ソーシャルセクターの未来を考える上で、イギリスの動向から目が離せません。
政府関係者が「ソーシャルエンタープライズを世界に広げる」と言いきる彼の国では、社会的インパクトを測定する仕組みであるSROI(社会的投資収益率:Social Return on Investment)や、休眠口座を原資として創設された基金、ビッグ・ソサエティ・キャピタル(Big Society Capital)、そして新しい公民連携スキームであるソーシャル・インパクト・ボンド(Social Impact Bond)など、社会起業家を後押しする仕組みが続々と生まれつつあります。
そんなイギリスから、今回はガーディアン(The Guardian)に掲載された「2020年のヨーロッパにおける社会的企業の姿(Best bits:what will social enterprise look like across Europe in 2020?)」の抄訳を通して、当地を中心としたヨーロッパにおける「ソーシャルセクターのトレンド」をお伝えしたいと思います。
元の記事は、イギリスの中間支援組織(社会起業家を支援する組織)の代表や、現場で活躍する社会起業家、そして政府機関担当者などのオピニオン・リーダーによるパネルディスカッションのレポートです。本稿ではポイントをお伝えするため、原文を省略し意訳しています。全文と詳細なコメントの中身については、下記リンク先の元記事をご覧ください。
Best bits: what will social enterprise look like across Europe in 2020?
We round up the best expert advice from our live discussion on what social enterprise will look like in the future : The Guardian Written by Charlotte Seager Tuesday 7 January 2014 より一部を抜粋し抄訳
ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)は、よりメジャーな存在となるか?
- 企業や政府・行政機関が、ソーシャル・エンタープライズのモデルを導入しつつあります。既存の企業CSR活動の枠を超えて、持続的な社会的価値をコアビジネスへ組み込んでいく流れが加速していくでしょう。そういった活動を指す「コーポレート・ソーシャル・イノベーション」や、「共有価値の創出」という言葉もあります。
- そのためには、社会起業家を支援する生態系(エコシステム)を構築することが必要です。サスティナブルな社会を実現するためには、人々が「ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業家精神)」を存分に発揮する環境づくりが大切です。
ソーシャル・エンタープライズのガバナンスは、どうなっていくか?
- 現在も未来も、ガバナンスは重要な課題であり続けます。ビジネスセクターが社会からの信頼を失いつつある現在において、社会的企業だけがそれを無視できるわけがありません。社会がNPOや社会的企業に寄せている信頼のある部分は、その運営構造やガバナンスに起因しています。決して組織が創出している社会的価値だけではないのです。明確なミッション、健全なガバナンス、透明性の高い運営、そして大きな社会的インパクトを創出することが、引き続き重要となるでしょう。
ソーシャル・インパクト(事業の社会的価値/成果)を測定するグローバル基準が構築されるだろうか?
- 理想的にはソーシャル・インパクトの評価基準を策定すべきでしょうが、やはり限界があると思います。社会的企業が活躍する地域は多岐にわたり、それぞれの地域によって社会的文脈や文化が異なります。実際には、ローカルに適応させた評価基準の集合体になっていくのではないでしょうか。
- ユニバーサルなツールと、カスタマイズされたものをミックスしていくことが必要です。グローバル・スタンダードに対する一定のコンセンサスは必要でしょうが、全てに対応することは難しいと思います。
グローバリゼーションは、ソーシャル・セクターにどのような影響をあたえるか?
- 労働・教育・ヘルスケア・住宅など、世界各地で共通した社会課題に取り組む上で、グローバリゼーションは追い風となるでしょう。そのために私たちは、課題を解決するツールを共有していく必要があります。
- 社会起業家のためのグローバルなラーニング・コミュニティが求められています。各地域に「支援の生態系」を構築するために、各国に蓄積されたツールや方法論、ノウハウを共有していくことが必要です。
政府・行政機関は社会的企業を一層支援していくべきか?
- 行政の支援がなくとも社会的企業は生まれてくるでしょうが、行政の政策による支援は非常に効果的だと思います。政策そのものというよりは、政策の結果として、中間支援組織や社会起業家の学びの場を創出していくことが重要でしょう。
- 政府・行政機関は重要な役割を担っています。大きな予算を持つ行政機関が資材やサービスを調達する際には、社会的企業を活用すべきでしょう。
- イギリス以外にも、政府や行政機関による注目すべき取り組みがあります。その中でも、(1)アメリカやカナダにおける「B Corp (Benefit Corporation)」の取り組み、(2)タイにおけるソーシャル・エンタープライズ・オフィスの設置とその5ヵ年計画、そして(3)インドにおける企業CSR活動の義務化などは、とても興味深い事例だと思います。
2020年の社会起業家教育はどうなっているだろうか?
- 大学において、社会起業家教育の存在感が高まっています。社会的企業に関するコースを設置する大学が続々と増えつつあり、これは成長領域であるといえるでしょう。オックスフォード大学のサイード・ビジネス・スクール(SBS, Saïd Business School)には、ソーシャル・アントレプレナーシップのマスターコースがあります。
- 既に様々な社会起業家教育に関するイニシアティブが進められています。英国の中間支援組織(社会起業家を支援する組織)であるアンリミテッド(UnLtd)は、56の大学とのパートナーシップを構築しています。このパートナーシップでは、学生・卒業生を対象とした、社会起業家教育や創業支援プログラムを提供しています。
ヨーロッパにおける「ソーシャル・フランチャイジング」の未来はどうなるか?
- ソーシャル・フランチャイジングの仕組みは、国際開発の領域、特に教育やヘルスケア分野で盛んに導入されています。それと比較すると、先進国におけるソーシャル・フランチャイジングは遅れていると思います。
- ソーシャル・フランチャイジングは、急速に拡大している領域です。私が2010年にイギリスの大きな慈善団体のソーシャル・フランチャイジングを進めようとした際には、全く反応がありませんでした。ここ最近、ほとんどゼロだった状況から、急速に成長しているのではないかと思います。
"ソーシャル・エンタープライズ"は2020年までにグローバルに「定義」されるか?
- ソーシャル・エンタープライズを厳密に定義することは難しいでしょう。ヨーロッパやイギリスにおける定義がある程度なされているといっても、それを他国に導入する際には、その地域の文脈や歴史を考慮する必要があります。例えば、イタリアでは協同組合が重要な社会的事業であると認識されていますし、クロアチアでは、伝統的な企業とソーシャル・エンタープライズをはっきり区別するという動きがあります。また、東南アジア諸国では、伝統的な慈善活動団体とソーシャル・エンタープライズを区別するというニーズがありますし、東欧諸国では"ソーシャル"という単語は歴史と深く結びついています。
- ユニバーサルな定義は、私たちの関心事ではありません。定義をめぐる討論は、私が社会的企業を立ち上げた15年前からずっと繰り広げられていますが、いまだ決着がついていません。確かに、減税対象の判断などを考えれば、厳密な定義が必要となるかもしれません。しかし、私たちの努力は、「誰がソーシャル・エンタープライズで、誰がそうでないか」より、社会に価値を提供することに使われるべきでしょう。
Best bits: what will social enterprise look like across Europe in 2020?
We round up the best expert advice from our live discussion on what social enterprise will look like in the future : The Guardian Written by Charlotte Seager Tuesday 7 January 2014 より一部を抜粋し抄訳 協力:笠原孝弘さん
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