ローカルベンチャー協議会(事務局NPO法人ETIC.(エティック))が主催した「ローカルリーダーズミーティング2024」は、今年で第3回目を迎えました。今回の舞台は、宮崎県日南市(にちなんし)にある油津(あぶらつ)商店街。
「つながるって、前進だ!」を合言葉に掲げ、地域のプレイヤーや行政職員、起業家など全国から約140名が集結し、ローカルと結びつきの深いテーマを専門とする研究者との活発なコミュニケーションが行われました。商店街周辺の店舗やスナック、企業の会議室を会場に、研究者と参加者が語り合ったセッションの様子をお届けします。
この記事では、長野県塩尻市(しおじりし)で「地域の人事部」として活動する、NPO法人MEGURUの横山暁一さんが登壇されたセッションをご紹介します。「地域への愛着を育み、人材定着につなげるローカルオンボーディング研究会」のテーマをもとに、ご自身の活動の事例発表のほか、参加者との対話の時間も設けられました。
全国各地の地域や企業で課題となっている人材不足。横山さんの考えや言葉の中に、解決のための糸口が見つかるかもしれません。
横山 暁一(よこやま あきひと)さん
NPO法人MEGURU 代表理事、合同会社en.to 代表社員、塩尻商工会議所 地域人材コーディネーター
1991年生まれ。静岡県沼津市出身、長野県塩尻市在住。名古屋大学卒業後、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)に入社。2019年からパーソルキャリアと兼業する形で長野県塩尻市の地域おこし協力隊に着任。塩尻商工会議所の地域人材支援を務める。2020年には並行して「地域の人事部」をテーマとしたNPO法人MEGURUを設立。産学官金連携のコレクティブインパクトによる地域の人材課題の解決に挑戦中。
大手人材会社と地域おこし協力隊。兼業で浮き彫りとなった地域の課題
――横山さんは大学卒業後、大手人材会社のパーソルキャリアに入社し、約5年間企業の人事サポートや採用支援等に従事しました。2019年からは、当時ではめずらしい兼業という形で長野県塩尻市の地域おこし協力隊に着任。塩尻商工会議所に籍を置き、パーソルキャリアで時短勤務をしながら、地域企業の人材支援をスタート。ここで明らかになったのは、自身が所属する人材会社が地域企業に対して提供できるサポートの限界でした。
「長野県の令和5年度における年齢別人口を見ると、18歳は18,000人であるのに対し、0歳は11,300人です。18年後の成人者が、約7,000人も減少することに衝撃を受けました。高卒採用が難しいと言われている中で4割の減少となると、地域の“人”の領域は、従来の日本の雇用慣行では地域も企業も立ち行かなくなるのではないでしょうか。また、塩尻市が小中学生に行った“将来どこに住みたい?”というアンケート調査では、塩尻市と回答した小学生が70%であるのに対し、中学生は18%という結果に。“働く”や“就職”だけではなく、この地域で”生きるという選択肢を持ちにくい現状があるのではないかと感じました」
「塩尻市の協力隊として多くの企業と接点を持つ中で、その多くが人材不足に悩んでいることに気づきました。しかし、どの企業も小規模事業者で、予算やサービス、リテラシーの問題などから民間の人材サービスを利用できる企業はなく、大手の人材会社が地域の企業に対してできることが限られていることを実感したのです。
また、塩尻市は行政が前のめりに様々な町づくりの挑戦を進める良さがある反面、担当者の異動や予算がなくなることで“人”の領域での事業継続できないケースもありました。人に関する事業は長期的な視点で継続しないと結果が見えないものであり、公でできることの範囲を超えているのではないかと感じました。さまざまな要因が重なり、協力隊2年目を迎えたタイミングでNPO法人MEGURUを設立し、現在に至ります」
「人材不足は、企業努力だけでは解決できません。教育の問題や行政の課題、人材会社の問題などが多面的に絡み合っているため、特定の部分だけを改善すればいいというものではありません。
一民間企業が、単独で事業を行うのではなく、企業支援、教育支援、行政などが共創し、多面的に取り組む必要があると感じたことから、地域全体で人材課題に取り組むためのコンソーシアムを設立しました。これは、人材活用のあり方が限界にきている現状を打破し、新たなあり方をみんなでつくりあげていこうという共同体です」
ミッションは、地域ぐるみで人の価値を最大化すること
――2020年にNPO法人MEGURUが起点となり、人材活用の新しいあり方を模索するために設立されたコンソーシアムは、行政や商工会議所を巻き込み、現在では11の機関が共同で活動しているところです。2024年7月には全国初となる地域の人事部連携協定を締結し、各機関がリソースや予算を持ち寄り、事業を共有しながら、塩尻市における人的支援の価値向上を目指してそれぞれの役割を果たしています。
「私たちは“地域の人事部”としての役割も担っています。その際、大事にしているのが、緊急度と重要度を軸に考えることです。たとえば、緊急度も重要度も高い部分にあるのが正社員の雇用です。
企業はできる限り早く優れた人材を確保したいため、お金を出して募集を行い、行政も合同企業説明会などのイベントを開催しています。しかし、これからの人材不足に向けて本当に大切なのは緊急度は低く重要度が高い領域です。将来に向けた人材の育成やキャリア教育、社員だけでなく外部人材も含めた新しい人材活用のあり方を模索していくことが必要不可欠です。
地域の人事部が掲げるミッションは“地域ぐるみで人の価値を最大化する”ということ。私たちは、単に人口や就職者数の増加だけでなく、自分の能力を高め、地域でそれを発揮したいという人たちを育てること、また塩尻市に住んでいなくても、自分の時間や能力という資本を地域に投資したいという思いを持つ人たちも含め、塩尻市が持つ人的資本の総和を高めることが重要だと考えています」
「はたらく、生きる、すこやかに」のビジョンのもと、3つの事業領域を展開
「地域の人事部として展開中の事業を、もう少し詳しくご紹介します。1つ目は自分らしく働く人をつくる“個人支援事業”。2つ目は人が活きる組織をつくる“法人支援事業”、そして3つ目は共創を生み出す地域をつくる“地域共創事業”です。
個人支援事業では、中高生のキャリア教育や大学生のキャリア支援、関係人口の創出などを展開しています。私は、職業や仕事内容を知ることがキャリア教育ではなく、自分の生き方を考えることが大事だと思っています。
そこで、中高生向けには“いきはたインタビュー”という活動を実施しました。塩尻市内の企業に勤める社員に、職業や肩書きを伏せた状態で“働く価値観カード”を書いてもらい、生徒が話を聞きたい人にインタビューを行うというものです。これにより、職業はあくまで手段であることに気づくきっかけとなります。
法人支援事業では、社内に人事がいない企業に対して、外部人事として伴走支援を提供しています。叱られながら歯を食いしばって頑張ってきた世代の経営者が、今の若い社員への接し方に関して悩むことが多く、マネジメントスタイルや組織に対する考え方はどんどん変容しています。さまざまなワークや対話を通じて社員との向き合い方に自ら気付き、少しずつ社員のやる気が見えてくると、社員一人ひとりを信じようとする経営者が増えてきています。
NPO法人が単体でできることには限りがあります。そのため、金融機関の行員や商工会議所の経営指導員勉強会を行っています。企業の人材支援や伴走ができる人たちが育つことで、より地域の企業をサポートできるようになるからです。
最終目標は、MEGURUがいなくても各社にしっかりとした人事機能が備わることです。1社1社の人事力が高まることで、地域全体の人材吸収力が向上します。自分らしくはたらくく人、人が活きる組織、それを支える共創を目指す地域をつくることで、地域の人材循環を生み出していきたいと考えています」
ローカルオンボーディングとは?
――オンボーディングの元の意味は、飛行機や船などの乗り物に乗り込むことです。そこから転じて、人事用語として社員が組織に定着し、戦力化するためのプロセスを指すようになりました。“ローカルオンボーディング”という言葉は、耳慣れないかもしれません。横山さんたちが最近つくった言葉であり、現在もその明確な定義を探っている段階だからです。
「我々が考えるローカルオンボーディングとは、地域というフィールドに愛着や役割を持ち、成長や成功を体験することで、地域を軸に自分の人生を考える人たちが増えるということです。
たとえば、地域内の学生が企業や社会人とオープンに話し合う場を持つことや、ロールモデルが生まれることで、共創や挑戦する機会が増えます。これにより自己形成が進み、さらに自分が役に立てたという自己効力感が生まれると、地域への愛着や自分の居場所、役割を感じることができるのです。このような経験をした子どもたちが社会人になると、自分たちの会社を自分たちでいい環境にしていく動きが生まれ、その結果、会社への定着につながります。
実際に、地域の人事部の事業は、ローカルオンボーディングの要素を多く含んでいます。中高生が探求活動を通じて公民館や社会福祉協議会と連携し、顔の見える関係性が生まれました。ほかにも、新入社員研修の一環として行なっている地域同期研修では、地域のフィールドワークと課題解決策を考える実践活動を取り入れています。企業の課題解決プロセスを地域で実践するもので、その後も継続して地域活動に参加したり、会社外で活動する社員が増えています。
事業がはじまってから4年が経ちますが、インターンを経験した学生たちが就職後も地域で活動するようになり、経年変化が見えてきました。中学生や高校生の頃から地域に出て活動している子たちは、大学に進学しても、社会人になっても地域参画へのハードルが低く、活動しやすいことが分かりました。このつながり、役割、成長体験の3つがローカルオンボーディングの軸だと考えています。今後も、これらを各事業に散りばめながら、長期的に地域にコミットし、活動していく人材を育てていきたいです」
ローカルリーダーズミーティング2024では、この他にも全国の自治体や中間支援組織の参考になる事例の紹介やディスカッションが多くされましたので、気になる方はご覧ください。
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