「イギリスでその名を知らぬものはない」と言われる国民的人気シェフ、ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver)。日本でも彼の料理番組やドキュメンタリーが放映されていたので、知っている人も多いのではないでしょうか。
筆者が彼を知った2000年には、まだあどけないジーンズにTシャツ姿のカジュアルで気さくなお兄さんでしたが、現在は40歳、4児のパパとなっています。そんな彼が一躍有名になったのは、単にレストランがヒットし、料理本が売れ続けているセレブリティだからではありません。彼は無業の若者たちの育成、学校給食の質の向上など、社会を変えるために奮闘する「社会起業家」なのです。
イギリスの国民的シェフ、ジェイミー・オリバー(wikipediaより)
ドキュメンタリーがきっかけでブレイク
1975年、ジェイミーはイギリス・エセックス州にて、レストランを経営する両親のもとに生まれました。幼い頃からディスレクシア(知能や理解力はまったく問題ないが、読み書きが困難な学習障害の一種)に悩まされたジェイミーは16歳で学校を辞め、料理人を目指します。
フランスやイタリア各地で修行を積んでいたジェイミーに転機が訪れたのは1997年のこと。ロンドンの「リバー・カフェ」に務めているときにBBCの目に留まり、Christmas at the River Caféというドキュメンタリーに出演することになります。
その後、1999年の英BBCの料理番組「裸のシェフ ジェイミーのシンプルクッキング」で大ブレイク。彼の人気はイギリスだけでなく、欧州各国・アメリカ・オーストラリアにまで広がり、加えてこの年に首相官邸で開かれた迎賓昼食会でシェフを務めるなど名実ともにトップシェフの地位に登りつめます。
それから現在に至るまで出演した料理番組は30本以上、なかでも2002年からスタートした「Oliver's Twist」は、世界50か国以上で放映されています。
無業やホームレスの若者たちをプロの料理人に
ジェイミーは10代の頃から「シェフという仕事は、教育や社会のメインストリームから外れてしまった若者たちにとって、希望のあるキャリアパスになるのではないか」と考えていました。それから10年後、このアイディアはテレビ局との協働により実現します。
彼のアイデアはいたってシンプル。それはロンドンに評判のよいレストランを開業し、無業の若者にレストランビジネスで働く経験を提供するというものでした。
2002年、Channel4のドキュメンタリー番組「Jamie's Kitchen」の一環でレストラン「Jamie Oliver's Fifteen in London」を開業。社会からドロップアウトした15名の若者をトレーニングし、修了者にはFifteenでの職を提供します。トレーニングの様子や開業までの物語は高視聴率を叩き出し、オープン時には連日長い行列ができたそうです。
Fifteenの外観(撮影:著者 本当においしいです。)
ジェイミーの社会起業家たる由縁は、テレビ番組のためのパフォーマンスに留めず、毎年若者を採用し、12ヶ月間のトレーニングを提供し続けているところにあります。
調理に関するコースに加えて、自己啓発やカレッジの教育を提供し、独り立ちできるプロの料理人を育成しています。なお、プログラムを受けたシェフたちの75%は継続してFifteenで働いているそうです。
Fifteenの開店と同時にジェイミーは「Fifteen Foundation」を設立し、収益を再投資してより多くの若者の社会復帰に役立てています。現在はイギリス国内のコンウォール、そしてアムステルダムにも展開しています。
Fifteen Foundationが毎年発行しているインパクトレポートを読むと、2014年はロンドンで16人がFifteenの教育プログラムを修了、30,736時間を費やし、出席率は100%を達成しています。また、115のアウトリーチプログラムが、1,000人以上の若者にレストランをはじめとするサービス業に興味を持つきっかけを与えたと報告しています。
なお、2003年、ジェイミーは「Fifteen」での青少年教育の功績が認められ、エリザベス女王より叙勲されました。また、ドキュメンタリー番組「Jamie's Kitchen」の続編はその後も継続されており、若者のチャレンジは視聴者によって見守られています。 次回はジェイミー・オリバーの学校給食革命「Food Revolution」を紹介します。
参考 Youtube Fifteen TV Jamie's Kitchen Jamie Oliver about Fifteen Jamie Oliver Food Foundation
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