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釜石に移住して5ヶ月で会社設立。「自分」の追求が「地域」の未来につながる働き方

2019.02.02 

2017年6月にスタートした「釜石ローカルベンチャー(LV)コミュニティ」。岩手県釜石市が地域おこし協力隊の制度を活用して発足した移住・起業支援制度です。

前回は地域と自分の未来のために一歩一歩進んでいる1期生細江絵梨さんの活動をレポートしました。

 

今回フォーカスするのは2018年7月に活動を開始した2期生の神脇隼人さん。東日本大震災以来、継続的に釜石とかかわる中でLVを選んだ細江さんに対し、ローカルでの起業を考えて初めて釜石と接点を持ったという神脇さん。着任から半年を経て「東京でのサラリーマン時代とは違い、自分にしかできないことをやれている実感がある」と言います。2017年12月に稼働店舗が0となった「0(ゼロ)」店舗商店街復活に取り組む神脇さんの本音に迫ります。

釜石ローカルベンチャー1

「自分らしい働き方」求めてローカルベンチャーへ

千葉県出身の神脇さんは大学卒業後に大手不動産会社に就職、分譲マンションの営業のほかマーケティングやブランディングの業務を経験しました。学生時代にカフェで働いていた経験から人が集う空間づくりに興味があったと言います。社会人となり、自分一人では絶対に扱えない、億単位の規模での事業を進めるなどやりがいを感じる一方で、「このままこんなサラリーマンでいいのだろうか……」と漠然とキャリア形成に迷いを感じることも。大学時代に留学したりベンチャーを起こしたりして自分より輝いていた同級生も、社会人になってみると皆同じようなサラリーマンとして社会に埋没しているように見えました。

 

「もっとほかに自分らしい働き方や暮らし方があるのではないか」。そんなふうに考え始めた時、目に入ったのがローカルを扱う雑誌に載っていたローカルベンチャー(地方で地域資源を活用して起業する人たち)の記事でした。その記事が気になって「ローカルベンチャー」をネット検索して発見したのが釜石LVの記事。岩手県釜石市が起業型地域おこし協力隊の制度を活用して釜石LVを発足し1期生が活動していることや、かつては岩手県沿岸部有数の観光地としてにぎわっていた釜石大観音仲見世通りの再生にチャレンジする2期生を募集することなどが書かれていました。釜石ローカルベンチャーイメージ

空家の活用やリノベーションに興味を持っていた神脇さんは「そんな釜石でなら自分のスキルを活かしながら自分で新しい事業を起こせそう」と直感。起業型地域おこし協力隊制度を利用した仕組みならではの起業に向けたサポートなども魅力的だと感じました。

「地域パートナー」と意気投合し起業を決意

さっそく都内で開催された全国のローカルベンチャーが集まるイベントに参加。釜石市オープンシティ推進室の石井重成室長や釜石LV事務局メンバーと会い、1ヶ月後に初めて釜石を訪れました。この時、のちに自身のフィールドとなる釜石大観音仲見世商店街にも足を運びました。観光名所・釜石大観音の御膝元として昭和50年代には20店以上の飲食店やお土産店が並び、多くの観光客でにぎわっていた仲見世通りでしたが、神脇さんが初めて訪れた時はすべてのシャッターが下りている状態でした。

釜石ローカルベンチャー2

普通の人であれば意気消沈しそうなその光景を前に、神脇さんは「ここには可能性しかない!」とすぐさま仲見世を舞台に活動することを決意しました。

「ここなら自分たちで手を加えられるところがいくらでもあるし、全てシャッターが閉まった商店街の再生という前例のないことにチャレンジしてみようと決めたんです」と振り返ります。この時、現地での「地域パートナー」となる釜石大観音リノベーションプロジェクト代表で一級建築士の宮崎達也さんと出会いました。

釜石ローカルベンチャー3

この「地域パートナー」の制度も釜石LVの特色のひとつ。地域に根ざした企業や団体にパートナーになってもらい連携し助言や提案をもらうことで、釜石とつながりのない人でも地域内で事業を起こしやすくするための仕組みです。

 

震災翌年の2012年に釜石に移住した宮崎さんは地域の活動に積極的に参加しており、市の「釜石○○会議」をきっかけに「釜石大観音仲見世リノベーションプロジェクト」という任意団体を発足。地元の若手企業経営者らメンバーと一緒に、仲見世通りのゆるい傾斜を生かした流しそうめんイベントや、景観改善のための破けたテントの撤去やシャッターの塗り替えなどを行っていて、その様子は地元の新聞などでも取り上げられていました。

釜石ローカルベンチャー4

仲見世リノベメンバーによるシャッター塗り替えの様子

神脇さんはそんな宮崎さんと出会ってすぐに、仲見世のポテンシャルの高さをめぐって意気投合。仲見世の将来を切り拓いていこうと誓い合いました。

着任から5ヶ月で会社設立、クラウドファンディングに挑戦

この釜石初訪問から5ヶ月後、釜石LVに加入した神脇さん。加入時の企画書 には「場づくり」と「モノづくり」という2本の柱を立てました。「場づくり」は仲見世通りで新たに店や事務所を構える人を呼び込み、もう一度通りににぎわいを取り戻すための取り組み。建物単体ではなく、通りにある複数の空き店舗をリノベーションすることでエリア全体の価値向上を図る「リノベーションまちづくり」を行う会社を立ち上げ、オーナーから借り受けた物件に付加価値をつけて貸し出す事業のほか、イベントの企画やカフェの直営なども計画に盛り込みました。

釜石ローカルベンチャー5

仲見世のシェアオフィスで打ち合わせをする神脇さん

このような事業を行うために必要と考えたのが会社の設立でした。着任から半年以内の会社設立を目指して検討を進め、着任5ヶ月後の2018年12月には、宮崎さん、さらに東京在住で多拠点居住を実践している堀越圭介さんとともに、エリアリノベーションのための合同会社「sofo(ソホ)」の設立にこぎつけました。

 

「5ヶ月で設立できたのはこれまでの仲見世リノベーションプロジェクトの活動があり、地元の方の協力やベースがあったことがとても大きかったです。会社設立というスタート地点に立てたのは、私がここに来る前の4年間、活動を続けてきた方々のおかげです

釜石ローカルベンチャー6

合同会社「sofo」を立ち上げた3名。左から、堀越さん、宮崎さん、神脇さん。

そして、2019年1月からは、カフェのオープンにむけてクラウドファンディングもスタート。コンセプトは<はじめにいくところ×いつもいるところ>。店舗単体の経営の視点に立てばカフェよりも回転率が高い業態はたくさんありますが、仲見世通り全体を考え、敢えて滞在時間の長いカフェを選びました。

 

来店した人が長く滞在できるカフェをつくることで、仲見世を通る人たちに『仲見世もにぎわい始めた』と可能性を感じてもらえる。釜石に知り合いが来た時に最初に連れて行きたくなる場所にしたい」とその狙いを語ります。

 

実は神脇さんは大学生時代の4年間スターバックスに勤務し、2010年には全国で11人しか選出されないエリアコーヒーマスター(南関東北海道エリアコーヒーマスター)に当時史上最年少で選出されたという経歴の持ち主。その経験を生かして、コーヒーや居心地の良い空間を提供するだけでなく、人が集いたくなるようなワークショップやイベントを実施したいと考えています。

場づくり×モノづくりで地域に人の流れを

企画書の二つ目の柱である「モノづくり」。神脇さんは以前から学んでいたジュエリー制作をビジネスにするため、ジュエリーブランドを立ち上げ、現在はフィラデルフィアのセレクトショップでも販売されています。仲見世通りにも店を構えて、自身の商品を制作するとともに、工房機能を備えて指輪などを作れるワークショップも展開する計画です。

釜石ローカルベンチャー7

仲見世のシェアオフィスの1階で行った指輪制作のワークショップ

釜石には金属アレルギーの原因となるニッケルの含有量が極めて少ないコバルト合金「コバリオン」を製造できる企業があることから、神脇さんは着任直後からコバリオンのアクセサリーを制作するため、加工会社などと打ち合わせを重ねてきました。そして無事、協力を取り付け、結婚式を控えたカップルとともに2人の結婚指輪を制作することができました。

 

ジュエリーの販売やワークショップなど「モノづくり」でも収益を上げながら、エリアリノベーション事業を進めていく計画。ジュエリー制作の体験を目当てに仲見世に人が集まる――そんな光景を思い描いています。

 

仲見世がどんなエリアになっていくかは集まってくるプレーヤーで決まる。『何かをしたい』という思いを実現できる場所にするためにも、まず僕自身が仲見世の集客装置になりたい」と話す神脇さん。

 

釜石LV事務局の石倉佳那子さんは「神脇さんは『自分の生き方を自分でつくる』という釜石ローカルベンチャーの想いを体現した存在。自身のやりたいことや生き方を追求した結果、おのずと仲見世の活性化に必要なことにつながり、地域にとっても本人にとっても良い関係ができつつある」と言います。

ローカルベンチャーラボの

ETIC.が主催するローカルベンチャーラボの大会で入賞した神脇さん。

「サラリーマンの時とは違う満足感を感じている」と実感している背景には、LVの仲間たちの存在があります。「全員が頑張っている、だから自分も頑張れるんです」。事業計画に多様な視点からフィードバックをもらったり、自身も他のメンバーにアドバイスしたりすることで、自分が役に立っているという実感もあると言います。

釜石ローカルベンチャーコミュニティ関係者が集まっての集合写真

釜石ローカルベンチャーコミュニティ関係者が集まっての集合写真

大手企業でのキャリアを離れて釜石LVを選んだ神脇さんは「画一的なキャリアではなく自分らしい生き方を試行錯誤する人の背中を押すロールモデルになりたい」という思いも持っています。最近注目されている起業や複業という新しい働き方を自ら実践しながらその姿を釜石から発信していきます。

 

 

現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

Facebookページ「ローカルベンチャーラボ」、Twitter「ローカルベンチャーサミット」では、ここでご紹介したような地方でのチャレンジに関する情報を日々お届けしています。ぜひチェックしてみてください。

 

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手塚さや香

手塚さや香 ライター、釜石リージョナルコーディネーター(釜援隊)。 毎日新聞で東京、大阪、盛岡を拠点に計13年間の記者生活ののち、釜援隊に所属。東日本大震災で被災した釜石地方森林組合で人材育成事業などを担当している。副業として一次産業や復興、ローカルなできごとをテーマにwebメディア、雑誌向けの取材執筆も行う。「岩手移住計画」代表。

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