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「まちに住んで、動くことで成果を出す」宮崎県日南市油津商店街と共に走るプロフェッショナル

2015.09.15 

宮崎県日南市では、市外より専門的知識を持ちあわせた若い実践家を招き、まちに住まわせ、共に考えるだけではなく“動かす”まちづくりを進める取組みを行っています。

今回は、全国公募により333人の中から選ばれたテナントミックスサポートマネージャー・木藤亮太(きとう りょうた)さんに話をうかがいました。

油津商店街に4か年で20店舗誘致というノルマ

テナントミックスサポートマネージャーの仕事は、日南市に住みながら油津商店街に4か年で20店舗を誘致するというノルマが示されており、委託費が月90万円という公募内容でも話題になりました(2013年6月に選ばれ、同7月より始まる)。 木藤さん(写真右)

取組みについて説明をする木藤亮太さん(写真右)

福岡県那珂川町出身の木藤さんは、九州芸術工科大学(現・九州大)大学院修了後、建設コンサルタント会社(福岡県内)に就職。福岡市西区の農業体験ができる「かなたけの里公園」づくり、佐賀県唐津市の国選定重要文化的景観「蕨野の棚田」の保存管理活動、熊本県五木村の「子守唄の里 五木の村づくり」に携わり、市民との対話を重視した参加型のまちづくりに取り組んできました。

考えたその先の成果にまで向き合う

「福岡にいたときには、色んなまちのお手伝いをさせてもらいました。出張を繰り返し、郷土史を読み、ネットで調べ、ワークショップをしてヒアリンクを重ねて知ろうとするけど、まちの空気を肌で感じているかというと、今までなかった。きれいな報告書はできるけど、それが最終的にどう役に立っているのか、今までなかなか実感することができませんでした」。

 

福岡での経験をこのように語ってくれた木藤さんは、出張を重ねて仕事をしていくだけではなく、まちに住まいどっぷりつかって仕事をしたいという想いから、勤めていた企業を退社。応募を決意しました(2013年4月退社)。

 

4か年で20店舗誘致という明確な成果が求められており、市民の関心も高く、選考時の公開プレゼンテーションや経過報告会には多くの市民が足を運んでいます。

 

「厳しい意見が飛ぶこともありますが、それだけ関心を持ってこの事業に市民の方が接してくれています。だからこそ、市民の方としっかり対話をしながら、皆さんの想いを実現するかたちの、参加型のまちづくり、再生をしたいと思っています」。

 

建設コンサルタントとして行っていた仕事も、まちに住む人々・これから住む人々へ向けた、責任の大きな仕事です。しかし、今回の「4年で20店舗誘致」というノルマは、その目的は同じでも、「商店街を訪れさえすれば、その成果・進捗状況が誰の目にもうつる」という点で大きく異なります。

 

つまりその場所にいたなら、意識・無意識に関わらず、現状もその成果も伝わる、ということです。これは大変なプレッシャーですが、逆に大きな可能性でもあります。

まちづくりは、誰がやるのか

「ただ単にお店を増やすことがこの事業とは考えていません。4年間という期限のなかで、その後もしっかり持続できる仕組み、自走できる仕組みまで行き着かないといけません。まちの応援団づくり、色んな市民が参加するお店づくり、地元の人材育成が課題となります」。

 

まちの応援団づくりとして、この2年間色々なところでコミュニケーションを広げてきた木藤さん。地元のさまざまな世代、小中高生、隣接する宮崎市内の大学生(日南市には大学がない)、東京に住む日南出身者とコミュニケーションを重ねることで、商店街の空きスペースが子どもたちの集まることができる場所になり、長さ50mのボーリング大会やファッションショーといった、さまざまなイベントが生まれていきます。

 

そして、商店街に関わることで生まれるおもしろい動きや、まちに関わることができる充実感が伝わることで、商店街が色んな人の参加できる場所になっていきます。 土曜夜市

昨年から復活した土曜夜市に出店する中学生・高校生

地元の高校生と向き合った木藤さんは、このように語ります。 「まちづくりって、大人や行政、自分たちの手の届かない人たちが勝手にやっているわけではなくて、自分たちでも参加できるし、自分たちでも関わっていけて、それでまちができていくんだ」。

厳しい状況の中でも続けること

「油津、日南というまちへの想い、厳しい状況の中でも続けていこうという想い、市民が応援したくなるようなお店・コンテンツであること、若い人が活躍できる、未来につながっていくお店であること」を大切にしながら、第一店舗として2014年4月30日にオープンしたのは、「ABURATSU COFFEE」

 

商店街の西側の入り口に位置し、喫茶店「麦藁帽子」として営業していた空き店舗を再生した油津のためのコーヒー屋さんです。 喫茶店時代の姿を残しながら、地元の木材である飫肥杉を使った外と中を明るくつなぐかたちに生まれ変わり、「麦藁帽子」に通っていた世代から若い世代まで、幅広い世代が訪れる場所になっています。

 

オープンへ向けた改修のなかでも市民の手が入り、磨き上げられ、現在の姿をつくっています。 ABURATSU COFFEE

「麦藁帽子」時代からの明かりが灯す店内

「この『ABURATSU COFFEE』をつくる過程で『株式会社油津応援団』が生まれました。宮崎市内で飲食店を経営されている方、商工会議所の方と協議を重ねていくなかで、自走できる仕組みづくりとして株式会社を立ち上げようと考えました。4年間という事業期間を越えて、どのような機能をこの商店街に残していくのかというところで、お店をプロデュースし、基盤を整備し、取組みを横へ広げていく民間(市民)投資による会社が必要だと考えました」。

 

「株式会社油津応援団」は2014年3月27日に設立。現在一口30万円を、19名が出資しています。代表取締役・村岡浩司さんの持つ事業ノウハウやネットワーク、取締役・黒田泰裕さんの持つ地元の人脈から、多くの出資者・応援サポーターを得ました。 あぶらつ食堂(屋台村)完成イメージ

多世代交流モール内「あぶらつ食堂(屋台村)」(仮称)完成イメージ

2014年12月22日にオープンした二代目湯浅豆腐屋のプロデュース、2015年11月オープン予定の多世代交流モール事業(仮称)では、「株式会社油津応援団」の3人の若手が力を発揮しています。

 

地元日南市出身の3名は、建築デザイン、会計・経営サポート、地元農協職員の経験があり、それぞれのスキルを活かし、店舗デザインや事業計画の立案、生産者や地元との橋渡しとなり、出店のサポート・プロデュースを行っています。 油津コンテナガーデン

多世代交流モール内「油津コンテナガーデン」(仮称)

また、そのうち2名は東京からのUターン者です。日南を出て専門分野で技術を磨いた者が、地元で専門的知識を活かして働くことで、これまでになかった機能がこの商店街に生まれています。

 

補助金による一時的な事業で終わることなく、彼らが継続して働くことで、場の取り仕切り方が変わり、これまでつながりのなかった取組みが連動し、単発的になりがちであったイベントがしっかりと継続していきます。

商店街=人が育つ場

「日南市は地方都市で雇用の場がないといわれるのですが、商店街のお店一つひとつが若い人たちの雇用の場、元気な姿が見える場となる、『商店街=人が育つ場』というかたちで進めていければと思っています。その仲間の輪が、彼らが人を呼んでいけるようになることで徐々に広がっていっています」。

 

これまで行ってきた空き店舗の活用や地元の高校生による企画、アーケード下で行われているダンス教室、大学との取組みなど、さまざまなソフトコンテンツが育ってきています。

 

新たな施設が完成し、できることが広がることで、さらなる成長や変化が期待されます。 また、宮崎大学教育文化学部の研究室と共働で取り組んだ調査研究をきっかけとして生まれた、修理・修繕技術を前面に出す情報発信「油津なおしぇるじぇ」がはじまりました。

 

変わっていくのは若手だけではありません。大学生との関わりが、商店主を動かすこともあります。 何が人に、まちに変化をもたらすのか、わからないことが多くあります。しかし、「自分にできること」で関わることが、そのはじまりかもしれません。

再び訪ねたときに、喜びを味わえる場所に

「福岡に帰省した際、オープンして3年程経った『かなたけの里公園』を見に行きました。そのとき、思い描いていた公園に成長していて、嬉しかったです。いま油津商店街で自走へ向けて取組んでいますが、4年間かけて上手く循環できる仕組みをつくって、再び訪ねたときにそんな喜びを味わえるように、自分を信じて取り組んでいます」。

 

建設コンサルタント時代に身につけた専門性が、その計画から実施に至るまで活かされています。しかしここでは、その求められる成果も働き方も大きく異なります。 店舗としてかたちになるまで成果が見えないことに歯がゆさを感じる一方、新しいお店の準備が進み、営業する姿が与える影響も大きく、まちの空気の変化を肌で感じる日々です。

 

この、まちの空気を感じながら、コミュニケーションを重ね、実施につなげる技術は、新しい専門性を持っているとも言えるのではないでしょうか。

 

さまざまな専門家によるまちの視察・研修も行われ、一人での取り組みではなかなか触れることのできない視点や仕事に接する機会も生まれています。また、前職時代からのつながりである建設コンサルタントや建築家、自治体職員、大学の研究者も油津を訪ねています。専門分野の仲間やさまざまな地域で頑張る同世代の姿が、木藤さんの活力・支えにもなっているようです。 工事中のモール(左側)、ダンス教室(中央)、眺める人

工事中のモール(左側)、ダンス教室(中央)、眺める人

自立自走へ向けた取組みはまだ続きます。しかし、自立自走はひとりで走ることではありません。それぞれが自身の身体で走ることができる状態をつくることです。その手助けをし、走り続けることができるように伴走する木藤さんのような存在は、これからの地域づくりにとって大切な働きをもたらしてくれると考えます。

 

2015年11月には多世代交流モール(仮称)もオープンします。変わりゆく油津の息の長い取組みに、ぜひ足をお運びください。出店したい、一緒に変えたい、成長したいという方は、木藤さんまでご連絡ください。成長の場が、そこにあります。

テナントミックスサポートマネージャー日南市・油津商店街 /サポマネ★キトー・木藤亮太

昭和50年生まれ/福岡県出身/日南市油津在住 ・専門:まちづくりに関する企画・計画、建築・ランドスケープ(造園)空間の計画・設計、市民参加型取り組みの企画・実践及びこれらに関わる諸調整など ・九州芸術工科大学(現九大)、同大学院を出て14年間、株式会社エスティ環境設計研究所に勤務、5年間取締役を務める ・日南市が実施した全国公募により2013年7月1日より現職、宮崎県日南市へ移住

この記事を書いたユーザー
富井 俊

富井 俊

1986年福岡生まれ。九州工業大学大学院工学府建設社会工学専攻修了。小学校の校庭や都市公園、河川空間のデザインに取組む。修了後、宮崎県西米良村の観光施設運営、景観計画策定業務に携わる。その後、山梨県の総合学科高校建築デザイン系列助教諭。現在、再び西米良村に入りフリーランスとして活動。「ケアが生まれる場所を残し、つくっていきたい。居場所をつくる。」

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