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山を職場に、デスクワークからスポーツビジネスへの転身 -有限会社ユニバーサルフィールド高木智史さん【ローカルベンチャー最前線】

2018.08.24 614view 

山に登るということは、起業、企業経営に似ている。

考えられるリスクを事前に想定して準備する。それでも生じてしまった不測の事態に対応して先に進む。ちょっと雲行きが怪しいからといって、逃げ出すことができないところも似ている。進むにしろ、戻るにしろ、決断を下さなくてはいけない。そして、どちらもその連続である。

山も、起業も、頂点を目指して進んでいくには、身も心もすべてを捧げなければ、タフでなければやりきれない。どちらかだけでもキツいのに、起業してあえて山を「職場」にしたのが、ユニバーサルフィールド代表の高木智史さん。九州の山々を舞台に、舗装されていない山道を走るトレイルランニングの大会を主催している。

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日に焼けた浅黒い肌、筋肉質で無駄のない脚。好きこのんで険しい道を選んだとあって締まった体は、高木さんの仕事ぶりも物語っている。自身も以前はフルマラソンで2時間台をマークしたり、いまでも100マイル(約160km)の海外トレイルレースに毎年出場して、一昼夜かけて完走する筋金入りのランナーである。

だからといって学生時代からアスリートで、競技経験を生かして起業したのでは、と考えるのはフライング。「大学生のころはバイトして遊んで飲んで。運動というと、雪山にスノボしに行くぐらいでした。走り出したのは社会人になってからで、まさか自分が走るようになるとは思っていませんでした」

大会ではマイクを握って会場を盛り上げることも。

大会ではマイクを握って会場を盛り上げることも。

きっかけは健康づくりのジム通い

ランニングとの出会いはアウトドアどころか、外回りとも縁のなかった会社員時代にさかのぼる。2006年に東京からUターンで地元である宮崎県に戻り、デスクワークの日々。職場で先輩たちを見渡すと、腹回りにだぶつく脂肪が気になった。自分はそうなるまいとジムに通い、筋力トレーニングに汗を流していた。次第に増えていく筋肉量と顔見知り。ジムの仲間から誘われてマラソン大会に出るようになった。

ジム通いで走り出したことからランニングにのめり込み、起業への道も加速していく。走るたびにタイムが向上するから、また出場する。いろんな大会に足を運ぶうちに疑問が生まれてきた。

「せっかく開催するのに、いくつかの大会の日程がかぶっていたんです。せっかくの大会がもったいないし、誰かが調整してズラせたらいいのに」

競合し合う大会にチャンスを見つけた瞬間だった。自分が「誰か」になれば、仕事になる。そのための方法を会社勤めをしながら模索することに。知り合いや議員に相談して、話を聞くことでぼんやりと方向性が見えはじめた。

大会運営やタイム計測は、都市部の企業が請け負っていることを知ったからだ。遠方の企業であれば、打ち合わせや準備の移動でコストがどうしても高くつく。実際に関わった大会では経費を3分の2に圧縮できたという。「地元に住む僕なら、経費を抑えるだけでも大会運営をリノベーションできるので、ぼんやりと自分でやるしかないと思うようになりました」

自然の息遣いを感じながら走ることがトレイルランニングの醍醐味のひとつ

自然の息遣いを感じながら走ることがトレイルランニングの醍醐味のひとつ

起業は手段、転職と兼業でステップアップ

ランニングを仕事にしようと、調べていく過程でわかったこともあった。

「宮崎はスポーツランドと言われているんですけど、それってハード面ばかりなんです。プロスポーツである野球やサッカーのキャンプが盛んなのに、地元のスポーツレベルは低い。ハードはあるのに、野球もサッカーも宮崎は優勝できない。ファンを誘致して観光してもらうという意味でのスポーツランドだったんです」

地元の現状を知り、本当の意味でのスポーツランド宮崎を実現することも目標になった。

起業はその手段。ゴールではない。

ゴールが決まれば、動きは早い。2009年まで勤めていた会社を飛び出し、NPO法人宮崎スポーツ振興会に転職して、スポーツに関する知識やノウハウ、人脈を蓄えていく。トレイルランニングと出会ったのもこの時期だ。

興味本位で関東の大会に出場。深い森を抜けた先に広がる絶景と開放感、木々のにおいやせせらぎの水音に心を打たれた。もちろん険しい山々は走るにはキツいが、マラソンとは違った魅力の方が上回る。数年後には100マイル(160km)のレースを完走するほどに、トレイルランのとりこになった。そして、いつかは九州でも大会を。新たな夢が広がった。

修験道トレイル in 東峰村のスタートシーン。2017年の九州北部豪雨により、中止となっている。再開を心待ちにするランナーも多い。

修験道トレイル in 東峰村のスタートシーン。2017年の九州北部豪雨により、中止となっている。再開を心待ちにするランナーも多い。

11年春ごろからは振興会の仕事のかたわら、個人事業主としても活動を始めた。ノウハウを学びに、タイム計測を行っていた福岡の業者まで、社長に会いにいったことも。マラソン大会の計測を請け負うことが決まり、休日に打ち合わせを重ねていった。

このころ、大会を主催する自治体への営業が、高木さんにとって一苦労だった。「あんたのところに任せて大丈夫なの?」とあっさり断られることもたびたび。「営業経験が皆無だったので、最初は断られてメンタルダメージをおってました」。当時を思い出したのか、高木さんの口元に苦笑いが浮かぶ。

めげずに地元のネットワークも頼りながら、地道に売り込んでいく。地元のスポーツ振興に携わりたいという思いはプレゼンの熱量になった。運営費のコストダウンが見込めることもあり、徐々に耳を傾けてくれる人が現れ、仕事が生まれた。

手応えを感じ、12年1月に法人化。いよいよ本格的なスタートを切った。宮崎県内の業者から、タイム計測用のチップ2000枚を購入するなど初期投資がかさむ。銀行の融資を受けることができなかった当初は、会社員時代の貯金を切り崩しての苦しい台所事情だった。だが、苦しくとも前進あるのみ。着実に仕事を増やす。一歩ずつ山の頂点を目指すように。

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「九州愛」にこだわり依頼を断る

マラソン大会だけでなく、トレイルランニングの企画も持ちかけ、この年の夏には日南市でプレイベントを開催することが決まった。いまよりもトレイルランニングの認知度は低く、当然ながらコースづくりの知識もない。地元の人に昔の山道を聞き取り、実地調査を繰り返した。

「いまなら地図で地形を読んで、コースを立てることもできますが、当時はそんな知識もなかったんで軽トラで山へ。ガンガン走って遊園地状態でした」

プレイベントを成功させたことで弾みをつけ、九州各地に進出。ノウハウがなかった分、競合相手もほとんどいない。自分が行きたい、走りたいと思う山を探す。次に、その山を抱える自治体に大会の話を持ちかけていった。その甲斐あって現在、主催しているトレイルランニングレースは20大会、マラソンなどの計測を含めると50大会を数えるまでに増えた。

いまでは、自治体から「大会を開催してほしい」と依頼されることもある。九州外からも仕事のオファーはあるが、すべて断っているという。理由は明快だ。

「単純に言うと九州愛ですね。たとえば甲子園で宮崎の高校が負けても、『九州は九州』という意識があって、残っている九州の他校を応援します。そんな感じで九州はひとつだと思えるんですが、それ以外の地域で自分がやるのはちょっと違うかなって。地元で生まれ育った人が地元のために働くというのが、話としてもすとんと腑に落ちる気がします」

九州愛をキーワードに挙げたように、トレイルランニングはローカルと相性がいい。舗装されている必要がないため、地元の人しか知らないような山々もコースになる。観光地である必要もない。その地域に特徴的な地形はそのまま大会の魅力に変わるポテンシャルを秘めているのだ。

九州の山々を知ってもらうために、出版社にアプローチをかけて特集を提案。高木さんの九州愛は尽きない。

九州の山々を知ってもらうために、出版社にアプローチをかけて特集を提案。高木さんの九州愛は尽きない。

地元の果物を使ったエネルギージェルを共同開発

地元の果物を使ったエネルギージェルを共同開発

山の魅力をダイレクトに感じてもらえる。他方、自然や天候に左右されてしまうトレイルランニングレースならではの苦労もある。大会直前に台風や大雨により、泣く泣く中止せざるを得なかったことも。2017年の九州北部豪雨に見舞われ、大きな被害を受けた福岡で開催予定だった「修験道トレイル in 東峰村」もそのひとつだった。復興の一歩として大会を開催できないかと、自治体などとギリギリまで調整していたが、叶わなかった。そのための方法を最後まで模索し、悔しそうにしていたのが高木さんだったと、そのときの大会担当者が教えてくれた。

地形に加え、地元の食も大会のオリジナリティーを引き出してくれるという。険しい山々を越え、フルマラソンよりも長い距離を走る大会も多く、完走タイムが5時間を超えることも珍しくない。

そのため、レース途中で食べ物、飲み物がふるまわれるポイントが何カ所も設置する。

「そこで地域ならではの産品が並んでいれば、走り疲れたランナーの活力になるし、来てよかったと満足感を高めることになります」

住んでいる人間にとっては、いつもの見慣れた風景、普段から食べているものは日常すぎてなんの変哲もない。外からの眼が入ることで、見直される価値がある。山もそうだ。急な斜面は歩きにくいだけ。地元にとっては山野草を取りに行くぐらいで、立ち入ることがあまりない場所にすぎない。人が入らなければ山道は草木に覆われ、消えていく。道がなくなれば、さらに訪れる人が絶え、山は荒れていく。反対に、残っている踏み跡をランナーがたどるだけで道は保たれる。里山への誘客という側面だけでなく、トレイルランニングは山のあり方を維持するひとつの方法になりえるのである。

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スポーツを軸にした健康づくりも

トレイルランニング市場は成長、成熟に向かっているが、スポーツビジネスを俯瞰すると、必ずしも明るい展望が待っているわけではない。人口減少を受け、市場としては山を下るようにして落ち込んでいくことが予想される。地図を読み、山の地形からコースを考えるように、高木さんは時代の先も読んでいる。

「大会規模を大きくしていくだけではやっていけないし、これからはいままで以上に特色づくりが大切になります。昔みたいに参加賞のTシャツをつくって終わりでは、やっていけません」。

大会数、九州を車で駆け回る走行距離とともに社員も増えていた。

2012年の起業当初は高木さんと社員が1人。資金繰りに苦労した時期を抜け、経営が軌道に乗りはじめると、今度は時間が足りなくなった。大会の準備や運営で拘束されるため、どうしても人手が足りなくなる。そこで思い切って社員採用を始めることに。16年には社員数が4人に、翌年はさらに3人増、現在は高木さんを含めて8人にまで増えた。採用したのは、これから先を見据えてでもある。高木さんは今後の展望を語る。

「何歳になっても運動を続けられる環境をつくりたいなと思って。ランニングだけじゃなくて、いくつになってもできる競技にも携わりたいです。スポーツを軸にした健康づくりにもなります」

次の目標に向けて今年は、宮崎県内でテニス大会の運営にも関わる予定だ。

ほかのスポーツ大会の運営に乗り出すにあたり、ランニング大会の運営で培ったノウハウを生かせるという。競技人口が1000万人とも言われたランニングでは、大会エントリーのフォーマットがほかの競技に比べて洗練されている。ネットで名前を登録すれば、クリックひとつで済ませられるのだ。

「実はいまでも電話、FAXでしか申し込めないスポーツの大会はけっこうあります。そこのリノベーションに乗り出すだけでも、やれることはまだまだあるはず」

山を登るようにして、まだ踏み入れたことのない領域に足を伸ばしていく。苦しくとも高木さんが歩みを止めることはないだろう。乗り越えたときに達成感が得られるとわかっているからだ。

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ローカルベンチャーPROFILE

高木智史

有限会社ユニバーサルフィールド代表取締役。1980年生まれ、宮崎県延岡市出身。自分が感じたスポーツの楽しさを、すべての人に伝えることを理念に掲げ、自身のブログなどでの情報発信にも努めている。地元・九州にこだわり、スポーツ界の活性化に取り組んでいる。九州トレイルランニング協会共同代表。

会社名:有限会社ユニバーサルフィールド

所在地:宮崎県宮崎市昭和町76-2 昭和町Nビル1-A

設立:2012年

従業員数:7人

事業内容:スポーツ大会の企画・運営、既存の大会のりソリューション、インストラクター派遣

URL:http://universal-field.com/

この記事を書いたユーザー

若岡 拓也

若岡 拓也

石川県金沢市出身。ランナー、ライター、ニュースエディター。南米、アフリカのジャングルや砂漠、国内外の山岳などで開催される250kmのランニングレースを走っています。2018年は3つの砂漠と南極のレース、モンブランをぐるりと1周する大会にチャレンジ予定。

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