椎葉村は、宮崎県の北西の山間に位置します。3000人ほどが暮らし、その面積の約96%を森林が占める緑豊かな村です。昔ながらの日本の山村の原風景が残り、「日本三大秘境」の一つともいわれる椎葉村。そんな椎葉村では、新たに地域おこし協力隊を募集しています。そこでまずは、村の暮らしや仕事を知ってもらおうと、スタートアップキャンプというイベントを企画しています。
椎葉村は、昔から続いてきた日本の山村の文化が色濃く残り、そこで暮らしてきた人々の知恵や技が受け継がれている地域です。ここ数年、そうした知恵や技を学びたいといって移住する人たちが増えつつあります。椎葉村のことを地域おこし協力隊・村上健太さんと椎葉村役場の椎葉豊さんに教えていただきました。
椎葉豊さん:椎葉村には、26地区に伝統的な神楽が残っています。特に高齢者の方には、自然からの恵に感謝するという心が根強くあります。
村上健太さん:この村の人は、焼畑を始めるとき、山に入るとき、春や冬のお祭りのときなど、何をするにも神事を欠かさないんです。日常の中で、神様の存在が近い。冬の神楽も、農業と密接に結びついている。自然の恵に対する感謝が浸透しているんです。
さて、外から地域に入るときに気になるのは、その地域の人たちに受け入れてもらえるかということ。新しい場所に飛び込むときは、不安になることもあるものです。そんなとき、外から来る人たちと地元の人たちをつないでくれるのが、移住コーディネーターの村上健太さんです。
村上さんは、地域おこし協力隊として椎葉村に来て、約半年。以前の村上さんは、東京で15年ほど働いていたといいます。そんな村上さんが東京を離れたのは、どんな思いからだったのでしょうか。
村上:僕の人生のテーマに、「たくましく生きたい」というのがあって。東日本大震災後に、大鎚町にボランティアで入っていたことがあったんです。津波で全部流されて「どうしよう」というときに、立ち上がったのは、じいちゃん、ばあちゃんでした。じいちゃんやばあちゃんは、そこにあるもので、煮炊きを始めた。どうしてそんなことができるのかと聞くと、「小さいときにやっていたことをやっているだけ」と言うんです。どんな状況になっても生きていけるたくましさを身につけたいなと。
その後、移住先を探してさまざまな地方の暮らしを見てきたという村上さんは、椎葉村を訪れたとき「ピンと来た」いいます。村上さんは、椎葉村のどんなところに魅かれたのでしょうか。
村上: 猟でその年のいちばん最初に獲れたイノシシは、山の神様にお供えします。自然の営みの中で生きているんです。それが、「こういうのがしたいんだよな」という自分の思いと一致しました。「じいちゃん、ばあちゃんが優しい」、「水がうまい」、「伝統文化が残っている」というような一つ一つのことは、全国の他の地域にもあると思います。でも、そうしたいろいろなものが高いレベルでそろっている場所というのが、ここなんです。
椎葉村は、便利とは言えない立地。でも、便利な街から遠く離れた場所だったからこそ、昔ながらの日本の山村の文化が、生活に根づいたまま残っているのかもしれません。
東京の仕事を辞めてからの1年、さまざまな地方の暮らしを見て歩いたという村上さんは、椎葉村の地域おこし協力隊の仕事を選びました。村上さんが地域おこし協力隊に応募したとき、「椎葉村はいちばんレスポンスが早く、すぐ返信があって。そういうのも含めて、他とは違うなと思った」と言います。
また、椎葉村役場の前向きな姿勢も決め手だったそうです。「(椎葉)豊さんの人間性や考え、その思いにも共感できた」と村上さんは話します。そして椎葉村出身で役場に勤める椎葉豊さんも、村上さんを応援している一人です。
椎葉さん:椎葉村は10地区に分かれていて、地区によって文化や性格が違います。でも、どの地区でも、人を受け入れていこうという気持ちは強いかな。
椎葉村で暮らしている村上さんも、地域の人たちに「受け入れてもらっている」という実感があるそうです。
村上さん:家で水が出なくて困って、大家さんに相談に行ったことがありました。僕はその週末は仕事で東京に行くので、後から一緒に修理をしてくれると。その週末は台風が来ていたんですよ。でも、家に帰ってみたら、水が出る。いつのまにか、直してくれていたんです。
集落の行事に積極的に参加する村上さんのことを受け入れながらも、「そんなに全部出ようとしたらパンクするが」と心配して声をかけてくれる人もいるそう。村上さんにとっては、今の地元の人たちとの関係は「ここちよい距離」のようです。
さて、そんな椎葉村では、新しい地域おこし協力隊を募集しています。椎葉村の地域おこし協力隊には、どんなことが求められているのでしょうか。
椎葉さん:椎葉村の人たちの中には、椎葉村が大事に守ってきたものをつないでいく使命があるという思いがあります。地域おこし協力隊には、そのためのしくみをつくってほしい。椎葉村が大切にしてきたものを広く伝えること、継承していくこと、未来に向かってアレンジしていくことです。
そのために、今回は6つのミッションで募集が始まっています。どんなミッションなのでしょうか。
椎葉村、6つのミッション
ローカルライターは、椎葉村の魅力を掘り起こし、伝えていく読み物を編んでいく仕事です。椎葉村では、これまでも外部のデザイナーの小野さん(オノコボデザイン)と協力し、冊子を製作するなど情報発信に力を入れてきました。
こうした冊子を通して、椎葉村の人が逆にその価値に気づくこともあったそうです。
今回のローカルライターにも、地域のウチとソトの両方への発信が期待されています。人や場所、歴史など魅力的な素材がたっぷりある椎葉村。文章や写真だけでなく、自分の得意分野を生かして、編集、映像などの展開も歓迎しているとのこと。
椎葉村は、外部の地域とのアクセスが難しい立地から、自分たちで保存食を作ったり、固有種の野菜があったり、「食」にも自然の恵みを生かす知恵や技が息づいています。そうした伝統的な食文化を受け継いできた人たちの高齢化が進んでいます。そこで、そうした伝統食をつないでいく人を募集しています。「フードデザイナー」のような新しい視点で、さまざまな角度から椎葉村の「食」を生かすことも歓迎とのこと。「伝統を守りつつ、進化させていきたい」と椎葉さんは話します。
椎葉村の人がまだ気づいていないミッションを提案してほしいという願いから始まった募集です。自分で椎葉村で取り組みたい企画を提案することができます。椎葉村の資源をさらに活かしてやりたいことがある人には、ぴったりです。スタートアップキャンプなどを利用して、椎葉村のことをよく知ったうえで、提案してほしいとのこと。
「百姓」とは、百のなりわいを組み合わせて暮らすことができる技術を持っている人、ということ。椎葉村で脈々と受け継がれてきた、そうしたなりわいを学ぶことができるのが2017年からスタートした「椎葉村百姓なりわい塾」です。先生になるのは、椎葉村の大先輩、爺さま婆さまたちです。そうした人たちと、昔からの知恵や技を学びたいという人たちをつなぐのが仕事です。すでにコーディネーターとして活動している地域おこし協力隊と協力して、新しい学びの場をつくっていきます。
世界農業遺産にも認定されている椎葉村は、伝統的な焼畑、26地区で行われている神楽などの伝統文化、「日本三大秘境」とも言われる大自然など、さまざまな資源があります。ただ、それは、地域の人たちにとっては何気ない日常の風景でもあります。それを外からの視点で翻訳し、「観光」という切り口で光をあてることがミッションです。
椎葉村は、標高300-800mに位置し、冬は日中で平均5-6度になります。高冷地であることを生かして、ミニトマトやほうれん草、花などの栽培が盛んです。3年間地元の農家さんのもとで農業の技術を学び、3年後に農家として自立できることを目指します。3年後もハウスを借りられるなど、フォローアップ体制も万全。また、希望者は、今回からは牛の畜産にも取り組むことができます。
また、冬季の農閑期に、狩猟や自伐林業、染物などのなりわいを複合的に学べるのも椎葉村ならでは。現在すでに、20代と30代の地域おこし協力隊が活動しているそうです。こちらは、最大3名まで募集。
そして、地域おこし協力隊への応募を考えている人に、ぜひ参加してほしいのが「スタートアップキャンプ」です。「秘境なので、どういうところか知ってもらいたい。実際に来てみて、ミッションを理解してもらうことが大事」という思いから、企画されました。期間中には、「ONLY ONE Shiiba」のデザイナー、小野さんなどを迎えた講座も開かれる予定。このキャンプから「新しい人のつながりが生まれること」も期待しているとのこと。12月は、神楽などで村がにぎやかになる時期。ぜひ、この機会に、椎葉村を訪れてみてはいかがでしょうか。
スタートアップキャンプInfo
▼趣旨
地域おこし協力隊として椎葉村に移住するに際し、日本三大秘境とも呼ばれる椎葉村への環境の 適正を確認する。 また、応募に際して企画書や作品の内容が重要視されるミッションに関して、その現場取材の機会も兼ねる。
▼開催要項
・日時:2017年11月27日(月)~12月3日(日)
※コア期間は12月1日~3日 参加費:無料(現地までの交通費は自己負担) 。ただし、お試し体験事業にて旅費等の半額助成(最大5万円)が可能です。
・参加条件:18~45歳までの男女。学歴不問。年齢制限応相談。家族同時応募可。
・申し込み期間:2017年10月2日(月)~11月20日(月)
▼内容
・コア期間は村内の魅力が伝わる講座等のプログラムを実施。 (自由選択制であり、自由行動するのもOK。ただし、いづれかのプログラムには要参加)
・キャンプ終了後の地域おこし協力隊への応募は任意
・食事は基本、共同自炊。宿泊地は簡易宿泊所。
・詳細は、応募者へ個別にお知らせします。
★お申込みリンクはこちら:https://goo.gl/forms/KLEp2QE1hRu7veU23
あわせて読みたいオススメの記事
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
大切なのは地域にマイルドな競争を起こし続けること。巻組・厚真町の取り組み〜地域と企業の共創の未来(2)
#ローカルベンチャー