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「なぜ、僕は社会起業家に投資するのか?」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(1)加藤轍生さん寄稿

2014.03.20 556view 

この寄稿のきっかけは、日本のプロフェッショナルやアントレプレナーに対する物足りなさを感じ取られたからじゃないかな、と思っている。だったら、せっかくだから、その違和感を共有してみようかと思う。僕が不満があるのは、起業家という割には、イノベーションを狙ってない感じがする、ということであって、それからすると、アジアのアントレプレナーはやっぱり、飢え渇いた感じがする。

アジアのアントレプレナーが何を考え、何をやろうとしているのか、そして、日本のアントレプレナーがどういう可能性を眠らせているのか。それが、この連載で見て頂きたいことだ。

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まず、「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)」とは何か

確認しておこう。「社会起業家」という言葉は、もっぱら、ビジネスの手法を活用して社会的課題を解決しようとする起業家たちのことを総称する”くくり”として用いられる。世界中で若者達の新しいライフスタイルとして、注目を浴び、多くの若者がこの道を切り開くようになっていることも自分の眼で確認してきた。そして、こういった現象の中から、画期的なアイデアやチャレンジが生まれ、解決可能になった社会問題も少なくない。

だけれど、こういった言葉が拡がる中で、本来の意味や意図が失われ、言葉だけが使われて行くことには、危うさを感じることもある。自分自身も、職業として彼等を支援する傍ら、こういった動向に対しての解説を求められることも増えてきた。

そして、僕は、「『社会起業家』という言葉や『ソーシャル・インベストメント(社会的投資)』という言葉は、反語の一種として、つまり、我々が当たり前だと感じていることに対する疑問として捉えた方がいいんじゃないか?」と答えるようになった 。

そもそも、「社会性」のない起業家は存在するのだろうか?

考えてほしい。「起業家」は、社会のことを考えずして、イノベーションを起こしていくことが可能なのだろうか?また、社会性を無視した投資家が、時代を超えて収益を上げるということが可能なのだろうか?

かつて、松下幸之助は「水道哲学」を掲げた。当時の時代背景、つまり、社会の問題を考えれば、安く安全な電化製品をつくり、それを普及させる、ということは社会の変化に大きく貢献した。同様に花王の創業ストーリーを聞けば、石鹸を売り出したのは日本の衛生環境を向上させるためであったという。

現代と時代背景は異なるし、創業当時の理念が現代に継承されているかは別として、優れた創業者の多くは社会性と収益性のバランスを取り、その中に新たな可能性を見いだそうとしてきた。

そう、「社会起業家」や「社会的投資」という言葉の役割は、ニッチな領域を切り開くことではなくて、起業や投資、そして、企業の在り方や行政の在り方、ひいては、ライフスタイルや社会の在り方そのものを再考するための投げかけにあるんじゃないかと僕は思う。

「社会起業家」という言葉を通じて、社会そのものに対する想像力を取り戻すことができるかもしれない。その問題は誰の問題なのか、問題は本当に問題なのか、可能性ではないのか、という社会における根源的な問いかけを代弁する主体としての社会起業家に僕は可能性を感じる。

グローバル化という言葉が「あたりまえ」になって久しいけれど、僕らは、変わりゆく社会の中で、隣人を想像したり、利害を想像したりすることにはまだ慣れてはいない。だからこそ、新しい社会の訪れを告げるアクターの存在は重要だと思っている。

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ベンチャー投資の世界から始まった僕のキャリア

少し自分の話を挟んでおこう。僕の最初のキャリアはITベンチャーの世界から始まった。ITバブルが弾ける直前にITベンチャーに飛び込み、その後、事業へ投資する側へ回った。多分、僕が今感じている違和感の原因は、そのスピード感を味わってしまったからじゃないかな、と思う。

ジェットコースターに乗っているような高揚感。そして、人々の顔つきが変わっていく瞬間。再会したときの仲間達の変貌。世界は変えられるし、変わる。そんな現実を見て、僕は楽しいと思ってしまう。

こういったベンチャーの感覚、ベンチャー投資の感覚って、非営利の世界で、まだまだ再現できるし、そこから、さらに新しいものが産まれてくるんだという手応えを持っている。

ベンチャー投資のもたらす「乗数効果」を社会問題の解決に転用することができるのか?

例えば、売り上げの実績もない創業直後の起業家達を応援するビジネスがある。ベンチャーキャピタルやベンチャー投資と呼ばれるが、米国のベンチャーキャピタルの投資金額は、GDP比でたった0.2%に過ぎない。が、ベンチャー投資を受けた企業のパフォーマンスを合算すると、米国全体の21%のGDPと11%の雇用を創出しているのだ、という。(Venture Impact Edition 6.0, NVCA 2011 より)

こういう“乗数効果”(投資した金額が成長の呼び水になって、新たな資金の流入を呼び込み、急速に企業を成長させ、かつ、結果として、社会経済そのもの影響を与えること)は非営利の世界でも再現することができるんだろうか。そんなことをずっと考えて、実験を続けていたのが僕の20代だった。

そんな発想を非営利の世界に持ち込んだプレイヤー達がいる。「社会的投資」、ソーシャル・インベストメントと呼ばれる領域だ。アプローチは様々だが、共通するのは、もっと早く、効率よく、世界を変えることができないかという、「投資」の考え方だ。

例えば、米国のNGO、エンデバーはこういうポジションを取る。「アメリカの起業家精神を輸出することができないか」と。ベンチャー投資によって、起業家精神を喚起し、ともにリスクを取って市場をつくっていくやり方は他の国でもできるんじゃないか、と。エンデバーの活躍の舞台は、途上国の経済の開発だ。結果、彼等の恩恵を受けた起業家達は、合算で年間6,000億円規模の売上を創出し、22万人を越える雇用を産み出している。エンデバーの本部は、8億円規模の組織に過ぎず、たった1ドルの寄付が、258倍のインパクトをもたらすと謳う(詳細はエンデバーのウェブページを参照して頂きたい)。

エンデバーはあえて、成長著しい新興国の起業家たちこそが、社会を変えるプレイヤーであるとし、彼等をまず支援する。そして、現地の成功者(つまり、過去のアントレプレナーたち)と、次に続く起業家たちのコミュニティを創りだした。そこでは、リスクマネーが行き来するだけではなく、次に続く起業家達を応援し、助言を授けるというカルチャーが生まれた。(上記はエンデバー本部の広報責任者をつとめた友人との意見交換による)

そういったプレイヤーはエンデバーだけじゃない。米国のアキュメンは、ベンチャーキャピタルのやり方を非営利の世界へもちこみ、途上国の衛生やエネルギーといった分野の社会企業にリスクマネーを投じ始めた。まだまだ、成果を上げたとは言い難い部分もあるが、たった10年の記録で、既に1億人の生活を変えたという。

シアトルで始まったソーシャル・ベンチャー・パートナーズは世界で34の地域に展開し、2,700名ものプロフェッショナルが社会起業家の支援のために、人生で培ってきた技能を費やす。そして、米国や日本だけではなく、インド、中国で躍進するプロフェッショナル達を巻き込み始めている。(そもそも、世界のプロフェッショナル人口を支えるのはこの二つの大国だ)

できると主張することと、やってみせることの違い

どうやら、アメリカでは上手く行っているらしい、そんなことは調べたらわかった。だけれど、「20代では、社会的投資は難しいよ」と、20代の頃の僕はに言われ続けた。何度も繰り返して言われた。そして、その通りだった。ベンチャーキャピタルという産業もそうだけれど、社会的投資という涼気は、実務のプロフェッショナルとプロの投資家が集まる場所で、若造はあまり役に立たない。「いける」という感覚はあったけれども、実体験としても、また、論理としても説明可能なレベルまでなかなか行かなかった。それが20代の僕の感覚だった。

そんな僕に転機が訪れたのが、東日本大震災だった。緊急支援では役に立たないなあ、と思いながら、歯痒い思いをしていた僕が現地を訪れたのは2011年の6月のことだった。現地を訪れた僕が見たのは、腹を決めた起業家たちだった。中小企業のオーナーから、ボランティアとして被災地に飛び込んだプロフェッショナル、そして、地元出身の若者たち。

アントレプレナーが居れば、世界は変えられるんだ。そう思い知った。「人は誰かを助けるようにできている」と呟いたのは、リクルートでブランドディレクターを務め、震災を機に石巻に住み着いてしまった鹿島美織だった。

そう、僕に足りなかったのは、スキルじゃなくて、意志を決めることだった。「プロフェッショナルとは何か」と言われると、高い成果を再現性のあるやり方で生産し続けること、と僕は答える。10年近く、プロフェッショナルとして事業開発の経験を積んでいた僕は、下積みとして学んだことにとらわれてしまっていて、「できないことを掲げる」ということを忘れてしまっていた。「できないことを、やりきる」というのがアントレプレナーの流儀であって、できることを淡々とこなす、ということは必ずしもアントレプレナーに求められることではなかった。

結果、「新しすぎて意味が良くわからない」と言われ続けた僕らは、日本でも社会的投資が機能する、つまり、自分たちを介在することで、インパクトを倍化することができる。それを幾分かはやって見せることができた。(詳細はこちらのインパクトレポートを御覧頂きたい。10年単位で成果が問われるのがベンチャー投資の常だが、初年度の成果としては面白い結果になったのではないかと考えている。)

さて、これからの連載で扱うのは主にアジアの話だ。「なぜ、アジアか」と言われると特に論理的な理由はない。世界最大の市場だから?僕が良く知っている領域だから?起業家がボコボコうまれているから?そんなことはどうでもいいじゃないか。ただおもしろいからだ。ビジネスをやるには、成長している市場が楽しい。フィランソロピーをやるなら、困っている人を助けたい。その両方を楽しめるのがアジアだ。ただ、その事例や動向を通じて、この分野に求められるアントレプレナーやプロフェッショナルの姿を考えてみたい。

続き:「中国のリーダー達の『大局観』」沸き立つアジアのソーシャルアントレプレナーたち(2)

この記事を書いたユーザー

加藤 轍生

加藤 轍生

WIA Lab Inc.代表取締役/1980年大阪市に生まれる。喘息患者として公害病認定され、小学校時代の3年間を療養生活に費やす。経済成長の渦中のアジアを旅する中で、過去の日本と同じ構造の社会問題が再生産されているにも関わらず、それを解決するイノベーションが移転されてないことを知る。 大学在学中より、独立系のベンチャーキャピタルで事業開発の経験を積み、経営コンサルタントとして独立。その後、非営利セクターの事業開発に転じる。09年より、アジア圏での事業開発に軸足を移し、2011年に震災復興に挑戦する社会起業家への投資を行うWorld in Asiaを立ち上げ。以降、アジアの社会的投資のアクターとして活動する。著書に「辺境から世界を変える」(ダイヤモンド社)

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