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村のSDGsに追い風。コロナ禍でもぶれない岡山県西粟倉村役場のあり方

2020.07.17 

あらゆる局面に深刻な影響を及ぼす一方で、新しい働き方や価値観をもたらすきっかけともなっている新型コロナウイルス。刻一刻と状況が変化する中で、先進的な自治体はどのようにコロナ禍と向き合い、アクションを起こしていたのでしょうか。本連載では、意外と知ることの少ない最前線で働く自治体職員の方々の「あたまのなか」に迫ります。

 

第3弾は、ローカルベンチャー発祥の地と言われ、コロナ禍においてもその動きを止めることのない岡山県西粟倉村の「あたまの中」。村の総面積の95%が森林、人口は約1,500。2004年に市町村合併を拒み、村の存続をかけた改革のなか村内で生まれたローカルベンチャーは約30社。売り上げは総額およそ15億円、生まれた雇用は120人以上にのぼります。2008年には持続可能な森林経営を目指す「百年の森林(もり)構想」を掲げ、10年前は売上総額が約1億円ほどだった木材関連事業は、現在では約8億円までに成長しました。それから約10年を経た現在、持続可能な西粟倉村を実現していこうとする「百森2.0」がスタートしています。今回はそんな西粟倉村役場で地方創生推進室長をつとめる上山隆浩さん、産業観光課長の萩原勇一さんにお話を伺いました。

 

上山さん3

上山隆浩(うえやま・たかひろ)/西粟倉村役場 地方創生推進室長

岡山県西粟倉村出身。1960年生まれ。入庁後、村の宿泊施設の「あわくら荘」で事務長に。その後「道の駅あわくらんど」の企画から、建設、営業開始まで関わった後、再び「あわくら荘」にて支配人として経営立て直しを担当。平成17年から観光施設の総支配人を4年間務め、平成21年から役場に戻り産業建設課(産業観光課の前身)で百年の森林事業やローカルベンチャー、SDGsを担当。令和2年4月より地方創生推進室長就任。

萩原さん3

萩原勇一(はぎはら・ゆういち)/西粟倉村役場 産業観光課長

西粟倉村出身。平成2年に西粟倉村役場に入庁。ライフラインなどの整備をはじめ、税・高齢者・障がい者福祉等を経験し、平成29年度から商工観光と地方創生を担当。 令和2年4月より産業観光課長に。

村のキャッチコピー「生きるを楽しむ」を実現するために

 

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――まず、上山さんが室長をつとめる地方創生推進室は西粟倉村役場ならではのものだと伺っていますが、その業務内容について教えていただけますでしょうか。

 

上山さん(以下、上山):平成29年に発足した地方創生推進班は、役場の課を超えた地方創生に取り組む横断チームで、総職員数43名のうち約1/3の職員が関わっています。

 

この地方創生推進班によって、役場の既存事業からスピンアウトして生まれた事業があります。初年度は村のこれからの旗印となる「生きるを楽しむ」というキャッチコピーを生み出し、その実現に向けてプロジェクトの企画、事業の立ち上げ、仮説検証を重ねて実践してきました。例えば、企業と連携しながら地域資源を活用する事業創発に取り組むプロジェクト「むらまるごと研究所」、教育にアプローチする「あわくら未来アカデミー」、一時託児をはじめとする子育て支援が現在も進められており、これらは今の縦割りの組織体系の中では、どこかの課1つで担当できないものばかりです。これらに「地方創生」という大きな傘をかけて誰かがハブとして見ながら、事業、人、リソースを有機的に繋ぎ合わせて、効果が最大に出るようにファイナンスも含めて仕組みにしていく必要があり、それを担っているのが地方創生推進室になります。

 

地方創生推進室は、さらにSDGsの普及啓発事業と森林を通じた持続可能な地域づくりを目指したSDGsモデル事業の推進も担っています。

 

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最大限配慮しながらも、移住者の受け入れはやめない

――そのような取り組みを推進する中、今回の新型コロナウイルス感染拡大は村にどのような影響をもたらしましたか?

 

萩原さん(以下、萩原):人の移動が制限されたことによる観光事業の影響、ローカルベンチャーを中心とした外需産業に影響が出ている状況です。感染対策はクラスターを出さないことを重視しており、個人的にも東京出張はなくなり村にずっといます。

 

上山:感染予防、経営持続性の支援をメインとした住民ケアを行なっていますが、西粟倉村が続けてきた移住者受け入れは、ウイルスを村に入れないよう最大限配慮しながら行い、中止したものはありません。今も村に新たな移住者は増え続けていて、今年は地域おこし協力隊含め14人が村に移住しました。

 

現在は既にwithコロナの動きが村内に生まれていて、特に国が地方での新しい生活様式確立を支援するために確保した地方創生臨時交付金が、推進室で進めてきた村の今後10年のためのSDGsの普及啓発事業と、森林を通じた持続可能な地域づくりを目指したSDGsモデル事業の追い風になりそうだと感じています。

 

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すでに始まっていたSDGsへの取り組みが、withコロナの村のあり方にフィット

――withコロナの村の方針について、詳しく教えてください。

 

萩原:新しく方針が生まれたのではなく、すでに始まっていた持続可能な地域づくりを目指した諸々の事業が、これから村が目指すべき新しい生活様式にしっかりとはまったという感覚です。

 

特に中心になるのが、「百年の森林(もり)事業Ver.2.0(以下、百森2.0)」です。2008年に村の95%を閉める森林のうち84%を占める人工林を経済活動に結び付け、「百年の森林に囲まれた上質な田舎」を実現しようと始まった「百年の森林(もり)構想」ですが、およそ10年を経て、アグロフォレストリー※などの視点を取り入れ森林の再構築を行うことで森林が生み出す価値の最大化を目指そうと「百森2.0」がスタートしました。 民間と協働しながら、林業のみにとどまらず山菜や木の実、自然薯の栽培など、もっと多様な視点で山林資源の活用を行うことを目指しています。

*農業(Agriculture)と林業(Forestry)を両立する、持続可能な土地利用方法。

 

上山:「百森2.0」は木材以外のアセットをもう一度きちんと洗い出してみようという取り組みになります。そうして見出したアセットを表に出していくための機能が「むらまるごと研究所」になり、今後企業や大学の研究機関とより関係を深め、専門的な知見からエビデンスを確立していくことを目指しています。

 

例えば「森林が健康にいい」という言説はありますが、それを証明するエビデンスはありません。そこで「むらまるごと研究所」において、森林生態系や森林食材が体にどのような好影響をもたらすのかというエビデンスを科学的な知見をもつ企業とR&D実証研究し、そのデータをオープンデータプラットフォームに載せて、安心の効果が明確な観光を打ち出したいと考えています。また、そうした実証研究の実績が、新たな企業協働の呼び水になればいいと思っていますね。掘り起こしたアセットを活用していただく関係人口はこれまでのローカルベンチャー事業で作ってこられたと感じていますので、今後の課題はそれらをどうビジネスにしていけるかだと思っています。

 

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企業・大学連携を進めながら、取り組みを地に足つけたものにしていくのが行政の役割

――この社会情勢の中で、民間との協働に何か影響はありましたか?

 

萩原:キックオフに遅れは出ていますが、去年から既に進めていたものばかりなので体制には今のところ影響はありません。6月19日から県外に移動可能となったので、今後遅れを取り戻しながら順調に進めていけるだろうと考えています。もちろん、社会情勢の変化に合わせて考え方・対応を変えていかなくてはと思っていますが。

 

上山:この夏、村に一般の方や企業が使用できるインキュベーションセンターがオープン予定で、さらに一般の方や企業の方も使用してもらえるスペースを設けた役場新庁舎の施工も進んでいます。新しく地方で新規事業を作りたい、地方の行政と連携したい人や企業とより連携しやすい状態が整いつつあると感じています。

 

行政が主体で動いていくことが難しい情勢とも言えますから、色んな人たちと関係を持つ部分を部門ごとに増やしていきたいですね。ローカルベンチャーならばエーゼロ株式会社というように、教育ならこの企業といった連携を増やしていきたいです。一方で、西粟倉村の土壌自体を育んでいくために、SDGsの一連の動きを誠実で確実なものにしていくのが我々行政の仕事だと思っています。

 

――観光産業の分野では、今後どのような変化が見込まれますか?

 

萩原:実は新型コロナウイルス感染拡大の以前から今後の観光をどうするのかという話は出ていて、西粟倉村においてインバウンドを見込むことは難しいので、関係人口と呼ばれるような地域外の人々との関わりを主流にして、村のファンづくりをしていこうという方針がすでに生まれていました。ですので、この社会情勢を契機に変わったというよりは、これを契機に一層納得のいく方向性になったという感覚です。市場経済の流れに乗るというよりは、ミニマムにより手触り感や絆(濃い人の交流)、長い時間軸というコンセプトを大切に持続可能性を追求していこうとしていたところに新型コロナウイルス感染拡大が起こったんです。

 

上山:宿泊施設についても、村にある築50年の国民宿舎の改装のため、企業と連携して新しい施設の建築準備に入っています。限定10室でゆったりとした空間の中泊まっていただいて、自分を見つめる時間や地域の人と交流できる宿をつくろうと思っています。都市から地方へという流れに沿って、体制を整えていきたいですね。その中で今までにない森林生態系を活かしたツーリズム展開を仕掛けていければと思います。

 

――上山さん、萩原さん、ありがとうございました!

 


 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。