TOP > ビジネスアイデア > 元・看護師の起業家が、コロナ禍の過酷な医療現場を支える爆速プロジェクトを進められた理由とは?―OPERe澤田さんインタビュー

#ビジネスアイデア

元・看護師の起業家が、コロナ禍の過酷な医療現場を支える爆速プロジェクトを進められた理由とは?―OPERe澤田さんインタビュー

2020.07.01 

過去、医療現場の労働環境がこれほどまでに社会から注目されたことはなかったかもしれない。業界内外ではもう何年も前から議論になっているテーマだが、新型コロナウイルスの影響で医療従事者、とりわけ患者と最も接点の多い看護師の労働環境が悪化している。

 

ひっ迫する医療現場とその周囲では何が起きているのだろうか?

 

表彰式

 

澤田優香 / 株式会社OPERe 代表取締役社長 / TSG2019 ファイナリスト

事業紹介:聖路加国際病院にて看護師として勤務し、その後「臨床を外から支える」ことを決意。コンサルティング会社に転職し多数の医療機関の経営支援や業務改善を行った後、入院した経験から患者と看護師のコミュニケーションに関して何かできるのではないか、とスマートフォンを用いたコミュニケーションツール「ちょいリク」を考案。「ちょいリク」ではナースコールで呼ぶほどではないが、患者にとっては重要な訴えを整理し必要なスタッフへ届ける。「オペレーションの刷新を通じて看護の価値を最大化する」をミッションに、過酷な医療現場を持続可能な現場へ変える支援を事業内容としている。

2020年4月から5月中旬の45日間でユーザーヒアリングから実証実験へ

元看護師であり元コンサルタントでもある澤田さんは、自身の経験から患者と看護師の「ナースコール起点」のコミュニケーションの在り方、オペレーションを刷新できないかと考えている。

 

もちろん、この構想はコロナがあったから生まれたものではなく、自身の経験に基づいた前々からの構想だ。

 

昨年、東京都主催・運営ETIC. のスタートアップコンテストであるTOKYO STARTUP GATEWAY 2019(TSG 2019)のファイナリストになり、プログラムのパートナー企業とプロトタイプ製作に向けて会話が始まったのが2020年4月中旬。以前から病院にヒアリングを重ねていたが、5月の時点ですでに病院で実証実験を行っていた。

 

澤田さんが開発しているのは、スマートフォンを用いて看護師とコミュニケーションができる「ちょいリク」というツールだ。

 

このプロジェクトのスピード感に多大な貢献をしたTSGのパートナー企業、浜野製作所の山下さんは以下のように語っている。

 

「通常の金属加工会社に相談する内容ではない気がしたが、個人的に『コロナに対して何か出来ないか』と思っていたので話を聞き、そこから何人かの方が巻き込まれて下さり、病院へのユーザーヒアリング→プロトタイプ会議→超高速の修正→実証実験→レビューをたった2ヶ月で行った。通常の他プロジェクトなら半年以上かかる。大きな会社なら1年かかったでしょう。

 

スピード「感」ではなくスピード。

危機「感」ではなく危機。

実「感」ではなく実。

 

感ではなく、実体を高速で追い続ける姿は凄い。

 

コロナという、人類の共通の敵であることに加えて澤田さんが医療現場を理解し、この状況をなんとか変えたいと思っていたから多くの人が協力をした、というよりしたくなる。」

 

なぜ爆速プロジェクトは成功したのか?2つの要因

爆速プロジェクトを実現させた2つの要因の1つは、適切な人とのコーディネートだと言う。

 

澤田さん自身、現場は当然理解しており解決策としての構想も見出していたが、実際のモノづくりに関しては門外漢。

 

そこにモノづくりのプロである山下さんが加わり、紹介をされ、巻き込まれた人々も手伝ってくれている。

 

こんな漢字

登場人物図

 

今回のプロジェクトの開発を行ったのは、ロボットの開発を手掛けるGROOVE X株式会社(東京都中央区)の小川博教さんや株式会社マリス creative design(墨田区)の和田康宏さん、トヨタ自動車株式会社社内有志団体であるMONO Creator’s Lab(愛知県豊田市)大槻将久さんらと精鋭揃いであり、モノづくりにおける人脈も大きく加速要因となった。このように必要な視点と人が加わった事で、プロトタイプ完成まで2~3週間程度で実現した。

 

パフェ

全面解除になった後、小川さんと大槻さんとパフェを食べに行く澤田さん

 

2つ目は、今回のコロナの影響で、「医療環境に何かしたい」という関係人口が増えたこと。事実、今回手を動かしているエンジニアは各企業の最前線で働くメンバーであり、今回のようなことがなければ協力を得るのは難しかったであろう人物達だ。

 

新しい生活様式と捉えられる1つの事象は、企業の中の個人がイニシアティブをもち既存の枠組みを越えて協働の流れが自然と出来始めている事ではないだろうか。

「患者よりも医療従事者のほうが好きになってしまった」

澤田さんは、臨床時代を以下のように振り返っている。

 

澤田さん:医療者が置かれている勤務環境は過酷なものでしたが、その中で患者と真摯に向き合い、日々自己研鑽を積む医療従事者というプロフェッショナル集団に強く魅力を感じました。その時点で医療従事者の為に働きたいという気持ちが大きくなったのです。医療従事者のほうが好きになってしまった。

 

――2019年に考えられていた「ナースコール革命」が形を変えたんですね。どのような背景があったのでしょう。

 

澤田さん:もともと、現在ナースコールはおよそ4分に1回病棟でなっているんですね。

ナースコール上で会話をしてしまうと多床室(大部屋)の場合、看護師と患者の会話が他の患者さんにも聞こえてしまうため、看護師はプライバシーに配慮し部屋まで行って要件を聞いています。

 

ただ、ナースコールで多く呼ぶ人もいれば、全然呼ばない人もいる。そしてその内容の緊急度も、「点滴が外れてしまった」「体調が急に悪くなった」という緊急度の高いものもあれば、「テレビカードが終わってしまった」「リモコンが落ちてしまった」と様々。

 

これだけ緊急度が異なっていても同じナースコールというボタンで呼び出しが発生し、看護師は都度対応する必要がでてきます。私自身、入院した時、「こんなことで呼ぶの申し訳ないなあ」と思いながらナースコールを押したときがありました。その時、看護師さんが来てくれたのですが、多分かなりお忙しいときだったらしく、「こんなことで呼ばないでよ…」という雰囲気が少しあったんですね。その時、本当に申し訳ない気持ちになったけど、他に手段がなかった。そして分析してみると病院によってはこれが相当な頻度で発生している。これって、お互いに健全ではないなあ、なんとかできないかなあと思ったのが今回のきっかけです。

 

ナースコールはナースコールで非常に重要なので、今後も絶対に患者と看護師にとって必要なのですが、呼び出し内容の大半を占める「それ以外」に関して整理できないかなと思いました。そこでスマートフォンを用いてコミュニケーションができる、ナースコールと対面の間のツール「ちょいリク」を開発しようと思ったのです。

 

「ちょいリク」は当初産婦人科など、スマホを使える患者さんに展開しようと思っていたのですが、このタイミングでコロナウイルスが発生しました。コロナウイルスを受け入れている病院の現場にヒアリングを行ったところ、患者の部屋に何も持っていけないという事がわかりました。メモ帳含めて持って病室に入れないんです。同意書を1つとるのもかなり苦労されていました。

 

そこで、患者さんが持っているスマートフォンから看護師に直接コミュニケーションが取れる「ちょいリク」を使えないか、と打診されました。そこで実証実験が決まり、ああでもないこうでもないと修正しながら、現在もコロナウイルスの患者さんに特化したコミュニケーションツールとして実証実験を行っています。「ちょいリク」はLINEを用いて看護師さんに伝えられる仕様になっており、その伝えやすさから患者さんからの評価は上々です。

 

まだまだ課題は多いのですが、大変な中協力して下さっている病院の皆様には、感謝してもしきれません。

アナログとデジタルの共存の良さを大事にしたい

澤田さん:考え出した当初は業務改善に焦点を当てていましたが、そこから患者と看護師のコミュニケーションギャップを埋めるためのツールという位置付けに進化させていきました。

 

医療は、人と人とのふれあいで感動が生まれるのも事実です。看護師の本質の業務は邪魔すべきでないし、デジタル化とはまったくマッチしない部分が多い。なので私はそれ以外の部分を徹底的に効率化するお手伝いをしたいと思っています。

 

ただ、思うのは簡単でも、実行するのはかなり難しいと感じています。ただ、去年TOKYO STARTUP GATEWAYに参加したことで、本当に色々と良いことがありました。まず1stStageで出会った優秀なエンジニアにプロトタイプについて仕様の相談や開発をお願いすることができ、今回のコロナ禍までにかなりラーニングを進めておくことができました。また、ビジコンで結果を残すためにも、何回もブレストに付き合っていただいた方もいたのですが、結果プロトタイプのブラッシュアップにつながったと思っています。そして、ファイナリストの特典として企業パートナーである山下さんを通じてプロフェッショナルの方々をご紹介してもらい、開発をできたのは大変な財産となっています。技術を持っている “プロ”の人と医療現場の優先度の高い課題を積極的にマッチさせていくのも重要な役割であると認識しました。

 

医療現場はただでさえギリギリの状態なので、スピード感もちつつ、現場を混乱させることだけはないようにやっていかなければと思っています。

 

まだまだ走り出したプロジェクトではありますが、持続可能な医療現場の実現に向けて、1つ1つ確実に実践し検証して、患者と医療従事者双方にとって良いサービスを提供していきたいと思っています。

 

――澤田さん、ありがとうございました!

 


 

 

東京発・400字から世界を変える、スタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」エントリー受付中! 2020.7.5 23:59締切

https://tokyo-startup.jp/

TOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)は、テクノロジーから、モノづくり、ソーシャルイノベーション、リアルビジネス、グローバルを見据えた起業など、分野を越えて、「東京」から世界を変える若き起業家を輩出するスタートアップコンテストです。

 

この記事の関連記事はこちら

>> 東京発・400字から世界を変えるスタートアップコンテスト 「TOKYO STARTUP GATEWAY 2017」コンテスト部門FINALレポート!

 

 

ETIC_Letter_DRIVE

 

この記事に付けられたタグ

TOKYO STARTUP GATEWAY新型コロナETIC.起業
この記事を書いたユーザー
アバター画像

小泉愛子

1984年生まれ 茅ヶ崎市出身。水泳に明け暮れた小~高校時代から一転、心持ちとエネルギーで周囲を巻き込む人/コトに出会い、新しい仕組みで社会を動かす場へ。大学卒業後、人材系ベンチャーで 新規事業立ち上げ、マーケティング会社へ出向。新卒採用責任者に従事。2015年6月からETIC.に参画。