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あなたが好きならそれは正しい。NPO法人グリーンズ・高橋奈保子さん(後編)

2017.10.23 

仕事を“つくる”女性のライフストーリーを届ける連載、「彼女の仕事のつくり方」。5人目は、NPO法人グリーンズ/学校・事業部マネージャーの高橋奈保子さんです。

>>前編はこちらから。

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コミュニティとは縁遠い10代

桐田:働きだしてからは学びの場づくりをテーマにされている高橋さんですが、どんな10代を送られてきたんでしょうか? やっぱりコミュニティには関心がありましたか?

 

高橋:いえ、それが実はまったく。小・中学校は学級崩壊の最中で、怒って机を投げてる子がいたりして、なんで皆こんなに怒ってるんだろうとはよく思っていたな、というくらいで。一方私は、怒る理由がなくて、嫌なことは悲しいなと思っていたけど、大人も人間だしなあ、そんなに怒ってもしょうがないなあって思いながら静かにしていて、そんな感じなのであまり居心地はよくなかったです。

小学校・中学校って“スクールカースト”がすごく明確じゃないですか。評価軸が一つという感じがしていて、そこの評価軸に入らないと、やっぱり居心地悪いなって。入っていないことを自覚していましたし。これは大人しくしているのが吉だって、高校が終わるくらいまでずっと思ってました。

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桐田:高校もですか?

 

高橋:高校生のときは、ヴィジュアル系のバンドのおかっけばかりしていましたよ。昨日もライブ行ってました! ヴィジュアル系の歌詞は、内向的な人に響くんです(笑)。周囲にも、昔聞いてたって人は意外と多いから、隠さず皆堂々と言えばいいのにと思ってますけど。 そんな感じだったので、今みたいな学びのコミュニティ作りに関心を持つなんて、高校生までの自分からはまったく想像がつかなくて。

あなたが好きならそれは正しい

桐田:そうだったのですね。でも、特にグリーンズさんには色んな方の出入りもありますし、現在ではかなり大きなコミュニティにコミットされていますね。

 

高橋:そうです。でも、あまり拒否反応はないですね。自分の生きる社会をより良くしていきたいとか、気持ちの部分で楽しくつくっていきたいとか、大事にしたいものを大事にしたいとかが、共通しているからなんだろうなと。あと、わたしにはわからないけれど、あなたが好きならそれは正しいと思っているところがありますね。

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桐田:それは無敵じゃないですか。

 

高橋:無敵ですかね(笑)。

 

桐田:人の好きなことで受け入れられないことがないっていうのは、すごく素敵なことだと思います。

 

高橋:よほどの公序良俗に反することでなければ、確かに受け入れられないということはないですね。割と良いところしか見えてこないというか。悪いところをあげるときりがないから、嫌だなって思っていて。自分の悪いところも、そこしか見ないと負のスパイラルになりますから。

 

桐田:良いところを見て、良いスパイラルを生んで、みな元気になってということですね。

 

高橋:そうそう。そこの循環する役割だったら、わたしはできるなと思っていて。あとはグリーンズの皆はすごくまっすぐというか、テーマがそれぞれにあるし、それを動かしていきたいという前向きさがあるので。たまに挫けちゃうときもあるけど、それを一緒に支えあっていけることはすごく大事だなと感じています。

 

桐田:支えあっていける。

 

高橋:大丈夫だよという声の掛け合いや、この人に相談したらいいよといった言葉や。わたしもやってもらっているので、その分誰かに返していけたらと思っています。

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桐田:助け合いの循環ですね。

 

高橋:だからやっぱり、声に出すって本当に大事なことだなって思っているんです。プラスの言葉や悩みは循環しますし、それがいい解決を持ってきてくれることもあります。ある人の声がまた違う人の勇気になったりもしますし。そういった勇気を出せるプログラムや場所を作っていきたいなと、強く感じています。

 

桐田:勇気を出せる、信頼関係が醸成されるような場ですね。こんなにコミュニティに気持ちがある人がいて、どんどん育っていくならば、100年後は安泰ですね。

 

高橋:戦争起きませんように。

「いいよね、できて」という嫉みの思考サイクルから脱したかった

高橋:仕事については、わたしはずっと仕事してるのか仕事してないのかよくわからないなあと思っていて。「せねばならぬ」って言いがちですけど、そういった義務感よりも、「やりたくてしょうがない」という方が自分の中で強くなってきています。

 

桐田:どの仕事に対してもそうでしたか?

 

高橋:前の仕事は義務感がちょっと強かったですね。自分がこれをやった方がまわりまわって地域も良くなる、いいきっかけになるかなと思ったことが、関係性の中でどうしてもできなくなっちゃうだとか、うまく自分の力を活かしきれなかったというのが課題としてあって。おそらく仕事をするうえで、それぞれの「こうしておいた方が穏便に動く」という配慮がすぎると、何も動かなくなるんでしょうね。それが段々続いていくと、何のために仕事をしているのか、そもそも何を目的にしていたのかとかすごく疑問を持ってしまって、けれどそこでぶつかる気力がなくなっちゃったり。

 

桐田:文化としても、ぶつかるということがなかったのでしょうか?

 

高橋:そうそう、しんどいですよね。それが続いちゃうと体に出てきたり、見るものも全部マイナスから始まるようになってしまう。人の話を聞いても「いいよね、できて」という嫉妬が出てきてしまうという思考のサイクルがすごく嫌だなあと思って、環境を変えたいし、もっと自分と同年代の人と働きたいし、今働いておかないとこの先働けなくなっちゃうなと思って、グリーンズに転職したんです。グリーンズで働いて感じることは、場所に縛られるわけではなく、テーマそのもの自体があるからか、人がくっついたり離れたりという有機的なコミュニティになっているなということですね。

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桐田:条件が決まっちゃうと視点が固定されますからね。

 

高橋:そうなんですよ。そこから自由になるって、けっこうハードルが高い。日々視点が固定されないように工夫していくので限界がきそうだなって。だったら最初から枠組みを緩めにした方が新しいチャレンジもしやすいだろうなと、ここにいるとすごく思います。

 

桐田:枠組みの緩さが、人が入ってくるスペースにもなるのでしょうね。

 

高橋:そうそう。

どう仕事と暮らしを循環させていくか

桐田:仕事と暮らしとなったときに、高橋さんは分かれている感じはありますか?もしくは一緒でしょうか。割合があれば、教えていただければ嬉しいです。

 

高橋:今は一緒になっている気がしています。ただ、その割合は8:2くらいで仕事:暮らしなんですよね。でも、それを5:5にしたいと思っていて。 グリーンズのスクールでも「仕事をつくる」「暮らしをつくる」と分けてはいるんですが、この二つは実はもっと総合的な感じがしていて。暮らしの側面から入っていってそれが仕事に影響があるとか、仕事の側面から入っていって暮らしが少しマイナーチェンジしていくとか、そういった循環が、人の生活として気持ちが良いなと感じているんです。

そう考えると、現状分断されていることにすごく違和感があって。暮らしは暮らしでド丁寧、仕事は仕事でバリバリとか、両極を行き来できる人がいればいいんですけど、皆そんなに器用ではないと思うので。どう仕事と暮らしを混ぜ込んでいくか、両方への時間のかけ方と、考えていることがどう両方にリンクして循環していくかとかが、最近のテーマですね。

 

桐田:どちらかが、おざなりにならないということですね。

 

高橋:おざなりにした結果は、体に出ると感じていて。それだと現在やっていることの後々のインパクトを考えると、あまり効率的じゃないですよね。

 

桐田:100年人生ですからね。

 

高橋:100歳生きたいな〜。100歳になったときに、世界がどうなってるか見たいです。 働いていている時間は、最近すごく減ってきているなと思っていて。すごく働いているようにみられるんですけど、昨日とか実質稼働時間3時間くらいですよ(笑)。その間にバーッと仕事の連絡をして、早めに帰るときは帰るとか、次の日イベントで遅くなるなら午前中休むとか工夫しています。そうしないと本当に続かないから。私もよく指摘されますけど、努力で積み上げていくことをどうにかしてやめる工夫を最近考えていますね。

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桐田:女性は体力が落ちるの早いなって思うんです。特に自由裁量の仕事をし始めて気づく、男性との圧倒的な体力の差というか……。こればかりはもう、努力にも限界があると感じます。あと性別だけでなく、個人差もありますしね。

 

高橋:そこの個人差がもっと言いやすくなるといいですよね。最近グリーンズでも言うようになったんですけど、わたしは生理前の眠さや貧血がひどくって。上司に、「1か月4週間のうち2週間は使いものになりません」って伝えたら、「ほんとにー!? そんなになの」ってなって(笑)。数字にすると伝わりやすかったですね。大事な会議はここに入れないように気をつけますとか伝えて。入っちゃうんですけどね、どうしても。でも、言ってあるかどうかで甘えられるので、全然楽です。

 

桐田:いつもと違ってもいいやって。

 

高橋:そうそう。あとは現場を見せることですかね。調子悪いところを見せて、「顔色悪いね」「でしょう、帰ります」って。だって我慢できないくらい調子悪いのに我慢しちゃだめでしょう、倒れますよ。よくみんな頑張ってるなって、本当に思います。

クリエイティブを学ぶ学生たちにとって、多様な進路の一つの見本であれたらいい

桐田:高橋さんはこれから、「働き方」という視点から見たらどんな存在でいたいと思っていますか?

 

高橋:わたしは美大を卒業していますが、大学の同級生も30代後半にさしかかってきて、社会起業や地域とつながる暮らし方・働き方への関心度がすごく上がってきていて。この10年くらいはすごい変化の年だったなって感じるんです。

これまではどちらかというと、クリエイティブを学ぶ学生たちは自分たちで可能性を閉じていたなという感じがしていて。美大で学んだ「絵を描く」「デザインする」が、そっくりそのまま、自分の仕事になる必要は、必ずしもない。今は、キャリアの積み方として、休学やインターンも、複業もフリーランスも、起業だって当たり前に存在する時代になっていますよね。そうやって自分のキャリアを自分でデザインできる時代なんだったら、もっとクリエイティブを学んだ人たちからもそういうあり方をする人が増えていけばいいなと思っています。そして、その一つの見本に、自分がなれたらいいなと思っています。

 

桐田:高橋さん、本日は長いお時間ありがとうございました!

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。