人口1,500人ほどの小さな村、岡山県西粟倉で、地域に拠点を置くベンチャー企業、通称「ローカルベンチャー」が次々に生まれ、注目を集めています。起業に視野に入れた移住「Eターン(Entrepreneurial-Turn:起業型移住)」の現在を伝える「特集Eターン」でも、西粟倉でローカルベンチャーが生まれる背景にある、村役場の挑戦をお伝えしました。(記事はこちら。)
それでは、実際に西粟倉にEターン(Entrepreneurial-Turn:起業型移住)した方は、どのようにこの地域と出会い、どのような思いで移住という選択をしたのでしょうか。今回は、昨年起業型地域おこし協力隊に採用され、現在は西粟倉で子ども向け帽子ブランドの経営をする山口千夏さんを取材。インタビューを通して、起業家にとって西粟倉が持つ、意外な特徴が見えてきました。
※「Eターン@西粟倉前編」「後編」も合わせてご覧ください。
●役場でも、「無理だろ」は禁止--年間売上1億のベンチャー創出を目指す、西粟倉村の挑戦【Eターン@西粟倉 前編】
●起業資本は、鹿や猪。移住者が語る、地方だからできるベンチャーのかたち【Eターン@西粟倉 後編】※公開予定
移住するからといって、仕事をあきらめたくなかった
「こんにちぼうし!」というあいさつで迎えてくれたのは、西粟倉へのEターン者の一人、山口千夏さん。森の学校(旧影石小学校)の一角で子ども向けの帽子ブランド「UKIYO」の経営に取り組んでいます。
山口さんは、都内の帽子ブランドで販売・企画・MD業務を勤めたのち、2013年に退社。2014年4月から、郷里である福島県いわき市で妹さんと共に「帽子とCAFÉ UKIYO」という帽子屋兼カフェを営業していました。
「でも、結婚を機に夫の勤め先がある西粟倉に移住することが決まったんです。 『仕事はほどほどにして、余暇を楽しむ』みたいな田舎暮らしに、憧れる方も多いと思います。でも私には『子どもが帽子好きになるきっかけの帽子を作る』という目標があったので、どうしても仕事をあきらめたくありませんでした。
そんなとき見つけた、西粟倉のローカルベンチャースクールの情報は、『余暇を楽しめますよ』ではなく、『挑戦者募集』と打ち出していて。『移住しても、仕事をあきらめなくていい』っていうメッセージを感じたんです。」
ローカルベンチャースクールで、目標が実現に近づき始めた
山口さんはローカルベンチャースクールの最終プレゼンテーションで、「子どものための帽子ブランド」を提案。見事起業型地域おこし協力隊の枠を勝ち取りました。
「事業計画は、まだ練り切れていない部分もあったので、ローカルベンチャースクールに参加する前は『講師のみなさんにどう突っ込まれるだろう……』と不安に思っていました。
でも、スクールでは事業計画だけでなく『自分がやりたいこと』を徹底的に聞かれて。今思えば、事業そのもの以上に“本気度”が問われていたんだと思います。私は『子どもが帽子好きになるきっかけの帽子を』という熱意を伝えることで、起業型地域おこし協力隊に選ばれることができました。」 また、ローカルベンチャースクールのゲスト講師を務めたサイバーエイジェントクラウドファンディング社長・中山亮太郎さんから、「クラウドファンディングで資金を集めるといい」というアドバイスを受け、クラウドファンディングサービス「makuake」で支援調達を実施。山口さんは23万円の資金を集めました。
山口さんは今年6月に西粟倉村に移住、準備期間を経て8月10日(ハットの日)には事務所の隣に、店舗となる「帽子屋UKIYO」をオープンし、オンラインショップも開設する予定です。山口さんの「子どもが帽子を好きになるような帽子を」という目標は、ローカルベンチャースクールを通じて、専門家の助言や事業のための資金を得ることから始まり、一歩一歩実現に近づいているようです。
田舎暮らしは、意外と忙しい
また、移住してみて意外だったこともあったとか。
「田舎での仕事というと、時間的なゆとりを持って取り組めそうなイメージがあるかもしれません。でもわたしは、西粟倉に移住してからかなり忙しく働いていますよ。
というのも、西粟倉では移住して起業した仲間が多く、しかも地域がコンパクトなので、とても近い距離にいるんです。だから、みんなそれぞれの分野で全力疾走しているのを、日常的に目の当たりにする。 そうすると、『負けないぞ!私ももっと頑張らないと!』って、自分も全力で走るようになるんですよね。その結果、田舎だけどすごくやりがいを持ちながら、忙しく働けるようになりました。」
西粟倉に限らず、「都会より地方の方が忙しい」という声は、地方への移住者がよく口にします。「仕事よりも余暇を充実させたい」というのではなく、「仕事も全力で取り組みたい」という方にとって、地方は、やりがいを持って全力で働くことができる場にもなるのではないでしょうか。
Eターン者が孤独になりにくい環境がある
山口さんの話から、西粟倉では役場の職員をはじめ、ローカルベンチャーの先輩たち、移住・起業を促進する団体や地域の人々など、Eターン者を支えるネットワークが形成されていることが見えてきました。
「起業」には、一人で課題に立ち向かう、孤独なイメージがあるかもしれません。実際に移住を受け入れている地域の中には、移住者に対するフォローが十分でないところもあるでしょう。 しかし西粟倉では、たとえ起業するのは一人だとしても、たくさんの挑戦者とともに走ることができます。つまり、Eターン者が孤独になりにくい環境が整っていることが、西粟倉に多くのEターン者が集まっている背景にあるのでしょう。
さて、次回はもう一人のEターン者、松原圭司さんのインタビューをお届けします。もともと大学では国際経済学部に所属し、ビジネスコンテストに出るなど、経済に関心を持っていた松原さんが、なぜ西粟倉でジビエの流通加工業に取り組むことを決意したのでしょうか。乞うご期待ください。
お知らせ
(1)2016年、西粟倉村は北海道厚真町と協働で、ローカルベンチャースクールを開校します。
東京でも、実際に地域の方から話を聞く「利きまち トークライブ」と、ローカルベンチャースクールの事前講習会も予定されているので、西粟倉へのEターンに興味を持った方はぜひ、ご参加ください。
ご応募、詳細は以下から。
●2016年 西粟倉村・厚真町ローカルベンチャースクール 事前講習会
(2)山口さんの新しい店舗が8月10日(ハットの日)にOPEN!
「帽子屋UKIYO」
住所/〒707-0503 岡山県英田郡西粟倉村大字影石895(旧影石小学校内 2.5階)
営業時間/11時〜17時
営業日/火、水、金、土、日、祝
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>> 起業資本は、鹿や猪。移住者が語る、地方だからできるベンチャーのかたち【Eターン@西粟倉 後編】
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