昨年第一回を開催し、2020年とその先の未来に向けて新しいスタートを切っての第二回目の開催になった"Social Impact for 2020 and beyond”。
NPOや社会的企業などのソーシャルセクター、民間企業や地方・中央の行政関係者、そして同時開催された”Q学のススメ”に参加した高校生・大学生など、約700人が全国から集い、去年に引き続きヒカリエホールを会場に、12月3日(日)に開催されました。プログラムは以下の通り。
一部 アジェンダオーナー戦略会議
二部 2020 and Beyond未来意志ラウンドテーブル1
三部 2020 and Beyond未来意志ラウンドテーブル2
四部 2020 and Beyond全体セッション&ネットワークパーティ
今回はその速報レポートをお伝えします。
第一部:2020年の"その先"へ向けて
第一部は、第二部と第三部でアジェンダオーナーとしてテーブルを担当する人たちを中心に、完全招待制で行われました。100人を超える参加者に対して、ETIC.山内から、
「2020年がゴールではありません。大切にしたいのは"その先"です。そのためには、日々対峙している現場以外へ発想を広げていくことが重要です」
と今日の場の方向性を伝えます。
そしてETIC.の理事でもある東京都市大学環境学部佐藤真久教授から、SDGsや社会的学習をトピックに”課題の捉え直しが必要”というお話をいただいて、次はゲストの皆さんからのスピーチ。
まず経済産業省の石井芳明様から、「ソーシャルインパクト創出のための行政連携のススメ」と題して、行政との連携のコツのご指南。150万DLを超えて話題となった【不安な個人、立ちすくむ国家】を発表した経産省の若手(第二部、第三部でアジェンダオーナーを担当いただきました)のような存在と、個人として繋がってどんどん活用してほしい、というお話。
日本のTechベンチャーの動向や支援に詳しい株式会社日本総合研究所の東博暢氏は、個人金融資産が1800兆円あり、今後人口は減り続けると大きな資金移動が今後10年で起こる、そこで新しい金融市場が必要になることを強調。ソーシャルセクターとTechの新しい繋がりの必要性を語ってくださいました。
女川町で震災復興とまちづくりに携わっているNPO法人アスヘノキボウ小松洋介さんは、地方の人材不足、特に若者が地方に飛び込んでくる必要性を痛感していること、そのための仕掛けとして、Venture for americaの日本版に近いことをやろうと動いている、というお話。
ロート製薬株式会社河崎保徳さんは、人生100年時代を前に、"100年を健康に幸せに生きるには?"という問いを設定していること、そこに食と働き方に焦点をあてて取り組んでいるというお話。「特に新卒世代の働き方に一石を投じたい」という力強い言葉。
アーツカウンシル東京の森司さんは、"渚"について。"渚"には決まった線がなく様々に変化すること。これまでの社会は決まった線を引いて「ここまでは海」、「ここからは砂浜」という切り分けをしていましたが、これからの社会をつくることは、決まった線の無い"渚"と付き合っていくようなものになるのではないか。そのときアートというものが役割を果たすだろう、というお話。いま2020年に向けて募集している東京文化プログラムという公募についても紹介いただきました。
そして最後はNHKのクローズアップ現代など、キャスターとして活躍している国谷裕子さん。特に、日本ではまだまだ認知が低いSDGsの取材に力をいれてらっしゃるとのこと。国谷さんからのお話で印象的だったのは”ムーンショット”というワード。1962年、当時大統領だったケネディが、「人類を月に送る」という有名なスピーチを行い、69年には実際にそれが実現されることになりました。「人類を月に送る」のような、困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらすような課題設定のことをムーンショットというのだそうです。SDGsも同様に困難で巨大な課題設定だけれど、たくさんの人たちが当事者性をもって”自分ごと”として取り組むことができれば不可能ではないということ。そして2020年という年はそのために、たくさんの人の行動力や想いを集結させ、一気に新しい価値観を普及するチャンスになり得る、という激励をいただきました。
第二部:ラウンドテーブル1ーアジェンダにアイディアを出す
第二部は、「アイディアを出す」ことをゴールにしたラウンドテーブルセッション。各分野、セクターですでに活動をしている起業家、組織の中で新しい仕掛けをしているイノベーターらに、自らの取り組みをアジェンダとして設定してもらい、議論する時間です。
アジェンダのオーナーとETIC.のコーディネータがあらかじめアジェンダを調整・設定し、議論のサポーターや話題提供者、さらにそのテーマに関心のある参加者がテーブルを囲みました。議論されたアジェンダとそのオーナーは以下の通り(内容の詳細はこれも別稿にて紹介します)。
【1】地域事業創出のための大都市から地域への人材流動化 (猪尾 愛隆 氏 / JOINS株式会社)
【2】新卒一括採用に変わる20代のオルタナティブな働き方をどう創るか?(小松 洋介 氏 / NPO法人アスヘノキボウ)
【3】人口ゼロからの挑戦、だからプラスしかない。めざせ!「加点法」でのまちづくり(菅野 孝明 氏 / 浪江町役場)
【4】東京オリンピック・パラリンピックに向けて、既存の緊急通報インフラのあり方を考える(大木 洵人 氏 / 株式会社シュアール)
【5】貧困のない誰もが活き活きと生きられる社会づくりにむけて(百野 公裕 氏 / グラミンジャパン設立準備機構)
【6】これからの時代の教育のありかた(中山 勇魚 氏 / 特定非営利活動法人Chance For All)
【7】日本中のアレルギーを持つ子どもたちに 諦めなくていい/我慢しなくていい食卓を提供したい(上田 まり子 氏 / アレルギー対応食料理研究家)
【8】子どもたちの繋がる力が新しい“あたりまえ”を創る!(紅谷 浩之 氏 / 一般社団法人オレンジキッズケアラボ)
【9】~Innovative Schools Initiative~ 教育・学びの未来を創造するプラットフォームを創ろう(文科省若手有志職員)
【10】モデル無き時代における地域の在り方 ~不安な個人、立ちすくむ国家、求められる地域~(藤岡 雅美 氏、足立 茉衣 氏 / 経済産業省 次官・若手プロジェクト)
【11】最期まで住み慣れた町で暮らせる仕組みづくり〜訪問看護カバー率99%へ〜(市橋亮一氏 / 総合在宅医療クリニック 代表)
【12】フレンドシップと遊びがつくる新しいセーフティーネット(矢田明子氏 / Community Nurse Company株式会社)
【14】企業とNPOでのコレクティブアクション! ~国境とセクターを越えたインパクト創出に向けて~(大谷 紗知子 氏 / 一般社団法人WIT、小沼 大地 氏 / 特定非営利活動法人クロスフィールズ)
【15】次の社会を創る鍵となる”ソーシャルファイナス”の次のステップを考えよう!(新井和宏 氏 / 鎌倉投信取締役・資産運用部長)
【16】「ICO・ブロックチェーン × 自治体・ソーシャルセクター」が 生み出す未来の社会(正田 英樹 氏 / 株式会社 chaintope、住吉 優 氏 / 村式株式会社、河崎 純真 氏 / GIFTED AGENT株式会社, PUBLIC FUND 共同創業者、藤本 真衣 氏 / 株式会社グラコネ, PUBLIC FUND 共同創業者)
【17】ワクワクする介護予防を通じて、最期まで自分の可能性をあきらめない環境を作りたい。 (杉村 卓哉 氏 / 光プロジェクト株式会社)
【18】一歩先行く障がい福祉で「障がい者の当たり前の日常」をつくる。(小林俊介 氏 / 株式会社With You ・尾野寛明 氏 / 有限会社エコカレッジ、織田 友理子 氏 / NPO法人PADM遠位型ミオパチー患者会)
【19】工場ハックデイ~100年後の工場の姿~(浅井睦 氏 / フリーランス)
【20】都市に眠る資源を活かした、環境負荷をかけない心地よい暮らし(春日井暁子 氏 / Re Materials 代表)
【21】日本に逃れてきた難民の人たちが、スキルや経験を活かして社会に豊かな変化をもたらす仕組みをつくりたい〜(渡部清花 氏 / WELgee)
【22】「想い出」と「追体験」(松岡智子 氏 / Wille)
【23】日本発、未来の組織を創り出せ~ホラクラシーなど、自然体・非管理スタイルの実践から、理想の組織を追求する~ (武井 浩三 氏 / ダイヤモンドメディア株式会社)
それぞれ尖ったテーマ、2020年とその先の未来に接近するシビアなテーマでどのテーブルも議論は白熱。一部からの流れを引き継いで、当事者たちが発する前のめりの熱気からたくさんのアイディアが生まれていました。
同時開催:Q学のススメ
ヒカリエホールの別の会場では、学生向けのイベント、"自分らしさを最大化させる2日間"「Q学のススメ」が同時開催されていました。「Q学」とは、
“自分の好奇心(Quriosity)や、問い(Question)をとことん突き詰めるために、意図的に時間をつくって実践の場に飛び込み(Quest)、自分らしさを最大化する学びのスタイル”(Q学サイトより引用)
のこと。1部、2部のアジェンダオーナーの一部はQ学会場に移動して学生たちとセッションを繰り広げました。
【Q学のすすめレポート】【速報】【DAY 2 とことん思いを突き詰める】進行中!あなたの夢や世の中への問いを本気でぶつけるセッションを開催!。【自分らしさを最大かする2日間】の2日目、【DAY 2 とことん思いを突き詰める】が只今進行中!#Q学 pic.twitter.com/BEUEBtT7ra
— ETIC. DRIVEインターン (@DRIVE_INTERN) 2017年12月3日
そして"Q学"に参加していた学生のうちからも有志が合流して、第三部へと続きます。
第三部:ラウンドテーブル2:当事者としてアクションを出すこと
このラウンドテーブルの大きな目的は、設定されたアジェンダに対して「自分にできること」、つまりアクションを出すこと。設定されたアジェンダに対して、”当事者”として自らのネクストステップをアクションとしてひねり出す時間です。ラウンドテーブルとして設定されたテーマとアジェンダオーナーは以下の通りです。
【31】自分”という資源を味わい、企業の中で楽しみながら活かすための作戦会議(笹原優子 氏 /
株式会社NTTドコモ イノベーション統括部、大塚 万紀子 氏 / 株式会社ワーク・ライフバランス)
【32】2020年の先を見据えたコミュニティ投資・社会的投資のあり方とは?(水谷衣里 氏 / 株式会社風とつばさ、足立茉衣 氏 / 経済産業省 次官・若手プロジェクト、須藤奈応 氏 / 株式会社日本取引所グループ 総合企画部)
【33】未来の学校教育を一緒に創ろう! (文科省若手有志職員)
【34】わたしたちが大切にしたいことに 全力でとりくむことができる未来とは(藤村隆 氏 / NPO法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京、佐藤 徳紀 氏 / One Benesse(ベネッセグループ有志活動)代表 )
【35】地域の起業家とともに考える、レリジエントな循環型社会の実現とは(山内亮太氏 / 株式会社ESCCA 代表取締役)
【36】渋谷をソーシャルイノベーションのゲートウェイに(澤田 伸 氏 / 渋谷区副区長、松井由信 氏 / 渋谷区役所 区民部地域振興課)
【37】新職業ソーシャルテクノロジーオフィサーが生み出すコレクティブインパクトとは!(関治之氏 / 一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事)
【38】「大地の芸術祭」から考える、現代アート×地域の未来(安藤美冬 氏 / 株式会社スプリー)
【39】発達障害のある大学生の持続的な支援の仕組みづくり(鈴木慶太 氏 / 株式会社Kaien)
【40】パラリンピックスポーツイベントを「共生社会」につなげるには?(松崎英吾 氏 / NPO法人日本ブラインドサッカー協会)
【41】家業の「跡継ぎ」をつないで大志を継承する社会を創る(宮治 勇輔 氏 / 株式会社みやじ豚)
【42】子どもの貧困と児童虐待(石川治江 氏 / NPO法人ケア・センターやわらぎ代表理事)
【43】シェアリングエコノミーが生み出す新しい「信用創造」〜 信頼経済で考える、私たちの持続可能な暮らし、仕事、コミュニティ(石山アンジュ氏 / 内閣官房シェアリングエコノミー伝道師, 一般社団法人シェアリングエコノミー協会 渉外部長)
【44】2020を、まちの災害対策と 医療福祉のセーフティネットを進化させる契機に(川添高志 氏 / ケアプロ株式会社 代表取締役)
【45】2020 食都東京~食体験を通じ東京を世界一のフードエンターテインメント&ツーリズムの場に〜(島田 昌幸 氏 / ワンテーブル株式会社、北島 大器 氏 / 株式会社ラーニング・イニシアティブ 代表取締役)
【46】ダイバーシティ&インクルージョンの未来 ~2020 見えない壁をなくす進化のモデルを東京から世界に~(志村真介 氏 / ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン)
こちらのセッションの内容も、後日別稿でレポートします!
第四部:全体セッション&ネットワークパーティ
そして第四部は、アジェンダオーナーたちの今日の成果を示すピッチと、様々なセクターから集まったゲストスピーカーの皆さんがそれぞれの活動を報告したり、参加者への呼びかけを行うターム。株式会社スプリー代表取締役の安藤美冬さんとETIC.宮城の進行で、笑顔あり、共感ありの時間になりました。
去年に続いて登場してくださったのは認定NPO法人フローレンス駒崎弘樹さん。ご自身のアクティブでアクチュアルな活動の紹介とともに、渋谷区副区長澤田伸さんとのコンビで、渋谷区における新しい試みについてのスピーチ。
鎌倉投信新井和宏さんは、ラウンドテーブルでの議論をレポートしつつ、「ソーシャルファイナンスにおいて出し手は多様化しているがその情報の交通整理ができていない」ことを指摘。整理・発信のためのプラットフォームづくりに知恵と手を借りたいと呼びかけました。
国連開発計画(UNDP) 駐日代表近藤哲生さんは、SDGsについての呼びかけを。
オイシックスドット大地株式会社高島宏平さんは、経済同友会でのオリパラへの取り組みについて、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会河村裕美さんからは、オリンピックがもたらす”レガシー”、つまりその後の社会に与える資産や影響について、大きなお話をいただきました。
また、ご自身がオリンピアンでもある一般社団法人アスリートソサエティ為末大さんは、”One Athlete, One Issue”プロジェクトについて発表をされました。
面白法人カヤックの柳澤大輔さんは、ブレストについて。ブレストこそ会議の本質であるというレクチャーとともに、実際に会場全体でブレストの時間をファシリテートしてくださいました。
そして一部・二部・三部を通して深まったり広がった問いを、アジェンダオーナーの皆さんから報告。どれも射程の深い、未来を感じさせてくれる内容でしたが、ごく短くダイジェストで以下お伝えします。
今年度の日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞したCommunity Nurse Company株式会社の矢田明子さんは、なんとヨーヨー日本チャンピオンの女性とともにヨーヨーを振り回して登場し、「意味を考えようとすることを手放そうとしないと友達はできない!」との謎めいた深みのあるコメントを(ここではその面白さを伝えきれないので別途レポート予定です!)。
経産省次官・若手プロジェクトの藤岡雅美さんと足立茉衣さんは、テーブルでの議論の報告とともに「柔らかい官でありたい」とコメント。
NPO法人アスヘノキボウ小松洋介さんは、脱・新卒一括採用と地方への若手人材移動をミッションにした事業を来年立ち上げ、新卒の学生を2年限定で地域の中小企業に送り込む、というネクストアクションを披露されました。
笹原優子さん大塚万紀子さんのコンビは、「ロールモデルとなるミドル層を作っていきたい」というお話。
文科省若手職員チームは、「先取的な取り組みしている校長や教育長はいるが、現場では”変人”扱いされている。そういう”変人”の人を増やしていきたい」。
クロスフィールズ小沼大地さんからは、「これからの時代は組織と組織のコラボではなく、個人と個人のコラボが起きていくべき。企業の経営層や役員層が、NPOやソーシャルセクターと繋がることでもっと協働が進むはず。そのアクションを仕掛ける」というお話をいただきました。
一日にわたる長丁場のイベントもこれにて大団円。終了後のネットワークでも冷めやらぬ議論の続きや、新しい出会いと紹介が続きました。ラウンドテーブルで議論された様々なアジェンダは、もちろんこの場限りのものではなく、これから引き続き議論、そして実際のアクションへと繋げていくためのもの。2020年とその先の未来に向けて、アクションのはじまり、はじまりのアクションがたくさん生まれた一日になりました。
各部の詳細は別途レポートいたします。お楽しみに!
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