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屋久島を起点に、地域の未来をつないでいく。「再生型観光」の提案と島産木材の「循環」を促すサウナが始動──JINEN株式会社 波崎大知さん

2025.08.25 

リジェネラティブやネイチャーポジティブの領域に挑戦する起業家、研究者、企業人のインタビューをお届けする「【特集】PLANET KEEPERS 〜住み続けられる地球を次世代へ〜」。

 

今回は、4年前に鹿児島県の屋久島に移住し、インバウンド向けにリジェネラティブな宿泊施設を紹介するAI旅行エージェントサービスの運営や、都市と地方の資源循環を目指すサウナの開発を手がけるJINEN株式会社の代表取締役 波崎大知(はさき だいち)さん。今年(2025年)、これら2つの事業がスタートします。

 

屋久島という神秘的なエリアで活動するJINENの取り組みそのものや、解決したい課題などについて聞きました。

 

波崎 大知(はさき だいち)さん

JINEN株式会社 代表取締役

1996年、千葉県銚子市出身。大学時代、地元が「消滅可能性都市」に指定されたことがきっかけで「持続可能な地域」を探求する旅を開始。在学中の2018年に「地域の機会格差をなくす」ことを目指してEduTech分野でスタートアップを設立。その後、フリーランスのプロダクトマネージャーとして事業開発領域で活動し、株式会社musuhi(鹿児島県)取締役CTOを経て、2021年11月に屋久島に移住。2024年7月にJINEN株式会社を創業。

Webサイト : https://jinen.earth/

 

家業の継続性への危機感から、エコビレッジという理想像へ。「屋久島はそれを実現するには最高の場所」

──まずは波崎さんのこれまでの歩みについて教えてください。

 

大学生の頃に、地元である千葉県銚子市が「消滅可能性都市」に指定されていることを知りました。さらに、水産仲卸業を営む実家では、気候変動の影響で漁獲量が減少している、と。仮に私が継いだあとにも同じ仕事を続けていけるのか、不安になったんです。

 

そこで、自分に何ができるかを考えようと世界中を旅して、「持続可能な暮らしと地域」を実現することが大切だと思い至りました。

 

そのためには地域間の機会格差をなくすのが一番だと考え、在学中に教育関連のスタートアップを立ち上げたり、フリーランスでプロダクトマネージャーとして活動したりしました。

 

その間にも続けていた旅で、サステナブルな生活と環境や社会の調和を目指す「エコビレッジ」が構築されているエリアを巡って、いずれは自分もそういうものを作りたいと思ったんです。

 

それで2021年に屋久島に辿り着いたときに「ここは最高の場所だ」と確信し、移住したという流れです。

 

屋久島の海と山

 

──地元の持続可能性という着眼点から、屋久島に辿り着いたのですね。

 

話すとすごく長くなってしまうのですが(笑)。

 

例えば、旅で全国の森を巡っていたときは、魚つき林(うおつきりん)という魚の住処になる海辺の森が海を豊かにしている仕組みを知り、じゃあその森を作っているのは何かというと、コケ。そして土壌。そこから微生物多様性を探求するようになって。

 

そうした経験がすべて現在のJINENの取り組みにつながっているのですが、ここに行き着くまではとても長かったです。

 

屋久島を起点に全国各地の人々を巻き込みながら「循環」を促す仕組みで土地の未来をつないでいく

──JINENの事業内容について教えてください。

 

「しぜん」は自然と人をわけた明治以降に生まれた言葉である一方、もともとの読み方である「じねん」は人と自然の「つながり」を表します。その言葉を社名に据え、JINENは誕生しました。

 

世界に誇るべき日本の風土を通じて「いのちよろこぶ、旅と暮らし」を提案するライフスタイルブランドです。

 

JINEN株式会社のWebサイトより

 

事業として今走っているのは大きく二つあって、一つがインバウンド富裕層向けのAI旅行エージェント「JINEN TRAVEL」。こちらは今年9月に正式にリリースする予定です。

 

各旅行者にパーソナライズした「本物の日本」を体感できるお宿を紹介し、その土地で脈々と受け継がれてきた文化や歴史、生態系に触れることができる旅を提案します。ここで目指しているのは、単なる消費型ではなく、旅行者を通じて資源が再生され、その土地の未来につながっていくような「再生型観光」の実現です。

 

JINENが目指す「再生型観光」の理念イメージ

 

もう一つが、「JINEN SAUNA」です。事業が一般向けに始まるのは今年11月の予定なのですが、こちらはただのサウナではなくて「人も地球もととのう」をコンセプトに、屋久島の木材を使ったサウナの開発、販売、運営を行います。

 

特徴は3点あって、まずは「共創」。サウナのハコを造るのもワークショップ形式でみんなで組み立てて、運営も自律分散型の組織で行う仕組みを採ります。

 

画像右 : 宿泊施設「Årc yakushima|アーク屋久島」。併設する形でJINEN SAUNAを建設する

 

二つ目が再生型の建築。リジェネラティブ・アーキテクチャーというのですが、サウナに人が来れば来るほど自然も整っていくような建築手法を用いています。

 

単に自然環境に負荷を与えない「サステナブル」な設計を超え、自然環境をさらに良い状態へ再生させることを目指す建築設計の概念

 

そして最後が、科学。例えばライフサイクルCO2の測定。この建物を造って、運営し、壊すまでの間に排出されるCO2を測定します。また、建てる前後で微生物多様性の変化をチェックするといったような科学的なアプローチも採り入れています。

 

──それぞれ活動拠点はどちらなのでしょうか。

 

JINEN SAUNAはひとまず屋久島を中心に始める予定です。一方でJINEN TRAVELは全国各地で展開していて、その土地によって全く違う風土を感じてもらうことができます。

 

例えば、富山県の「楽土庵」というホテルだと散居村という風景があったり、奈良県の「ume,yamazoe」だと里森ステイという宿泊の在り方を推奨していたり、沖縄のヤンバルだと人口減少でなくなってしまいそうな集落の再生をテーマにしたりと、各利用者の興味や関心に応じて、観光を通じて多様な体験ができる仕組みになっています。

 

沖縄での活動風景

 

この事業では全国のローカルキュレーターのような方々に非常にお世話になっています。

 

具体的には、美しい風土を継承しようと取り組んでいるお宿を、その周辺で活動されているローカルキュレーターの方々に紹介してもらったり、実際に案内していただいたりして、研究者が定めているリジェネラティブ・ツーリズムの原理原則に資するかどうかをインタビューで確認させていただき、キュレートしています。

 

リジェネラティブ・ツーリズムの原理原則

 

──まさに多くの人と「共創」されているんですね。どのような思いを込めてそうした事業を構築されたのですか。

 

自分たちはホテルや宿を究極のところ、メディア、つまり媒介者だと捉えています。旅行者と地域をつなぐ存在だし、だからこそ、地域内の森や海、土壌、食文化など、あらゆる創作物にステークホルダーとしてつながっている。その起点になりうる存在なんです。

 

なので、需要と供給でいうと、供給側に我々のメッセージを伝えて、同じ思いを持った方がもっと集まってもらえたら、地域内もおのずと変わっていく。逆に、地域内でしっかりそういったものを構築していけば、対外的にもメッセージが伝わっていく。その意味で、一番のレバレッジポイントとして「宿」という存在は大きいです。

 

旅をしている際は、エコビレッジではどうしても経済性が成り立たないという事情があったんですが、今や、経済性と社会性を両立した宿ができ始めています。そこに着目し、事業構築に至った背景もありました。

 

世界有数の森林資源に溢れた屋久島。守るために、世の中の既存構造に適合させた事業内容や在り方を追求する

──屋久島の木々には守っていくべき古い木があると思うのですが、サウナの建材にはどのような素材を使っているのでしょうか?

 

その辺りはJINEN SAUNAでの解決課題に関わってきます。先日もちょうど高校生向けの授業で話したんですが、屋久島の木材は丸太やチップとして年間5000m³も島外に流出しているんです。25mプール約10杯分の量です。

 

しかも利益はざっくりした計算で、丸太2本もしくはチップ1m³あたり1万円。そうすると、丸太1本売っても植林に使う苗1本分にすらならないため、島内林業は補助金なしでは成り立たず、林業資源の循環ができないんです。

 

森から切り出された丸太

 

より詳しく見ると、島内に木材を二次加工する、つまり付加価値をつける場所がないために、丸太やチップとして島外に出ているという現状があります。それだとやはり収益が島に残らない。結果として、世界自然遺産である屋久島の森の荒廃につながる。だから、少しでも島産木材の付加価値を高めるのが、JINEN SAUNAの狙いです。

 

例えば、丸太の1%でもサウナキットとして販売できれば、売り上げは現在の200倍にもなる計算で、切った以上に植えることが可能になると考えています。

 

──全国の林業に共通している課題ではあるとは思いますが、あの屋久島でも同様とは少し驚きました。これからはどのような事業展望を想定されているのでしょうか。

 

JINEN TRAVELは2030年か2031年に、フラッグシップとなるようなリジェネラティブなホテルを全国10エリアに作ることが大きなマイルストーンになっています。各土地の風土を活かしたホテルの存在を世界にきちんと伝えて、新しい観光産業の当たり前を作っていきます。

 

JINEN SAUNAでは、ビジョンマップを作りました。

 

※クリックで拡大します (新しいタブで開きます)

 

今はひとまず、ステップ1の実証実験が終わり、ステップ2としてようやく11月に屋久島にサウナができあがります。

 

実は、東京にも造ろうと計画を進めていて、完成すれば旅にいかなくても都心でリジェネラティブを体験できる。むしろ東京にいるからこそ、リトリートが必要だと思うので、そういう空間を都心にも作っていく。

 

その上でステップ3として、東京でサウナを体感した人が地方に行って、何か貢献活動をするという、都市と地方の資源循環をつくりたいと考えています。

 

ステップ4はJINEN TRAVELにもつながるのですが、「Exit to Community」です。IPOやM&Aといった既存の株式の出口戦略における第3の道のことですね。

 

端的にいうと、JINENの株をみんなに持ってもらって、ホテルやサウナというコモンズな空間を、みんなで管理して次の時代につなげていこうという活動。それを株式を通じてやっていく。そこが最終的なステップです。

 

──資本主義の中に落とし込んでいくというか、既存の構造に当てはめながら、理想を実現していくことを深く計算されているんですね。

 

ようやく今年、プロダクトが二つともリリースされてこれからがスタートです。ぜひ屋久島に遊びに来てください!

 

──ありがとうございました!

 


 

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大田 魁人

滋賀県東近江市出身。同志社大学グローバル地域文化学部卒。在学中にアメリカのウェスタンミシガン大学へ交換留学(1年間)。卒業後は読売新聞大阪本社に入社し、新聞記者として神戸のほか、和歌山や淡路島といった地方でも勤務。事件や事故、政治、街の話題など幅広い分野で取材し、6年間で2500本以上の記事を執筆した。2025年3月末で退職し、フォトグラファー兼ライターとして独立。カメラ歴はもうすぐ10年。

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