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高校生に豊かな進路選択を。「いい大学出て、いい会社」に代わる新しいキャリアモデル、高卒就職の今

2020.08.05 

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メディアなどで取り上げられることも多い、「就活」の問題点。学歴や性別での差別、選考プロセスの不透明さ等がよく話題になります。しかし、学校を卒業したあとに就職活動をするのは大学生だけではありません。

 

高校生が経験する「高卒就職」では、「1人1社しか応募できない」(※1参照)「インターネットはほぼ使わない」「就活期間は約2ヶ月間のみ」という、生徒にとって不自由なルールがたくさんあります。

 

今回は、この高卒就職の問題点と変化の兆しについてお伝えします。

高卒就職の問題点

高卒就職には、「学校斡旋(あっせん)」という学校を通して就職活動するやり方と、生徒が自由に就職活動する「自由就活」と2つあります。しかし、自由就活は学校のサポートが一切受けられないため、「学校斡旋」が主流です。

 

冒頭で少しお伝えした「1人1社しか応募できない」などの独特のルールがあるのが「学校斡旋」です。

 

そんな高卒就職の実態を、7年間、公立高校の進路指導の先生として勤めた株式会社アッテミー代表の吉田優子さんにうかがいました。

 

3.吉田さん

向かって左が、株式会社アッテミー代表吉田優子さん

 

まず驚いたのは、期間の短さ。高卒就職は、7月1日求人票公開、9月5日応募書類提出開始、とスケジュールが決まっています。

 

「求人情報が解禁される7月1日は、高校生は期末テストなんです。何百と届く求人票を、先生たちがExcelに書き出して、一覧表を作成し、終業式の7月19日に配布します。夏休みに志望企業の職場見学に行くため、生徒たちはその一覧表を見て数日で、自分の受ける企業を決めなきゃいけないんですね

 

4.高卒就職スケジュール

 

5.求人票ファイル

学校に届く企業からの求人票をファイリングしたもの

 

6.求人票一覧写真

先生たちが求人票からつくるExcelの求人表一覧例

 

志望企業を選ぶときは、生徒達が教室に一同に集まり、そこを先生たちが巡回します。先生は生徒たちの質問を受けたり、アドバイスしたり。生徒が決めるのが遅いと、1人の生徒を複数人の先生が取り囲んでサポートする事もあるそうです。

 

7.記事内写真 求人票を見る高校生

 

そして、企業を選ぶ際に生徒たちの判断基準となるのは、この学校に届いた求人票のみ。教室にパソコンはなく、ホームページもほとんど見ていません。夏休み中に職場見学もありますが、生徒が見学後に志望企業を変えることは、あまり無いのだそう。一体、生徒たちはどのように、企業を選ぶのでしょうか?

 

「『私、人と話すのが好きなので接客が向いているんじゃないかなぁ』とか、そういう感じです。中学生からキャリア観が止まっている子が多いなと思っています。会社の規模とか安定性とかは何も考えてない。自己理解も、企業理解も足りないなって思います」

 

さらに、生徒たちは自分が選んだ企業を100%受験できる訳ではありません。校内選考があるからです。成績、出席日数などを元に、1位からビリまで、先生が生徒たちを順位づけします。もし生徒の応募先企業が重複した場合は、決められた順位に従って、先生が「誰が受験するか」を選考するのです。なぜ、そのような事が起きるのでしょうか。

 

「求人には、公開求人と指定校求人の2つがありまして。公開求人は、ハローワークを通して一般公開されている求人。指定校求人は、企業側が学校を指定して出す求人です。A高校から1名、のように採用枠が決まっています。

 

8.公開求人、指定校求人

 

『基本は1人しかとらないよ』っていうところに、無理に2人送っても、1人は落ちてしまう。高卒就職は1人1社しか受けられないので、落ちた子は9月末以降の2次募集で応募するしかありません。2次募集って1次募集で残った求人の中から選ぶので、人気企業の求人は少ない傾向にあります。先生たちとしては、出来れば1次募集で受かって欲しい、と思って、校内で選考をかけるんです

 

先生たちは善意でやっているのですが、この校内選考により、生徒によっては希望する企業に受験のチャンスすら与えられず、企業側にとってもミスマッチが起こりやすい仕組みになっています。

 

「選ぶ時間が短い」「希望の企業を選べない」など、学校を介した高卒就職は高校生が自分で選ぶことを疎外するような仕組みです。また、それに呼応するように先生たちの業務の多いこと。職場見学のアポイントまで先生がやっていると言うので、驚きです。

 

「全部学校がやってくれる、と思っている子が多い。本当は自分でインターネットで仕事を探してきてもいいんですが、そもそも、それができることを知らないんです」

 

コロナで変わる?高卒就職のルール

 

実は、今、ようやく高卒就職の制度が大きく変わろうとしています。2020年2月、厚生労働省・文部科学省が設置した「高校生の就職活動の在り方を見直すワーキングチーム」の報告書が出されました。「1人1社制」の見直しの検討などが実施されています。

 

そこにやってきたのが、コロナ禍です。もともと変わろうとしていたところに、さらに変化を後押しする要因が飛び込んできました。

 

まずは、コロナによる休校で就職準備が不十分であることを受け、初めて採用スケジュールが変更されました。7月1日に求人票が開始されるのは変わりませんが、その後の「応募書類提出」や「採用試験」が1ヶ月後ろ倒しになりました。

 

高校現場では、準備期間が増えた一方で、コロナで夏休みが短くなることで職場見学に行ける企業数が減ったり、遅れた授業の巻き返しと並行で就職活動もしなければならなかったりと、不安の声も上がっています。

 

そこで動いたのが、高卒就職を支援している会社です。先ほど書いているとおり、高卒就職には、「学校斡旋」だけでなく、「自由就活」もあります。高校生が、自分自身で企業を探して、自分の未来をつかみとれるように、今、複数のサービスが動き出しています。

 

株式会社ジンジブは、毎年行っている高卒者向けの合同企業説明会を、昨年の2倍以上の13都市で開催。高校生が、学校を通さずに、自分で企業を探せるよう後押ししています。

 

9.ジョブドラフトフェス

 

ご自身も高校就職のご経歴を持つ株式会社ジンジブ代表取締役の佐々木満秀さんは、6月17日に開催された「高校就職勉強会」の中でこのように話されていました。

 

「これからの時代は、持って生まれた頭がいいとか、学校教育で受ける知識とか、これらを持っている方が仕事ができる訳ではないと、僕自身は思っています。

当然、一部の業界は、地頭の良さや学校教育で習得した知識が生きるのは間違いないです。でも、これからは、挑戦するだとか、創造するだとか、成果をつくっていくとか、今までにないものを創ることが必要になってくる時代です。ポテンシャルという意味において、高卒も大卒も大きく変わらないと思っています

 

また、株式会社アッテミーは、YouTubeのライブ配信を使ったオンライン会社説明会を開催。

 

10.アオハル就職

 

このサービスを立ち上げた背景を、代表の吉田さんは、こう話してくれました。

 

「今年、学校現場に行くと、『コロナで、求人の条件悪そう』とか『とりあえず奨学金利用して専門学校や大学行って、就活を先送りしといた方がいいんじゃないか』というような空気が蔓延しているんですよね。就職に対してネガティブな受け止め方をして、自信をなくしている高校生が多いな、と。

『こんなに多くの、魅力的な会社さんが積極的に皆さんに来てほしいと思ってるんだよ』ってメッセージを発信してあげたいと思って、特設サイトをつくりました。

主人公は自分なんだから、誰かに言われたから、とか、漠然とした不安とか、よく分からない形のないものに振り回されないで、ちゃんと自分で動いて納得いく就活しようよって伝えたいですね

 

高卒就職が魅力的になることが、日本人全体のキャリア観を変えていく

 

さて、ここまで「高卒就職」に焦点をあててきました。しかし、高校卒業後に「就職」を選ぶ生徒の割合は、全体の2割弱。多数の生徒が「進学」を選んでいます。最後に少しだけ、この「進学」の問題点も触れ、終わりにしたいと思います。

 

突然ですが、この記事を読んでいるあなたに質問です。あなたは、大卒でしょうか?もし答えがYESなら、なぜ大学に進学しましたか?

 

「とりあえず、大学に行きなさい。可能性が広がるから」

と、親や先生に説得されたり、「周囲の友だちが受験するから」と深く考えずに進学を選んだりしていませんでしょうか?

 

この「とりあえず、大学」志向に、異議を唱える方がいます。一般社団法人アスバシ代表の毛受芳高さんです。

 

毛受さんは、「『高卒の生涯賃金は大卒より低い』のウソを見抜く!」というYouTube動画の中で、とあるデータの裏にある真実を解説。「高卒よりも多く給料をもらっている大卒の人は確かにいます。でも、全員ではない。全体の3分の1くらいではないか」と話しています。

 

そもそも、「学ぶ」「働く」「休む」が繰り返されるだろう人生100年時代に、生涯賃金という仮想の統計に意味があるのでしょうか?生涯賃金とは、就職から退職までにもらう総賃金のことですが、ここに転職は加味されていません。1つの会社で働きつづけることが前提となっている数字です。

 

そもそも賃金だけが仕事の選択基準でもありません。時代が大きく変わってきている今、なぜ大学に進学したいのか、生徒一人ひとりが改めて考える必要があるのではないでしょうか。

 

11.考える高校生

 

時代遅れなルールが改訂されたり、自由就活が活発化したりすることで、高卒就職が魅力的な選択肢となること。高校生が自己決定できるよう、キャリア教育を充実させること。それらにより、「進学」と「就職」の両方が検討のテーブルに上がり、高校生が主体的に考え、選べるようになります。

 

もし、実現したら、影響は高校生だけにとどまりません。

 

転職したり、復学したり、主体的に生きる若者が増えれば、日本人のキャリア観そのものがアップデートされていくかもしれません。

 

高卒就職にまつわる問題は、まだまだ山積しています。しかし、そのような中でも、早くから社会で自立し、活躍している若者はたくさんいます。

 

これからDRIVEでは、高卒就職を選んだ若者がどのようにキャリアを歩んでいるか、インタビュー記事を公開していく予定です。大卒就職と高卒就職を俯瞰的に比較したデータは世の中にいろいろありますが、顔の見えない数値だけでは伝わらないこともあります。

 

多くの人に高卒キャリアの若者の活躍を伝えることで、高卒就職の可能性にスポットライトがあたって欲しい。そして、いつか、主体的な進路選択をする18歳が、日本の”あたりまえ”になりますよう。そんな未来の、ささやかな一助となれることを願っています。

 

<参考資料・文献>

※1 9月の応募開始時期~一定期間までは1社のみ。その後から2社、3社受けることが可能になります。ルールは都道府県ごとに細かに異なります。詳しくは、株式会社ジンジブ提供「高卒採用ラボ 高卒採用の「一人一社制」ってどんなルールなの?」参照

 

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乗越 貴子

乗越 貴子

1982年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、塾講師、ネットサービスベンチャー企業を経て、NPO法人ETIC.参画。2児の母。志ある人と組織をつなげる求人サイトDRIVEキャリア(http://drive.media/career)で、事務局業務を担当しています。モットーは、「書くことと人をつなげることで、一歩踏み出す勇気を生み出せる人になる」

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