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休眠預金等活用法の資金分配団体発表。NPO法人ETIC.が始める「子どもの未来のための協働促進助成事業」とは

2019.12.19 

少子高齢化の中、行政だけでは対応困難な課題に対する民間独自の創造性とイノベーションの発揮がより強く求められる時代を迎えています。そんな中、2016年12月に休眠預金等活用法※1が成立、2018年1月より全面施行されました。休眠預金とは10年以上取引がない口座に眠っている預金のことで、この法律により休眠預金を社会課題の解決や民間公益活動のために活用できるようになります。

 

日本では前例のない“社会実験”とも言えるこの取り組みが、ついに2020来年度より本格始動することになります。指定活用団体※2である一般財団法人日本民間公益活動連携機構(以下、JANPIA)は、資金分配団体※3の公募を行い、先日採択された24事業を発表しました。これらの資金分配団体が、支援先である民間公益活動を行う実行団体を2020年春頃を目処に公募により決定、3年間の支援がスタートする予定です。

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出典:「2019年度資金分配団体募集のお知らせ」一般社団法人日本民間公益活動連携機構より引用 https://www.janpia.or.jp/koubo/download/koubo_pamphlet.pdf

 

そして特定非営利活動法人ETIC.(以下、エティック)も、「子どもの未来のための協働促進助成事業」の提案が採択され、資金分配団体としてこの事業に参画することになりました。しかし、「社会起業家支援のエティックが、なぜ子どものための協働?」と、休眠預金の資金分配団体の発表を見て思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 

この記事では、この事業に取り組む背景を事業の企画・実施の責任者である番野智行(ばんのともゆき)からお伝えしたいと思います。

 

※1:「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」。10年以上取引がない普通預金や定期預金等は休眠預金等の対象となり、社会課題の解決や民間公益活動のために活用されるという法律。残高1万円以上であれば金融機関から通知状が発送され、1万円未満の場合通知状は発送されず休眠預金等の対象になるが、預貯金の額に対象可否の基準はなく、各金融機関のホームページで公告を行った上で所定の機構に移管される。また、休眠預金等として管理されていても金融機関で手続きをすれば期限なく引き出すことができる。金融庁によると、2014〜2016年度の休眠預金は年間に1,200億円程度発生、そのうち500億円程度が預金者に払い戻しされている状況。詳細はこちら

※2:民間公益活動促進業務の実施について責任を負い、事業計画等に基づいて資金分配団体を公募により選定し、助成又は貸付け(当分の間は助成のみ)を行う。内閣総理大臣により指定された民間公益活動の促進に資することを目的とした一般財団法人。

※3:休眠預金活用法に基づく指定活用団体として、民間公益活動を行う団体(実行団体)に対して助成、貸付け又は出資を行う資金分配団体。

2001年から社会起業家支援をスタート、1,000を超える団体を支援

まずは私たちエティックについて簡単にお伝えしたいと思います。

 

エティックは、次代を担う起業家型リーダーを育成し、社会の変革に貢献することを活動理念としています。1993年、「起業家になる」という選択肢を普通にしたいという想いから、1993年に学生団体として活動をスタートしました。その後1997年には日本初の長期実践型インターンシッププログラムを開始し、2000年にはNPO法人の認証を取得。翌2001年から社会起業家の支援を始め、社会起業家という言葉もまだまだ一般的でなかった当時、日本初のソーシャルベンチャービジネスプランコンテスト「STYLE」、NECと協働した「社会起業塾イニシアティブ」など、社会起業家の創業を支援する取り組みを立ち上げました。

 

私も、行政だけでは解決できない社会課題に民間から取り組んでいく社会起業というアプローチを知り、学生インターンとしてエティックに参加しました。2000年のことです。その後、この仕事の意義、やりがい、楽しさに触れ、大学卒業後も職員としてエティックに参画することを決めました。

 

エティックが社会起業家支援を始めて今年で20年近くになります。関わりの濃淡はありますが、これまでに全国で1,000以上の団体を支援してきました。教育、福祉、環境、国際協力、地域づくり、震災復興など、テーマは様々です。近年は、東京だけではなく地域の方にも参加いただけるようにプログラムを展開しており、半数以上が東京以外からの参加者です。国レベル・都道府県レベルでの大きな変革をリードしている方も、地域に求められる大切な活動を着実に組み上げている方もいらっしゃいます。以前は若い世代に焦点を当ててきましたが、近年は40代や50代のリーダーの方々にご参加いただくことも増えてきました。

これまでに全国で1,000以上の団体を支援。写真は研修後の1コマ。

これまでに全国で1,000以上の団体を支援。写真は研修後の1コマ。

「実現したい社会にはまだまだ遠い」その問いへの応えを探る

創業支援からスタートし、社会起業家たちに伴走してきた私たちでしたが、私たち自身が次のステージへ進まなければいけないと感じる出来事がありました。それは2015年に実施した、それぞれ違う分野で活躍する12団体のリーダーたちが集い、各団体の次のステージに向けた戦略や組織開発、リーダーシップについて学び合うプログラムの場でのことでした。

 

あるとき参加者たち全員が「団体も成長したし、活動も広がってきたけれど、実現したい社会から逆算するとまだまだ道のりは遠いと感じる」という悩みを口にしたのです。

 

そこに集まっていたのは、当時のNPOや社会起業の業界ではリーダー的存在とも言える人々でした。彼らでも「まだまだ」なのであれば、きっと多くの団体が同じことを感じている、もしくはこの先感じるのではないかと思いました。そして私たちも既にそう感じていることに気がついたのです。

 

20年弱この仕事をしてきて、日々工夫や努力を重ねているリーダーや現場の方々にたくさんお会いしてきました。本当に頭の下がる思いで、伴走支援するどころか、私たちが彼らから学ぶ日々でもあります。だからこそ、私たちも本気で良い社会を作ろうと思うならば、現在の延長線上ではいけないと感じました。

 

また当時、もう一つ感じていたことがありました。それは「社会起業家だけが頑張っても社会は変わらない」ということです。いま思うと当たり前のことではあるのですが。

 

社会起業家について知っている人、関心を持つ人、そして寄付などの具体的なアクションをする人は確実に増えています。これは希望であり可能性です。一方で、まだまだ大きな流れにはなっていない。

 

改めて民間・行政・企業・市民・当事者それぞれが力を合わせてどんな社会をつくっていきたいのか、その中でそれぞれの役割やパートナシップはどうあることが良いのか、社会起業家の皆さんとも対話しながら、私たちの役割を再定義することに決めました。

新しい支援のあり方を求めて出会ったアプローチ「コレクティブ・インパクト」

そんな中で出会ったのが、「コレクティブ・インパクト」というアプローチです。

 

「コレクティブ・インパクト」は、問題解決に向けて個々の組織がそれぞれ努力するのではない新しいアプローチです。John Kania氏とMark Kramaer氏がStanford Social Innovation Reviewで発表した論文(“Collective Impact” by John Kania & Mark Kramer | Winter 2011)で定義された概念で、企業・行政・NPO・市民・当事者ら、異なるセクターのプレイヤーが協力し、より良い社会・地域を作るためにはどうしたら良いかという論考が紹介されています。日本でも、数十の社会変革・地域変革の好事例に共通している要素を抽出した「5つの要素」とともに注目を集めました。

 

<参考>

コレクティブ・インパクトの5つの要素(The Five Conditions of Collective Success)

1)問題理解とビジョンの共有(Common Agenda)

2)共通の指標に基づく成果の測定(Shared Measurement)

3)互いに補強し合う活動(Mutually Reinforcing Activities)

4)当事者間の継続的なコミュニケーション(Continuous Communication)

5)取り組みを支える組織(Backbone Support)

 

実はこのコンセプトを知った当初は、それほど関心を持っていませんでした。「既に連携や協働はたくさん行われているのに、何が違うのだろう?」と。「また外国から来た言葉が流行っている」と、少し斜に構えていた部分も正直ありました。

 

そうした捉え方が変わったのは、アメリカで開催された「コレクティブ・インパクト」の実践者たちが全世界から集まる3日間の会議に参加した2018年のことです。参加のきっかけは、「日本の取り組みについて分科会で紹介してほしい」と主催者から声をかけてもらったことでした。

 

当時、日々の業務に忙殺されていたこともあり、日常から離れることで新しい視点が得られるのではないかという漠然とした期待がありました。しかし、そこで得たものは期待以上でした。参加者は満員御礼の800名超。団体の代表者だけでなく様々な立場の人が集まり、より良い社会や地域の実現のためにそれぞれの活動をどう進化させられるのか、熱心に知恵を交換し合っていました。真剣で、熱気にあふれ、学びも多く、そして楽しい。本気でそう感じた場でした。

 

日本で「コレクティブ・インパクト」というカタカナ言葉を聞くと、いかにも舶来のコンセプトという感じです。しかし、実際は「どうやって力を合わせてより良い社会がつくれるか」という、日本にも共通する問いを持つ人たちが世界中に増えているのだと感じました。

 

また、そこに持ち寄られる知恵の厚みの凄さも圧巻でした。「異なるセクターの人が集まってどう課題を分析・共有するか」「当事者の声をどう取り組みに反映するか」「異なる価値観の人との話し合いの進め方」など、数十ある分科会のテーマはいずれも実践的。こうした知恵を日本にも持ち込みたいし、こうした場をもっと日本にも増やしていきたいと感じました。同時に、日本の素晴らしい事例との共通性も改めて確認し、必要な知恵が既にたくさんあるとも感じました。

 

そして、そのとき自然と湧き上がってきた想いが、「自分たちの住む社会や地域を、力を合わせて自分たちの手でつくっていくのだ。そのために、誰もが持っている社会起業家精神が育まれ発揮される社会をつくりたい」というものでした。自分たちの問いに対して、まだ答えは見えないものの、次のステップが見えた瞬間でした。

米国でのカンファレンスの一コマ。異なるセクターの当事者がデータに基づいた課題の共通理解をつくる方法について、テキサス州のある教育改革プロジェクトチームが知見を共有。

米国でのカンファレンスの一コマ。異なるセクターの当事者がデータに基づいた課題の共通理解をつくる方法について、テキサス州のある教育改革プロジェクトチームが知見を共有。

休眠預金を活用した「子どもの未来のための協働促進助成事業」

そうした中、2019年春に休眠預金等活用法における資金分配団体の公募が始まりました。ETIC.内でも「この制度にどう向き合うべきだろうか」と協議を重ねました。

 

検討の結果、2件の提案を提出し、この度採択いただいたのが「子どもの未来のための協働促進助成事業」になります。

 

貧困・虐待・いじめ・自殺など、いまこの国では深刻で不条理な状況にさらされている子どもたちがたくさんいます。本事業では、セクターの壁を越えて「子どもたちに必要な地域/社会システム」を創るための取り組み(主に地域単位での取り組みを想定)を3~5件程度採択し、資金面と非資金面で支援します。

 

エティックはこれまで様々な分野の社会起業家を支援をしてきましたが、なぜ今回子どもをテーマとして選んだのかについても簡単に説明させてください。

 

まず、より大きな成果への貢献を実現しようとするならば、私たち自身が特定のテーマについて深く知る必要があると感じていました。多様な起業家との接点を通して、様々な社会課題について知っていることはエティックの資源ですが、同時にその限界も感じていました。そこでテーマを絞ることに決めました。

 

その上で、なぜ子どもの領域だったのかというと、多くの起業家が何かを始めるときと同じく、100%論理的な理由があるわけではありません。

 

休眠預金は税金とは違いますが、十分に公的な性格を持ったお金です。そうしたお金が社会の中で最大限活かされる提案は何だろうということが問いでした。そうしたとき、市場原理だけでは解決されない、特に困難な状況にいる子どもたちの問題に取り組むことにこそ意義があるだろうと考えました。

 

もちろん、私たちだけでは力不足ですので、この領域で取り組んでこられたリーダーや有識者の方々にご協力をいただきながら進めていきます。こうしたときに協力いただける良いリーダーの方々を多く知っているのは、エティックの強みかもしれません。また事業パートナーとして、NPO法人かものはしプロジェクトやデロイトトーマツコンサルティングとの協働も決まっています。

 

これまで事前の調査やヒアリングを進めてきましたが、この領域は行政・教育機関・NPO・市民など様々なプレイヤーが既に解決に向けて取り組みを進めていて、問題に対する社会的な認知も高まっています。だからこそこの先は、組織を超えて課題とビジョンを共有し、連携・協働を進めていくことが課題解決を前進させる鍵になるとも感じています。

 

なお、子どもの課題は大人の課題と不可分でもあり、子どもの課題以外に取り組むプレイヤー(例:就労支援、生活支援)との連携も必要になると思っています。そこで今回は、様々なプレイヤーの力を合わせて子どもにとって必要な地域や社会の仕組みをつくっていくチェンジ・エージェント(触媒)的な機能を果たす事業をサポートします。

 

「協働促進」という言葉から推測できるかもしれませんが、この事業は「コレクティブ・インパクト」の方法論を基盤にしていきます。しかし、私たちはこの方法に絶対的なこだわりがあるわけではありません。まして、それで現場の人たちを縛りたいとも思っていません。

 

大切な問いは、「子どもたちのために、どんな社会の仕組みが必要か。それをどのようにして皆で力を合わせてつくることができるか」だと考えています。「コレクティブ・インパクト」は、そのことについて考えるときにヒントをくれる知恵の一つだと思っています。

 

同時に、日本の現場に既にある、もしくはこれから生まれてくる様々な知恵についても皆さんとともに学び、実践し、協働の技術を進化させていくことも、この事業の役割の一つだと思っています。

 

今回、実行団体に助成する資金は3年間でおよそ1.7億円になりますが、ただ単純に実行団体(チェンジ・エージェント)に分配して終わりにはしません。このお金を呼び水に、民間の資金やリソースがより一層この領域に流れるような取り組みも実行団体の皆様と一緒に進めていきたいと思います。

1月中旬より公募開始、説明会・個別相談も実施

この度「子どもの未来のための協働促進助成事業」では、1/20(月)、1/27(月)に実行団体へ向けての説明会を開催します(オンライン参加も可)。以降、個別相談も受け付けていきます。ご関心を持ってくださった方々は、ぜひこちらの詳細をご確認の上ご参加ください。

 

1月中旬・・・公募要項公開

1月20日(月)・27日(月)・・・説明会

3月2日(月)15:00・・・公募締切

3月~4月・・・選定・決定

5月・・・契約締結

5月~6月・・・実行団体の事業開始

 

*個別相談(事前予約制、ETIC.事務所(渋谷)にて対面もしくはオンライン)を2019年12月23日(月)~2020年2月28日(金)に実施します。

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本事業のチームメンバー(一部)。写真中央が番野

 

 

>>事業詳細・説明会申込はこちら

https://kyuminyokin.etic.or.jp/

この記事を書いたユーザー

番野智行

番野智行

NPO法人ETIC.ソーシャルイノベーション事業部 マネージャー 1977年京都府亀岡市生まれ。東京大学法学部卒業。2000年よりNPO法人 ETIC.にて社会課題の解決に取り組むリーダー(社会起業家)の育成に取り 組む。2005年に異文化間マーケティング/コミュニケーションを専門とす るコンサルティング会社に転職。同社取締役を経て、2010年に独立し現 職。ETIC.では創業期~成長期の社会起業家・NPOを対象とした資金面・非資金面の支援や、政府や企業向けのコンサルティング・人材育成などに携わる。より良い社会の実現に向けて、組織・個人がどう力を合わせることができるかがテーマ。

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