができれば劇的に人々の状況が変わる」と続けると、自分にとってはマラリア撲滅のために考える戦略は、ビジネスでのそれとまったく変わらないと語った。

 

「フィランソロピーがチャリティーと違うのは、マイクロソフト社を構築したのと同じようにその適切な運用のために優秀な人を集めパートナーシップを組んでいく必要があるということです。そして、マイクロソフト社のときと違うのは、営利目的ではなく社会課題解決を目的にしていること。これが取り組んでいて楽しい理由でもあります」

 

貧しい国には新薬開発にかける資金がなく、先進国にマラリアは存在しない。こうして、人々は貧困の罠に陥っていく。そこからの脱出の仕組みを創り出す役目を担っているものこそ、フィランソロピーなのだ。 ビル・ゲイツと語る日本、未来」につく写真?

理性と情熱の両側面から、自分の心に触れたものを選ぶ

では実際、どこにフィランソロピーをすればよいのか。その基準は何なのだろうか?

 

「フィランソロピーでは、ベストな投資先を探し求めるとなかなか踏み出せません。理性と情熱の両側面から、自分の心に触れたものに対し楽しんでやればよいのです。私の場合は、現場に実際に行ってみます。これは非常に大きなエネルギー源になる。たとえば、自分が投資したことで子どもたちが学校に行けるようになった姿をみると、本当に大きな力になります」

 

これまで、助けてあげたい側と助ける側が離れていたのが問題だったと語るビル・ゲイツ氏。しかし、今ではインターネットをはじめとるテクノロジーの進歩が、これを解決し世界中をつなげてくれた。続く三木谷氏の、「起業家をはじめとするビジネスリーダーはどこに投資すべきか」という問いにもこう答える。

 

「政府は新しいモデルを必要としています。新しいモデルに投資するのは、フィランソロピーに向いています。リスクをとらなければフィランソロピーとは言えないかもしれません。国は失敗できないですが、私たちはできます。そして成功したら、政府にその方法を提案することができる。これはテックカンパニーへの投資に似ています」

 

具体的な投資先についても、アメリカでは非営利団体に限らず営利企業内のプロジェクトにも投資することができる。ただし、その場合は、たとえば製薬企業に投資したならば、完成した薬が等しく貧しい人に行き渡るよう安価に販売してもらい、投資元である財団も最安値で仕入れた新薬を最貧国へ提供できるようにする。

 

「こういったシステムが成功しているのをみると、様々な障害があったとしてもフィランソロピーは間違いなく世界へ広まっていくだろうと前向きに考えています」 「ビル・ゲイツと語る日本、未来」につく写真?

“価値観”で仕事を決める時代

しかし、日本政府はNPOなどヘの税的措置を変えてはいるが、それでもまだ厳しい仕組みになっているため、日本でビル&メリンダ・ゲイツ財団のような挑戦をしようとすると国からの様々な承認が必要となってくる。

 

一方、アメリカでフィランソロピーが多いのは、長い時間をかけて制度が整ってきているからだ。それでも、「若者たちはボランティアをしたり少額でも寄付をしたり、政府に提言していったり、こういったことをやりやすい立場にある」とビル・ゲイツ氏は語る。

 

最後に日本の若者たちに、メッセージを残した。

 

「若い人たちがうらやましいですね。いま世界には面白いことが色々あります。そして、世界を学ぶ能力はテクノロジーの活用で極めていける。素晴らしいツールがあふれているのです。将来のことは、“キャリア”という軸だけで考えるべきではないのでは? “価値観”という軸で、たとえば『より良い世界、平等な世界を実現しようとしている会社』という価値観で職を求めてもいいかもしれません」

 

ビル・ゲイツ氏をはじめ、世界中に見守られたこのチャレンジの先にはどのような未来が生まれるのか。DRIVEでは、日本の若者たちの挑戦を引き続き追いかけていきます!

この記事を書いたユーザー
桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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