働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──
その兆しが横浜市にあります。
同市は、2019年1月に「イノベーション都市・横浜」を宣言。その理念の下、副業・兼業を活用した人材交流によりスキルを持った人材が関わりあうことで、自社の経営課題の解決や組織の垣根を超えた人材の交流・成長機会の獲得を支援するための事業──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を、昨年度に続き、2020年度もスタート。
DRIVEでは今まで3回、この事業について記事をお届けしてきました。
第4回目となる本記事は、2020年12月14日に開催された「副業・兼業を活用したい企業向けのセミナー」の開催レポートです。横浜市の事業の一環ですが、横浜のみならず、「副業・兼業を俯瞰的に捉えたい方」「『レンタル移籍』に興味がある方」にお楽しみいただける内容です。
セミナーを動画でご覧になりたい方は、アーカイブにて。
「副業・兼業」を政府が推進。目的に合わせた副業系サービスの選択が重要。
はじめに紹介するのは、セミナー冒頭に実施された「副業・兼業制度について理解しよう」(登壇者 : NPO法人ETIC. 伊藤順平)という、マクロな視点で副業・兼業制度を理解するためのプレゼンについてです(当日の内容を一部抜粋)。
NPO法人ETIC. YOSOMON!事業責任者/伊藤順平
2009年株式会社スマイルズに入社。飲食店舗の管理、海外での店舗立ち上げを経験。2015年よりNPO法人ETIC.に参画し、副業マッチングプラットフォーム「YOSOMON!」等の新規事業の立上げを担当。地域企業の採用支援や、年間約100名の学生、社会人に対して起業を含めたキャリアカウンセリングを行っている。
◆
【0】副業・兼業制度の最新動向を俯瞰的に捉えると・・・
伊藤によると、副業・兼業制度の最新動向は以下3点のようです。
- 人口減少を背景に、政府が副業人材活用を積極的に推奨。活用を促進する施策も登場。社員の副業を容認する企業が増加している。
- 従業員側の意識の変化や雇用を取り巻く環境も急速に変化しており、副業・兼業に関心を持つ個人も増えている。
- 様々な副業マッチングサービスが登場。解決したい課題に合わせ適切なサービスの選択が重要。
以降、登壇時の伊藤の発言をもとに、以下について詳しく見ていきましょう。
- 【1】政府が「副業・兼業」を推進
- 【2】副業・兼業について(企業の状況)
- 【3】副業・兼業について(人材の状況)
- 【4】副業系サービスカオスマップの紹介・外部人材活用メリット
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【1】政府が「副業・兼業」を推進
伊藤 : 副業・兼業は2018年から一気に広がってきていると感じています。労働人口がこれから減っていく中で、政府としても、一人の人が一社だけで働くのではなく、副業・兼業人材の活用を積極的に推奨しています。
具体的には、2018年に厚生労働省のモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という一文が削除され、副業・兼業の促進に関するガイドラインも策定されました。
また2019年、まち・ひと・しごと創生基本方針2019の中で、関係人口(*)の創出・拡大において、「副業・兼業として地域に関わる人材の活用」ということが明記されています(基本方針・資料p.6)。
(*)移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。(総務省「地域への新しい入り口『関係人口』ポータルサイト」より抜粋)
2020年には、中小企業庁の中小企業デジタル化応援隊事業がスタートしました。これは全国の中小企業・小規模事業者を対象に、副業・兼業人材の活用自体をサポートする仕組みです。
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【2】副業・兼業について(企業の状況)
伊藤 : パーソル総合研究所「副業の実態・意識調査」によると、全面的に副業を容認している企業は13.9%で、条件つき容認企業を合わせると50.0%が容認しています。
また優秀な人材の流出を防ぐ目的や人材育成の観点から、社員の副業を容認する大企業も増加しています。
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【3】副業・兼業について(人材の状況)
伊藤 : d’s JOURNAL編集部が実施した「副業に関するアンケート」の結果によると、約3割の方が副業経験をお持ちで、約5割の方が「いつか副業をしてみたい」と回答しています。
また、株式会社みらいワークスが実施した「首都圏大企業管理職の就業意識調査」の結果によると、地方の中小企業での副業に興味がある方々は約6割にものぼります。
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【4】副業系サービスカオスマップの紹介・外部人材活用メリット
プレゼンの最後には、「副業系サービスカオスマップ 2019年版」が紹介されました。伊藤曰く「それぞれ、サービスの特色や登録されている人材の特徴も異なっています。副業・兼業人材の活用を通じて何を達成したいのか、その目的によって、適切なメディア・サービスを選択するのが重要」とのことです。
あわせて、「外部人材活用の6つのメリット」も紹介されました。詳細は以下の画像、もしくはURL先をご覧ください。
レンタル移籍とは?副業にも活かせる視点
続いて、「レンタル移籍」について紹介します。当日はゲストとして、株式会社ローンディールの大川陽介さんが登壇。レンタル移籍は厳密には副業・兼業ではないのですが、副業・兼業にも活かせる視点が盛り込まれています(当日の内容を一部抜粋)。
株式会社ローンディール 最高顧客責任者/大川 陽介さん
株式会社ローンディール 最高顧客責任者/一般社団法人クリエイティブ思考協会 理事/中小企業診断士。1980年千葉県我孫子市生まれ。2005年富士ゼロックス株式会社へ入社。SE、営業、コンサル等を経て、大企業やベンチャーとの共創活動を推進。2016年、大企業有志団体を50社以上巻き込む実践共同体「ONE JAPAN」を共同設立し、挑戦する個人の覚醒、組織風土変革、オープンイノベーションによる価値共創に挑む。現在は、「日本的な人材の流動化」をミッションとし、「企業間レンタル移籍」を提供する株式会社ローンディールへ参画。自身のWILLである「発掘/覚醒/結合によって個と組織の生命力を高める」活動に取り組みながら、創造性の民主化を目指している。
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【0】株式会社ローンディールとは?
株式会社ローンディールは、「日本的な人材の流動化を創出する」をミッションに、企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL」(ローンディール)を運営する企業です。過去には『日本の人事部「HRアワード」人材開発・育成部門 優秀賞』『内閣府「第1回 日本オープンイノベーション大賞」選考委員会特別賞』『グッドデザイン賞(カテゴリ : ビジネスモデル)』を受賞しています。
以降、登壇時の大川さんの発言をもとに、以下について詳しく見ていきましょう。
- 【1】企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL」とは?
- 【2】レンタル移籍の契約形態について
- 【3】事例紹介
- 【4】なぜベンチャー企業がよいのか?
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【1】企業間レンタル移籍プラットフォーム「LoanDEAL」とは?
大川 : LoanDEALは「大企業人材をベンチャー企業の事業開発などに参画させ、育成する仕組み」です。具体的には、大企業は人材育成の目的で人を一定期間「レンタル移籍」でベンチャー企業に送り込みます。ベンチャー企業は自分たちの事業を成長させる戦力として、送り込まれた人たちと出会い・見極め・活用をしていきます。
このプラットフォームの中で生まれる価値は、大きく3つあります。
- 越境 : 「境界を越えること」です。副業・兼業の価値とも重なる部分です。
- 修羅場体験 : 今、価値を生み出さないと死んでしまうといったような、ベンチャーでの「創造的な修羅場での経験」を指します。
- 振り返り : ベンチャーでの経験を、「自分の学びとして、言語化して、大企業に持って帰れる」ようにサポートしています。
さらに「必ず戻る」というのがポイントです。大企業から送り込まれた人たちは、ベンチャーに行ったまま帰ってこられなくなるのではなく、帰ることを前提にレンタル移籍するので、安心して挑戦できます。
また大企業の中では意思決定の経験を積むのが難しい傾向にあります。しかしベンチャーでは、社長すら答えも分からない中で、一つ一つ意思決定をしながら前に進んでいきます。そのような環境での「数多くの意思決定経験」もポイントになっています。
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【2】レンタル移籍の契約形態について
大川 : 経済産業省・厚生労働省に照会済みの「研修送出契約」という枠組みを使用しています。資本関係のない企業への研修送出しという人材育成手法の法的位置付けが明確化され、他社での業務経験の提供による人材育成事業を安心して行えるようになっています。
レンタル移籍を実施するにあたり、一時的に企業の社員が他社で就業するという構造となっており、労働者派遣法・職業安定法などの法律に基づく法規制の適用の有無・範囲が不明確であるという懸念がありました。 そこで、ローンディールでは経済産業省が提供する「グレーゾーン解消制度*」を活用し、当社のレンタル移籍に関する事業活動について法的な見解の照会を行い、経済産業省および厚生労働省から当該事業活動の全部について実施が可能であるとの回答を得るに至りました。
*グレーゾーン解消制度:産業競争力強化法に基づき、「現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても安心して新規事業を行い得るよう、規制の適用有無を確認できる制度」として経済産業省が創設したもの。
引用元 : 企業間レンタル移籍のローンディール、経済産業省の「グレーゾーン解消制度」を活用して経済産業省・厚生労働省から事業に対する公式見解を取得(2018年5月21日)
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【3】事例紹介
大川 : リチウムイオン電池の研究者が、パナソニックからロボットベンチャーへ、レンタル移籍した事例を紹介します。
最初の仕事は「50億の資金調達」。彼が凄かったのは、財務諸表も分からない、資金調達の仕方も分からない状態でも、チャレンジしたことでした。全然分からないながらも、少しづつ理解しながら挑戦したのですが、結果、最初は50億円は調達できませんでした。
しかしその後、「違う資金調達方法を探します!」と自ら言ったのが、彼の人生の転換点だったりします。最終的には1年後、自分で数億の資金を調達することができました。
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【4】なぜベンチャー企業がよいのか?
大川 : レンタル移籍するにしても、副業・兼業するにしても「なぜベンチャー企業がよいのか?」について紹介します。
- 個人・自社のメタ認知 : ベンチャーに送り出された後、大企業の看板が外されるとアポイントすら取れない。そんな看板を外した時の個の力を理解することができ、同時に自分の会社の凄さもメタ認知することができます。
- 圧倒的なスピード : 私たちが言っているベンチャーとは、規模的には2〜3名から30名程度の規模感です。縦割り機能がないので、現場で最適なことを判断しながら、スピード感も持って進めていかなければいけません。
- 自分で考える力・胆力・覚悟 : 送り出された先で、社長すら答えが分からない中、「自分で考えてやれ」と言われて、大企業の人材は一度立ち止まります。ベンチャーでは一人一人が意思決定と責任の中にいるからこそ、いきいきとスピード感を持って働いています。これを肌で感じられるのがよいところです。
上記のような経験を経て、「圧倒的当事者意識」や「未知に挑む起業家マインド・肌感覚」が生まれてきます。
- 圧倒的当事者意識 : 「自分がなんとかしないと会社が死んでしまう」「自分が世の中に新しい価値を生み出すんだ」といったような意識のことです。
- 未知に挑む起業家マインド・肌感覚 : これは本を読んだところで身に付くものではありません。だからこそ、外に行って、経験して身に付けましょうということです。
【案内】2020年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について
以上、開催レポートでした。
【参考(開催概要)】
▼日時 :
2020年12月14日(月)17:00-19:00
▼場所 :
オンライン(Zoom)
▼テーマ :
「大手企業の人材とベンチャー・スタートアップとの協働事例紹介!」
・大手企業が育成を目的に人材を外部に送り出す「レンタル移籍」とは?
・どんな人材がレンタル移籍するのか?
・大手企業に所属する人材とベンチャー・スタートアップとの協働イメージを深める
▼タイムライン :
17:00-17:20 イントロダクション
17:20-17:35 副業・兼業制度について理解しよう
17:35-18:35 ゲストによる事例紹介&トークセッション
18:35-18:50 副業・兼業マッチングサービスの紹介
18:50-19:00 クロージング
19:00-20:00 個別相談会(任意)
▼登壇者 :
・副業・兼業制度について理解しよう : 伊藤順平(NPO法人ETIC.)
・ゲストによる事例紹介&トークセッション : 大川 陽介氏(株式会社ローンディール)
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さて今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施します。
副業・兼業に関する相談窓口(企業・人材向け)がWEBに設置されています。また以下からセミナーのアーカイブもご覧いただけます。
【セミナーアーカイブ】
・企業向け(第1回)
大手企業の人材とベンチャー・スタートアップとの協働事例紹介!
・企業向け(第2回)
ベンチャー企業のスタートアップ期にも副業人材を!社長の右腕としてイノベーションを加速する
・企業向け(第3回)
地域経済を支える中小企業の経営革新に社長×副業人材で挑戦! (※近日公開)
・人材向け
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※本記事の掲載情報は、2020年12月現在のものです。
【連載・第1回】
160年前の開港から、物語はずっと続いている―横浜から新たなイノベーションを
【連載・第2回】
副業・兼業人材を受け入れ「今までにない発想」が社内に【株式会社テレビ神奈川の事例紹介】
【連載・第3回】
新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【株式会社太陽住建の事例紹介】
【連載・第4回】
本記事
【連載・第5回】
誕生したのはオンラインコミュニティ!採用・不採用ではない副業人材との関わり方とは?【株式会社plan-Aの事例紹介】
【連載・第6回】
「プロに徹する」「自分の価値観を再認識できる」―副業経験者のリアルな声
【連載・第7回(最終回)】
副業人材の受け入れにより、見えてきた可能性とは?【太陽住建・ユニキャスト2社の事例紹介】
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