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日本古来の食の知恵で、自分自身で健康をつくる未来を(伝統茶{tabel}・新田理恵さん)

2016.03.29 

花粉症にはカモミールやペパーミント、美肌にはローズヒップのハーブティー。「美味しいから」だけでなく、体のためにお茶を愛飲している方も多いはず。

そんな薬草茶の世界で、古くから日本にある在来植物の力に再び光をあてようとしている女性がいます。八代の日本古来のはすの葉茶、石垣島の香り華やか月桃茶をはじめとした伝統茶{tabel}のブランドから、日本に“新しい”医食同源の食文化をもたらそうと事業を展開する、新田理恵さんにお話をうかがいました。

新田理恵さん

伝統茶{tabel}代表・新田理恵さん

食と薬の間のあつーい壁をなくしてしまいたい!

- 10年後のために、どんな未来をつくりたいですか?

 

今よりも一人ひとりが自分たちの力で健康をつくっているのが当たり前の未来をつくりたいと思っています。 今の時代、「どう生きていくのか」という価値観が多様になった分、個人の軸が求められているなと思うんです。

そして、それは「何を食べるか」も含まれている。そんな中、日本は「食で健康をつくる」ということが表面上は言われていますけど、本当の意味で実践することは非常に難しい。

伝統茶三種類

左から霧島のカキドオシとハトムギ茶、八代の日本古来のはすの葉茶、石垣島の香り華やか月桃茶

- 新田さんにとって、「健康」とはどういう状態のことを言うのでしょうか?

 

WHOが言うところの健康の定義は、単に疾病でないということではなく肉体的、精神的、社会的に満たされている状態を指し、私もそれをベースに考えています。つまりはその三つが満たされ幸せを感じられ、困っている誰かを助けてあげられる余力のある状態でもあるのではないでしょうか。

また、東洋医学の考え方からすれば、呼吸や自然がそうであるように、新陳代謝が生命活動の基本なので、あらゆる要素が滞りなく巡っている状態、うまく新しいものを取り入れて周囲の変化に適応できる状態、偏りがなく調和している状態とも言えると思います。 例えば、水も流れていると腐りませんが、一カ所に溜まると痛みます。

私たちも狭い密閉空間にずっと居ると、酸素を使い果たして死んでしまいます。二酸化炭素を酸素に変える植物がいたり、多様な生物と共存し、子や孫に継承していくことでより安定して個々の寿命を遥かに超えた長い時間を生きていくことができます。変化し、循環することが健やかな生命活動なのではないでしょうか。 新田さん - 海外にはそういった「健康」が一般的になっている国はあるのですか?

 

例えば、台湾だと「食予報」というのがあって、食と健康がすごく身近なんですよ。「明日の最高気温は30℃になります」のあとに、「暑いので水分補給をかねて果物を食べてくださいね」というように続いたりするそうです。気候に応じた食のアドバイスがついてくるんですね。

 

- さすが薬膳の国、食が健康をつくるということが本当に当たり前に受け入れられているんですね。

 

そうなんですよ。食に関する古来の知恵がどんな人にも普通にシェアされていて、さらにそれをメディアが肯定して伝えているんです。 一方で今の日本だと、食と薬の間にすごーく厚い壁があるんですよ。

例えば、私がつくっている薬草茶も食品なので、法律の規制によってどういった効用があるかを書くことができないんです。「朝におすすめ」みたいなことすら書くことができなくて。要は、「薬」のような振る舞い方をしてはいけないんですよね。そんな背景もあって、「薬」という漢字が入っているから薬草という言葉も使うことができないんです。ですので、伝統茶という言葉で代用しています。

 

- 日本では昔から薬草が薬として機能してきたのに、なんだか不思議ですね。

 

そうですよね。伝統医療に対してここまで否定的な国は珍しいと思います。日本では西洋医学だけが「医学」とされている傾向がありますけど、中国では漢方の方が遥かにメジャーですし。特にここ2〜3年、中国に限らず海外では伝統医療、漢方であるとかアーユルヴェーダなどの「東洋医学」が、西洋医学と同じくらい大切にされつつあります。

日本はそういった新しい流れを汲み取るのがすごく遅いので、追いつくまで10年かかるか、20年かかるかわからないです。けど、今のうちから少しずつ種をまいていけたらいいなと。 薬草を摘む

薬草はゲームの世界で使うもの?

- そのために伝統茶の事業はどのように変化していきそうでしょうか?

 

伝統茶に限らずですが、食によって人を健康にするのが私のミッションだと思っていて。けれど、ひとりひとりが審美眼を持って自分の体に合うものを選んでつくることって、難しい部分も多いです。なので、「何気なく食べていたものが実は体に良かった」という状況にするのが大切かなと思うんですよ。

例えばお刺身には大根の添え物がありますけど、あれは大根の消化酵素がお刺身の消化を助けてくれるからであるとか、当たり前だと思ってきたことに裏づけもあることですね。

そういうことの積み重ねをサポートして、「食が健康をつくる」という文化をつくっていければと思っています。 そのために、まずは薬草をもっと身近にする工夫が必要だなとは思っていて。「苦そう」であるとか、「お年寄りが飲むもの」だとか、男の子は「ゲームでしか使ったことない」とか、そういった感じなんですよ(笑)。 新田さん - ゲームで使ったことがあるなら、ぜひリアルでも利用してもらいたいですよね(笑)。

 

本当に(笑)。そんな“縁遠さ”から、もっと身近なものにしたいと思うんです。パッケージでジャケ買いしたくなるぐらい商品をかわいくするとか、純粋に美味しいものであるということを知ってもらえればと。そのために見せ方を工夫したり、試飲していただいたり、ワークショップをひらいて接点を増やすことも大事だなあと。

薬草も300種類以上ありますけど、今はとにかく美味しいものからピックアップして販売しています。 とはいえ、薬草は潜在的にみんなの興味の範囲内にあるものだとは思うんですよ。食と健康、ローカル、そしてオーガニックというキーワードに、植物も今ブームがきてますし。逆に言えば、こういった薬草の周りにあるキーワードがブームになっているのに、薬草に集約されていないことも課題の1つなので、ここを結びつけていくことも重要だなと思っています。

カロリーだけでは支えきれない人間の複雑さ

- そうした思いは、どんなきっかけから生まれたのでしょうか?

 

私は食べることが大好きで。というのも、パン屋の娘に生まれて、まわりは魚市場だったり野菜市場だったり、食べ物に関するお仕事に囲まれて育ったんです。そんな中、高校2年生のときに父が糖尿病になったりと、食が凶器になる経験も何回かしました。

でも、食べるという字は「人を良くする」と書きますよね。身内が食から病気になる体験をして、本来の食のあり方である「食で人を良くする仕事」がしたいと思って、管理栄養士になったんです。 ただ、その過程で学んだ栄養学と現代の西洋医学に違和感があって。例えば身長160cmで体重が50kgの同年代の女性は、みんな同じメニューになってしまう。同じ人であっても、ちょっと疲れた日もあれば、体調を崩しやすい月もあれば、すごく元気な日もあるという人間のバイオリズムの影響がそこには含まれていなかったんです。

単純に何キロカロリー摂ればいいといった視点だけでは、人の食を支えきれないなと思うようになって。 ただ、栄養学も優れている面もあるので、新しい視点を取り込んでアップデートしたくなりました。 イメージ画像 そんなときに出会った薬膳で、食べ物で体は変わっていくんだなと本当に実感しました。けれど、薬膳には日本では日常的に食べない食材が必要だったりするんですよ。9割が海外産というクコの実や松の実を使いはじめるなかで、海外のものが悪いというわけではないんですけれど、無農薬栽培のものがほしいとかちょっとしたこだわりを入れ始めたときに、そういった情報が記載されていなかったんです。

どうしたものかなあと思っていたとき、そのころ大好きだった蓮の葉茶を飲んでいて「蓮っていうのは蓮根の葉っぱだよな〜。それって日本にもあるんじゃないの?」とふと思って。さらに調べてみると、商品にはあまりなっていなかった。そこから思い立って、「蓮根、無農薬」「蓮根、無農薬栽培」のキーワードで調べて、農家さんに連絡しちゃいました。

何千年も続いてきた産業の、新しい翻訳者になる

- 急展開ですね(笑)。

 

そうなんです(笑)。結局、行き着いた熊本の農家さんに葉っぱをわけていただけて。それから、同じ九州で阿蘇や霧島など薬草産業が残っているところにおじゃまして、薬草の先生にお話を聞いたり、薬草工場を経営している若いお兄ちゃんにお話を聞いたりしました。ふたを開けてみるとすぐにでも商品を生み出せるような状況にあったし、明確なニーズがあるという実感もあって、点と点をつなぐだけで大丈夫だという感覚が芽生えました。 薬草を育てている農家の方 そこから、ひとまずは100個単位の小さなところから始めようと思っていたタイミングで、偶然クラウドファンディングの営業のメールがきまして。「おお、これはやるか!」という感じになり、そこで2か月間かけて100万円ちょっと集めて、それを活動資金にしていきなり商品をつくることができたんです。

 

- いきなり事業に展開したんですね!びっくりです。

 

そうそう。トントン拍子過ぎて、自分でも驚くぐらいのスピードでした。やっぱり薬草産業は日本に何千年と根づいてきて、それを生業としている方たちがすでにいらっしゃったという状況があって、一気に進めたのかなと思います。 薬草

ひらめきは直感で

- なるほど〜。新田さんのなかで、ひらめきを捕まえるコツがあったら教えていただけますか?

 

わりと女性的なので、直感でいっちゃいますね(笑)。今回は、パッと上手くいくイメージが浮かびました。商売って基本的に作り手がいて、伝える方がいて、買う方がいる。今回は使い手と作り手が明確に思い浮かんだので、あとは私が伝えるだけで大丈夫だと思って。そして驚くぐらい薬草がおいしかったので、私自身もたくさんの人に届けたいものだと、心から思ったんですよね。薬草が面白くてのめり込めたから、結果的に加速できたんだと思います。

 

- 壁にぶつかったときにも、同じように直感を採用してきましたか?

 

そうですね。直感はいままでの人生の経験則なので信じて使います。あと、そのときはとにかくアンテナを張ったり、乗るべき波を見極めるたりすることは大切にしています。そのために、気になるところにはとにかく行く、コミュニティに参加して情報を得て、ためらわずに飛び込む!ということの繰り返しのなかでいろんな方に出会うこともできました。好きなことをやっていくと、自然とその方向にうまく進める種が集まってくるんだなと思いましたね。

 

- 行動あっての、直感ですね。

 

そうですね。行動の積み重ねがあるから、いざというときに選択肢も多いし「信じて良し!」というGOサインが出せるのかもしれません。

この記事を書いたユーザー
村上 萌

村上 萌

1988年静岡県生まれ。高校卒業後、管楽器の修理人を3年間経験後一念発起して大学へ。法政大学卒業後は人材系企業で自社運営の新卒採用求人サイトの大学・学生向けプロモーションや、中途採用人材紹介の法人営業に従事。2015年3月より、配偶者の転勤により南アフリカ共和国在住。現在はクラウドソーシングでコラム執筆などを行っている。

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