TOP > ワールドウォッチ > コペンハーゲンの観光客を11%増加させた、世界一のレストランNoma

#ワールドウォッチ

コペンハーゲンの観光客を11%増加させた、世界一のレストランNoma

2016.04.05 

Noma(ノーマ)というレストランをご存知でしょうか? デンマーク・コペンハーゲンにあるレストランで、レストランマガジン社が毎年発表する「Best Restaurant in the world」において、過去5年間に4度「世界一のレストラン」に認定されています。年間2万席のキャパシティに100万人の予約が殺到する、世界で最も予約の取れないレストラン。

今回は、Nomaのすさまじい「社会的インパクト」をご紹介します。

Noma 出典:wikipedia

出典:wikipedia

MBAホルダーと敏腕若手シェフのコンビ、Nomaを創業

コペンハーゲンビジネススクールの卒業生クラウス・マイヤー氏と名門レストラン エル・ブリなどでキャリアを積んだ若手シェフ、レネ・レゼピ氏のコンビによって、Nomaは2003年に設立されました。以来スカンジナビア産の素材のみを使い、地域の農家や流通業者と交流を深め、着実にファンを獲得します。

 

2007年に初めてレストランマガジン社のレストランランキングの15位にランクインすると、翌2008年にはミシュランの2つ星レストランとなり、2010年、世界のトップレストランに登りつめます。

 

では、なぜノーマがそれほどレストランとして成功したのでしょうか。それまで北欧料理といえば、決して美味しい料理とはみなされていませんでした。というより、どちらかといえば不人気であったそうです。

典型的なデンマーク料理(出典:wikipedia)

典型的なデンマーク料理(出典:wikipedia)

そこで2004年、創業者であるマイヤー氏は「新しい北欧料理(Nordic Cuisine)のためのマニフェスト」づくりに取りかかり始めました。半年かけて北欧料理の原点に立ち返り、シンポジウムを開催し、農家から小売事業者、学者、教員、政治家などあらゆるステークホルダーを巻き込み、北欧料理を再構築。マニフェストとしてまとめました(こちらは次回ご紹介します)。

生産者とともに、北欧料理を再構築

このマニフェストにもとづいて、Nomaは地域の農家や漁業者にも大きな影響を与えています。以前はそれほど魚介類を消費していなかったデンマークですが、Nomaをはじめ北欧料理レストランが自国産の海産物を料理に多く使用するようになってから、デンマーク人の食生活が変わり始めたそうです。

 

また、単一の農産物しか生産していなかった地域のベテラン農家にNomaの若いシェフがかけあった結果、彼らは多種な野菜を生産しNomaに出荷するようになりました。この農家は、ある種のカリスマ農家としてデンマークのあらゆる地域で農業のレクチャーを行い、海外からテレビの取材が来るほど成功を収めています。

 

レゼピ氏とこの農家は、デンマーク中の農家にインスピレーションを与え、農業指導にも取り組んでいます。 Nomaは「成功した世界一のレストラン」にとどまらず、人々の食生活、素材のバリューチェーン、教育にも投資し、そこから生み出される成果が世界一のレストランを創り出しているようです。しかし、その成果は生産サイドにとどまりません。

Nomaの一品(出典:wikipedia)

Nomaの一品(出典:wikipedia)

コペンハーゲン周辺への観光客が11%増加

Nomaが有名になってからしばらくして、コペンハーゲンやその他の主要都市への観光客は11% 増加しました。Nomaの料理をはじめ、おいしい料理を食べることを旅の一つの楽しみとしている人々が「旅行先」としてコペンハーゲンを選ぶようになったからです。 Noma単体では、さすがにそこまで人を集めることはできなかったでしょう。

 

しかしながら、Nomaが提唱した新しい北欧料理のコンセプトは世界の有名レストランを集め、また数多くの優秀なシェフがNomaを卒業して周辺にお店を構えることで「最先端の食を楽しむならコペンハーゲン」という認知が広がっていきます。

 

また、行政が「新しい北欧料理(New Nordic cuisine)」のプロモーションに投資したことも功を奏し、ミシュランガイドは北欧都市を特集するほどになっています。また、毎年3万人が訪れるフードフェスティバルが、デンマークの「美食ツーリズム」を後押ししています。

 

経済面でも、デンマークは不景気にもかかわらず、レストラン業界においては約5,000もの新たな雇用が創出され、外食産業は2008年から18%の成長を遂げました。こういった「美食体験」を目玉にしたツーリズムでコペンハーゲンは急成長しています。

 

これらのムーブメントは、メイヤー氏の「新しい北欧料理(Nordic Cuisine)のためのマニフェスト」から始まり、地域の基盤づくり、Nomaという一流レストランの成功、オピニオンリーダーや行政のサポート、それらが相まって、地域、産業、経済に好循環をもたらした地域発のサクセスストーリーなのです。

 

おまけ:ちょうど1年前の2015年1月、マンダリンオリエンタル東京に期間限定でNomaが開業するということで、大きな話題となりました。Nomaの料理人たちが日本全国を巡り、厳選した素材を使った料理、例えばボタン海老に蟻がちりばめられている(本場デンマークではヨーグルトに蟻がちりばめられている!)などなど、斬新な料理が人々の心を魅了したそうです。

 

また、2015年12月でNomaは閉店し、2016年1月からは「都市農園」として復活するそうです。今後の展開からも、目が離せません。 次回はNomaの仕掛人、クラウス・マイヤー氏を掘り下げます。

>>後編:世界一のレストランNomaを作ったクラウス・マイヤー氏の経営レシピ 「新しい北欧料理のためのマニフェスト」

この記事を書いたユーザー
アバター画像

Erika Tannaka

岐阜県出身。シンクタンク研究員を経て、現在は外資系戦略コンサルティングファームリサーチャー。プロボノとして政策提言や課題調査などNPOの支援に携わる。