TOP > ローカルベンチャー > 「地方を見ていることが、未来を見ることになる」〜塩尻市のMICHIKARAプロジェクト仕掛人が語る官民連携の最新型

#ローカルベンチャー

「地方を見ていることが、未来を見ることになる」〜塩尻市のMICHIKARAプロジェクト仕掛人が語る官民連携の最新型

2018.05.21 

高齢化と人口減による、生産人口と税収の縮小や福祉・医療の負担増という日本の構造的な課題は、すでに多くの人が認識していますが、ではどう解決したらいい?  という道筋については、国も自治体も手探りで進めているのが現状です。とはいえ”官”だけに任せておけば解決する問題でもないことは明らかで、民間の力も結集していく、いわゆる”官民協働”は、昨今の地方創生でももっとも大きなイシューの一つとなっています。

そんな中、2016年にグッドデザイン賞を受賞するなど大きな期待を集めているのがMICHIKARAです。

MICHIKARAは、塩尻市と首都圏の大手企業等が地方の課題解決に向けて協働するプラットフォームで、ユニークな活動で全国的にも名前が知られている塩尻市役所職員の山田崇さんと、自らを”変革屋”と称し多くの企業の組織変革に携わってきた株式会社チェンジウェーブの佐々木裕子さんが、2015年に出会いスタート。その起ち上げの経緯については、MICHIKARAウェブサイトに掲載されている2人の対話を参照していただくとし、今回は新たな仕掛けとともに第四期のメンバーを募集するということで、その狙いやお二人が見ている未来についてお話を伺いました。(※本記事は、MICHIKARA地方創生より制作料をいただいて作成しています)

 


 

(左)株式会社changewaev佐々木裕子さん、(右)塩尻市役所山田崇さん

(左)株式会社ChangeWAVE佐々木裕子さん、(右)塩尻市役所山田崇さん

MICHIKARAでは、地域が抱えている様々な課題の解決に向けて、首都圏大手企業から選抜された次世代リーダーがチャレンジしていきます。二泊三日の合宿で、市役所職員と民間企業メンバーがチームとなって取り組み、最終日に市長に提案するというプログラム。下記のテーマ例を見るとわかるように、取り組む課題は他の自治体・地域でも共通して抱えているものが多く、首都圏の若手人材がそこにどう切り込んでいったのかも興味深いところです。

<第Ⅰ期>

参加企業:ソフトバンク㈱、リクルートグループ

テーマ① 新体育館の活用促進戦略と民間投資活用(PFI)の可能性

テーマ② 木質バイオマスエネルギーの活用・展開戦略

テーマ③ アドホックネットワーク・ふるさとテレワーク等のICT基盤の活用戦略

テーマ④ 移住定住・空き家対策戦略

テーマ⑤ 子育て女性の復職・両立支援戦略

 

<第Ⅱ期>

参加企業:ソフトバンク㈱、リクルートグループ、日本たばこ産業㈱

テーマ① 塩尻型新規木材需要創造戦略

テーマ② しおじりICT産業集積戦略の構築(ソルトバレー構想)

テーマ③ 企業シニアの新たな雇用対策スキーム構築戦略

テーマ④ 保育士不足を解消する「未来型保育園運営構想」のデザイン

テーマ⑤ 小坂田公園の民間協働再生戦略

 

<第Ⅲ期>

参加企業:ソフトバンク㈱、リクルートグループ、日本たばこ産業㈱、 ㈱オリエンタルランド、日本郵便㈱

テーマ① 木曽漆器産業のイノベーション戦略

テーマ② 森林整備の多様な担い手の確保

テーマ③ 地元製造業経営者のイノベーション支援

テーマ④ 生き抜く力を育む探求型社会教育プログラム構想

テーマ⑤ 働き盛り世代の健康意識向上戦略

テーマ⑥ 首都圏人材還流プロモーション戦略の構築

 

こうした課題に対し、実現性の高い革新的な事業が数多く立案され、複数のプロジェクトは実際に予算計上されてきました。

この6月からスタートする第四期は、”MICHIKARAプラス”にバージョンアップ。市役所内からだけでなく、商工会議所・社会福祉協議会・振興公社からも地域課題を出してもらい、それに取り組むメンバーも首都圏企業の社員という枠を越えて、一般からの公募(募集要項は文末に)も受け入れることになりました。

 

今回訪問したのは、その課題テーマのブラッシュアップ会議の真っ最中。東京と塩尻をオンライン会議システムで繋ぎ、佐々木さんと担当職員とのやりとりが行われているところでした。若手人材に担ってもらう課題について、「1%でも成功の確率をあげるため」(佐々木さん)の会議です。

 

「それはどうしてですか?」、「具体的には?」

 

と塩尻側に問いを投げかけながら、

 

「どうしたら本質的な課題の解決になるか…」、「この問題をどう言い換えたら解決しやすくなるのかを考えています…」、「もう少しMICHIKARA的に言うと…」

 

と課題の精度を高めていく佐々木さんとそれに応える塩尻の担当者たち。”変革屋”である佐々木さんにとって、MICHIKARAの面白さはどういうところにあるのでしょうか。

佐々木裕子さん

佐々木裕子さん

佐々木:地域でも組織でも、変革っていうのは数人の熱い面白い人たちからはじまりますよね。地域にはそういう熱い面白い人がけっこうたくさんいるということ。そしてもうひとつは、リアルがあるということじゃないでしょうか。変革の息吹が感じられるリアルな場が地域にはたくさんある。企業や国という単位だとサイズが大きすぎて実感が遠いけれど、地域にいくと手触りがある。システムが全部そこで完結しているので、全体の変革が感じやすいんですね。

 

大きな企業や国という単位だと、一人の力で行ったことへの手応えが感じられない。でも地域では...というのは地域に移住を決めた人からもよく伺う視点です。地域には手触りのある現場がある。そうした手触りを間近に感じながら課題の解決に取り組むことで、首都圏の若手人材にはどんな経験や変化が起こるのでしょうか。

 

 

佐々木:ほんとうに稀有な体験になると思います。自分の関わる地域の課題の解決の一端を担える場が用意されている、それは稀有なことではないでしょうか。評論家として話すとか研究をするとかではなく、自分が関わって解決の一石を投じることができるかもしれない場。それがリアルにあるのがMICHIKARAの醍醐味かなと。ふつうは移住をしたり転職をしたりしないとできないようなことがプログラムに参加することによりできる。それはもちろん塩尻市さんのキャパシティなんですけれども。

生半可では一石を投じることができないので、本気でやらないとというチャレンジになっている。かつ一人でやるわけではないという難しさもある。いろんな意味でリアル。行政というそれを解決することをミッションにしている組織が一緒にやりましょうという場で、場合によってはそれに予算がつく。そういうことに興味がある、チャレンジしてみたいという人にとってはなかなかほかに無い機会だと思います。

だからわりとハードなんですよ(笑)。筋の良い、でもクリエイティブな施策で、短い時間で実現可能な感じがするところまでもっていかなくちゃいけないので、お題の設定が非常に大事。あまり広すぎてもダメだし、ただの具体的な手段提案だったら業者にやってもらえばいいだけですし。何の問題を、何のために解くのか、というところがぶれたらアウト。私の役目は、結果が出る確率を1%

でも上げ続けることなので、先ほど会議で詰めていた通り、お題の出し方については容赦しないですね。

 

 

たとえばどんな人がMICHIKARAで塩尻に来て、どんなふうに変わって、会社に帰っていったのでしょうか、という質問をしてみると、佐々木さんと山田さんは、「彼はどうだった」、「あの人は今こうだね」、と参加メンバーのエピソードをいろいろと引っ張り出してくれる。印象的だったのは、「チャーのほうの加藤さんが...」とか「けんちゃんは…」といったように、参加メンバーをほぼ”あだ名”で呼んでいることだった。参加メンバーとの近い距離感でリアルな関係がうまれている場なんだなということが伝わってきます。

 

山田:森のテーマをやりたかったので、森林の課題を担当するチームに入って、会社に戻ってもどうしてもやりたいから新規事業の提案をし、もっとやりたいからと会社を辞めて、三期目にはなんと塩尻市の側の担当者としてMICHIKARAに関わってくれた、という人もいましたね(インタビューはこちら)。

山田崇さん

山田崇さん

佐々木:あとはMICHIKARAに参加してくれているソフトバンクが、MICHIKARAをモデルにしてture-techという採用インターンを始めました。MICHIKARAの卒業生がインターン学生のメンターをやることになっていて、学生からの提案を実現するのに今も塩尻市に来てくれている。移住とか転職ではなく、自分の仕事をやりながら塩尻と継続して関係をもって貢献してくれています。

 

MICHIKARAに参加した社員は、「圧倒的な当事者意識をもって帰ってくる」という。どうしてそういう変化が起こるのでしょうか。

 

 

佐々木:やっぱりリアルに人がいるからなんだと思います。

塩尻で生きている人や困ってる人がリアルにいる。そういう人たちをディープにインタビューをしたり、いっしょに会話をするうちに、データや概念ではなかなかわからない、生々しいものがあることがわかる。そういう風に出会ってしまうと、中途半端な考えで解決しようという気が失せるんですよ。

それってほんとうはふつうのビジネスでも同じなんですけど、忙しかったり、気づく場が少なかったりする。でも本気で何かに向き合うなら、この解像度で向き合わないとダメですよね。それを一回体験すると自分の中での閾値があがる。生半可なことができなくなる。

4

山田:塩尻市で具体的なことに取り組んでこれまで三期、二年半が経過しているんですが、「山田さんと佐々木さんがやっているのはトップエンドだね」と言われたんです。自治体として本来そうあるべきことをちゃんとやっているんだね、と言ってもらえて。なるほどなと。

MICHIKARAと同じことをやろうと思って、いろんな自治体に声をかけてみたんですが、実際にはなかなかできなかった。でも最近、「そりゃそうだよな」ということが分かってきたんです(笑)。MICHIKARAのように手を抜かずにガチンコでやるとしたら、どういう人と一緒にやるのかというキャスティングや、キャスティングした人が動きやすいように場を整えるとか、土壌を耕すところからやっていかなきゃいけなくて、それはなかなかできることではないんだなって。もちろんいい土壌が塩尻にはあったということもあります。

クルマのギアに喩えると、最初の1速は入ったなと。変革のための最初の10人、という段階はクリアしたと思います。それを2速にあげていくには、また違うやり方と広げ方をしなくてはいけないなと。最初の10人の眼は、次の2速めのギアの変え方のほうに向き始めていたりします。「次はあいつだよね」というような。

5

 

塩尻は、MICHIKARAは、日本の地域の未来の一つの姿をつくっているのでしょう。最後にお二人に、”日本の未来、日本の地域の未来”はどう見えているのか尋ねました。

 

 

佐々木:いくつかの大きな流れが来ているなと。その一つは、いわゆる資本主義的なものの限界というのがあると思っています。ソフトバンクさんがやっている社会課題解決のための地方創生インターンに、ビジコンで連勝したような優秀な学生たちが1500人も押し寄せるのはなぜか。世の中に貢献するとか社会課題を解決することのほうが、ビジネスで成功するとかお金持ちになるといったことよりも大事で尊いものである、という認識が広がっているのかなと思います。

世の中に貢献するというチャンスは、都会よりも地方にゴロゴロ転がっている。これからの時代の最先端の場所として地方というのがある。そういう方向に流れているなというのは感じます。地方をちゃんと見ていることが、未来を見ることになるなと。

 

山田:MICHIKARAのような試みがようやく、塩尻から外へ踏み出しはじめた感じがします。MICHIKARAで取り組んで出てきたことが、日本のこれからの問題解決の最初の一刺しなんだなと。そういうところまで見えてきたときに、全体がぐっと動き始めるんじゃないかなと思っています。

6


 

2018年度MICHIKARA第四期の募集が始まっています(締切6/1)。

第四期のテーマは以下の6つです。

・地方中小企業の事業承継支援 ・障がい者の就労支援 ・農業の新たな担い手創出 ・キャリア教育 ・市街地における滞在型まちづくり ・市民の健康づくり促進

興味のある方は下記URLをチェックしてください!

MICHIKARA地方創生協働リーダーシッププログラム参加者募集(塩尻市ウェブサイト)

 

この記事を書いたユーザー
アバター画像

DRIVE by ETIC.

DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )