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日本の"ソーシャルビジネス"の歴史が変わった日 ソーシャルスタートアップ・アクセラレータープログラム「SUSANOO(スサノヲ)」デモデイレポート

2014.12.11 

社会にある「課題」を「機会」として捉え、革新的なソリューションを見出すことで解決する

いわゆる「市場の失敗」と呼ばれる領域で、人生を懸けてスタートアップに挑戦する「ハグレモノ」たちがいる。

そんな彼らを応援するのが、ソーシャルスタートアップ・アクセラレータープログラム「SUSANOO(スサノヲ)」だ。 今年5月、その第一期が始動した。そして、12月初旬、その集大成として、100名を超える大企業、行政、学校法人、メディアなど各セクターから集った参加者を前に、6ヶ月間のプログラムの成果を報告するデモデイが行われた。 NPO法人ETIC. SUSANOOプロジェクトリーダー・渡邉賢太郎

NPO法人ETIC. SUSANOOプロジェクトリーダー・渡邉賢太郎

「3年で100社ソーシャルスタートアップを生み出したい。ソーシャルとビジネス、行政と民間、あらゆるボーダーを超えてThink Bigにイノベーションを起こすことのできる『社会を変える』挑戦者のための生態系を醸成していく」(渡邉) NPO法人ETIC. 代表理事・宮城治男

NPO法人ETIC. 代表理事・宮城治男

「どうしても社会起業家は、自らが挑む課題の中で小さくまとまってしまいがち。ビジネスセクター・行政、あらゆる人々を巻き込んでそこを突破していきたい。会場には大手企業経営者から行政担当者、メディア関係者の方まで、さまざまな方が集まっている。ぜひ聴衆として距離を置いて見るのではなく、『共犯者』として、自分ならどんな風に一緒に仕掛けていくことができるのか、ということを考えながら聞いて欲しい」(宮城)

 

SUSANOOを仕掛けるNPO法人ETIC.の2人の言葉から始まったデモデイ。6ヶ月の間、もがき、苦しみ、それでもなお、歯を食いしばり走り抜けた、12組の起業家たちが、それぞれが描く「社会を変える戦略」を提案し、そしてさまざまな領域を超越した仲間に出会う素晴らしい場となった。本記事ではその模様を一部お届けする。

>>SUSANOO、ソーシャル・スタートアップについてはこちら

「人々の生活を変える"ソーシャル・スタートアップ"を応援したい」ソーシャル・スタートアップ・アクセラレーター・プログラム「SUSANOO」コーファウンダー・孫泰蔵さん

防災ガール「もっと防災をオシャレでわかりやすく」

30年以内に70%の確率で2人に1人が被災すると言われている中、4人に1人しか防災対策をしていない日本。

 

「ダサい」「面倒くさい」…そんなネガティブなイメージがつきまとう防災のイメージを変え、若い世代の防災に対する意識向上を目指して活動しているのが防災ガールだ。 代表の田中さんは元サイバーエージェント出身で、「防災」に対する熱い想いが全身から感じることのできるパワフルな女性。東日本大震災の復興に携わった経験から事業立ち上げを決意した。 防災ガール 田中美咲さん 「防災」という一見すると地味なテーマではあるものの、プレゼンは圧巻の一言。インフォグラフィックによる説明は非常に分かりやすく、会場全体のハートをがっちりと掴み、参加者全員の「防災」のイメージをガラッと変えることに成功した。 「SUSANOOを起ち上げた成果がここに極まれり」と、メンターを務める、MOVIDA JAPANで数々の起業家支援を手掛けてきた孫泰蔵さんをもうならせた。

 

防災ガールが6ヶ月のプログラムで作り上げたのが「次世代版 避難訓練 TOLAF」だ。従来の避難訓練は、被災する場所も避難先も避難ルートも決まっていた。当然、そんな避難訓練は、実際に地震が起きた際には全く役に立たない。 TOLAFでは、制限時間内に最も安全だと思う場所に、最も安全だと思われるルートで避難をする。参加者は自分たちで考え、楽しく、実践的な避難訓練を行うことができるという。

 

全国で始まりつつあるこの次世代版・避難訓練を、渋谷という若者の街で盛大にやろうというのが防災ガールの企みだ。そのためのパートナー企業を募集し、会場からは、次々と賛同の手が上がった。 復旧・復興の陰に隠れる重要な要素、「防災」。こういった、現場で奮闘する若い力が、社会を変えていくのだと確信させる素晴らしいプレゼンテーションだった。

>>防災ガール代表・田中さんのインタビューはこちら

「スタートアップの面白さは、すぐ決断できて、好きな人と仕事できること」防災ガール代表・田中美咲さんインタビュー

マドレボニータ「日本の母子保健の死角『産後ケア』の不足を解消する」

「今日は、産後から社会を変える、というお話をしたいと思います」

 

そんな言葉のあとで、代表の吉岡さんはまずはじめに、NPO法人マドレボニータが提供する産後ケアプログラムを修了した方の実際の声を紹介した。 マドレボニータ 吉岡マコさん

マドレボニータ 吉岡マコさん

産後を振り返ってみると、足に重りをつけられて、海底に沈められたような感じでした。もがいても、もがいても、動けないし、頭も働かない。 そんなとき、マドレボニータに出会いました。プログラムに参加して一気に地上に引き上げてもらいました。ああ、この感じ。やっと体力がついてきて、気持ちが晴れ晴れとしてきました。 子どもたちへの愛情が深まり、夫に自分の状況を言葉で説明できるようになりました。新しい友達が増え、色鮮やかな世界が一気に広がりました。それは出産する前よりも幅広く、深い世界で、想像していた以上に素敵な子育て生活のスタートでした。(一部抜粋)

日本の母子保健において、妊娠・出産に対するケアはあるものの、「産後」に対するケアは不足しており、それによりさまざまな弊害が出ているという。 産後うつになる人は年間で約10万人。乳幼児虐待の犠牲者の44%が0歳児。出産後、女性の就労率がガクッと下がるM字カーブは、日本に存在する社会問題としてあまりにも有名であり、OECDから勧告を受けるほど。

 

そんな問題に立ち向かうのがマドレボニータだ。産後に特化したフィットネスプログラムを全国で提供している。吉岡さんご自身も高校2年生になるお子さんを持つ「働く母」であり、ご自身の経験を元に1998年に事業を起ち上げた。

 

「社会起業家」などという言葉はまだこの世には存在しなかった。 事業起ち上げから約15年。プログラムは全国に展開されており、昨年度の日経ソーシャルイニシアチブ大賞(*1)では国内部門賞を受賞するなど、いわば、他の社会起業家にとってのロールモデルとなりつつあるマドレボニータ。

 

そんななか、今回のSUSANOOに参加しているのには、その目標の高さがある。 2020年度に、出生数の5%である、5万人にプログラムを届けることがマドレボニータの目標だ。2013年度実績の10倍にあたる数字だが、「5%に届けることができれば確実に社会を変えることができる。日本の女性の就業率・出生率を向上させてOECDに報告してやろうかな、と思っています」そう吉岡さんは強く言い切る。

 

マドレボニータが次に仕掛けるのが「丸の内ワーキングマザーアクション」だ。マドレボニータがこれまで培ってきた知見を企業の人事担当者と共有し、ワーキングマザーがもっと活躍できるための文化を創り上げていく。産後ケアを含め、働く母の労働環境の改善を推進し、社会全体でこの課題に取り組んでいく。

 

政府も掲げる「女性が活躍できる社会の実現」、ソーシャルビジネス黎明期から常に第一線で走り続けてきたマドレボニータは、現状に満足することなくさらに大きな夢を描いていく。

*1:日経ソーシャルイニシアチブ大賞とは、日経新聞社が、様々な社会的課題をビジネスの手法で解決する「ソーシャルビジネス」に光を当て、ソーシャルビジネス全体の健全な発展を応援するためのアワード。

Code for Japan「企業と市民と行政による三方良しのオープンガバメント推進」

財政赤字・少子高齢化・・・公共サービスへの需要が増えていくなかで、行政だけでその役割を全うしていくことは、もはや難しい。

 

「自分たちでできることは自分たちでやろう。行政とともに一緒に手を動かしていこう」そんな想いで立ち上がった人々がいる。それがCode for Japanだ。 Code for Japanは、自分たちの街の課題を技術で解決する市民コミュニティだ。全国にすでに21のCode forコミュニティがある。 Code for Japan 関治之さん

Code for Japan 関治之さん

代表の関さんは、東日本大震災の際、地震発生後わずか4時間後に、現地の被害状況や避難所・安否情報や雇用情報を収集する「sinsai.info」を起ち上げた経験を持つ。

 

こうした、市民が主体となり、テクノロジーを活用して地域の課題を解決するモデルは「シビックテック」と呼ばれ、現在世界中で注目を集めている。 だが、シビックテックには大きな課題がある。市民コミュニティ側はボランティアであるため持続力がなく、自治体側はITリテラシーの高い人材が不足しているのだ。

 

その課題を解決すべく、現在Code for Japanが開発を進めているのが「コーポレートフェローシップ」というプログラムだ。このプログラムでは、企業から自治体に技術者を派遣し、自治体の職員として、地域が抱える課題をテクノロジーの力で解決することを目指す。

 

すでに福井県鯖江市への1ヶ月半のトライアルを行っており、関さんいわく「すばらしくうまくいった」とのことだ。派遣元の担当者は「まったく新しいリーダーシップ研修を模索しており、何百万というお金を払って海外でMBAを取得させるのと、実際に地域の現場に入って課題解決に挑むのと、どちらの方が効果があるのか確かめたい」と語った。このフェローシッププログラムのポテンシャルの高さを感じさせる。 Code for Japan 関治之さん

聴衆を巻き込むCode for Japan 関治之さんのピッチ

Code for Japanは、3年で100の自治体にフェローを派遣することを目指す。「みなさん、日本の政治、変わらないと思っているかもしれませんが、100の自治体に派遣することができれば、必ず変わります」そう言い切る関さんを見ていると、「公」というものへ信頼を失いつつある日本にあって、その根本を変革していく一筋の光を見たような気がした。

ソーシャルビジネスの新しい歴史を刻んだ一日

「みんなが突き詰めて考えたからこそ、来場者も巻き込むことができ、当事者になった。今日この場を作れたことが嬉しい。ただ、これが魅せるための場であるならばクライマックスだが、まったくもってスタートであることを忘れてはならない」

 

ETIC.の宮城が最後に語ったように、このデモデイは出発点に過ぎない。 しかし、ETIC.とともにSUSANOOの発起人となったMOVIDA JAPANの孫泰蔵さんのクロージングでの言葉には、このプログラムの大きな可能性を感じさせるものがあった。 MOVIDA JAPAN 孫泰蔵さん

MOVIDA JAPAN 孫泰蔵さん

とても感動した。普段はIT系企業の支援をやっていて、起業家たちの熱量や成長は十分に知っているつもりだったが、SUSANOOの伸びと化学反応はそれを遥かに上回った。それは、一人ひとりが社会にある問題をなんとか解決していきたいと行動している人たちだから。

 

これからも2期生、3期生と続けていき、10年後には東京ドームか武道館でデモデイをやりたい(笑)10年続けば本当に社会変革を起こすことができる。 ピッチの後で実施された各起業家別の戦略会議の様子

ピッチの後で実施された各起業家別の戦略会議の様子

これまで出会うことのなかった多種多様なバックグラウンドを持つ人々が交じり合い、一人の起業家の指し示す「志」に向かって手を携えて突き進んでいく。このSUSANOOデモデイは、日本のソーシャルビジネスにとって、新たな歴史を刻んだ一日となったのかもしれない。 >>プログラム最新情報はSUSANOO Facebookページ

「SUSANOO」第一期メンバー一覧

  • 「企業と酒蔵でつくる 世界に向けた日本酒開発」 OneTankProject
  • 「天才集団をデビューさせる!発達障害を持つ人がエンジニアとして活躍する社会へ」 GIFTED AGENT
  • 「一見さんお断りの一流の文化体験の機会を、誰にでもアクセシブルに」 TOKI
  • 「全ての若者が地域イノベーションの担い手に―イノベーション甲子園への道―」 i.club
  • 「この街で暮らしたいという思いを叶えるのは、その街ならではの本当に小さな仕事でした」 株式会社machimori
  • 「日本の地域と外国人のマッチング Become lost in Japan through local experiences」 Lost in Japan
  • 「現地の笑顔と旅して”おかえり”が待ってる世界を創りましょう」 Travee
  • 「『つくる、つながる』が価値になる」 pensea
  • 「農業機械レンタル事業のソーシャルインパクトと事業拡大ビジョン」 SEED AFRICA
  • 「防災をライフスタイルに!渋谷発、産官学連携の防災プログラムを提案します」 防災ガール
  • 「日本の母子保健の死角である『産後ケア』の不足を解消する」 マドレボニータ
  • 「企業と市民と行政による三方良しのオープンガバメント推進」 Code for Japan
この記事を書いたユーザー
梅村 尚吾

梅村 尚吾

1992年生まれ、東京大学文学部英語英米文学科3年。学生インターン。大学受験中にマザーハウスのドキュメンタリー番組で「ソーシャルベンチャー」という概念に出会い、その道を志すように。大学1,2年次はアフリカ渡航などを経験。3年次を休学し、認定NPO法人フローレンスで1年間のインターン。ソーシャルセクターにおけるIT技術活用のインパクトの大きさに可能性を感じ、現在キャリアを模索中。生涯スポーツである水泳のため、スポーツジムに通うのが日課。

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