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ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員・小林立明さんに聞く、米国NPOセクターの人材育成のフロンティア(後編)

2013.07.24 313view 

国際交流基金に20年、その後ニューヨーク日本文化センターで4年間副所長を務めるなど、フィランソロピー(慈善事業)のフロンティアで活躍されてきた小林立明さん。今回は、フィランソロピーの最前線において、どのような人材育成が行われているのか、小林さんの体験談を交えながら前編・後編にわけて紹介しています。

■ 小林立明さんに聞く、米国NPOセクターの人材育成のフロンティア(前編)

米国非営利セクターの人材育成のフロンティア

図:米国NPOセクターにおける人材育成のフロンティア(小林さん資料)

コレクティブ・ラーニングの場を創設するアダプティブ・リーダーシップ

石川:イノベーションを生み出す仕組みに焦点を当てているのですね。その手法として、組織内からうまれる知見を集約する仕組みがコレクティブ・ラーニング、そのような組織運営に必要なリーダーシップのあり方が、アダプティブ・リーダーシップということでしょうか。

小林:そうです。アダプティブ・リーダーシップについて考える前に、まず一般的なリーダーシップのイメージについて考えみましょう。多くの人がリーダーと聞いて思い浮かべるイメージとは、カリスマ的な人物で、ものすごいアイディアを持っていて、組織の全員を引っ張っていく強力な指導者というものでしょう。組織としては、こういうリーダーのビジョンをスタッフたちが一生懸命形にしていくというイメージですね。しかし、リーダーシップ研究の進展は、このステレオタイプに疑問を投げかけたのです。一人の人間の知識や体験には限りがあります。これほど変化が素早くダイナミックな世界において、そのやり方でよいのだろうか、という問いです。

現代、ますます重要になってきているのは、細やかな感性をもったリーダーの存在です。個人の資質としては、強力なビジョンとそれを実現する意志と方法論を持っているのみならず、世界の微妙な変化を的確に捉え、それを既存のパラダイムにとらわれることなく創造的に組織活動に取り込んでいくという、右脳的な能力が必要とされます。実際、今のアメリカの経営者の多くは、右脳を活性化するために、瞑想したり、自己啓発セミナーに参加したりしているんですよね。

また、組織経営面での資質としては、自分の意見を強力に打ち出すのではなく、落ち着いて、人の意見に耳を傾ける。あるいは、人からアイディアを引き出し、それを全員に共有し、語り合えるような場を作る、という能力が必要となってきます。これらを実現できるリーダーのことをアダプティブ、つまり適応的リーダーシップと呼んでいます。このようなリーダーシップを通じて、先ほどお話ししたようなコレクティブ・ラーニングが組織に定着する訳です。これに成功した組織ほど、社会の変化により迅速に対応してイノベーションを推進することが出来るようになり、また、組織メンバーのコミットメントも深まります。

石川:アダプティブ・リーダーシップを養うために、NPLDはどのような学習機会を提供しているのでしょうか?

小林:ものすごいことをやっています(笑) もっとも有名なものはパワーラボというゼミです。私は、残念ながら別のプログラムに入ってしまったのですが、例えば、あるプログラムでは、指定された時間と場所に学生が集合します。持ち物は最低限で、財布は取り上げられます。そこで、「このグループは、カンボジアからアメリカにやってきた難民グループです」と言う設定を与えられます。しかも、グループの中には、パスポートを持っている合法的な難民と、パスポートを持っていない非合法の難民もいるという設定です。

その上で、「今は教会で一時的に庇護を受けているけれども、警察が非合法難民の存在に気づいたようです。どうしますか。」という課題が与えられ、問題解決を迫られるわけです。グループのメンバーは、与えられた時間の中でディスカッションをし、結論を出さなければなりません。その結論次第では、教会以外のシェルターを探すというシナリオもあり得ます。財布は持っていないにもかかわらず、場合によっては、食事や寝る場所の確保も、自分たちでやらないといけない訳です。

こんな感じで、2日間のプログラム期間中、教授が同行して市内の各地を転々としながら、リアルタイムでシナリオが変化し、次々とタスクが与えられる中、グループとしてどんどん意志決定をしていかなければならないというプログラムです。ほとんどサバイバル・ゲームですが、こういう、ある種の極限状況に入ってグループとしての問題解決を行っていくプロセスを経験することで、アダプティブ・リーダーシップとは何かを実地に学んでいくことが出来ます。

このプログラムが面白いのは、こういうシチュエーションでは、組織論で前提とされる「権限」や「地位」がいかにもろいものか、ということを身体感覚として知ることが出来る点です。まさに「生身の人間」がぶつかり合ってしまうわけですね。社会的背景から完全に切り離されたところで、「素の自分」を出しながら、グループとしてまとまり共に課題解決を目指す、という方法は、まさにアダプティブ・リーダーシップの醍醐味だと思います。

石川:楽しそうですが、かなり大変そうです。

小林:ものすごいプレッシャーですし、体力的にもきついです。また、先ほどもお話ししたように、参加者はNPLDの学生だけでなく、ウォートン・スクールやFelsの学生も入っています。こういう異なった背景を持った学生が、限りある時間の中で、即座にチームビルディングをし、理不尽な環境と向き合い、問題解決を進めるのですから、衝突もあります。こういった体験を経ると、知識を持っているだけでは人を動かすことはできないということを、身をもって知るわけです。自分が正しいと信じていることがあっても、他者は違うことを信じている。それをいちいち説得していたら、時間がかかりすぎて問題解決はできません。でも、合意形成プロセスを無視することは出来ない。常に時間とグループ全体の意思決定のバランスをとりながら、それを迅速にやるようなコミュニティをつくらないといけない訳ですね。

石川:伝統的なケース・スタディとは、まったく違いますね。

小林:そうなんです。ケースから学ぶのではなく、アダプティブな問題解決を体験せよと。もちろん、パワーラボのような体験型のプログラムだけではありません。戦略計画策定においても適応的な手法を学びます。例えば、私が、戦略計画策定のゼミで面白いと思ったコンセプトに、リアルタイム・ストラテジック・プランニングというものがあります。通常のストラテジック・プランニングは、3年から5年という戦略計画期間を設定し、古典的なSWOT分析や環境スキャンなどを行なった上で、ステークホルダーとの対話を通して合意形成をはかり、最終的に戦略計画と実行計画をまとめるというものです。しかし、こういった伝統的なやり方では、iPhoneが突然登場して、ソーシャル・マーケティングの手法や市場環境が激変するような現代社会に対応することはできません。むしろ、コレクティブ・ラーニングとアダプティブ・リーダーシップに基礎を置き、組織のあらゆるレベルと活動プロセスにおけるイノベーションの種を、迅速にストラテジーに反映させるような仕組みを作ろうと言うことで、リアルタイム・ストラテジック・プランニングという手法が出てくるのです。

NPLDカリキュラム

図:NPLDが提供しているプログラム(小林さん資料:詳細はこちらから)

組織構成員全ての意思決定参画を促す、コレクティブ・ラーニング

石川:これまでのお話をまとめると、まず、NPOが単独でできることをやるのではなく、社会に構造的な変化を創出するために、コレクティブ・インパクトが重要である。それ実現するために、異なるセクター間のコラボレーションを実現する力量を持ち、変化に素早く柔軟に対応するリーダーが必要となる。アメリカでは、こうしたトレンドに素早く対応し、新しい人材育成手法が開発・実践されている、ということかと思います。一方で、日本のNPOセクターの担い手育成については、どう思われますか?

小林:現在の日本は、まず、NPOの経営基盤を安定化させ、セクターとしてしっかり確立させる段階だと思います。収入基盤も、サービス収入を拡大するというよりは、まずは寄付を基礎とした資金調達手法を制度化することが課題となっているかと思います。もちろん、日本のNPOは、行政による助成・委託への依存から脱却して安定した経営基盤を確保する方向に向けて、確実に発展してきているのではないでしょうか。

また、日本では企業がとても前向きに社会に関わろうとしていますね。東日本大震災以降、特にそういう機運が高まっていますから、そういう志を持った企業と協働することが、今まで以上に重要になってくるでしょう。日本でもアメリカ同様に、NPOの基本を学び経営を高度化することに加えて、企業や行政をどう巻き込んでいくかという観点が必要になってくるのではないでしょうか。

石川:ビジネスとNPO、両方の文化がわかり、課題解決の仕組みをプロデュースできる人材ということですね。

小林:そうです。鍵となるコンセプトは「営利と非営利、両方の言語がわかる」、それから「営利と非営利との連携・協働をファシリテートする能力をもっている」ということだと思います。

次回最終回は、NPOやソーシャルベンチャーへの転職を考えている若者への、小林さんからのメッセージをお送りします。(準備中です)

■ 小林立明さんに聞く、米国NPOセクターの人材育成のフロンティア(前編) ■ 小林立明さんに聞く、アメリカのNPO・社会起業家の潮流

ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所 国際フィランソロピー・フェロー/小林立明

1964年生まれ。東京大学教養学科相関社会科学専攻卒業。ペンシルヴァニア大学NPO/NGO指導者育成課程修士。独立行政法人国際交流基金において、アジア太平洋の知的交流・市民交流や事業の企画評価等に従事。在韓国日本大使館、ニューヨーク日本文化センター勤務等を経て、国際交流基金を退職。2012年9月よりジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所国際フィランソロピー・フェローとして、「フィランソロピーの新たなフロンティア領域における助成財団の役割」をテーマに調査・研究を行っている。フェイスブックページ「フィランソロピー・非営利・協働 情報ボックス」やブログ「フィランソロピーのフロンティア」を通じて、欧米の最新動向を発信中。

この記事を書いたユーザー

石川 孔明

石川 孔明

1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)とお茶と自然を愛する。

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