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医療人材が自己効力感を高められる環境を。低中所得国の「グローバルヘルスリーダー」を育成し、医療システムの発展を目指す~ビジョンハッカーの挑戦(3)島戸麻彩子さん~
2021.07.01
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では、年齢・居住地・性別等に関係なく、あらゆる人が健康で豊かな暮らしを送ることを目的に、妊婦の死亡率の削減、エイズなどの伝染病の根絶、保健サービスの普及や人材育成等、様々なターゲットが設定されています。
NPO法人ETIC.(エティック)が運営する「Vision Hacker Awards 2021 for SDG 3」は、そんな国際保健・グローバルヘルス分野へ挑む、次世代リーダーを発掘・育成するアワードです。この特集では、ファイナリスト8名の方々にインタビューを行いました。
今回は、オンラインプログラムを用いて低中所得国におけるグローバルヘルスリーダーの育成を目指す、島戸麻彩子さん(以下、会話文中敬称略)にお話を伺いました。
島戸 麻彩子(しまと・まさこ)
University College London 医学部医学科4年生、江副記念リクルート財団第47回学術部門奨学生。国際バカロレア ディプロマ取得、UWCインド校首席卒業。小学生時代から国際保健分野に高い関心を持ち、過去にはチャリティー団体の大学支部リーダーとして、ガンビアでの妊産婦の健康や子どもの栄養改善を目指すプロジェクトを発足。ロンドンで医学を学びながら、日本のIT系ベンチャー企業で医療アプリ事業展開のリモートインターンや国際開発学勉強会運営にも取り組む。
小学生の頃から国際保健分野に関心を持っていた島戸さん。通っていた小学校で継続的に募金支援をしていたハイチで小学5年生のときに大地震が起きたことをきっかけに、集まった支援がうまく国民に配分されない仕組みや、インフラが整備されておらず亡くなった方が多い事実に直面しました。そのときに「募金活動だけでなく、実際に現地に赴いて直接患者と触れ合い、保健システムを改善できるような仕事に就きたい」と考えたと語ってくださいました。
オンラインプログラムを通して参加者の自己効力感を向上。世界各国で医療人材として活躍していける環境をつくる
――まずは事業内容を教えてください。
島戸:現在の低中所得国はヘルスケアを学ぶ環境が乏しく、医療人材が絶対的に不足しています。さらに現場でのリーダー育成が十分に行われていないので、個人の能力が最大限活用されていません。 こういった問題を根本的に改善するため、低中所得国におけるグローバルヘルスリーダーを持続的に育成するオンラインプログラムを企画しています。
事業は三本柱で進めていきたいと考えておりまして、一つ目は約一ヶ月で回していくケーススタディ・プログラムです。参加者である医療人材にはあらかじめ、決められたテーマに関する課題資料を熟読したり、質の高い専門家の講義を視聴したりと準備してきてもらいます。その上で、Googleドキュメント上やZoomで時差や場所の壁を超えたディスカッションを行い、レポート提出やイベント開催といったアウトプットをしていくというサイクルを考えています。
二つ目は、少人数でグループワークをしたり、オンラインでお互いにビジョンピッチやコーチングをしたりして、グローバルヘルスリーダーとなる若者同士の生涯に亘るネットワーキングの機会を作ることです。毎月新しいペアを組み、気軽にコミュニケーションを取って相談し合える関係の構築を目指します。
三つ目に、Project Based Learningとして、メンターによるプロジェクトサポートやクラウドファンディングの支援などを行うことで、自分でプロジェクトを遂行し自己効力感を高められるような環境を整えていきたいと考えています。
インプットをして知識を身につけることも大切ですが、私たちは「その地域が抱えるニーズに合わせて、身につけた知識と自身の経験を融合させながら各個人がやりたいプロジェクトに取り組んでいける」という姿を目標にしています。
こういった実践的な経験を通してリーダーシップやコミュニケーションスキルを養い、卒業するときには自分のプロジェクトを持ち、分野や国の壁を超えて連携体制を築いていける。そんなグローバルヘルスリーダーを育成していきたいです。
ガンビア内陸部の村で小学校の先生にインタビュー
「何かしてあげる」ではなく、お互いに学び合える環境を。留学経験を通して見えてきた実状と決意
――事業を始めようと思ったきっかけを教えてください。
島戸:高校2年生のときに「ユナイテッド・ワールド・カレッジ」という経団連が支援する留学プログラムに応募して全額給付奨学生として、インドの全寮制インターナショナルスクールであるUWCインド校に2年間派遣されました。
国際保健に興味があるといってもずっと東京で育ってきたので、いわゆる低中所得国といわれる国での経験を若いうちに積みたいと思いインドを選びましたが、やはり言葉が完璧に通じない中で、三食カレーといった異なる生活環境に溶け込むことはなかなか大変で。そのときに、互いの文化や価値観を尊重して心から繋がりあうことの大切さを実感しました。
ロンドンにあるUniversity College Londonの医学部に進学してからも、さまざまなバックグラウンドを持つ方々と実習やボランティア活動で触れ合ったり、課外活動として西アフリカのガンビアで妊産婦の健康や子どもの健康改善を目的としたプロジェクトを立ち上げたりしています。国際協力というと「先進国が低中所得国を助けてあげる」といったイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の交流を通して、私はお互いに学び合えることがすごく多いなと感じたのです。
現地で関わった方々は一人一人が色々な熱意や考えを持っていて、私自身すごく感化されたので、特に同じく保健分野に興味のある方々と一緒に成長できる環境を作り、お互いの可能性や能力を最大限に引き出していけるようなコミュニティを作りたいと思うようになりました。
例えば、西洋医療をそのまま投入するのではなく、私は現地の伝統医療もリスペクトすることで人々に受け入れられる保健課題解決案が導き出せると考えています。低中所得国とひとくくりにせず、国ごとコミュニティごとのニーズや価値観をしっかりと把握し、問題の根幹にあるroot cause(根本的な原因)に着目することが大切なのではないでしょうか。
UWCインド校の卒業式
根底にある課題をとらえ、自らアクションを起こせる人材の輩出を目指して
――今後のビジョンを教えてください。
島戸:現地の地域コミュニティ特有のニーズを掴んだヘルスケア人材が、自発的・長期的に保健課題の解決に向けて取り組み、一人一人が自らの力を最大限発揮して活躍できるような自立したコミュニティを実現していきたいと考えています。
そのために、時間や場所を揃えなくても共に学習できるオンラインプログラムの構築を進めており、今年の3月に試験的に一度勉強会を実施しました。そのときのテーマは「自由診療か、かかりつけ医制度か」だったのですが、自国の制度が他国でそのまま通用するわけではないと分かったり、自国では採用していない方の制度の良い点や悪い点を初めて自分なりに考えたり。医学部の授業では知識を受け取って覚えることは多いですが、ディスカッションやアウトプットをする機会が少ないので、6か国からの参加者と医療について意見交換をする機会はとても新鮮でした。他の参加者からも「ディスカッションができてとても学びが多かった」という感想をもらえて嬉しかったですね。
オンライン上では対面交流と違って五感を使って学ぶことができないので、その点をどのように乗り越えて質の高いディスカッション・国際交流を行っていくかがカギになると考えています。
――参加者のモチベーションを維持する仕組みはありますか?
島戸:最初に少人数グループを作ってアイスブレイクを行い、時間をかけてお互いを知る機会を設けようと思っています。
また、参加しても個別フィードバックがないと学びの成果を感じづらくなってしまうと思うので、提出したレポートを専門家の方に評価していただいたり、参加者がお互いにコメントしあったりする環境を整えます。また、参加者が協力してオンラインイベントを開催し発信する機会を設けることで、ゴールを見据えてプログラムに取り組み、同時にチームワークを伸ばしてモチベーションも維持できるのではと考えています。
3月のオンラインイベント
――将来的にどんな社会をつくり上げていきたいですか?
島戸:バックグラウンドに関わらず、自分の能力を最大限発揮してやりたいことに取り組み、各個人が活躍できる社会をつくるというのが大きな目標です。
そのなかでも特に、将来保健分野に携わろうと思って勉強している学生や若手のヘルスケア人材たちが他国の事例や自分のコミュニティが抱えるさまざまな問題を広い視野でとらえて、どのように課題として認知して行動を起こせるかに焦点を当てています。私自身一参加者としてそういった姿勢を磨きつつ、熱意ある若者のコミュニティを一緒に築き上げていきたいと考えています。
国の抱える課題は単なる大きい小さいといった規模感では測れず、その根底にある原因やコミュニティによって重視するものが変わると思っています。インフラ、資金、医療者数といった面では低中所得国の方が現時点で不利な状況にあると思いますが、だからと言って先進国の医療に全く問題がないわけではなくて。イギリスも日本も、急速に進む高齢化社会において医療をどのように支えて質を保っていくかという問題を抱えています。課題の大小という評価より、目の前の課題に対して自分には何ができるのかを考えていく。その考えるきっかけを与えられたらと思いますし、実際に動き始めるときに「意外と自分でアクションを起こせるんだ」と自己効力感を高めるようなプロジェクトにしていきたいです。
――島戸さん、ありがとうございました!
Vision Hacker Awardsについて詳しく知りたい方は、WebサイトやFacebookページ、Twitter「Vision Hacker Awards(VHA)」をご覧ください。
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