5月1日、NPO法人ETIC.(以下、ETIC.)は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてのメッセージと対話・協働への参画のお願いを出しました(全文はこちらから)。
このコロナ禍において、医療・教育・雇用をはじめ様々な領域で、これまでご一緒させていただいてきた社会起業家や地域のリーダー、そして企業や行政の方々が既にそれぞれのアクションを始められています。一方で彼ら自身も大きな影響を受け、経営面・事業面で困難な状況に直面しているケースもあります。
メッセージを出したその夜、いま自分たちは何を感じているのか、ETIC.はどのように変化していこうとしているのか、スタッフが集まり対話の時間が生まれました。この記事では、その一部をお届けしたいと思います。
NPO法人ETIC.
NPO法人ETIC.(エティック)は、社会の未来をつくる人を育むNPO法人。1993年の創業以来、実践型インターンシップや起業支援プログラムへの参加を通して、1000人以上が起業しました。企業・行政・NPOといった多様なセクターを巻き込みながら、挑戦したい人を支える仕組みづくりを続けています。
この対話に出てくるETIC.スタッフたち
ETIC.スタッフそれぞれが見ている今とは
- 押切
- 先日、自治体にコロナ禍における今後の動きについてヒアリングをしたんですけど、地域によって反応がまったく違いましたね。感染者数や地域の医療資源が影響しているとは思うんですが、今まで率先して改革を進めてきた地域も住民感情の配慮を最優先にして今は何も動かないと決めていたり、逆に今が変革のときだと“withコロナ”前提で社会のシステムを変えていくと意気込んでいる地域があったり、その温度差をかなり感じました。ETIC.としては、守っていくための相談も変革のための相談もできる場所だということを伝えていけたらいいと思うのだけど……。
- 番野
- ソーシャルイノベーション事業部では、医療や福祉、子ども・若者支援の領域のNPOや社会的企業と協働した支援活動がスタートしていて、非常に緊急性の高いサポートニーズが多いです。困窮するひとり親家庭にまずは食べるものを提供する必要があるとか、医療や福祉の現場では従事者の命を守る資材が手に入らないとか。各団体、3月以降緊急の対応に追われ続けています。
- 山内
- 今の状況への感覚のばらつきは「対話の会(※共創アクションの対話機会)」でもすごく感じたんだよね。相手の状況に合わせてチューニングを変えて話すようにしているのが現状。東日本大震災のときには、岩手・宮城・福島等での被災者への支援が最優先だって合意がみんなの中にあったけど、今回はそれぞれが当事者でそれぞれにとっての緊急度優先順位があるのが特徴だと思う。
- 宮城
批判を恐れなければ、自分たちが望むスタンスを選んでいいということでもあるんだろうね。
- 山内
- それぞれの目線が尊いけど、それを踏まえてどうやって動いていけばいいのか掴みかねる何かはあるよね。例えばさっき押切さんが話したように、過疎地域は医療資源が少なくて数人感染者が出ただけでも混乱につながるから慎重にならざるを得ないし、一方で医療分野のように社会的に緊急性が高く合意が取りやすい分野は動きやすくはある。それこそ「#医療従事者にホテルを」みたいに、リリースすると社会の応援を受けて反響が加速していくことも当然起こるしね。
- 宮城
あとETIC.の周りで言えば、「#旅するおうち時間」は、背景には観光産業のダメージがあったわけだけれど、それそのものは楽しい企画でずいぶん好評をいただいているよね。
- 山内
- 番野
- 明るいニュースと言えば、こうした状況の中で、迅速に支援を申し出て下さる企業や個人がたくさんいらっしゃることですよね。例えば、アメリカン・エキスプレス財団から医療従事者向けの緊急支援の申し出をいただきプロジェクトが始まりましたし、ミクシィ社からは子どもや家族の課題に取り組む団体を支援したいと「みてね基金」の立ち上げのご相談もいただきました。総額10億円規模の資金提供は、平時では起きなかった動きです。ソーシャルセクター内の協働・協力も加速していますし。
- 鈴木
- 今まで何だかんだと「やっぱり難しいよね」と言っていたことが、一気に進んでしまいそうな予感がするよね。その過程で組織のあり方も変わっちゃうんだろうと思う。今日企業の方と話したときも、成果をもっとわかりやすく変えていかなくちゃ、評価も違う方法を考えなきゃと言っていて、色んなところへの影響を感じたよ。こうして変化していくことはチャンスでもあるんだけど、同じやり方してちゃいけないということなんだよね。うちも営業の方法変えなきゃという焦りもあるしね。
社会が変わる中、ETIC.はどう変わっていく?
- 宮城
東日本大震災との違いでいうと、「とにかく頑張ろうぜ!」とわかりやすい敵や努力する対象がある戦いというよりも、考え・選択し・変化することをどの立場にいる人も求められている感じがあって、それがこれまでの災害になかったことだなという気はしている。ETIC.としてある意味で前向きに解釈すれば、「アントレプレナーシップの解放」や「セクターや組織の垣根を越える」ことがググッと近くにきたようにも感じさせられる一方で、「分断を生み出すウイルス」とも言われるようにボーダーが非常に高くなって困難に直面している人もいる。
今回ETIC.が出したメッセージも、「今、考えたり選択することから逃げない。そこに向き合って変化の契機としていこう」という能動的なもので、我々や我々の仲間たちはちゃんとそこに向き合っていこうよということなのだと思っているんだけれど。
- 山内
それは自分もすごく大事だなと思っている部分。それこそ動く方向性を既に見出している人もいるだろうと思う一方で、まだ見出せていない、むしろそれが必要かどうかも分からないという人たちもいるだろうし、危機的状況の中にいるけれど見出し方がわからない人もいるだろうし。色んな意味での前提のルールが変わった気がするから。
ETIC.の場合も、組織づくりを模索していた最中でのこの状況だから、本当に頑張らないといけない。変化に対応するために経営基盤を固めなきゃいけないけれど、同時に進化もしていかないと古い存在になっていく。ETIC.含め、色んなプレイヤーたちそれぞれが現状と未来に向き合って日々考えているなということはすごく感じる。
- 宮城
何ヶ月頑張って耐えたら何とかなるって話でもないから、単純な防御や忍耐じゃないんだよね。
- 野田
ETIC.内でも色々ですもんね。考えきれている人も、考えたいけどどうにも見出せないし、思考も止まっちゃうという人もいれば、やりたいことがどんどん湧いてきてという人もいる。山崎くんはどう?
- 山崎
- そりゃもう必死ですよ。止まると永久に止まっちゃいそうだから、止まらないようにしがみついている感じです。アントレプレナーシップという言葉はいろんな言い換えができると思うのですが、「自分で自分の仕事を楽しくする」ような前向きなモードになる余裕が今は全然ないですね。1ヶ月も外に出られなくて、仕事もやっているんだかやっていないんだかよくわからないし。
- 山内
- 俺も分かるよ。無性に農業がしたくなっちゃって、最近。確からしい何かを育てたいというか。今までの確からしい感覚って、イベントをリアルでやったとか、打ち合わせですごく盛り上がったとか、場面や景色が変化していく中で自分の身を移しながら刺激を受けてモチベーションが生まれていった中にあったと思うんだよね。でも今はずっと部屋だから、情報だけが飛び交う働き方に変わってしまって、ずっとこうした働き方をしてきた人たちは慣れてるかもしれないけど、色んなものを五感で感じづらいと思ってる。それが手触り感的なものへの欲求に繋がっているんだろうなとは思うんだけれど。
- 宮城
今回難しくも面白くもラジカルでもあるのが、「何のために」という価値観そのものが変わるかもしれない局面にきてるということだと思う。もちろん、経済の問題は従来と変わらない困難さも存在するけど、一方で「会社に所属して一生懸命働いて出世して稼ぐ」ということを成功だと思ってきた構造そのものが疑わしいかもしれないと感じる人も増えるのではないかと思う。例えば生活の半分を自給自足のための農業に費やしたら、そこまで稼ぐ必要もないかもしれないし、一生懸命働く意味さえわからなくなってしまう。
それに地方創生で言えば、地方の方がコロナのリスクは低いし、食べもるものに困らないし、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)も高いのかもしれないし、ある意味でこれまでの立場が逆転したとも見ることができるよね。
- 山内
- 地方創生に関しては、大きな変化があると思ってる。それぞれが豊かに生きるために地方という場所がどれほど必要だったか、強く実感する人が増えていくだろうし、「課題を解決するために地方に行く」じゃなくなると思うよ。
- 番野
- ちょっと投げかけてみたいことがあります。変わるチャンスだとポジティブに捉えることもできるというのは確かにそうで、そこにワクワク感はある。でも、東京でテレワークができている人は20%ほどという調査もあり、変わりたくても変わることができない人がたくさんいる。日本人の貯蓄の分布や雇用の状況から推定しても、経済が止まることでかなりの痛みやストレスを抱えている人がいることも想像に難くない。このことをどう考えていくのか、皆さんの考えを聞きたいです。ETIC.の社会的役割も少しずつ大きくなって、自分たちの“偏り”を自覚しつつ、社会全体の現実に向き合って仕事をしていくことの必要性を感じています。難しくともやりがいのある仕事なのですが。
- 山内
- これが答えになるかは分からないけど、東日本大震災のときはあれだけ広い遠い土地であれだけの災害が起きて、その責任をすべて負って現場に入ることは想像ができないし、実際に無理だと思ってたよ。ただ自分たちも色んな生態系の中で活かされている一つだという感覚が個人的にはすごくあって、すべてのことは連鎖しているので、いかに必要なツボをいち早く押していけるかということは日々考えてるよね。
- 番野
- そう考えたとき、何をするかも大事なんだけれど、何が起きているかをしっかり観ることや、対話し学び続けることも大切なのではと思っています。チャレンジすることは素晴らしいけれど、社会に思わぬ影響を与えてしまうこともあるので。時にはハレーションを起こすこともありますし。
- 鈴木
- 山内
みんな偏ってるからね。
多様なニーズを受け入れられる器として
- 山内
理事の石川治江さんが、「これからの時代は“一人ひとり”こそが大事だ」という言葉をよくおっしゃっていて、それがすごく印象に残ってるんだよね。それぞれの今があって、そこにはそれぞれの事実があるし、それはいい/悪いではないということだと思っていて、ある意味で責任を負おうと思っている一人も、今に苦しんでいる一人も、どれも同じ一人であって、それにどう応えていけるか、一緒に歩んでいけるかかなと思ってる。ETIC.内部でもそうだしね。
- 番野
- 今日、話をしてみてETIC.の変化を改めて感じました。トップダウンの戦略があるのではなく、メンバーそれぞれが自分が「やりたい」「やるべき」と考えることからたくさん新しい動きが生まれている。2年間かけて、自律分散型の組織(ティール組織)への改革を進めてきたことの成果ですね。多様性を包括しながら、ひとつの組織として行動できつつある。実際はとても「めんどくさい」し、カオスな部分もまだまだ多いのですが、競争力になっていく手ごたえもありますよね。
- 山内
確かに、今までうちにあまりこなかったような類の話を最近はいただいているよね。そして、それをやっているETIC.は何なんだという。全然ネガティヴな意味じゃないんだけどね。
- 宮城
この何でもやります度合いは、ある意味で傍目からはきっと理解不能だよね。その角度で見ている人のその角度での理解をそれぞれにされている組織だと思う。
自立の意志がある仲間たちと共に、一緒に汗をかいていきたい
- 押切
それはある意味で、この分野のインフラになるくらい「それがあるから何かが回る」という要素がETIC.の周りにたくさん散らばっているからだと思います。それを本当のインフラにするために引き上げるとなると、また変わってくるんでしょうけど。それがETIC.がどう進化するかに繋がっているんだろうなと感じます。
- 宮城
常に汗をかかなきゃいけないポジションなんだけどね。わかりやすくした方が、楽はできるのかもしれないけど。
- 鈴木
でも、10年前と比べたらだいぶ積み上がってきたものでやれてることもある。それはこの10年で仲間が増えたからだよね。ETIC.の中もそうだけど、一緒にお仕事させていただいている起業家たちとか。
- 宮城
そうだね。今はオンライン化の背景もあると思うんだけど、何だかみんなを近くに感じるんだよね。今までは支援する側とされる側、東京と地方、身内と外という境目があった気がするんだけど、今は一人ひとりがありつつ、ひとつの生態系の中にみんながいる感覚なんだよね。
それはETIC.に集っている人たちが、それぞれ自分で立とうという意志を持てている人たちだからだと思うんだけれど、そういう人たちにとっては本当に壁がなくなってきている時代だと思う。だからこそ、多様なテーマ、立ち位置、多様なキャラクターのみなさんと一緒に取り組んでいきたいし、可能性を探求していきたいよね。
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