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世界で活躍する社会起業家2人が語る、若者の起業支援プログラム「Youth Co:Lab」での学びと挑戦

2021.08.31 

youthcolab-logoなし

 

(English version is available here.)

昨年からぐっとオンライン化が加速し、これまでは、物理的・時間的な理由で難しかった様々なことが可能になってきました。世界中のどこからでも繋がれる世界がこれまで以上に浸透してきている中、日本にいながらも世界で挑戦しやすい社会になりつつあります。

 

そんな今こそ、活用いただきたいビジネスアイディアコンテストが、アジア太平洋地域の25の国と地域で開催されてきた、若者によるソーシャルイノベーションやアイディアを支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」です。

 

国連開発計画(UNDP)とシティ・ファウンデーションが共同で実施し、これまでにアジア太平洋地域で開催されたシンポジウム、地域サミットやソーシャル・イノベーション・チャレンジなどのイベントには、75,000人以上が参加しました。さらに8,000名以上の若手社会起業家が支援を受け、1,000以上の社会的事業の立ち上げやアクセラレーション(加速)に繋がっています。2019年度から日本で開催しているソーシャル・イノベーション・チャレンジは今年もオンラインで開催します。

 

2019年度のYouth Co:Labバングラデシュ受賞者のShiropa Tawhida(シロパ・タワヒダ)さんと、2020年度のYouth Co:Lab日本大会のファイナリストの株式会社エコロギー(ecologgie.inc)の葦苅晟矢(あしかり・せいや)さんは、グローバルで活躍する若手起業家です。そんなお二人に、グローバルの視野を持ちながら、事業を続けてこられた裏側にインタビューで迫りました。

 

Tawhida Shiropa

Shiropa Tawhida(しろぱ・たわひだ)さん/Moner Bondhu founder and CEO

Moner Bondhu(モーネル・ボンド 訳:friends of your mind/あなたの心の友達)の設立者でありCEO。バングラデシュを拠点に、低価格で全ての人がアクセスできるメンタルヘルスケアサービスの提供を目指しながら、メンタルヘルスケアにまつわるスティグマ*の解消に挑む。セラピー、カウンセリング、ワークショップの実施に加えて、SNSや動画などを活用した情報発信もしている。Moner Bondhuの設立前は、ジェンダー、メンタルヘルス、ソーシャルアウェアネスを専門とするジャーナリストとしてアメリカで11年間働いていた。

(スティグマ*:社会から偏見や差別を持たれているといったネガティブなイメージがある状態のこと)

 

葦苅プロフィール写真

葦苅晟矢(あしかり・せいや)さん/株式会社ECOLOGGIE 代表取締役CEO

1993年生まれ。早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院先進理工学研究科一貫博士課程に進学後、早稲田大学朝日研究室にて昆虫コオロギの資源化、利活用に関する研究に取り組む。この研究成果をもとに2017年に株式会社エコロギーを設立。現在はカンボジアを拠点に事業開発に携わり、コオロギ農家と連携しながら、コオロギの生産・食品化に取り組む。2016年文部科学大臣賞受賞。2019年Forbes 30 Under 30 Japan選出。

 

――なぜ今の事業を始めたのですか?

 

葦苅晟矢(あしかり・せいや)さん(以下、葦苅さん) :

社会課題に対して何かしたいと思っていて、4年前に事業を立ち上げました。特に関心があったのは食料問題の中でもタンパク質危機についてでした。世界の人口が増えていく中で、食肉(タンパク質)のニーズが高まっていき、食肉の需要が追いつかなった結果、タンパク質不足が巻き起こるという問題です。もともと個人的には、現在の食料生産システムは持続可能ではないと思っていたところもあり、新しい持続可能な食料生産システムを作りたくタンパク質が豊富なコオロギに着目して事業を立ち上げました。

 

関連記事

>> 妊婦の栄養不足を「コオロギ」で解決!エコロギーの未来に向けた挑戦とは?~ビジョンハッカーの挑戦(5)エコロギー葦苅さん・池田さん~

 

Shiropa Tawhida(しろぱ・たわひだ)さん(以下、シロパさん) :

強く、たくましい私の母が鬱状態になってしまい、母親はもちろん、私も弟も苦しい経験したことが背景にあります。私の母親はシングルマザーで、私と弟を一人で育ててきました。私も弟も大人になるにつれて、自分自身の事に忙しくなると、母親は虚無感を感じるようになり、最終的には鬱になってしまいました。強く、自立していた自分の母親が、だんだんと疲れていき、自信喪失している状態になっていったんです。この状況で、母親が苦しいのはもちろんですが、私も弟もとても苦しかったです。ですが、最終的にはメンタルヘルスケアの専門家の助けや、私たち自身のケアによって、母親の鬱状態は完治しました。

 

また、当時私が働いていた新聞社では、悩みを匿名で受け付けていたのですが、そこでは毎日何千もの人たちから相談が来ました。彼らには安心して相談できるような場所が他にはなかったんです。私自身も、周りの人から、「お母さんどうしたの?」と聞かれても「今は大変な状況みたい」とうまく答えられませんでした。また「お母さんが鬱状態だから、シロパも鬱になるよ」と周りから思われたりもしました。そのような経験から、メンタルヘルスケアを全ての人に届けたいと思い、Moner Bondhu(モーネル・ボンド)を立ち上げました。

 

――事業立ち上げは大きな挑戦だったと思いますが、これまで続けてこれたモチベーションは何だったのでしょうか?

 

シロパさん :

私と弟が、母の苦しみを一緒に乗り越えたとき、私はこのプロセスを誰にでも可能なものにしたいと強く思いました。もちろん鬱状態を乗り越えるのは大変ですし、長い時間がかかります。でも全ての人が乗り越えられる、そう確信しました。この強い想いが一つのモチベーションです。

 

そして悩みを抱えている人が、私たちの支援を受けて、毎日何百もの感謝のコメントをFacebookで送ってくれることが、事業を進めていく上でのモチベーションになりました。当事者の気持ちが落ち着いたり、そういったコメントをもらえることが喜びで、自分自身の心の健康にも影響を与えています。

 

Workshopn on Parenting

コロナ前に実施していたワークショップの様子:Moner Bondhu提供

 

葦苅さん :

人とは違う新しいビジネスを作りたい、その想いが強いです。昆虫を食べる習慣がない地域でもコオロギを活用して、新しい食料生産システムを作りたいと思っています。

 

エコロギーが生産しているコオロギは、栄養が豊富なだけではなく、ストーリーがあります。例えば、うちのコオロギはカンボジアの小さな農家さんが作っています。コオロギはサイドビジネスとして地域の農家の方々が始めるにはとても良いんです。初期費用もあまりかからず、且つ、小さいスペースで、45日で生育できます。カンボジアは農業の国で主にお米を生産していますが、お米は1年に1~2回しかとれません。ですが、コオロギは45日で収穫できるので、コオロギ生産をすると、安定して収入を得られるんです。私にとっては、タンパク質豊富なコオロギを生産するだけでなく、農家の方々の生活の向上になることもモチベーションになっています。

 

また、生産者さんの生活向上だけでなく、コオロギの生産自体にも持続可能性を意識しています。カンボジアでは食料廃棄のインフラが整っておらず、ゴミがゴミとしてそのまま捨てられています。クラフトビール工房、コメ菓子製造工場などから廃棄される食品廃棄物を回収してコオロギの餌にしています。自分が大切にしている理念や価値観をコオロギの生産に活かし、特色にしていくこともモチベーションです。

 

コオロギ農家写真1

コオロギ農家さんの写真:株式会社エコロギー提供

 

グローバルな視点・規模で支援するYouth Co:Lab

 

――Youth Co:Labソーシャル・イノベーション・チャレンジになぜ応募したのですか?

 

シロパさん :

メンタルヘルスケアを受けることに対してまだ強いスティグマがあるので、自分自身の活動に信頼性を持たせ、スティグマを解消し、メンタルヘルスケアの重要性を訴えたかったのが最初の動機です。Youth Co:Labのおかげで知名度が上がり、受益者が私たちのサービスを探しやすくなりました。

 

また、UNDPとシティ・ファウンデーションは巨大なネットワークを持っています。昨年、Youhth Co:Labのネットワークを活用して、バングラデシュにとどまらず、様々な国の1万8,000人以上の方に1対1のカウンセリングを実施することができました。メンタルヘルスの課題はバングラデシュだけでなく、世界で抱えている問題です。だからこそ、国境を超えて様々な組織や人と連携していくことが重要だと思い、グローバルな取り組みであるYouth Co:Labは魅力に感じました。

 

葦苅さん :

もともと、事業を通して社会課題やSDGsに貢献していきたいと思っていたし、SDGsについて応募する中でもっと知りたいと思うようになりました。あと、国連やシティ・ファウンデーションとのコラボも魅力に感じました。私は、大学生時代に模擬国連活動をしていたので、なおさらUNDPとの連携を魅力に思いました。

 

――Youth Co:Labに受賞し、学んだことや組織への変化などはありましたか?

 

葦苅さん :

SDGsにどのくらい貢献するかを考えるようになったことですね。ソーシャル・イノベーション・チャレンジの前は、SDGs 目標 3 (すべての人に健康と福祉を)に貢献したいと思っていましたが、どのくらい貢献することができるのかはわかりませんでした。例えば、1年にどのくらいの量のタンパク質で貢献できるか、それが複数年積み重なるとでどうなっていくかといったことを詳細に、考えるようになりました。

 

SIC 2020_Mr Ashikari_2

昨年のソーシャル・イノベーション・チャレンジの葦苅さんのピッチの様子:UNDP提供

 

シロパさん :

2020年のCOVID-19の感染拡大で、対面での活動ができなくなり、オンラインでの活動に移行しました。オンライン化に移行する上で、Youth Co:Labにたくさん助けていただきましたね。資金的な援助も頂き、無料のオンラインカウンセリングセッションもできました。私たちを支援してくれただけでなく、その先に何千もの人が、Youth Co:Labからの支援で助かっています。

 

また、Youth Co:Labのサポートのおかげで、多くの人にメンタルヘルスケアの重要性を届けるビデオやアニメーションの作成にも取り組むことができました。何百万人もの人がSNSを通じて見ています。また、ネット環境がない人にも情報を届けるために、テレビ用のコンテンツの作成もできました。Youth Co:Labの支援から、政府からの資金的協力にもつながったなど、たくさんの恩恵を受けています。

 

Tawhida Shiropa and team received the winner award

シロパさんがYouth Co:Lab BANGLADESH ソーシャル・イノベーション・チャレンジで

受賞されたときの写真:Moner Bondhu提供

 

国境を超えること、それは新たな自分の可能性との出会い

 

――グローバルで活躍されてきたお二人にとって国境を超える、ということにはどんな意味を持ちますか?

 

シロパさん :

多様な視点を得ることですかね。アメリカで働いているときは、仕事以外では、大学の授業、美術館、観光など様々なことをしながら、世界の課題、政治の課題など様々なことをいろんな人と話していました。

ある時に、社会課題のいくつかは、場所にかかわらず同じであるということに気が付きました。いろんな国の人がいて、もちろんみんなそれぞれ心の中にあるものは違うけれども、同じことも多いんじゃないかと思いました。だからこそ、私はバングラデシュだけでなく、世界のメンタルヘルスの課題にアプローチしたいと考えています。

 

葦苅さん :

トレジャーハンティングジャーニー(宝探しの旅)みたいな感じです。カンボジアで事業を始めるのは本当に大きな挑戦でしたね。日本以外の国で住むのも今回が初めてでしたし。

日本では食料危機や、栄養の問題も実感しにくいと思います。ですが、カンボジアでは現実に迫った問題です。鉄不足など栄養失調の人もたくさんいます。お米はたくさん食べるけど、プロテインや栄養価の高いものを食べていないんです。カンボジアの人はそれが課題であると認識しづらい状況にいますが、外から来た自分はそれが明確に課題であると認識できます。自分が違うバックグラウンドを持っているからこそ、貢献できると思います。

社会課題を肌で感じるからこそ、そこから日々どう現実に貢献できるかを考える旅が、カンボジアでの挑戦ですね。

誰もが世界に挑戦をして変革を起こすことができる

 

――お二人の夢を聞かせてください。

 

シロパさん :

バングラデシュにリトリートセンターを作りたいと思っています。多様性で溢れるコミュニティを作り、世界中にポジティブさを広げていきたいです。その大きなビジョンに向かって、日々、小さくてもいいから1ステップずつ歩んでいます。葦苅さんがカンボジアで事業を立ち上げ、挑戦に向き合っているように、Moner Bondhuを通して、自分自身の課題や挑戦に前向きに向き合えるような人を増やしたいです。

 

葦苅さん :

地球とすべての生命のウェルビーイングに貢献したいです。そのために、コオロギを活用した資源循環型食料生産システムを確立し、これからもカンボジアから未利用資源である昆虫の量産と用途開発を進めていきます。

 

――最後にUNDPのご担当の天野さんより、今年のソーシャル・イノベーション・チャレンジ実施への想いをお聞かせいただけますか。

 

天野さん :

私も学生の頃から社会貢献をしたいという思いはありましたが、起業によって社会課題に取り組めるとは思いもつきませんでした。ですが、今はキャリアの選択肢の一つに入っていますよね。社会起業には、アイディアや、チームワークや情熱などがより重要と考えており、社会起業をとおして老若男女誰でも変革を起こすことができると思います。テクノロジーの進化もあり、今の若者には社会起業をする上での多くのアドバンテージがあると思いますが、まだまだ新しい領域でもありますので、社会起業が発達するエコシステム拡充の面から貢献できれば嬉しいです。その点で、ソーシャル・イノベーション・チャレンジでは、皆さんの社会課題へのアイディアをより現実的に発展させるお手伝いができると思っています。今年は高校生の参加も可能です。若い皆さんのご応募をお待ちしております。

 

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ZOOMでのインタビューの様子/左上から時計回りで、UNDP天野さん、著者、Shiropaさん、葦苅さん

 

〈編集後記〉

国内だけでなく、世界全体を見て事業を作り、ビジョン実現のため日々挑戦されている、お二人の視野の広さに感銘を受けました!自分のアイディアで世界に挑戦したい!と思っている方は、ぜひ、Youth Co:Labに応募してみてください!

◇Youth Co:Labソーシャル・イノベーション・チャレンジ2021の概要はこちらから

◇応募締切:2021年10月4日(月)正午

 

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この記事を書いたユーザー
田村 千佳

田村 千佳

1995年生まれ、愛知県岡崎市出身。Leeds Beckett大学の平和学部を卒業後、ユニクロに新卒で入社。大事にしている価値観を体現したく、NPO法人ETIC.に参画。 毎日、たくさんの人からエネルギーをもらっています。

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