新公益連盟が、加盟する77団体を対象に(うち44団体がWEB回答形式アンケートで回答)、労働環境やキャリア、報酬などの状況を調査した結果をまとめた、『ソーシャルセクター組織実態調査2017』を発表しました。
多くの社会的課題を抱える現代において、その解決に取り組むソーシャルセクターの役割は年々大きくなっています。それゆえ、「ソーシャルセクター」を支える人材には高い期待が寄せられていますが、優秀な人材を確保するためには、魅力的な労働環境は必須条件。一方で、ソーシャルセクターの仕事は、一般企業の仕事や労働とは違う、ボランティアや慈善活動と重ねてイメージされる傾向がまだあるのも事実でしょう。
ソーシャルセクターは魅力的なキャリアとしての選択肢になりうるのか。一般企業の現状と比較しながら、新公益連盟が調査結果をとりまとめた資料をもとに、その実情について詳しく紹介します。
ソーシャルセクター組織の概要
ソーシャルセクターの活動自体は、東日本大震災などの影響もあり、以前に比べると世の中の認知も広がっていますが、活動の主体となる組織の概要についてはまだあまり知られていません。調査結果を見ていく前に、本調査に回答した44団体の組織の概要を見てみましょう。
・創業年数は、10年未満が過半数ではあるものの、15年以上の団体は15%と長期経営の団体も少なくない
・有給の従業員規模は30人未満が過半数だが、100人以上の団体は16%ある
・売上規模は3億円未満が大半だが、売上5億円以上の団体が7%ある
・活動領域は子どもの健全育成を図る事業等現場を持つNPOが66%を占める
・法人格はNPO法人が大半を占めるが、株式会社も9%ほどある
新公益連盟に加盟する団体の多くは、若く少数精鋭型の組織であること。売上が5億円を超える組織はまだ少数でありながらも、総じて一定規模の売上があると言えます。また、その活動領域も現場を持つNPOが6割以上、コンサルタント機能を持つ中間支援団体が約3割を占めており、いわゆる「慈善活動」というイメージとは全く異なるものであることが示されています。
それでは調査の内容を見ていきましょう。
給与:ソーシャルセクターと一般中小企業の差は?
まずは給与について。
ソーシャルセクターの平均年収は339万円であるのに対して、一般中小企業では292万円。給与面ではソーシャルセクターが上回っています。一般職員の平均年収が「200~400万円」と回答した団体は80%(一般中小企業では70%)。役職別の平均年収を見ると、管理職で27%が「500万以上」の年収を得ており、経営層では56%に上ります。
ソーシャルセクターの平均年収は、一般中小企業の平均と大きなそん色はなく、後述するように今後も伸びていく余地があると考えられます。また、昇進に伴い年収が上昇しており、自己成長に伴う妥当な報酬が得られていると言え、「ボランティアや慈善活動」というイメージとは異なる実態が示されているといえるでしょう。
働き方:自由度が高く、先進的で多様な働き方が可能
①多様な働き方に係る労働環境の充実は一般企業を大きく上回る
「在宅勤務を含むリモートワーク」を導入しているのは64%。一般企業が11%であるのに比して、大きな差があります。
また、「雇用形態の一時的な移行」および「週の出勤日の短縮」の施策の導入も、それぞれ48%と、一般企業のそれを大きく上回っています。さらに、日本ではまだ珍しい「ワークシェアリング」の導入も24%と、新しい取り組みが実践されているようです。
一般企業ではまだまだ導入に時間がかかっている、「多様な働き方」を可能とする人事施策が、ソーシャルセクターでは既に導入されていること。また、育児や介護などライフステージの変化に合わせた働き方が可能であることなど、自由度の高い働き方、ワークライフバランスの両立を実現しやすい環境にあると言えるでしょう。
②労働時間・残業時間は一般企業より短い傾向
月の平均労働時間が「170時間以上」と回答した団体は31%。一方、一般企業では57%。平均残業時間でも、ソーシャルセクターでは「5時間未満」が43%であるのに対し、一般企業では3%。「25時間以上」の残業ではソーシャルセクターが17%、一般企業が39%と、長時間にわたる残業時間も少ない傾向にあります。
全体の労働時間が一般企業より短い傾向にあること。これは、育児や介護だけでなく、自己研鑽や趣味といった自分の時間も大事にできる状況にあり、ソーシャルセクターにおいて効率性の高い労働環境が実現されていると言えるでしょう。
キャリア:裁量の高い業務を通じた短期間でのスキルアップ
①OJTを通じた実践的かつ短期的な育成
続いて、「人材育成」について見てみましょう。
ソーシャルセクターの多くは、人材育成の専属の担当者を配置することがまだ難しい状況にあるため、「新人・若手職員」向けの研修などの育成施策を整備するのに時間を要していると考えられます。これに対して、一般企業では専門部署が人材育成に係る施策を整備したり、新人向けの研修を実施したりします。このように人事施策に割ける要員に限りがあるため、すべての項目において30ポイント以上の差が開いたと考えられます。
一方、新卒採用者が「独り立ち」したと周囲から認識される期間について、「3年未満」と回答した団体は73%。一方で一般企業は13%と、大きく差が開いています。一般企業では「独り立ち」したと認識されるまでに、「3年以上10年未満」の時間を要するところが大半ですが、ソーシャルセクターでは「3年以上5年未満」が18%、「5年以上10年未満」は5%にまで下がっています。
このデータから、若手向けの人事育成施策はまだ整っていない団体が多い一方で、短期的にスキルアップできる環境であることが見えてきます。短期的な自己成長が実現できる背景には、早くから裁量の高い仕事を任せられるなど、実践的なOJT環境があるからだと考えられます。
②ソーシャルセクターの経験がキャリアアップにつながる事例
次に、離職・転職状況について見ていきましょう。ソーシャルセクターの一般社員の離職率は「5%以上10%未満」と「10%以上」が合わせて52%を占めているのに対し、一般企業では、合わせて20%。離職率はソーシャルセクターが比較的高い傾向にあります。一方、経営層、管理職の離職率は、一般企業との間にあまり差が見られませんでした。
ソーシャルセクターの一般社員の離職率が高いことは、人材の新陳代謝が高いとも言えます。前項で示した通り、実践的な労働環境において自己成長機会を提供していることを鑑みると、組織に所属するあらゆるスタッフに成長のチャンスが巡ってくる環境であると言えるかもしれません。
加えて職員の離職後のキャリアパスを追跡した調査では、経験を活かしキャリアアップしている事例が見られました。例えば、元メーカー勤務者がコンサルタントになるなど職種転換を可能にした事例や、海外勤務やフリーランスとして独立するなど、人材としての価値をソーシャルセクターでの経験を通して高めている事例です。ソーシャルセクターでの経験が次のキャリアの可能性を拡大していると言えるでしょう。
将来の成長が期待されるソーシャルセクター
新公益連盟加盟団体の経営層に対して将来計画を問うた設問では、10年後の売上規模は8.9億円(現在の3.4倍想定)、従業員規模は84名(現在の2.7倍想定)という回答を得ています。こうした経営層の強い意志が実現することで、報酬や労働環境などのさらなる成長・改善も進むことになるでしょう。
まとめ
調査結果からは、新公益連盟に加盟する団体の多くは、中小一般企業よりも給与水準が高いことがわかりました。また、多様な働き方が可能であり、短期的かつ効果的に自己成長の機会が得られるなど、魅力的な労働環境を提供していることも大きな特徴です。
これらの点は、政府の「働き方改革」でも言及されているように、これからの日本の産業全体が目指すべき姿でもあり、ソーシャルセクターの先駆性として評価されるべきポイントだといえます。なお、2017年のアメリカの文系大学生の就職先人気ランキング調査で教育系NPOのTeach for Americaがグーグルなどに続き10位にランクインするなど、海外ではソーシャルセクター分野の仕事は既に魅力が高いものだと認識されています。
劇的に変化しつづける現代社会において、今まで「安定企業」と呼ばれてきた組織でも、環境の急激な変化や、その変化に対応できない組織構造、大幅な人員削減のリスクなど、多くの課題を抱えています。将来の不確実性が高い中、私たちが持続的に働いていくためには、組織の大小に関わらず個人個人が自己の能力や技術を高めていくことが重要になるでしょう。
今回の調査結果から、ソーシャルセクターでの仕事が、社会の変革と課題解決を担いつつ、同時に自己研鑽を成し遂げていくひとつのキャリアパスであり、激変する現代社会を生き抜く力を得られることが見えてきます。また、ソーシャルセクターが今後も成長過程にあるからこそ、個人の成長が業界全体の成長へ波及し、また別の個人の成長へ還元されるという好循環を得られる可能性も感じられました。
これからの未来を生き創っていく若者たちはもちろん、多くの方々にとって「ソーシャルセクター」でのキャリアが魅力的なものになってきていることを実感できる調査結果であり、大きな意味を持ったレポートになっています。調査レポートのオリジナルもぜひご覧ください!
『ソーシャルセクター組織実態調査2017』 特定非営利活動法人 新公益連盟
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