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#ローカルベンチャー

企業との連携で広がる、持続可能な暮らしの中の新しい仕組み〜ローカルベンチャーリレーピッチvol.4〜

2021.10.29 

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地域課題の最前線にいるローカルベンチャーの担い手たちは、どんな課題に挑み、どんな未来を描いているのでしょうか。

地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021〜地域と企業の共創を考える〜」のDAY3・4として、10月26~27日にローカルベンチャーリレーピッチが開催されました。モデレーターはジャーナリストの浜田敬子さん、DAY4のコメンテーターは日南市マーケティング専門官の田鹿倫基さんです。全国各地の担い手によるリレーピッチの模様を6回の連載でお届けします。

 

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2日目最初のテーマは「持続可能な暮らしの中の新しい仕組み」です。これまで行政が担ってきた暮らしを支える領域。そこを民間が担うことで、専門性を活かし、事業性も兼ね備えたサービスとして立ち上げる動きが加速しています。地域の暮らしを支える領域の多くは、目の前の誰かを支える、非常に個別性の高い地域密着型のボランタリーな活動だと考える人が多いかもしれません。

 

しかしこの領域から生まれるサービスは実は普遍性が高く、地域を超えて横展開していく発展性を秘めています。さらにその過程で注目を集め、多くの企業と連携する事例も増えているのです。新しい共助の形を支える実験的なプラットフォームとして、どのような動きが始まっているのか、具体的な事例をご紹介いただきます。(会話文中敬称略)

「ナスくる」で広がる、新たな安心の形

 

まずは、島根県雲南市を拠点とするCommunity Nurse Company 株式会社 代表取締役の矢田明子(やた・あきこ)さんより、コロナ禍の中で立ち上がった予防型看護事業「ナスくる」についてご報告いただきました。

 

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矢田 : 私達は「コミュニティナース(以下CN)」という独自のコンセプトを日本全国に広げようとしている団体です。よく「CNって何?」と聞かれるのですが、みなさんの行きつけの場所を思い浮かべてみてください。近所の喫茶店やスーパーなど、心理的にもごく近い場所から日常的にサポートしてくれる、親しみやすい健康の専門家がCNです。

 

弊社ではCNを育成する研修の他、自治体や企業とタイアップしてCN付きの集合住宅や移動販売事業を立ち上げる支援を行うなど、様々な既存のビジネスにCNをプラスした、新しいモデルづくりに取り組んできました。

 

そして昨年度はコロナ禍の中で、「ナスくる」という全国各地で展開可能なサービスのプラットフォームを立ち上げました。現在、山陰地方や、愛媛、埼玉など7エリアで事業を展開しているのですが、全て自治体や企業、病院などとのタイアップという形で広がっています。

 

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矢田 : ナスくるは、健康な親御さんにずっと元気でいてもらうためのサービスです。CNが定期的にお会いして、日常会話を通じて日々の楽しみづくりをお手伝いし、あわせてバイタルチェックなどを行い、異変に早く気づくという予防型看護に取り組んでいます。さらにその様子を動画や写真とともにレポートにまとめてご報告しているので、楽しそうな親御さんの様子や健康状態が伝わり、離れて暮らすご家族にも安心をお届けできます。コロナ禍では県境をまたいだ移動が難しくなってしまったため、なかなか地元に帰れなくなったという方々には特に喜ばれています。

 

例えば音楽が好きな方であれば、一緒に演奏を楽しんだり、手作りでコンサートを開いたり、楽しい時間をもつことで健康を推進しています。また、長期的に関わるからこそ小さな体調の変化にも気付くことができ、病気の早期発見にもつながります。

 

今のところタイアップのやり方には、企業が社員や社員の家族に対する福利厚生として取り入れるパターンと、企業が既存の顧客に対し、ナスくるを高付加価値サービスとして提供するという2つのパターンがあります。誰もが誰かのCNになりえますので、今後も様々な企業とタイアップしながら取組を広げていきたいです。

 

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浜田 : ありがとうございます。CNは看護師資格がなくてもなれるのでしょうか?

 

矢田 : 資格はなくても大丈夫です。ただ現状としては有資格者が多く、CNの8割程度は看護師の資格を持っています。

 

浜田 : 子育てや介護のため病院では働けない、潜在看護師と呼ばれる方々の活躍の場にもなっていそうですね。

 

矢田 : そうですね。他にもヘルスケア領域でインパクトを出したいという、異業種の方々の新たな活動の場としても広がっています。

 

浜田 : 矢田さん、どうもありがとうございました。

被災地の「移動」を守るモビリティ・レジリエンス

 

2人目の登壇者は、日本カーシェアリング協会 SCS事業部の石渡 賢大(いしわたり・けんた)さんです。カーシェアリングで災害の被災者をサポートする仕組みについてお話しいただきます。

 

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石渡 : 日本カーシェアリング協会は東日本大震災をきっかけとして2011年に設立された団体です。宮城県石巻市では、当時登録されていた12万台のうち、6万台もの車が津波の被害によって流出したと言われています。そこで当団体では車の寄付を募り、車不足の石巻に届けて共同利用できるような、カーシェアリングの仕組みを整えていきました。

 

東日本大震災以降も大規模な自然災害は毎年のように発生しています。災害がある度にどの被災地でも車不足が深刻な課題となっているため、当協会では以下のような仕組みで支援を行っています。

 

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石渡 : まず発災後はすぐ現場に入り、全国から車の寄付を募ります。寄付いただいた車はただちに名義変更して被災地に届け、その車を被災された方に一定期間無償で貸し出すというのが支援の内容です。

 

被災地では、普段生活の足として使っている車が水没して買い物に行けない、罹災証明書をもらいに行くにも役場まで行けない、軽トラックがなく家の中のがれきを撤去できないといった声が随所で聞かれます。近年自然災害は大規模化しており、どこで起こるかもわかりません。増え続ける災害に対し、我々だけで支援を続けていくのは難しいという課題に直面しました。

 

そこで大規模な災害に対して、より迅速かつ確実に対応できるよう作った枠組みが「モビリティ・レジリエンス・アライアンス」です。事前に自治体や企業、NPO等と協定を結び、発災時にそれぞれどのような支援をするか取り決めておくことで、いざというときスムーズに被災者の移動手段を確保することができます。

この枠組みは2021年7月に始まったばかりで、現在も連携先を募集中です。関心のある企業や自治体のみなさんとともに、災害時も車に困らない社会を作っていきたいと思っています。

 

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浜田 : 貸し出す車両は寄付によって確保しているということですが、どのような方が車を寄付してくださるのでしょうか?

 

石渡 : 不要になった社用車を寄付してくださる企業の他、買い替えや免許返納をきっかけとして寄付してくださる方もいます。

 

浜田 : 日本カーシェアリング協会のように、東北の被災地における復興支援が普遍的な地域課題の解決につながっている事例は多いと感じます。

 

石渡 : おっしゃる通り、私達が向き合っている移動の問題は、今後日本中どこでも直面しうる課題です。この課題に取り組むためには、組織を越えた連携が不可欠だと思います。車を無償で貸し出すという支援を続けていくためには、資金面だけではなく、車関係の企業に車両整備を手伝っていただくなど、専門性を活かした支援でご協力いただけると非常にありがたいですね。

双方にメリットがある、ローカルベンチャーと企業の連携

 

浜田 : 田鹿さん、お二人のピッチの感想はいかがですか?

 

田鹿 : どちらも「これをやるべきだ」という課題が先にあって、そこから解決策を事業として組み立てていったケースですね。地域ではこういったパターンが多いように感じます。マーケットありきの事業であればお金も集まりやすいのですが、課題からスタートした場合はどうマネタイズしていくかが大きな壁となります。そこをどう乗り越えるかが腕の見せどころですし、わくわくするポイントでもあります。

 

浜田 : 移動手段の確保という課題は、災害時だけでなく、地方で暮らす高齢者の方にとってはすでに日常的な問題かもしれません。お二人とも非常に大きな課題に取り組んでいますが、どうすればビジネスになるかも見えづらいですし、これまで誰も手をつけられなかった領域に切り込んでいるという印象を受けました。

 

田鹿 : 確かに市場の力だけでは解決しにくい領域ですね。こういった場合、事業を軌道に乗せるには世論の力も大事だと思います。まずはどんな課題があるか、それに対してどのようなアプローチで取り組んでいる団体があるかということを世の中に発信することで、自分も何かできないかと少しずつ力が集まってくる。地域で生まれた種をさらに大きく育てるフェーズにもっていくためにも、こういった場で多くの人に聞いてもらうことは非常に大切だと思います。

 

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浜田 : 2事例とも企業との連携によって事業を広げていましたが、企業側にとってはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 

田鹿 : 力を貸す側の企業としては、やりたくても自分達ではできないという状況になっていることが多いのではないでしょうか。大きい会社になればなるほど、収益が見込めなければ社内や株主に対して納得のいく説明をすることは困難です。大企業にとって、新たな社会的事業に挑戦することへのハードルは非常に高いと言えます。

 

そこで「大切だからやるんです!」という姿勢で社会的課題の解決を目指すローカルベンチャーと組むことで、大企業からすると自分達ではできなかったことに手をつけられますし、ローカルベンチャー側にとっては大企業の信用を後ろ盾に大きな力を借りることができます。お互いにとっていい形でものごとを進めていけるので、このスキームはあらゆることに転用できる、汎用性の高いモデルだと感じました。

 

***

 

以上、ローカルベンチャーリレーピッチ4テーマ目の様子をお届けしました。

また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

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この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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