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障害者雇用×空き家×一次産業。 ローカルベンチャー起業家特集Vol.1

2015.08.27 

仙台駅からバスで20分。仙台から塩釜に抜ける産業道路は交通量こそ多いが住宅地ではなく、生活感はあまり感じられない道です。しかし、ここに予約を取るのも大変な話題のビュッフェレストランがあります。オープン前からすでに列ができていて、開店するとすぐに店内は人でいっぱいに。我先にとビュッフェの列に並びます。

そんなお客を暖かく見守るスタッフたちの半分以上が、実は何かしらの障がいを持った人たちです。 仙台市にある奇跡のレストラン・六丁目農園を経営する、株式会社アップルファーム代表の渡部哲也さんに話をうかがいました。 アップルファーム渡部哲也さん

株式会社アップルファーム・渡部哲也さん

成長した日本において障がい者を受け入れられないなんて、エゴでしかない

― まずは、渡部さんについて教えてください。ここに至るまで、色々なご経験をされたとうかがいました。

 

18歳のときに実家の家業が倒産しました。自分が後を継ぐと思っていた会社なので、悔しかったですね。以来、自分が生きるために起業も含めて様々な仕事をしてきましたが、常にお金に追われているような日々を送っていました。一気に貧しい生活に叩き落されたコンプレックスで、お金や権威への執着から逃れられなくなっていたんですね。

その後、30代で「食」の分野に出会い、これが自分の生きる道だと思って様々な仕事を興してきました。六丁目農園は2010年にオープンしました。

 

― 六丁目農園について詳しく教えていただけますか? 就労者の半数以上が障がいをお持ちと聞いたのですが。

 

その通りです。現在約140人が働いていて、うち半分以上が何らかの障がいを持っています。先天的な障がいから、うつ病のような後天的障がいまで様々です。医療の高度化もあって、障がい者の人口は年々増えています。障がい者手帳を持っている人の数は742万人、なんと人口の6%に上ります。障がいは決して珍しいことではないのです。にもかかわらず、高度に成長した日本において障がい者を受け入れられないなんて、エゴでしかないと思いませんか。

手作業で切られた野菜の千切り

野菜の千切りまですべて手作業。不揃いでも手作業の温もりを感じる手切りはお客に好まれるだけでなく、障がい者の訓練にもなる。

「儲けや規模」を求めていた世界から、まったく違う世界へ

― 「お金や権威」を追い求めていた渡部さんが、なぜ「障がい者雇用」に取り組むようになったのですか?

 

二宮尊徳の報徳思想って聞いたことありますか? たらいの水を自分の方にかき寄せようとしても、縁にぶつかって向こう岸に行ってしまいます。しかし、向こうにいる人たちに水をお送り出してあげると、向こうの縁にぶつかって最終的には自分に返ってくる。

お金や権威に執着しているうちは結局何も得られなくて、利他の精神を学んで初めて他人も自分も幸せになる。そういうことを教えてくれたある経営者がいました。

そんなときに、私の義理の弟が事故で脳に障がいを負ってしまったのです。職を失い不安を抱えた弟に仕事を作らなければ、と思ったときに「食」と「障がい者雇用」が結びつきました。 とはいえ仙人じゃありませんし、最初は「利他の精神なんて本当かな?」という思いでした。

それまでの儲けや規模を求めていた世界とはまったく違う世界が広がっているのです。恐るおそる一歩を踏み出していくうちに、次第に「ああ、この道であっているな」と確信を持てるようになってくるという感じです。

店内の様子

オープンするとすぐに店のなかは人でいっぱいになる。六丁目農園が障がい者雇用に積極的だから来ているという人は実は少なくて、純粋に美味しい食べ物と暖かい接客がファンの心をつかんでいる。

弱いものと弱いものを組み合わせて強くできたら、すごいこと

― 素晴らしいですね。今は障がい者雇用だけでなく、漁業や農業などにも取り組まれているそうですが。

 

障がい者の自立支援をしている私のテーマは「依存から自立」です。依存は何も生みません。

どんな素晴らしい取り組みも、収益を上げないと維持ができません。維持ができなければ自立もできません。 その流れで、今は地域や行政、国の問題を、行政に頼るだけでなく企業の力で解決する仕組み作りに取り組んでいます。震災後は特にそうですね。石巻の牡蠣を使った「杜のかき小屋」をオープンさせたのもそうです。

企業が被災地域を盛り上げながら、障がい者の雇用も拡大していく。今は全国から、障がい者とともに取り組む六次産業化というモデルについて学びたいという問い合わせがきます。

キッチンの様子

キッチンの中では障がい者と健常者が一緒になって適材適所で働いている。

― 障がい者雇用と一次産業、一般的にはどちらも難しい分野だと言われています。あえてこのふたつを掛け合わせたのには何か戦略があったのですか?

 

それは完全に自分の志向性です。弱いものと弱いものを組み合わせて強くできたら、すごいことじゃないですか。そういうことにすごく魅力を感じます。あとは、弱いものを見ると、無力だった若いころの自分の姿と重ね合わせてしまうというのもあります。何とかして表舞台に引っ張り上げたいという思いで取り組んでいます。

 

― 渡部さんは物静かに見えて本当に熱い方ですね。そんな渡部さんが求める「右腕」*はどんな方でしょうか。

 

今、アップルファームの経営はほとんど自分一人で回しています。私がより多くの地域を飛び回るようになると、どうしても現場との距離が生まれるなどの弊害が出ます。そこで右腕に来てくれる方には、私の参謀として私の考えを元にビジネスの全体像が描けて、それを企画書などの紙にまとめることができて、さらに現場に伝えることができる人に来ていただきたいと思っています。

福祉に関心が高いのはもちろんありがたいですが、それにプラスして、ビジネスマインドがしっかりとある人。私のNo.2、No.3になってくれる人。『右腕』というか、『ガチ・右腕』ですね。もし右腕に来た方がうちのことを気に入ってくれて、私も一緒にやって行けると感じたら、そのまま専務クラスで採用したいとすら思っています。

あとはもう一つ思いがあって、私はコーディネーターを養成したいんです。良いものと良いものを結びつけてイノベーションを興す目線を持つ人を増やしたい。それは自分の会社のためだけでなく、社会にそういう人がもっと必要だと思うのです。

自分のところで一年間働いてくれれば、その目が養えると思うのです。 また、福祉や一次産業など様々な社会問題に触れて、さらにはそこからどうやってビジネスを生み出すかを間近で見ることができる。社会起業家としての鼻が効くようになるでしょう。 これは、私の希望でもあり、右腕に来てくれる方のメリットでもありますね。素晴らしい出会いを期待して、右腕の応募を待っています。

― 渡部さん、お忙しい中本当にありがとうございました!  

*「右腕」とは、被災地で新たな価値創出や課題解決に取り組むプロジェクトで原則1年間活動する、主に20代・30代の若手ビジネスパーソンのこと。 ETIC.では「右腕プログラム」として、2015年8月現在121のプロジェクトに217名が参画しています。

 

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落合 絵美

1982年生まれ、埼玉県所沢市出身。実家は300年以上続く専業農家。高校時代から物書きをめざし、作家の養成講座がある早稲田大学第二文学部に進学。並行して19歳から出版社に勤務。営業・経営企画・編集部を渡り歩く。2011年、震災発生の頃に、モノの作り方より話題化させる手法を学びたいと考えPR会社に転職。以来、企業規模や分野を問わず幅広くプロデュース。また、震災後復興支援活動に関わるようになり、プロボノとして公益社団法人の広報を担当。3億円以上のメディア露出を獲得。その過程で岩手県を第二の故郷として愛するようになり、現在は本業の他、東北食べる通信のサポートや岩手県一関市のPRを行う。