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日本中、そして世界中に“仕事場”はある。たくさんじゃなく、じっくりと、価値あるビールを届けたい。-Hobo Brewing 川村洋平さん-【ローカルベンチャー最前線:後編】

2019.02.16 

 

川村氏がセレクトしてくれたクラフトビールを飲みながら、様々な話を聞かせてくれた。

川村氏がセレクトしてくれたクラフトビールを飲みながら、様々な話を聞かせてくれた。

唯一無二の醸造家として、気候風土に合ったビール造りを目指したい

ファントムブルワリーとして活動をスタートしてからの2年は、「四六時中、ビール造りのことを考えている」と語る川村氏には、指南してくれる同業の先輩がいない。国内にファントムブルワリーはほかにもいるというが、「これだけで飯を食っているのは、僕ぐらいじゃないかな……」と想像する。

>>インタビュー前編はこちら

 

一方でここ数年、国内にクラフトビールの醸造所は増え続けている。

「僕にとっては、全国に職場が増えたってことですよね。ますますファントムのままでいいかなと思える環境が整ってきました」。さまざまなピンチをチャンスに変えてきた彼らしい言葉だった。

 

では、日々、ビールのレシピ造りや新製品のアイデアをどのようにして形にしていくのか。

 

「多くの醸造家が思うように、できるだけその土地のものを使いたいという考えもありますが、僕自身はそこに執着しすぎず、その時の気分をビールの風味や香りに反映させたいというこだわりが強いかもしれません。たとえば夏に流行りのIPA(ホップの芳醇な香りと苦味が特長。のど越しを楽しむラガー系とは対照的なビール)を造ったとして、本当に暑い時にこれを美味しく飲めるかという疑問があって、それならばもっと蒸し暑いときに気持ちよく飲めるビールができるはず、とかね。今、この時季に力(美味しさ)を発揮するのはどんなビールだろうというのが根底にあって、気候風土に合った味、喉越しを表現するためにはどうしたらいいか、というアプローチなんですね。そんな調子でアイデアは、だらだらとずっと考えています(笑)」

 

とは言え、ビールは仕上がりの味を想像でしか組み立てられない難しさもある。

 

「本当に、想像力が必要な仕事です。つくる過程は完成形を大きな枠で捉えながら、的を狭めていく。そして最終的に真ん中に当てられるように狙っていくイメージかな。ビールの出来は、結局酵母の働きに委ねる形になりますから。天気や温度など自然も大きく影響しますしね」

 

だが、そこが醍醐味でもあるようで、「作ってみてアレ?って(笑)。そういうこともありますけど、だいたいの的があって、そこから外れることは今の僕にはありません。どんどん理想の的を小さくしていくのが自分の精度を高めて行くことかなと思います」と語る。

 

今は自分1人が生きていける分の収入でいい。でもまだまだ可能性があるから面白がれる

 

間借りスタイルで営業している「Hobo Beer Stand」も今年の1月で1周年を迎えた。川村氏の造ったビールを求めて、毎週たくさんの客で賑わっている。

間借りスタイルで営業している「Hobo Beer Stand」も今年の1月で1周年を迎えた。川村氏の造ったビールを求めて、毎週たくさんの客で賑わっている。

 

それにしてもビール造りには時間と手間はもとより、資金も必要なはず。日々の収入を得るためにどんな活動をしているのかを尋ねると、

 

「週に2〜3日はイベントの現場に立って、自分が作ったビールを手売りしています。残りは事務仕事や作業ですね。毎週土曜日は『立ち呑み ちゃぼ』というお店を間借りして、自分のビールを提供するビアスタンド『Hobo Beer Stand』を2018年1月から開催しています。それ以外は、ジャンルを問わず、友人知人が声をかけてくれるイベントに参加したりして……とりあえず、僕一人が普通に生きていける分は大丈夫ですよ」と、微笑みながら教えてくれた。

 

そして「この仕事は今後、まだまだ広がっていく可能性が十分にあると思っていますから、不安はありません」と力強く語る。「基礎固めはこの2年である程度、出来たのかなと思っていて、これからは裾野を広げていく感じですね。自分の造ったビールの売り方にも、もっともっとこだわりたいなと。ですからこれまで店を持たずにやってきましたが、たとえば店を持つとか、いろいろな可能性を探りながら大きくなっていけたらと思います。そうしたら経済的にもラクになるかなと(笑)」

 

目の前の利益には直結しないけれど、自分のアンテナが立ったところに行ってみることで、それが後々必然的に繋がっていく。「高知にいた時のつながりが、未だに仕事にも活かされているんですね。だから今年(2018年)は誘いを断らないと決めて、日本中どこにでも行きました。採算が合わなくても、決めたことだから頑張ろうと。そこで出来たつながりがまた今後、どうなるかわからないですから」。ビール造りと同様に、「Hobo Brewing」を育むプロセスやチャレンジも面白がっているようだ。

 

そして、いつか一緒にやりたいという人が出てきたら?という質問には、「それはいつでもどうぞ」(笑)」と笑顔。ウエルカムらしい。「Hobo Brewingが僕のものという感覚はないので、この名前を使って同じコンセプトを持ってやってくれる人がいるなら、拒みません」。それはきっと彼自身がビールづくりを学び始めた時に、さまざまな知識や情報をシェアしてくれた醸造家たちへの恩返しにもなるはずだ。

 

だが、今はひとりの身軽さ、気楽さを存分に満喫しているようにも見える。

 

「一緒にやってくれる人がいたら心強いと思うこともありますけど、一人でやっている今も意外と寂しくはないです。『BEER CELLAR SAPPORO』の店長をやっている森岡祐樹くんは同級生で、日頃からいろいろサポートしてくれていますし、相談相手にもなってくれています。その土地や場所で造っている人とのコミュニケーションも楽しいですしね」。その表情に充実した日々が伺えた。

 

 

日本中、世界中に“仕事場”はある 。

 

2017年10月、川村氏が現地でコラボレーションビールを造った、オレゴン州ポートランドのカルミネーションブルーイング。

2017年10月、川村氏が現地でコラボレーションビールを造った、オレゴン州ポートランドのカルミネーションブルーイング。

 

日本では数年前からクラフトビール旋風が巻き起こり、すでにブームから定着しつつあるが、世界の事情はどうなのだろうか?

「クラフトビールは、もともとアメリカを中心に始まって、オーストラリア〜ニュージーランドと波及していったんです。今は東南アジアが熱いですね。タイとかベトナムとか……韓国や中国も力を入れています。そういった国はお酒の法律や規制がわりと緩くて、日本に比べると、スピーディに製造・販売が叶う。そう考えると、逆輸入という方法もありだと思います。確かな情報ではありませんが、沖縄のビールの中にはオーストラリアの工場に製造を委託して、船便で持ってきているという例もあったはず。そうなると今後は2国間で1つのビールを造るというパターンも増えるかもしれません。つまり僕にとってはますます選択の幅が増えていきますよね」と目を輝かせる川村氏。

 

今年(2019年)は、札幌とポートランドの姉妹都市提携60周年記念ビールを、ポートランドで醸造することもすでに決まっている。

 

「場所に対する執着がないから、明日どこかでビールを作ってきてって言われたらすぐに行きます。国内外、地球のどこにでも僕の仕事場はありますから」

 

今後の目標については「今の道を突き進むってことですかね」と、気負いもない。「今の道」とは、じっくりビール造りに取り組むこと、そして価値あるビールをもっと気軽に楽しめる場所を提供していくことだ。「わざわざビアバーに行かずとも、普段の生活の中で、またもっと多くの飲食店にクラフトビールがあるという文化を創出できたら、作り手は増えるし、業界全体が盛り上がっていくはず。そういう“変化”をもたらせたら……と思っています」

 

どこにいても仕事が出来る。活躍できる場は世界中にある。それが川村氏が20代を通じて築いてきた「今」。多くの出会いと経験を積み重ねながら、技術を磨き、醸造家としての理想に急がず、力まず自分自身を近づけていく。

「だから何でもとにかくやってみる。それが一番!」。

その言葉こそ、彼の生き方そのものであり、未来を見据えて挑戦し続ける人に伝えたいメッセージなのだ。

 

いつも持っているというアイデアノートになにげなく書いていたという「自由世界」。彼のスタンスがこの言葉に全て表されているようにも感じる。

いつも持っているというアイデアノートになにげなく書いていたという「自由世界」。彼のスタンスがこの言葉に全て表されているようにも感じる。

 

インタビュー前編はこちら。

>> 目指すは、世界を旅する醸造家。醸造所を持たない「ファントムブルワリー」という仕事-Hobo Brewing 川村洋平さん-

 

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>> ローカルベンチャー最前線。地域資源を活かしたビジネスの“今”を届ける。

 

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ローカルベンチャーPROFILE

屋号:Hobo Brewing

設立:平成27年

事業内容:ビール醸造

instagram:https://www.instagram.com/boku_ha_brewer/

(取材・文/市田愛子(Office Mercato) 編集/伊藤衝 インタビュー場所提供/AMAYADORI)

 

 

この記事を書いたユーザー
市田愛子

市田愛子

ママ向けのファッション実用誌「Como」(主婦の友社)、フリーペーパー「オントナ」「さっぽろシティライフ」(札幌/道新サービスセンター)の編集部を経て、2015年に独立。編集ライターとして書籍・雑誌・WEB関連のコンテンツ制作に携わるほか、広告コピーのライティング&ディレクション、企業の広報・販促支援、イベントの企画・運営など幅広く活動。

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