「美味しそう!」「楽しそう!」そんなおにぎりの写真が、国連が制定した10月16日の世界食料デーから11月20日まで、日本だけでなく世界中でたくさんシェアされました。その数、1日約4,800投稿。「おにぎりアクション」。
おにぎりの写真を1枚撮って投稿するだけで、協賛企業からアフリカやアジアの子どもたちに、給食5食または10食分に相当する金額が寄付されるという仕組みです。昨年まで累計でのべ150万人が参加し、NPOによるキャンペーンの成功例としても話題になりました。
このプロジェクトの企画責任者である大宮千絵さんは、かつて大手企業である日産自動車株式会社に勤めていました。8年間マーケティング畑でキャリアを重ねた後、2015年、TABLE FOR TWO(以下TFT)へと転職をし、その年におにぎりアクションを立ち上げています。
DRIVEでは今回、そんな大宮さんにインタビュー。大企業からNPOへ転職して感じた変化や、キャリアの原点などを伺いました。
前職との大きな違いを感じた、ステークホルダーとの関係性
─「おにぎりアクション」の記者発表会で大宮さんがされた、「好きなおにぎりの具は何ですか?」という質問が好きでした。参加者それぞれの立場を超えて、その人らしさ、温かさのようなものがにじみ出るようで。おにぎりアクションそのものの親しみやすさをとても感じさせてもらいました。
ありがとうございます。すごく考えた質問だったんです。
─2015年のスタート以来、毎年協賛企業が増えて、今年は40企業・団体が協賛しての展開となりました。多くの人にも知られるようになっていかがですか?
そうですね。正直、プレッシャーの大きさを感じています。
「おにぎりアクション」は当初、個人の方が中心となって寄付してくださり、50万円のご寄付で始めたものでした。それから協賛していただける企業さんが増えて、うれしい反面、責任をとても感じています。
─大宮さんは大企業からの転職となります。前職でのマーケティングという仕事自体は今も活かされていると思いますが、前職との違いを感じることはありますか?
セクターを超えた様々な方々と、事業や活動を創っていくところでしょうか。社会課題の解決は、これをやれば正解というものは無く、そのための道筋も、決まった型のようなものがありません。
おにぎりアクションも、何も形が無いところからスタートし、決まった型が無い中で、たくさんの方々にご意見やアドバイス、お力添えをいただきながら皆で創ってきました。
私たちNPOの力だけではなく、参加してくださる個人の皆さま、趣旨に賛同し、協賛・寄付してくださる企業や自治体の皆さま、様々なお力添えをくださるサポーターの皆さまと力を合わせて、写真投稿がアフリカの給食になるというこの活動を創り上げています。
関わってくださるステークホルダーの皆さまにとって、この取り組みがどうあると良いのか、考え続け、提案し、創っています。
今年はさらに組織の枠を超えた連携をと、実行委員会を立ち上げて、企業さん・自治体の皆さまや私たちが直接話し合いできる場をつくりました。すると、イベントやSNS上の発信などを通じ、企業間の連携が生まれました。それにより、さらにたくさんの方々に、アクションを知ってご参加いただける機会が増えました。
社会課題は自分たちだけで解決できる課題ではないからこそ、セクターを超えた様々な方々との連携が大切になると実感しています。
「困っている人のために何かしたい」という、中学生時代の原点
─キャリアチェンジは以前から温めていたものですか?
私はもともと「困っている人のために、いつか何かしたい」という想いをもっていました。中学の時に重度のアトピーになって、外に出られなくなった時期があったんです。
いろいろな要因が重なって、健康な皮膚が1ミリもないくらいになってしまいました。それまでは普通の生活だったのに、突然そうなってしまった。その時、自分の力ではどうにもならない人がいることを知りました。これが自分の原点です。この皮膚を治してもらったら、将来、自分の力でどうにもできない人のために何かしたい。そう思っていました。
とはいえ、誰かのために何かをするには、自分自身が力を身に着けていなければいけない。学生時代からビジネスに興味があったので、大学で留学時にビジネスを学び、就職活動ではビジネスの最先端で力をつけたいと前職に入社し、新卒からマーケティング・リサーチの仕事に携わらせてもらいました。
ただその中でも、「誰かのために」という想いをどのように事業を通じて実現していくのか、社内外で探していました。そのなかで、自分の感覚と合うなと感じたのがTFTでした。
─TFTとの出会いについて教えてください。
TFTとは2010年、社会人3年目に出会いました。お弁当箱を作るプロジェクトにボランティアとして関わったのですが、リサーチしたデータをまとめて、「市場ではこういう商品が求められています」と提案をするという役割で入りました。
皆で企画書を作り、企業への営業もしました。その時お弁当箱を作っている工場に飛び込み営業をしたのですが、突然の訪問にも関わらず、ご担当の方に説明をして企画書を置いてくると、社長さんからすぐに電話がかかってきたんです。「こういう思いのある取り組みをやりたかった!」と。
50社の営業リストを挙げていた中で、その1社にそう言っていただけて、お弁当箱が実現しました。その時のプロジェクトは社会人15人ほどのチームだったのですが、みんな優秀な人たちで。熱い人たちの中でやっていて、「TFTに関わる方々は、とても優秀で魅力的だな」と思ったりして。お弁当箱の企画から半年もたたなかったのですが、描いていたものが形になったことも、すごく面白かった。
誰のために、何のために、仕事をしていきたいのか。
─それからどんな経緯で前職を辞めることになったのですか。
2013年に育児休暇に入ったのをきっかけに前職の仕事から少し離れることになりました。仕事は面白かったし、責任も大きくなってくる年齢でもあり、やりがいを感じていました。でも、「誰のために、何のために、仕事をしていきたいのだろうか」と考えた時、原点に立ち戻って「困っている人のためにビジネスの力を使いたい」と思ったんです。その時、一番面白いことができそうだと感じたのがTFTでした。
すると、ちょうどそのタイミングでTFTから求人が出ていて、すぐに問い合わせをしました。驚かれましたね(笑)。
─その後、すぐに参画されたのですか?反対されたり、悩んだりしませんでしたか?
悩みましたし、実際には周囲の反対もありました。当時、社会起業塾(ETIC.運営の社会起業家支援プログラム)にも参加していたので、メンターの方々にもいろいろとご指摘を受けました。「起業するの?」「前職を続けるの?」「TFTにジョインするの?」とすごく悩み、いろいろ書きながら整理していました。
その中で、「困っている人の助けになりたい」「自分の力で、商品やサービスを世の中に出したい」という想いを大切にしたいと思いました。「志を持つ人と出会い、仕事をしたい。こういう人に囲まれて暮らしたい」という想いもあって、これを実現するには、ロジックでは説明しきれないけれど感覚で「ここだ!」と思えるところに行ってチャレンジしてみようと思うようになりました。
マーケティング大賞受賞の場で元上司と再会
こんなふうにたくさん悩んで決断して転職をしたのですが、想像以上に転職は、天変地異でした。
─想定外ばかり。
想像以上でした。
─どんなところが想定外でしたか。
全員が責任を持って、第一線に立って道を切り拓いていくところが想像以上でした。お弁当箱を作る時も営業先でうまくいって、実現したことで喜びましたが、これからは実現したいと思ったら自らアイデアを出して、自分で責任を持ち、道を作っていかなければならない。
そういう意味では、TFTは、私が入った当初から既に実績も基盤もあり、起業することと比べるととても整った環境です。でも、大企業と比較するとそうでない部分もあります。とにかく自分で切り拓いて創っていくというところが、当時大企業から転職した際に感じた大きな違いでした。そしてそれが大きなやりがいでもあり、無いものを創っていけるという面白さでもあります。
転職当時は、置いてきたものの大きさも感じました。前職のCMを見るたびに、想像以上に「日産好きだったな」と思いましたし(笑)。でも、辞めることで迷惑をかけ、退路を断ったので本当に頑張るしかないな、と。頑張って、成果を出して、育ててくださった方々に報告したいと思って必死に頑張りました。その結果、昨年、マーケティング大賞奨励賞(公益社団法人日本マーケティング協会主催)を受賞し、受賞式の場で元上司と再会できました。
─すべては自分。
最前線で、自分の名前で責任を持って仕事をしていける面白さがあります。その分、自分にすべてがかかっているとも感じます。
─責任が大きい。だからこそ面白いけれど、プレッシャーもある。
たくさん責任やプレッシャーを感じ、全力で取り組んでいますが、至らない部分がまだたくさんあるとも感じています。
おにぎりアクションに関わってくださり、一緒に創っている皆様には、常日頃多大なる感謝を感じていても、それを伝えきれてないと感じる時があります。思っていることの100分の1も届いていないだろうなと思うくらい、もどかしい時があります。
僕が一番の応援団長だよ
─今後についてはいかがですか?お子さんもいるので目の前のことで手一杯だとは思いますが。
国内の貧困に対してTFTとして何かできないか、と考えています。海外の貧困もあるけれど、国内の貧困を何とかしたいとすごく思っています。どういうやり方がいいか、模索中です。
─そんな風に日々、考え、動く大宮さんをご家族はどんな風にご覧になっているのでしょうか。
夫は、「僕が一番の応援団長だよ」と言ってくれています。夫は会社を退職して、起業の準備中なんです。
彼が辞める時は、最初、嫁ブロックをかけたりしましたが(笑)、一度の人生やりたいことをやればといいと思って応援することにしました。
私もやりたいことをやらせてもらっていますが、「おにぎりアクション」がこんなにも大きな展開になると最初思っていませんでした。信じてやってみると、奇跡のようなご縁をたくさんいただき、感謝しかありません。それは、自分が信じている感覚と合うことをやっているから。
自分の気持ちとリンクしていて、自分の中で、「この方向だな」と腑に落ちているからこそ、素晴らしい方向に道が開けていくのかなと感じています。
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