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多様な居場所の広がりが地域のつながりを育む【居場所づくりは地域づくり(2)前編】

2024.12.02 

近年、地域コミュニティの衰退が進んでいるといわれる一方で、NPOや自治体による「居場所づくり」が、地域活性化における重要な役割として注目されています。各地域では子どもや障がい者などが安心して過ごせる居場所が提供され、地域の一体感を育んでいるところもあります。

 

各地域において、さまざまな分野や地域で活動する居場所のプレーヤーたちが連携し始め、それぞれの協力が進みつつはあるものの、「より良い地域づくり」とは何かを、互いに模索している状況にあるのではないでしょうか。

 

そんな居場所づくりと地域づくりの関係性について、各地域の実践者からの経験談を共有しながら考えるオンライン連続セミナー「居場所づくりは地域づくり―地域と居場所の新しい関係性を目指して」第2回目が開催されました(実行委員会:認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ、NPO法人エティック)。

 

今回、全7回のうち第2回目の内容を抜粋してご紹介します。各地域での具体的な実践内容が参考になるでしょう。

 

<パネリスト>

竹内 祐子(たけうち ゆうこ)さん NPO法人新座子育てネットワーク 事務局長

伊藤 文弥(いとう ふみや)さん NPO法人つくばアグリチャレンジ(現 : NPO法人ユアフィールドつくば) 代表理事

守谷 克文(もりや かつふみ)さん NPO法人f.saloon 代表執行役

 

<モデレーター>

三島 理恵(みしま りえ)さん 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事

川島 菜穂(かわしま なほ) NPO法人エティック ソーシャルイノベーション事業部

 

※記事中敬称略。パネリストのプロフィール詳細は記事最下部に記載。

※イベントは、2022年12月に開催されました。本記事では当時の内容をもとに編集しています。

 

多様化する居場所づくりと地域づくりの関係性

三島 : まず始めに本イベントの趣旨と背景について、むすびえ理事長・湯浅の説明動画をご覧いただきます。

 

【以下、動画より】

みなさんは、居場所づくりと地域づくりの関係性をどのように捉えているでしょうか。

 

私はもともとホームレスの支援活動をしていて、当時の私は、地域に居場所がない方たちに居場所をつくりたい、そして地域社会にはその活動を受け入れ、理解してほしいと思っていました。理想の地域づくりとは、居場所にやさしい地域になることだとイメージしていたように思います。

 

一方、この10年ほどで、かつては頑強に見えていた地域の自治会や町内会などが急速に縮小していくのを感じていて、学校や家庭も余力を失いつつあります。その結果、「孤独孤立」が一般化し、地域コミュニティの衰退や無縁社会などと言われるようになりました。

 

私が直接関わっているのは、こども食堂の支援活動ですが、今ではNPO、自治会、学校など、さまざまな団体が居場所づくりに取り組んでおり、「居場所づくり」は「地域づくり」の一つのツールやコンテンツになりつつあると思います。

 

居場所づくりは、取り組む人が地域社会に「わかってほしい」と思いながら活動していたところから、「みんなが地域の一員として共に取り組むもの」に変化してきていて、理想の地域づくりも「多様な居場所のある地域にすること」という意識に変わってきている印象です。

 

ただ、居場所づくりと地域づくりの関係性の捉え方は、人や場所によって異なり、同じ言葉を使いながら違うものをイメージして話していると、通じているはずの話が通じていないということが起こりえます。今回、具体的な事例を共有しながら、居場所づくりと地域づくりがどのような関係にあるのか、みなさんと一緒に考えられたらと思います。

 

川島 : それでは前回に引き続き、「居場所づくり」「地域づくり」の関係について実践的な事例をもとに議論を進めていきます。

 

今回も、地域の中で居場所づくりに携わる者同士が、どのように「よりよい地域」を目指していくか、各活動紹介とともに議論を深めていきましょう。

地域の子どもと大人の接点を広げ町への愛着を深めたい―NPO法人新座子育てネットワーク 竹内祐子さん

竹内 : 埼玉県のNPO法人新座子育てネットワークは、1999年に設立された歴史のある団体です。自治体の委託を受けて、新座市で児童センターと子育て支援拠点をそれぞれ2か所運営し、利用者支援事業も行っています。また、東京都練馬区での子育て支援拠点の運営もしています。

 

新座市(にいざし)は世帯数が7万8114世帯、小学校が全部で17校あり、町内会は61あります。もともと町内会の参加率が高い地域ではありましたが、ここ数年ではその率も低くなりました。また、2020年には財政難から支援事業への予算が削減されたりと、地域と子どもとのつながりが減少しています。

 

子どもの地域とのつながりを広げるために、新座子育てネットワークは、新座市、教育委員会、商工会の後援と新座市社会福祉協議会の協力を得ながら「にいざ子どもの未来包括連携プロジェクト」を始動しました(2021年度から2023年度)。プロジェクトには次の3つの柱があります。

 

  • 17小学校区に子どもの居場所を作る――子どもひろばを提供する
  • 子どもの居場所で食を支える――フードバンクを整備する
  • ひとり親世帯支援――ひとり親世帯の食事支援や情報提供する

 

このプロジェクトのひとつの「子どもひろば」は、長期休暇中および月1回程度、各地域(校区)にて開催しています。市民とともに進める方針があり、イベント実施や見守り役として、市内の大学生ボランティアや民生委員の方々からご協力を得ました。また、子どもひろばの開催後には、企業や団体さまから寄付いただいたお菓子やおにぎりなどを詰めたランチパックも配付中です。

 

子どもひろばで過ごす子どもたちと地域の大人たち

 

実績としては、2021年には3か所だった居場所が、2022年度には、17か所まで拡大。全小学校区で1回はイベントを開催することができ、11月までに計128回開催しました。子どもの参加数は、のべ1162名となり、多くの子どもたちは、大学生のボランティアさんと一緒に本を読んだり、地域のボランティアさんと一緒に工作をしたり、それぞれに楽しんでくれているようです。

 

子どもひろばは、町内会が管理する市内43か所の集会所を利用させていただいております。集会所を利用しているのは、費用面や設備面からの理由もありますが、地域の大人と子どもの接点となる可能性があることも理由のひとつです。

 

集会所での「接点」を通じて、子どもは、安心して話せる大人が地域にいることを知る。そして、地域の大人も、どんな子どもがいるのか関心を持つようになり、互いの理解につながると思います。

 

なお、町内会長さんの中には、子どもひろばを通じて町内会の課題解決にもつなげたいと考えてくださる方もおり、互いにとって効果的な「場」になるとよいなとも思っています。

 

子どもと大人が接する機会が増えるため、子どもひろばは、単なる居場所だけではなく、地域づくりにも貢献していくと思います。大人も子どもも互いに「安心して過ごせる場所がある」と感じることで、地域への愛着や活性化につながっていくはずです。

居場所と地域の分断を解消しフラットな関係性をつくりたい―NPO法人つくばアグリチャレンジ 伊藤文弥さん

伊藤 : NPO法人つくばアグリチャレンジ(現 : NPO法人ユアフィールドつくば)は、つくば市で2011年に設立して以来、障がい者が働く農場やグループホームを運営しています。「障がいのある人たちがご機嫌に暮らせる地域づくり」をミッションに、主に以下の活動をしています。

 

  • 農場の運営(生産・貸農園・イベント):ごきげんファーム
  • 短期入所が可能なグループホーム
  • こども食堂など放課後の居場所

 

ごきげんファームは、徐々に広がり現在では市内に3か所あります。野菜だけでなく養鶏や竹細工制作など多様な事業に取り組んでいるところです。なお、野菜は年間120品種程度を生産し、1000羽を超える鶏も飼育しています。現状、100人くらいの障がい者のみなさんがごきげんファームで働いており、約300世帯に向けて販売しています。

 

また、ごきげんファームでは、一部の区画を「貸農園」として一般向けに提供したり、イベントによる交流会を実施してきました。これまでにイベントには200名を超す地域の人に参加いただいています。

 

地域の人と一緒に行った農場イベントの様子

 

わたし自身、身近な存在が障がい者だと知ったのをきっかけに、障がいのある方が感じる問題への理解が深まり、今の活動を始めるにいたりました。活動を進めていく上で感じていたのが、障がい者と地域の人との間の分断でした。

 

障がい者が安心して暮らせる条件として「働く場があること」「役割があること」「遊ぶこと」などがあります。そして、多くの福祉サービスでは、特定の居場所の中で、この安心して暮らすための条件を提供している場合が多いです。

 

しかし、障がい者に仕事があって収入があったとしても、いざ1人でとなると外に出かけられなかったり、買い物ができなかったり、日常生活の面で苦労を感じる場合があります。ときには、居場所の外では、地域の人から心ない言葉や態度を取られたと感じてしまうこともあります。障がい者が居場所と同じように地域で過ごせないのは「障がいのある人たちの居場所」と「障害のない人たちの居場所」が分断されているためだと感じました。

 

つくばアグリチャレンジは、分断を少しでもなくしていくために、農業・農場などの場所を通じて、障がい者のみなさんが地域の人たちとどういう関係を築くかを大事にしています。地域の方が野菜を購入することも1つの「関係」ですが、やはり、直接互いを知り合う機会を増やし、楽しい活動を通じて関係性を築くほうが、互いの理解が深まるのではないでしょうか。

 

交流の機会を増やすには、農場に多くの地域の人に来てもらうことが必要です。そのため、できるだけ農場では、地域の人たちが食べたいと思う野菜や、収穫してみたいと思う野菜を作っています。

 

こうしたふれあいの機会を通じて、地域の人たちの考え方が少しずつ変わっていくことを期待しています。この積み重ねが、居場所の外でも安心して暮らせる地域として「ご機嫌に暮らせる地域」を作っていくでしょう。わたしたちが目指す地域づくりとは、それぞれの居場所を離れても同じように過ごせる関係性が居場所の外にもあることだと思います。

地域のわくわくを増やして中高生のチャレンジを応援したい―NPO法人f.saloon 守谷克文さん

守谷 : 2016年に地域おこし協力隊として岡山県備前市(びぜんし)で暮らし始めたのをきっかけに、NPO法人f.saloon(エフサルーン)を設立しました。

 

地域おこし協力隊の経験から「地域の活性化(地域おこし)」を深く考える機会がありました。そして、人口増加、産業活性化、外貨獲得などの目標はあくまで手段であり、最終的なゴールではないと感じました。地域活性化の本質的な目的は「すごい、この街わくわくするよね」という気持ちを持った人を増やすことではないかと思い立ったんです。

 

地域への期待が高まることにより、地域での暮らしを肯定的にとらえるようになる人が増える。この「わくわく感」の連鎖的な広がりが、地域の活性化につながると考え活動しています。

 

わくわく感を広げるには、特に幼少期から青年期の間に「チャレンジする」機会が豊富にあることが重要です。活動の軸として、子どもたちにいろいろな機会と選択肢を提供し、それを地域の大人がサポートすることを大事にしています。

 

f.saloonは、主に以下の取り組みを進めています。(2022年時点)

  • 放課後スペース:INBase(インベイス:ユースセンター)
  • 中高生と地域の大人との対話:備前市だっぴ
  • 放課後児童クラブ
  • 高校生プロジェクトの伴走支援
  • 備前まなび塾・体験講座
  • 地域の学びのコーディネート

 

放課後スペースのINBaseは、2021年伊部(いんべ)駅にオープンしました。中高生が誰でも無料で使える場所で、学習しても、ゲームで遊んでも自由。また、INBaseでは、中高生のやりたいことを一緒に実現するお手伝いもしています。中高生が発案したアイディアを実現するために企業や大人を巻き込んだり、地域イベントの実施で中高生の意見を取り入れたりと、中高生の子たちが地域の大人と一緒に取り組みました。

 

中高生が主体的に実施・参加したイベント

 

たしかに、INBaseができる前にも、地域の関連団体によって「だっぴ」という、子どもと地域の大人が学びあう授業の取り組みがありました。しかし、この授業から中高生が「地域って面白いな」「何かもっと自分にはいろいろできるかもしれない」と思ったとしても、単発の取り組みのため、継続的に子どもの想いを広げるのには難しい点がありました。さらに、中高生が放課後に公共的な場所で集まれるところがほとんどなく、物理的にも受け入れる場がない状態でもありました。

 

そこで、中高生のやってみたいという探求心や気持ちを受け止めたり、中高生が優先される場の重要性を感じた経緯から、常設の「場」としてINBaseができたんです。

 

INBaseができたことで、活動が地域の大人たちの間で「楽しそうでなにかしたい」などのわくわく感が連鎖的に広がっていったり、地域での中高生向けの「場」としての共通認識が広がったりと、新しい変化が見えています。みんなで子どもたちを支え育てていこうという「ゆるい公共」になりつつあると感じました。

 

>> 後編「地域との関係性を深めていく居場所の存在【居場所づくりは地域づくり(2)後編】」に続きます (※近日公開)

 

<プロフィール詳細>

竹内 祐子(たけうち ゆうこ)さん

NPO法人新座子育てネットワーク 事務局長

岩手県出身。2005年から個人事業で地元矢巾町で地域密着型のフリーペーパーを発行。2008年、夫の転勤により廃業し、埼玉県新座市に転居。息子(現在大学3年生)が小学校の学校検診で大病が見つかり、看病に専念。2016年から、同法人が委託運営している「地域子育て支援センター」勤務。2019年、本部に異動。2021年より事務局長。

 

伊藤 文弥(いとう ふみや)さん

NPO法人つくばアグリチャレンジ(現 : NPO法人ユアフィールドつくば) 代表理事

1988年生まれ。筑波大学在学中より前代表理事の五十嵐の下で議員インターンシップを行い、農業の問題、障害者雇用の問題を知る。農業法人みずほにて研修を実施。ホウレンソウ農家を中心に農業の専門知識を学ぶ。同時に障害者自立支援施設でも勤務し、障害者福祉についても実地で現状を学び、つくばアグリチャレンジを五十嵐とともに設立、副代表理事に就任。第一回いばらきドリームプランプレゼンテーション大賞受賞。2012年公益財団法人日本青年会議所主催の人間力大賞にてグランプリ受賞、2013年世界青年会議所主催の「世界の傑出した若者10人」選出。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士。スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーとしても活動をしている。

 

守谷 克文(もりや かつふみ)さん

NPO法人f.saloon 代表執行役

1992年生まれ。京都大学公共政策大学院在学中に備前市に移住し、備前市地域おこし協力隊に就任。2017年にNPO法人f.saloonを立ち上げ、備前市全域において多くのステークホルダーと連携しながら、幼児期から青年期までを対象に様々な教育活動に取り組む。2021年10月に10代の居場所として放課後スペースINBaseをオープンし、地域と子どもたちを繋ぎ、自己実現と社会参画の機会を提供する。

 

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望月愛子

フリーライター。 アラフォーでフリーランスライター&オンラインコンサルに転身。夫のアジア駐在に同行、出産、海外育児を経験し7年のブランクを経るも、滞在中の活動経験から帰国後はスタートアップや小規模企業向けにライティングコンテンツや企画支援サポートを提供中。ライティングでは相手の本音を引き出すインタビューを得意とする。学生時代から現在に至るまでアジア地域で生活するという貴重な機会に恵まれる。将来、日本とアジアをつなぐ活動を実現するのが目標。 タマサート大学短期留学、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。