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年商1億7500万円を誇る山の上のパン屋さんの驚くべき経営戦略-株式会社わざわざ 平田はる香さん 前編-【ローカルベンチャー最前線】

2018.05.31 15,398view 

「山の上にある、主婦が始めたパンと日用品のお店」と聞くと、どんなイメージを持つだろうか。ナチュラルでスロー、のんびり丁寧な暮らし……そんな風に思う人も多いかもしれない。しかし今回ご紹介するお店は常に県内外から多くのお客さんが訪れ、パンは閉店を待たずに完売することもしばしば。しかも、週3日の営業にも関わらず、オープン9年で年商約1億7500万円を記録したとんでもないお店なのだ。 1 周りは山と畑しかない場所で、果たして本当にそんなことができるのだろうか? 百聞は一見にしかず、と今回、私たち取材チームは長野県に向かい、店主・平田はる香さんを訪ねた。

今回の主人公、平田はる香さん

今回の主人公、平田はる香さん

長野県東御(とうみ)市、御牧原(みまきはら)。ここは場所柄、公共交通機関でたどり着くことはできない。車で山道をくねくねと登り、遠くに見える八ヶ岳や霧ヶ峰の雄大な景色を楽しんでいると、ポツンと一軒のお店が現れた。パンと日用品の店「わざわざ」だ。

わざわざ

わざわざの営業日は木・金・土の週3日。お店は常に県内外から訪れた人で賑わう。何時間もかけて車で来る人や、電車とタクシーを使って通う人などさまざまだ。「わざわざ来てくださってありがとうございます」店の名前にはそんな意味が込められている。

デジタルとアナログを行き来し、ちょうどいい暮らしを求めてたどりついたお店

まずは、わざわざが誕生するまでの話を紹介したい。平田さんが長野にやってきたのは2004年のこと。それまでは東京でWebデザイナーとして働き、夜になるとDJとして都内のクラブで活躍していた。夫の徹さんと出会ったのはその頃だ。

人気DJとしてクラブイベントを主催していた平田さんだったが、26歳のときに音楽の世界から足を洗った。ある出来事がきっかけだった。

「海外の超有名DJをゲストに呼んだ自分の主催イベントが大成功したんです。でも、翌月同じイベントに自分たちだけで出たらさっぱりで。人は名が知れているものにしか価値を見出さないことを痛感しました。実力で判断してもらいたいと思っても、有名な人の力を借りないといけないなんて……と一切やめてしまいました」

とはいえ、東京のまちが大好きだった平田さんだが、結婚後、徹さんの転勤で長野に引っ越すことになってしまう。

「当初は長野がつまらなく感じて、最初の1年間は月に何度も東京に通っていました。でも、次第に行き来するのも辛くなり、長野にいながら楽しいことができないかと思うようになりました」

平田はる香さん

そこで始めたのがなんと野菜づくり。長野に来て、都会とは違う野菜の美味しさを感じたからだった。将来は自給自足の生活もいいかもしれない、と夫婦で市民農園の畑を借りるほど農業にのめり込んだ時期もあった。

「農業はすごく楽しくて、新規就農の研修にも通ったんです。でも、機械に1000万円以上かかるとか、最初の数年間は無収入も当たり前とか、あまりにも夢がない内容で愕然としました。私たちのような若者ではなく、仕事をリタイアした世代が対象になっているのも違和感がありましたね」

ここでも農業にあっさり見切りをつけることとなった。嫌なものは嫌、無理はしないというポリシーはこの頃からなのかもしれない。

「野菜やものをつくることは好きだけど、デジタルな部分も好き。どちらかに偏るわけではなく、ちょうどいい暮らしを求めていたんです。そこでパンと日用品のお店を始めようと思いました」

料理が子どもの頃からの趣味だった平田さんは、自分でもよく手づくりしていた。自分のやれることを全部集めてお店を始めたら、なんとか暮らしていけるのではないだろうか。御牧原で店を始めると言う平田さんに対し、当初、徹さんは「こんな何もないところにお店を始めてもお客さんなんて来るのだろうか」と懐疑的だったという。

しかし、平田さんには御牧原にお客さんを呼ぶための作戦があった。いきなり山の上にお店をオープンしたところでお客さんはやって来ない。まずは自分のファンをつくろうと、定期的な移動販売で味を知ってもらい、パン屋を始めるまでの記録をブログで発信するようにした。応援してくれる人が増えたら山の上にオープンしてもきっとお客さんは来るはずだ、と。

インターネットでの発信や移動販売を通して着実にファンをつくっていった平田さんは2009年9月に「わざわざ」をオープン。当時は自宅玄関の土間スペースに焼きたてのパンを並べていた。最初は週1日だった営業日は週2日になっても連日完売。パンの種類も増え、全国各地から注文が相次ぐ人気のパン屋さんとなった。そんな時に東日本大震災が起きる。

一つのエネルギーに頼らないために、たどり着いたのは薪窯だった

2011年3月11日、関東地方から遠く離れた東御市も震度4の大きな揺れがあった。テレビ画面の先に映る被災地の様子を見ているとじっとしていることができず、平田さんはすぐに全額チャリティイベントを企画。集めた金額を被災地に寄付するなど、とにかくその時できることを夢中でやったそうだ。

「もしまた地震が起こったら……と考えるようになりました。今までガスオーブンでパンを焼いていましたが、一つのエネルギーに依存するやり方に疑問を感じてしまって。自然エネルギーを取り入れた方法を考えたとき、たとえ被災しても薪窯があれば、パンを焼くことができると思ったんです」

平田さんは一旦店を休業し、薪窯と新しい店舗をつくることを決意。しかし、石窯でパンを焼くためには構造上たくさんの薪が必要となる。効率は悪いし薪割りも重労働だ。一人でパンを焼き続けられるよう、もっと少ない燃焼で大きなパワーを発揮できる方法はないのだろうか。そこでたどり着いたのは、薪より細い小枝ほどの燃料でも燃焼効率が高いロケットストーブだった。平田さんは島根県に住むロケットストーブの研究家や地元の炭焼き職人の協力を仰ぎ、石窯づくりに着手した。

石窯だけでなく店も増築。資金が足りず、近所の人たちに余った窓やドアを譲ってもらったことや、夫婦でDIYしたことも平田さんにとって忘れられない思い出だ。

2012年3月、石窯パンと日用品の店としてわざわざはリニューアルオープン。みんなでつくりあげたロケットストーブのパン窯は、当時としてはおそらく世界で初めてのものだった。

わざわざの石窯

わざわざになくてはならない石窯

パンと日用品、商品を知り尽くした“ものマニア”

わざわざの店内にはほぼ中央に存在感のある大きな石窯があり、オープンの11時頃になると並ぶ焼きたてのパンやお菓子が棚にずらりと並ぶ。

わざわざのパン

パンは「角食」と御牧原の名前をとった「みまきカンパーニュ」の2種類。開業当初は数十種類作っていた時期もあったが、より味にこだわり、無理のない働き方にこだわった結果、この2種類になった。

国産小麦や自家製の天然酵母、近隣の牧場から届いた牛乳、発酵バターなどからだにやさしい素材でつくられるシンプルなパンは、和食洋食問わずどんな料理にも合うやさしい味だ。

看板商品の「みまきカンパーニュ」

看板商品の「みまきカンパーニュ」

 パンは店頭での販売だけでなく、オンラインでも販売。店頭の売れ行きに合わせてオンラインでの販売数が調節できるので、常に一定の量を焼き続けることができるという利点がある。

わざわざ店内

そして1階と2階のスペースには食品や衣類、キッチン雑貨やアンティークまでさまざまな日用品がところ狭しと並ぶ。こちらも店頭・オンラインの二つの方法で購入できるが、パンと同様、平田さんの日用品へのこだわりはひときわ強い。

わざわざ店内

「ここにある商品は、ほぼすべて自分たちが使って納得したものを置いています。私は根からの“ものマニア”。何でも比較検討しないと気が済まないので、一つの商品でも選ぶ時間がものすごくかかるんですよ」

と平田さんは笑う。

つい先日は徹さんが何気なく選んだホッチキスに満足いかず、納得するものが見つかるまで購入をストップしてもらったそう。お店の隣にある自宅も見せていただいたが、鍋一つとっても、それにまつわるエピソードは途切れることがない。

知人から「これを使ってみて」と言われることも多く、鍋や器が自然と集まる平田家。「でも一番使いやすくて気に入るのは、実家にあるようなボロボロの鍋だったりするんですけどね」

知人から「これを使ってみて」と言われることも多く、鍋や器が自然と集まる平田家。「でも一番使いやすくて気に入るのは、実家にあるようなボロボロの鍋だったりするんですけどね」

「パンにしても日用品にしても、世の中にたくさんの商品があるなかで、なぜこの商品がいいのか、わざわざに置いてある商品はすべてその理由が言える」という平田さん。自ら試したからこそ紹介する言葉にも説得力が増す。お客さんが安心して購入できるのも納得である。

商品の売れ筋は自分たちでコントロール

最近では日用品に関する豊富な体験や知識から、商品の企画・開発を手がけることも増えているという平田さん。わざわざのオリジナル商品もいくつか誕生している。

2018年に発売したバターケースは、陶芸家の阿部春弥さんと愛知県瀬戸市のメーカーとともにつくった商品。スタッキングできる上にバター以外の用途にも使えると入荷直後から大人気なのだが、こんな裏話を教えてもらった。

これが実際にSNSにアップされたバターケースの画像(写真提供:わざわざ)

「バターケースは5色作ったのですが、正直言うと釉薬の具合なのか、緑の色だけムラが出てしまったんです。色の出方が不安定なことを知ってもらうために、あえてこの色のケースをメインにした写真をSNSにアップしたところ、この色が一番人気になってしまって(笑)。生産が追いつかないくらいになってしまいました」

これが実際にSNSにアップされたバターケースの画像(写真提供:わざわざ)

これが実際にSNSにアップされたバターケースの画像(写真提供:わざわざ)

SNSを効果的に使い、実際に商品を使うシーンを想像してもらう。わざわざは開業当初から売りたい商品の良さを確実にお客さんに伝えることで、売れ筋を自分たちでつくりあげてきたのだ。

気づかないところの改良にもとことんこだわる

もう一つのオリジナル商品である「わざわざの靴下」は、平田さんがはじめて商品開発を手がけたもの。長野県の老舗靴下メーカー「タイコー」とコラボし、丈夫ではき心地の良さを追求した靴下だ。一足3000円となかなかいい値段だが、その後もさまざまな靴下を企画し、今では製造合計で年間で約1万足を製造するほどの人気となっている。

わざわざの靴下

商品を販売した後も、細かな改良を続けているという平田さん。その内容は普通の人ではまず気づかないような些細な部分だが、決して妥協することはない。

「タイコーさんは技術のことならピカイチ。私は技術のことは知らないけど、売り方は知っている。打ち合わせの時はいつもそれぞれの立場から意見を出し合って、ああでもない、こうでもないと話し合うんです。一日中かかることも珍しくはありません」

わざわざオリジナルのアランウール靴下(画像提供:わざわざ)

わざわざオリジナルのアランウール靴下(画像提供:わざわざ)

 お客さんからのニーズをメーカーに伝え、メーカーからは技術で応えてもらう。お互いに刺激を受け合いながらものづくりをすることで、平田さんの商品の売り方にも変化が現れてきたそうだ。

「これまでは自分の好きなものを『コンシェルジュ』のように紹介していましたが、商品開発を手がける機会が増えてきたことで、つくり手の視点にも立つようになりました。例えば、最高の素材を使った最高に美味しいものをつくったとしても、買ってもらえる値段でなければ消費者は離れてしまいます。わざわざで扱う商品の選び方も、最高で最上級なものばかりではなく、“お客さんによってちょうどいいものは何か”を意識して選ぶようになってきました」

現在、わざわざで取り扱っている商品数は2000ほど。“ちょうどいい”という感覚は人によって異なるため、可能な限り幅広いラインナップを心がけているそうだ。

考えたことはすべて公開する「スケルトン経営」

平田さんは常に考え続けている。そして、ふと思ったことは頭のなかだけにとどめておかず、思考を言語化し広く公開する。これが平田さんならではの「スケルトン経営」だ。誰かに話すことで頭の中が整理され、ヒントや課題発見につながっていく。

平田はる香さん

FacebookやInstagram、twitterといったSNSを駆使しながら日々発信される平田さんの投稿は、日々の暮らしから経営のこと、売り上げのこと、採用のことまで多岐にわたる。読んでいると、ここまで公開してもいいの!? とこちらが思ってしまうほどだ。詳しくは、最近平田さんが公開したこちらの記事をぜひ読んでいただきたい。

後編では、オープン当初から試行錯誤を続けて来たスタッフの採用やわざわざのこれからの挑戦についてご紹介したいと思う。

▽後編はこちら

失敗だらけの採用から生み出した新しい組織のかたちとは?-株式会社わざわざ 平田はる香さん 後編-【ローカルベンチャー最前線】

ローカルベンチャーPROFILE

平田はる香さん

株式会社わざわざ代表取締役。1976年東京生まれ、静岡育ち。夫の転勤を機に長野県に移住。2009年、趣味のパンづくりと日用品のお店「わざわざ」を御牧原にオープンし、2017年3月には「株式会社わざわざ」に法人化した。2018年からは新たな事務所兼倉庫として元製麺所の改装。同年3月に実施したクラウドファンディング成功により新たな拠点がオープンした。

株式会社わざわざ

所在地:〒389-0403 長野県東御市御牧原2887-1

設立:2017年3月(創業:2009年9月)

資本金:500万円 売上:1億7500万円(2017年度実績)

従業員数:13名(2018年4月現在)

事業内容:パン製造及び日用品の販売、ECサイトの運営、商品企画・開発、各種イベントの企画・主催、書籍の出版

URL:http://waza2.com

この記事を書いたユーザー

石原藍

石原藍

ローカルライター。大阪府生まれ。大阪、東京、名古屋と都市部での暮らしを経て、2014年から福井に拠点を移す。地域コミュニティ、ものづくり、移住をテーマに各地を取材し、Webや書籍、広報物の執筆を手がける。

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