地域課題の最前線にいるローカルベンチャーの担い手たちは、どんな課題に挑み、どんな未来を描いているのでしょうか。
ローカルベンチャーリレーピッチは、地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021〜地域と企業の共創を考える〜」のDAY3・4として開催されています。 モデレーターはジャーナリストの浜田敬子さん、DAY3のコメンテーターは株式会社ビズデザイン大阪の友田景さんです。
全国各地の担い手によるリレーピッチの模様を6回の連載でお届けします。
2つ目のテーマは「地域資源を活かした学びのフィールド」です。教育に関しては、学校が地域に開かれたり、先生から生徒という一方的なベクトルではなく、相互の学び合いが進んだりと、人生100年時代の新たな学びが広がっています。コロナ禍で学校教育もGIGAスクール化が加速し、都市と地方の教育格差が減る一方、リアルな場で学ぶことへの価値がより高まるなど、大きく動いている分野と言っても過言ではありません。
さらに、元楽天副社長の本城慎之介さんらが設立した軽井沢風越学園や、Sansanの寺田親弘社長らが構想中の神山まるごと高専など、30~40代の経営者が地方に学校をつくる事例も増えています。事業開発だけではなく企業が一緒になってインパクトを出していくという意味でも、注目度の高い分野です。こうした多様な教育や人材育成の取組についてご紹介いただきます。(会話文中敬称略)
森のまち北海道下川町に森林児童館をつくりたい!
まずはNPO法人森の生活代表理事の麻生翼(あそう・つばさ)さんより、北海道下川町での森林環境教育の活動についてお話ししていただきました。
麻生 : 下川町は50年程前から、循環型の森づくりと、廃棄物を出さないゼロエミッションの木材加工に取り組んできた森のまちです。下川町には幼小中高と各1校ずつあるのですが、学校の授業の中に森林環境教育が組み込まれています。幼少時の森遊びから高校での商品開発まで段階を踏みながら、それぞれ目標をもって取り組んでいます。
実は今私がお話ししているすぐ後ろに見えているのが、美桑が丘(みくわがおか)という森です。この森は2011年に下川町が取得し、地域のみなさんと一緒に手作りで整備を進めてきました。道産子の馬の花ちゃんが草を食べて森づくりに貢献してくれたり、東屋を建てたり、様々なイベントも開催されるようになりました。この10年で美桑が丘をフィールドとした活動が広がり、企業研修や大学のゼミ、子ども達の放課後の活動など、多くの人が利用する場所となっています。
美桑が丘での森林環境教育の様子
しかし今、町の財政難のためこの森の民間譲渡が検討されています。私達は、ここを子ども達が日常的に集まれる森林児童館にしたいと考えています。現在は行政や利用者のみなさんと話し合い、様々な可能性を洗い出しているところです。来年度から具体的な検討を進めていきたいと思っていますので、連携の可能性やアイデアなどを募集しています。
地域の資源を活かしたラーニングワーケーション
続いての登壇者は、パソナ東北創生代表取締役社長の戸塚絵梨子(とつか・えりこ)さんです。岩手県釜石市におけるラーニングワーケーションの取組についてご紹介いただきます。
戸塚 : 実は私も釜石にとっては「よそもの」なんです。パソナに籍を置きながら、1年間のボランティア休職をいただいてETIC.(エティック)の右腕派遣プログラムに参加しました。そこでたまたま出会ったのが釜石だったんです。
釜石市は岩手県南東部沿岸に位置しており、東日本大震災では大きな被害を受けました。今年の3月で震災から10年が経ち、ハード面では様々な施設ができたり、道路や列車が開通したりと、復興事業はほぼ完遂とされています。
令和3年度からは新しい総合計画がスタートし、市民のみなさんの言葉から「一人ひとりが学びあい世界とつながり未来を創るかまいし」というスローガンが生まれました。新しい総合計画の根底にあるのが、復興プロセスで得た最大の資産は「つながり」であるという考え方です。
釜石では右肩下がりの人口推計に対して、コミュニティ活動や経済活動へ積極的に参画する市民を「活動人口」ととらえ直し、市外の関係人口とつながりをもちながら、両者の総和でまちの活力を保っていこうとしています。
実際に、移住をして新たな事業の創造に挑戦している人や、 制度の活用、インターンシップ、複業、地元企業への右腕就職など、様々な形で多数の外部人材が釜石の企業で活躍しています。
そんな中での挑戦の1つがラーニングワーケーションです。釜石市と日本能率協会が令和2年度に連携協定を結び、ワーケーションと絡めながら釜石で越境学習を実践していこうという取組が始まりました。釜石の復興の取組について学ぶ他、幾度もの困難を克服し、成長を遂げてきた人々との交流を通じて、ここでしかできない学びを得てもらおうというプログラムです。
以前開催した3泊4日のプログラムでは、津波から避難した様子の追体験の他、震災後に生まれた新たな取組の現場を視察していただきました。ラグビーワールドカップでも使われたスタジアムで、被災した木を使ったベンチづくりなどを行う森林組合の取組について学んだり、震災を契機にエネルギーの自給自足による持続可能な暮らしを考えたり、これからの生き方・働き方を見つめ直すプログラムとなっています。
ラーニングワーケーションでは、自己を変革させ未来を創造する、レジリエンスのあるリーダーシップの育成を目指しています。ビジョン策定と意思決定、地域内外を巻き込むステイクホルダーマネジメント、過去に囚われず未来を描くことで生まれるイノベーションなど、今の企業にとって不可欠な要素を学べるものになればと考えています。
釜石型のワーケーションで何よりも大切なのは学び合いです。異なる他者との学び合いが、地域の活力につながっています。私が最初に釜石と関わった際、地元の方々との交流の中で体感したのが、まさにこういった生き方や価値観の揺さぶりでした。震災から10年が経ち日常に戻っていく中で、こういったプログラムを実践していくことが、釜石にとっても「異質な他者」を受け入れ続けるための鍵になると思っています。
地域内でIT人材を育てる。中学生から社会人まで一貫した教育施策の展開
本テーマ最後の登壇者は、全国をフィールドとするライフイズテック株式会社(以下LIT)の讃井康智(さぬい・やすとも)さんです。地域におけるIT人材の育成について語っていただきました。
讃井 : LITでは、これまで12年間にわたって様々な形でIT教育やプログラミング教育を提供してきました。今回は地域内でIT人材を育てる教育施策について、過去の取組も含めて紹介したいと思います。
LITの自治体向けのサービスは大きく分けて2つあります。1つ目は産業振興・DX推進部局向けの、地域の社会人や大学生を対象としたDX人材育成施策、2つ目は教育委員会向けの、中高生を対象としたプログラミング教育施策です。
この2つのサービスは実はつながっていて、社会人や大学生のみなさんには「中高生に教える現場をもつこと」をゴールとして設定しています。人に教えることによって、ITで何かを作る力がものすごく鍛えられるんです。こうしてプログラミングを教えてもらった中高生が、数年経つと社会人や大学生となって研修に戻ってきて、また次の世代の中高生に教えていく。こういったエコシステムを生み出すことを狙いとしています。
社会人・大学生向け講座の中では、市役所の様々な部署の方にヒアリングを行い、抱えている課題をWebサイトやアプリによって解決するという動きも見られます。実際に千葉県の市原市では、地域のイベントのチラシを作ったり、ゴルフ場を訪問する人が増えるようなアプリを作ったり、自分達の力で課題解決に取り組むような事例が生まれました。
続いて教育委員会向けの取組の紹介です。中学校・高校のプログラミング教育というのは、近年非常にレベルアップしています。そこでLITでは、中学校技術科・高校情報科を支援する教材や研修を提供しており、全国1,800校で約30万人が使用しています。
社会人・大学生同様、学校の中でもITによる課題解決を実践していこうということで、最終課題として学校の授業の中でWebサイトの制作にも挑戦しています。こういった学習により、学校の中でも身近な課題を解決できる子ども達が育っていき、地域内でしっかりと問題解決に取り組めるIT人材の育成につながるんです。
地方でも多様な教育の場を提供できることが、移住促進につながる
浜田 : 今回のテーマは教育でしたね。NPOや企業が関わることで、地域の人材育成につながっているという事例でしたが、友田さんはどのようにお聞きになりましたか?
友田 : 教育の多様化という面では、やはり地方は遅れています。国が移住を促進したくても、都市部の方が教育のバリエーションが圧倒的に多いので、お子さんのいる家庭ではそこがネックとなって移住をためらうというケースも多々あります。地方でも多様な学びの場があり、ITによってそれが促進できるというのであれば、大きな追い風になると思います。
浜田 : 特色ある教育があれば、それが移住の呼び水にもなるということでしょうか?
友田 : そうですね。軽井沢に特徴的なインターナショナルスクールができて一気に移住が進んだという事例もありましたが、やはり教育というのはキラーコンテンツだと思います。
浜田 : そこにプレイヤーもついてきていますよね。
友田 : ITによって多様な学びが実現するというのは、地域の産業にとってもプラスになっていくのではないでしょうか。地元にITリテラシーの高い人が増えていくと、いろいろなことがやりやすくなるので、非常に魅力的ですね。
浜田 : 一方で下川町のケースからは、自治体からの補助金や助成がなくなると厳しいという現実も伺えました。
友田 : 公共施設も含め、自治体が抱えきれないというのはこれからたくさん出てくるでしょう。そんな中で、どれだけ民間に自由度を与えられるかが課題です。民間の発想を活かせば、コストを下げて運営できる余地もあります。そういった意味で、自由度のある設計が重要です。
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以上、ローカルベンチャーリレーピッチ第2テーマの様子をお届けしました。
また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。
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