慕う人たちは親しみを込め、”泰蔵さん”とお呼びしている、日本を代表する起業家であり投資家、孫泰蔵さん。2016年2月からスタートしたMAKERS UNIVERSITYの講師としていらした泰蔵さんに、創ること、そして10年後の未来について、お話を伺いました。
MAKERS UNIVERSITYで、起業を志す若者たちに話してくださったことや彼らとの対話の一部(詳しいレポートはMAKERS UNIVERSITYのWebで後日公開!)も織り交ぜてお届けします。
チャレンジする若者を全面的に支援する
泰蔵さんの起業家としての人生は、ジェリー・ヤン(米国Yahoo!創業者)との学生時代での出会いをきっかけに、学生起業家として会社を設立するところからスタートしました。
Yahoo! JAPANの立ち上げに奔走したその頃から常に時代の先を走り続け、2002年にガンホー・オンライン・エンターテイメントを設立(2005年に株式上場)、ラグナロクオンラインやパズドラの成功はご存知の方も多いでしょう。2009年にはスタートアップベンチャー支援のためMOVIDA JAPAN株式会社を設立。「2030年までにアジアにシリコンバレーのようなベンチャー生態系をつくる」ため、たくさんのイノベーターへの支援と投資を続けています。
泰蔵さんは10年後をどのように見て、どんな未来を創りたいと考えていらっしゃるんでしょう?
「創りたいのは、イノベーターがどんどん社会をよくするように変えていく社会です。イノベーターが、自分で思いついたアイディアを"やってみよう!"とチャレンジをする。チャレンジをしていく中でどんどんブラッシュアップされていって、それを周りの人たちがあと押ししてくれる。もし失敗したとしても、何度でもチャレンジできる。そういう社会を創りたいですね。」
たしかに日本は、失敗した人に厳しい。失敗を「よくやったね」と受け入れる文化はまだまだ根付いていない。チャレンジをする人たちが尊い、というふうにみんながみんな思っているわけではないようにも感じます。泰蔵さんがおっしゃるような社会を実現するためには、これから何が必要なんでしょう?
「一つはまず成功事例。ロールモデルになるような事例が出ることだと思います。人がみな憧れるような大成功というものではなくて、"彼にもできるのなら、自分にもできるかもしれない!"、といったような身近なものでいい。かつそこで創られたプロダクトやサービスが、世界に対して大きな価値を提供できていて、社会を変えている。そういう仕事をする人たちがひとりでもふたりでも生まれると、後に続く人たちが出てくると思います。
もう一つは、チャレンジする若者たちを、現実的かつ具体的に支援すること。イノベーションを創る担い手は若者だと思います。本質的には年齢は関係ないのですが、やっぱり若い人のほうが馬力があって突破できる可能性も高い。先輩たちは、支援を現実的に提示することが必要。"どう支援するべきだろうか?”といった議論の段階はもうとっくに終わっています。具体的にカタチにすること、その積み重ねなんだろうなと。」
若返りできるなら、僕は君たちの年になりたい
数々のイノベーションを生みだし、たくさんのイノベーターたちを支援してきた泰蔵さんは、10年後の未来についてどう考えているのでしょうか。MAKERS UNIVERSITYの講義の中でもたびたびトピックとしてあがっていました。たとえば…
「いまは時代が大きく変わる時。この10年、劇的な変化が起こる。たぶんみんなが思っている以上に、すごいことになる。若返りできるなら、僕は君たちの年になりたいよ。それぐらいすごいタイミングなんだ。もちろんいいことばっかりじゃなく、苦しむ人たちもたくさん出る。時代の変化に適合できない弱者も生まれる。そこを解決していくこともやらなくてはいけない。
ロボットやAIが、アルゴリズムが、人間の代わりにありとあらゆることを担うようになる。雇用はおそらく減るでしょう。その時、イノベーションを起こして、人間ができること、新たに雇用を創ることが必要になってくる。それを担うのが、スタートアップ。大企業にそれはできない。AirbnbやUberを巡る社会の反応を見てもわかるように、イノベーションは常識をくつがえすもので、社会的にも賛否両論がある。大企業はそうしたリスクはとれない。できるのは、失うものが何もない人たち。それがスタートアップなんだ。」
若者たちからも、泰蔵さんが未来をどう見ているのか質問が飛びます。
ーこれからたいへんな時代になる、と感じている。未来はどうなるでしょうか?
「予測じゃない。”未来を予測するいちばんいい方法は、それを発明することだ”。このアラン・ケイの言葉を心に叩き込んで。"たいへんな時代になる"、というのは、ほっておいたらそうなるよ。自分たちが未来を創っていく、ということ。」
ワクワクスタートアップ!
そして泰蔵さんは、ご自身が支援しているたくさんのスタートアップを紹介することで、問いに答えました。どんな水でも飲料水に変えることができる水循環のシステムを開発するスタートアップ。肥料なしで食べものを生産できる新しい土を創っているスタートアップ。自動運転を開発しているエンジニアの話。そして移動そのものから開放されるためのVRのスタートアップ...。
どのプロジェクトも心の底からワクワクするものばかり。全てがうまくいくわけではないとしても、スタートアップは人にワクワクを与えてくれること、まるで極上のエンターテイメントを味わっているようなワクワクした気分にしてくれることを、会場の皆が感じていた気がします。
何よりも泰蔵さんがワクワクして伝えてくれていることがわかります。その若々しさ。もしかしたら泰蔵さんは、自身が起業した20歳そこそこの時分よりももっと若い気持ちで、今ワクワクしているのかもしれない、とすら感じます。"わくわくする未来を、今まさに創っている"ということを、泰蔵さんは楽しそうに、そして真剣に、若いイノベーターたちに伝えます。
「真剣勝負をやっているときが、人は一番伸びる。ギリギリのところで、どれだけいいプレーができるか。そこで実力が伸びる。だからガチでやること。 そしてもう一つは、"とはいえ楽しんで"ということ。楽しまないと続かない。起業家たちはみんな、めっちゃ楽しいからやってるんだ。楽しい方向へ。楽しくなければ楽しい方向へ修正していくこと。"ガチ”と”楽しんで”の2つね。」
最後に、新しいモノやコトを創っていくとき、チャレンジしていくとき、切り拓いていくとき、突破するコツのようなものがあったら教えてください、と尋ねてみた。
「うん。悩んだ時は、ワイルドなほうへ行く。実現可能性が高い選択肢と、わけがわからないけれどもやってみたらわけがわからないことになるかもしれない、という選択肢があった場合。ワイルドなほうへ。そのほうが自分自身が盛り上がるということ。そして周りが、「こんなわけわからないことをやろうとしているヤツがいる」とバズる。広げてくれる。共感する人たちが現れてくる可能性が高くなる。"take a walk on the wild side”(*)。」
*ルー・リードの名曲”Walk on the wild side”からの言葉
Mistletoe株式会社 代表取締役社長/孫泰蔵
東京大学在学中にヤフージャパン立ち上げに参画、ガンホー・オンライン・エンターテイメントをはじめ、起業家として多数の事業を創造する。「アジア版シリコンバレーの創造」を目指しスタートアップの創業支援でも活躍中。
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