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まちは人を育み、人はまちを豊かにする。「チーム石巻」で人材育成に取り組む一般財団法人「まちと人と」

2023.01.24 

カバー写真トリミング後

 

1月24日は、平和と発展に重要な役割を果たす教育を記念した「教育の国際デー」(International Day of Education) です。そこで今回は、宮城県石巻市の団体や企業が連携し、キャリア教育を通じて地域活性化を目指す一般財団法人「まちと人と」の取り組みをご紹介します。

 

プロフィール写真

斉藤 誠太郎(さいとう・せいたろう)さん

一般財団法人まちと人と 代表理事 / 一般社団法人ISHINOMAKI2.0 理事 / 合同会社トイデザイン 代表社員 / ローカルベンチャーラボ 4期生

1984年生まれ。北海道北見市出身、神戸大学人間発達科学部卒業。バックパッカーとしてユーラシア大陸横断や、社会人として東京でのメーカー営業職を経て、2013年にISHINOMAKI2.0に参画。団体事務局として活動する傍ら「地域×教育」を軸にして、高校生がまちを知りアクションを起こして学ぶ「いしのまき学校」や高校の授業サポート、若手社会人の育成を地域ぐるみで行う「石巻人事部」等、まちで若い力を育むための事業を立ち上げる。2022年3月に一般財団法人「まちと人と」を設立。

学校、企業、NPOという組織の垣根を越え、「チーム石巻」で人材育成に取り組む

 

一般財団法人「まちと人と」は、震災後の石巻で生まれたまちづくり団体である一般社団法人「ISHINOMAKI 2.0」が取り組んできた、地域ぐるみで行う教育や人材育成のプログラムを、より充実・発展させるために2022年3月に独立した組織です。

 

「まちが人を育て、人がまちを豊かにする」循環とその仕組みをつくることを目指し、ビジョンに共感した地元企業30社と個人140名以上からの400万円を超える寄付をもとに、法人が立ち上がりました。設立準備会のメンバーや連携組織には、これまでに関係を築かれてきた地域の学校や企業、NPO法人等が名を連ねています。

 

活動の原点にあるのは、東日本大震災後に聞こえてきた「自分たちも何かしたいけど、どうすればいいのかわからない」という高校生の声でした。その声を受け、地域の大人と関わりながら高校生の主体性を育み、彼らのアクションを応援する場として誕生したのが「いしのまき学校」です。高校生のマイプロジェクトのサポートや、石巻の魅力的な大人をゲストとした対話やフィールドワークなどの活動を、ISHINOMAKI2.0の教育事業として展開してきました。

 

そこから派生して、石巻市内の高校の授業サポートとして、総合的な探究の時間やキャリア教育プログラムの企画や実施、地域とのコーディネートを行うようになりました。

 

また、地域ぐるみの人材育成を目指す「石巻人事部」を地元企業20社と立ち上げ、若手社会人向け「地域同期づくり研修」や、人事について学び合う「人事研究会」、県内外の大学生の実践型インターン受け入れ等もしています。

 

学校や企業単体では解決が難しい、教育や人材育成における困りごとを解決し、「若者が学び・挑戦し・活躍できるまち」になる仕組みづくりに挑戦中です。

 

石巻人事部活動写真1

 

石巻人事部活動写真2

 

高校生の伴走が出発点。「まちが人を育て、人がまちを豊かにする」循環を目指し、次々と新事業が誕生

 

「ISHINOMAKI2.0」で教育プログラムの立ち上げから運営を担い、「まちと人と」では代表理事をつとめる斉藤さんは、大学時代を神戸で過ごしたといいます。阪神淡路大震災から10年という節目の年に入学し、学生と地元商店街の方が協働で運営するお祭の実行委員長も務めていたことから、震災について耳にする機会は多かったそうです。

 

「もちろん大変な目に遭った方もいらっしゃいますが、震災を機に人生観が変わったという方など、必ずしもネガティブな語りをしない人もいて、そこから被災地というものに何となく興味をもつようになりました」

 

大学卒業後は東京のメーカーに就職。とは言え、これといってやりたいことや将来の夢があるわけでもなく、一方でサラリーマンを続けることに違和感を覚え始めていた社会人4年目に、東日本大震災が発生します。次のステップを考えていたときに見つけたのが、NPO法人ETIC.(以下エティック)が運営する、被災地の復興に向けた事業・プロジェクトに取り組むリーダーのもとに若手人材を「右腕」として派遣する右腕プログラムでした。

 

「派遣先としてISHINOMAKI2.0を選んだのは、一番いろいろなことをやっていたからです。当時は自分でも自分がやりたいことがよくわからなかったので、よくわからないところに行こうと(笑)」

 

そうして2013年にISHINOMAKI 2.0に参画し、立ち上げから関わることになったのが「いしのまき学校」でした。「自分達も東北のために何かしたいけど、何をしたらいいか分からない」という高校生の声をきっかけに始まったプログラムは、声を上げてくれた高校生1人1人のやりたいことに寄り添う「マイプロジェクト」(※身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ 探究型学習)を実現させていく活動となりました。

 

石巻のまちをモチーフとしたファッションショーや、不思議の国のアリスの世界観を表現した体験型の読み聞かせなど、高校生ならではの「まちのために何かをしたい」という思いが形になっていきました。

 

いしのまき学校活動写真1

 

いしのまき学校活動写真2

 

いしのまき学校活動写真4

 

「そこから広がって、マイプロ応援型の『PLAY』、自分たちのやりたいことをやるだけではなく、まちの大人とつながる『LEARN』、進路や将来について考える『DEVELOP』という3つのプログラムが生まれたんです。

 

また、地域社会の中で実践的に学ぶ機会をもっと広げていけたらということで、2015年からは探究学習を切り口に高校への授業サポートも始めました」

 

石巻市内の高校には高卒で就職する生徒が一定数いるため、キャリア教育の面でもニーズがありました。そこで、高校生が働く姿をイメージしながら自身のキャリアについて考える場として、2017年からは新たに「ミライブラリー」という若手社会人と高校生との対話型プロジェクトがスタート。この活動をきっかけに地元企業とのつながりも生まれ、「石巻人事部」の活動へと発展していきました。

 

「若手社員の離職率が高い、人材不足といった課題が見えてきたこともあって、若い人達が楽しく働ける、前向きに生きられる地域であるために何かできないかと思うようになりました。そんなまちにしていくには、地域側に若手を応援する土壌が整っていないと難しいですよね。

 

そういうまちだったら若者も戻って来るし、戻って来た人達が今度は次の世代をサポートしてくれて、がんばろうとしている若い人達の受け皿となる場所がまち全体に広がっていくはず……そんな循環ができたらいいなという思いを込めて、『まちが人を育て、人がまちを豊かにする』地域社会の実現をビジョンに掲げています。

 

いしのまき学校のOBOGが、現役高校生の相談に乗ってくれたり、地元企業でインターンや就職をしてみたり、『ミライブラリー』で聞く側だった高校生が、石巻で働く若手社会人として語る側として参加してくれたり、少しずつですが『まちと人のいい関係』みたいなものが、育まれていっているように感じます」

 

ミライブラリー活動写真1

 

ミライブラリー活動写真2

 

教育に万能のビジネスモデルはない。持続可能なあり方の模索は続く

 

斉藤さんは、エティックが運営する、地域に根ざした6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」の4期生でもあります。ラボでの学びや変化についても伺いました。

 

「僕の場合は、どうやって教育をビジネスにしていくかということがテーマだったので、一般社団法人アスバシの毛受芳高(めんじょう・よしたか)さんがメンターを務める地域教育創造ラボに入っていました。

 

毛受さんの取り組みは非常に参考になった一方、他の参加者も含めて背景や置かれている立場も様々で、当然ながら全く同じことをやれるわけではないんですよね。『教育でやっていくのは雪山登山だ』なんておっしゃっていましたが、やっぱり大変な中でみんながんばっているんだなと再確認できたことが一番の収穫かもしれません(笑)。

 

これからは補助金や委託事業だけに頼らず、持続的に事業に取り組める状況を作っていくための展開もしていく予定です。そのために来年度まず挑戦する予定なのが地元企業の会員制度の整備です。『まちと人とのいい関係を育む意志のある企業』の方達とチームをつくり、会員特典の形で若手社会人向けの合同研修や、管理職研修、カウンセリング対応等を行い、それらの取り組みを石巻地域の高校に情報提供することで、会員であることがそのまま『若手を大事にする企業』としてのブランディングになるような状態を目指したいです」

 

「まちと人と」では、人とまちの支援を別々に見立てるのではなく、両者のつながりの中からシナジーを生み出す事業を大切にしています。それぞれの事業が結びつき、少しずつ変化が起こり始めているようです。

 

スクリーンショット 2023-01-23 10.58.35

※2023年1月現在、「まちと人と」ではDRIVEキャリアを通じてスタートアップを共に歩むスタッフを募集しています

 

 「ローカルベンチャーラボ」のフェイスブックページでは、記事でご紹介したような、地域で新しい仕事をつくっているメンバーのチャレンジを日々お届けしています。気になった方は、ぜひチェックしてみてください!

 

2023年3月15日更新:地域に特化した6ヶ月間の起業家育成・事業構想支援プログラム「ローカルベンチャーラボ」では、現在第7期生を募集中。締切は4月25日(火)23:59です。

これまで320人以上の修了生を輩出してきた学びと実践が息づくプログラムで、先進事例を作る先輩起業家、1,600人以上の社会起業家を輩出してきたNPO法人ETIC.の伴走により、地域課題に特化した事業構想を形にする6ヶ月間です。

アイデアを描き、ビジョンを見つめ、新しい経済の循環を創りだしていく挑戦者たちと今年も出会っていけることを、心から楽しみにしています!

 

▽ローカルベンチャーラボ公式サイト▽

https://localventures.jp/localventurelab

▽第7期zoom説明会・説明動画送付についてはこちらから▽

https://form.etic.or.jp/localventurelab/orientation/

この記事を書いたユーザー
茨木いずみ

茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。

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