近年、「インパクト投資」「社会的インパクト投資」という言葉を日本でもよく耳にするようになってきました。2015年には、神奈川県横須賀市で何らかの事情で親と別居している子どもたちへの養子縁組を対象としたインパクト投資のパイロットプログラムが始まっています。
社会課題の解決を、投資という手法を活用して、資金を有効に使っていく新しいアプローチとして世界的に注目されている「インパクト・インベストメント」(以下、インパクト投資)とは、一体何なのでしょうか。誰が何にどのように投資することで、誰がどのようなリターンを得るのでしょうか。インパクト投資の概要をまとめつつ、世の中のトレンドを追いました。
インパクト投資が生まれた経緯とコンセプト
2009年、クリントン・グローバル・イニシアチブにおいて、インパクト投資のコンセプトを提唱している団体「グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク(GIIN)」が正式に立ち上がり、インパクト投資のコンセプトが世界に広く知れ渡りました。
GIINの定義によると、インパクト投資とは「金銭的(経済的)なリターンと並行して、測定可能な社会や環境へのインパクトを生み出す意図に基づき、企業、組織、ファンドによって行われる投資」とされています。
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Starfish Impactを参考に筆者作成
上記の図に沿ってこれまでの経緯を説明していきます。
図右上Pure Profit(ビジネス)の観点からは、経済的リターンのみを追求する ① 伝統的な投資(Traditional Investment)から、社会や環境への投資の在り方が考慮された ② SRI(Socially Responsible Investment)、③ESG Investment(Environmental, Social and Governance)の流れを経て、現在、社会や環境へのインパクトを重視している「インパクト投資」の流れがあります。
① 伝統的な投資(Traditional Investment)
投資家の金銭的(経済的)利益のみを追求した投資。例えば、VC(ベンチャーキャピタル)、PE(プライベートエクイティ)、ヘッジファンドなど。
② SRI(社会的責任投資)
CSR 企業の社会的責任を考慮した投資。例えば、「途上国などで違法な児童労働をして生産している企業には投資しない」といった、企業が社会的責任をきちん果たすことが結果的には株主価値への増大に繋がるという考え方を基本とした投資。投資対象のベンチマークとして、社会的責任の遂行度が高いと考えられる世界主要先進国の上場株式会社約300社により構成されるDow Jones Sustainability World Index (DJSI World)などが採用されています。
③ ESG Investment (Environmental, Social and Governance)
財務情報だけではなく、環境・社会・ガバナンスなどの非財務情報を考慮した投資。
一方、図左上Pure Social(非営利)の観点からは、慈善事業や寄付といった④慈善投資(投資家は、税制控除など税制上の優遇措置を受けるため「投資」という言葉が使われています)から、社会や環境への投資の在り方が考慮された、 ⑤ ベンチャー・フィランソロピー、⑥ PRI(Program-Related Investment)を経て、現在、社会や環境へのインパクトを重視している「インパクト投資」の流れがあります。
④ 慈善投資(Philanthropy Investment)
慈善事業への純粋な資金提供(行政や財団の補助金、寄付など)
⑤ ベンチャー・フィランソロピー(Venture Philanthropy) 投資
積極的に投資先団体への関与を増やし、キャパシティビルディングをするベンチャーキャピタルの手法を用いたベンチャー・フィランソロピー(Venture Philanthropy) 投資。
⑥ PRI(Program-Related Investment)投資
プログラム(特定のミッション)にフォーカスした投資で、ビジネスの手法を用いて、リソースを有効活用し、社会的インパクトを最大化することと、投資家に出資してもらえるようなファイナンスの仕組み(出資者のリスクの軽減など)を活用しています。
インパクト投資は、下図のように経済的利益(儲け)のみを追求する投資と慈善投資の双方が合致する部分が対象領域となります。投資家は利益のみを優先せず、環境・社会に配慮した投資が求められる一方、事業者は、効率性や社会にもたらす測定可能なインパクトを意識することが求められます。
事業をするためには、事業を回すための最低限の収益が必要です。事業の持続性(sustainability)を担保し、ビジネスが参入しにくい(利益がでにくい)分野にもリソースを回していき、社会にインパクトをもたらすこと(社会課題を解決すること)に投資するという新しいコンセプトの投資です。 とはいえ、あくまでも投資家はある程度のリターンを求めるので、経済的リターンが見込まれることは重要ですし、社会的インパクト(死亡率、出生率、就学率など)を測るためには、事業の成果を測定可能なものにしていく必要があります。
置き去りだった社会課題に投資する、Social Impact Bond
ソーシャルインパクトボンド(SIBs)はインパクト投資の1つの手法ですが、英国、米国、豪国などでは受刑者の再犯教育、ホームレスへの就労支援、子どもの教育、ヘルスケアサービスなど様々な分野でSIBsを活用したインパクト投資が行われています。
日本ではまだ一般的に馴染のないSIBsですが、冒頭でもご紹介したように昨年2015年から神奈川県横須賀市でSIBsのパイロットプログラムを開始しています。このプログラムでは、何らかの事情で親と別居している子どもたちへの養子縁組を対象としています。本来、そういった子どもたちは児童養護施設で成人するまで生活することになっていて、その人数が増えれば、施設の維持費や職員の人件費などをはじめ、行政が負担する様々な運営費も増加することになります。
事業は専門の一般社団法人に任せる。投資家から集める事業費は約1900万円。目標は1年で4組の縁組成立だ。生まれた子どもが18歳まで施設で暮らすと仮定すると、4人分で約3500万円の経費が必要という。養子縁組の目標が達成できれば、事業費を返してなお1600万円の行政コストが浮く。この一部を配当に回せば、出資者の利益も確保できるわけだ。逆に縁組が進まなかったときのリスクは出資者が負う。 (日本経済新聞より)
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引用元を参考に筆者作成
パイロットプログラムでは、日本財団が試験的に事業費を拠出しています。実際の運用時には、投資家から資金を集めることになるでしょう。そうすると、事業者には、投資家への説明責任を果たすことが求められます。
こういった形で、いままで置き去りにされてきた社会問題の解決にお金や人などのリソースを集約して「どうすれば資金を有効に使えるのか、なにをもって解決というのか」を可視化していくことが、インパクト投資の本質といえるでしょう。
「インパクト投資」に関する記事
>> 非営利事業における「事業の成果」とは何なのか? どう測定されるのか―内閣府の「社会的インパクト評価に関する調査研究」報告書より
>> 話題の「ソーシャルインパクトボンド」、各国の取り組み状況とみえてきた課題 ―ブルッキングス研究所レポートから(1)
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