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サステナブルなまぐろの価値をつくりたい。三崎恵水産が挑戦する「まぐろでんき」とは?

2021.08.05 

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人々の価値観やライフスタイルが多様化する中、社会課題解決への意識が高まり、社会貢献のためのチャレンジを起こす企業への関心が集まっています。

 

株式会社ディスコが2021年3月卒業予定の大学4年生などを対象に行った「就活生の企業選びとSDGsに関する調査」によると、就職先を決めた理由として、「社会貢献度が高い」が最も多く、全体の30%を占めることがわかりました。また、社会貢献度の高さが就職先を志望することに「とても影響した」は22.4%となり、「やや影響した」42.8%と合わせると65.2%が「影響した」と答えています。

 

神奈川県三浦市の城ケ島で創業50年を迎えたまぐろ卸問屋の株式会社 三崎恵水産は、再生可能エネルギー普及事業の「まぐろでんき」をスタートしました。サステナブルなまぐろの事業を実現し、水産業や流通業、飲食業にムーブメントを起こすことを目指したプロジェクトです。

 

昔ながらの風習や考えが根付きがちだというまぐろ業界から、「まぐろでんき」を通して新しい価値をつくろうと動き出した三崎恵水産。二代目としてアイデアを形にしている代表取締役社長の石橋匡光(いしばし まさみつ)さんに、「まぐろでんき」を始めた背景や現在取り組んでいるチャレンジ、未来についてお聞きしました。

 

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石橋匡光(いしばし まさみつ)/株式会社三崎恵水産 代表取締役社長

神奈川県三浦市の城ケ島生まれ。青山学院大学を卒業後、広告代理店、飲食店勤務を経て家業の株式会社三崎恵水産に入社。2020年4月、代表取締役社長就任。うまいまぐろを探し求めて世界中を飛び回っている。

円建てで取引されるほど世界で優遇されている日本のまぐろ

 

――石橋さんは大学では理工学部を専攻した後、アメリカの大学でマーケティングを学ばれました。卒業後は広告代理店、飲食店勤務を経て三崎恵水産に入社されています。ユニークな経歴をお持ちですが、水産業界に入るまでは特にどんなことに興味を持っていましたか?

 

常に新しいこと、楽しそうなことを追い求めていました。新しい挑戦をして成長を実感できることにやりがいを感じていました。いろいろな経験をしましたね。だからこそ、今があると思っています。

 

――当時、三崎恵水産に入社することは家業を継ぐことにつながったと思うのですが、入社時には、三崎恵水産にどんな可能性を感じていましたか?

 

三崎恵水産は創業53年で、入社した時にはもうすでに組織的にも業界的にも熟成された状態でした。最も成長を感じたのは、海外の仕事をした時です。大きな可能性を感じました。

 

まぐろは、国内産業では市場自体が大きく成長しない代わりに一定数の割合で需要があり、大きな利益損失の不安は少ない業界だと以前から感じていました。ただ、水産業者自体は減少傾向にあります。

 

それに対して、世界においてまぐろは成長産業なんです。富裕層にシーフードがとても好まれていること、世界中で日本食を好む人たちが勢いよく増えていることが理由に挙げられます。三崎恵水産の公式サイトで「世界一のまぐろ屋を目指して」というメッセージを公開していますが、日本一よりも、世界一を目指したほうが早いと思うのです。

 

――日本のまぐろ卸問屋は海外ではどんなポジションなのでしょうか。

 

現在、世界のまぐろの市場では、日本が中心になっています。日本から流通されるまぐろは品質が高いことで知られ、情報面でも付加価値がとても高く、プライスリーダーでもあります。刺身グレードのまぐろについては、世界中の市場で円建てで取引ができるのです。円建てで世界を相手に仕事ができる商材は珍しいと思います。

 

日本のまぐろ業者が得意な冷凍まぐろでは、船上で、えらや内臓を取り除いたうえにマイナス60℃で冷凍します。陸に戻ると、すぐにマイナス60℃の超低温冷凍庫に移すため、鮮度が高く、質が高いんです。缶詰用のツナの場合は、マイナス20℃以下で冷凍するので、それと比べると相当のエネルギーを使用しています。

 

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流通に必要な大量の消費エネルギーを何とかしたい

 

――日本のまぐろは世界で貴重な存在として取引されている一方で、大量のエネルギーを消費するなど環境に対する課題があるのですね。石橋さんご自身、さらに何か課題に感じていることはありますか?

 

二つあります。一つは後継者不足です。特に三崎恵水産のある三崎は人口の減少が続き、仕事が選べる都会へ若い層の人たちが出ていく傾向が続いています。魅力に感じる仕事や職場環境を実現する必要性を感じています。

 

もう一つは、日本ではまぐろがコモディティ化・低価格化していることです。つまり、100g398円と100g598円のまぐろがあると、100g398円のまぐろのほうが「安くていい」と評価されるのが現状です。そうなると、品質が高いものではなく品質を落としたまぐろを流通させる状況が出てきます。日本のまぐろの価値が落ちると、世界でも日本を通さず流通される時代がやってくるかもしれないという危機感を持っています。

 

――どんな突破口があると思いますか?

 

エネルギー問題につながってきます。日本のまぐろ問屋は、どの業者も目利きの質の高さが特徴です。さらにまぐろの価値を高めるためには、大量のエネルギー消費を必要とするその過程を変えることが大事だと思っています。

 

三崎恵水産では、2020年、第二加工場冷凍庫の電気を再生可能エネルギーに切り替えました。環境に配慮した再生可能エネルギーでまぐろを流通させることで、消費者の方にまぐろをよりおいしく感じていただきたい。さらに応援していただくことで、わたしたちまぐろ卸問屋がコストをかけてでも再生可能エネルギーを選択し続けるという循環をつくりたいのです。今、SDGsへ取り組む企業が増えていますが、まぐろ業界では、行動を起こすべき時期がきたと思っています。

 

三崎恵水産では、2021年6月15日に再生可能エネルギー「まぐろでんき」の販売を開始しました。

 

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東日本大震災の計画停電をきっかけに太陽光発電をスタート

 

――消費エネルギーへの課題感から再生可能エネルギーを導入したのですね。「まぐろでんき」を最初に始めようと思ったのは何かきっかけがありますか?

 

東日本大震災の時に計画停電が行われましたよね。その時に電気の影響力の大きさを実感したのです。電気がないと冷凍庫も止まってしまうし、冷凍庫のドアの開閉も電気を使っているから機能しない。「電気がないと何もできない」ことを痛切に感じました。それを機に、エネルギー問題に向き合い、2012年、社屋の屋根の上に10kwの太陽光発電設備を設置しました。

 

――計画停電がきっかけだったのですね。

 

そうなんです。当時は10kwの太陽光発電にすることが自分たちにできる精一杯のことだったのですが、この10年ほどで法整備など環境が整ってきて、契約書一つで発電所をもたなくても電気を買えるようになりました。自分たちの意思で電気を選択できる時代になったのです。

 

三崎恵水産は、国内外に再生可能エネルギーを作っている自然電力とパートナー契約を結んでいます。「まぐろでんき」の再生可能エネルギーは、自然電力から調達されている電力なんです。さらに、私たちは2025年までにRE100※を目指すことも決めました。

※RE100 : 企業が事業運営に使用する電力の100%を再生可能エネルギーで賄うこと

 

活動を加速させて、「まぐろでんき」をきっかけに電気が変えられることを広く伝えていきたいのです。今、水産業界などでは浸透するのは難しいかもしれませんが、3~5年後には当たり前になることを目指しています。

 

私たちが先頭を走ることで、まわりの業者にも「自然由来の電気に変えられるんだ」という気づきを与えることができると思うんです。

「まぐろでんき」を自宅で使い始めた社員の費用を一部補助

 

――「まぐろでんき」を始めると決めた時、社内の反応はいかがでしたか?

 

正直、理解してくれる社員は少なかったのかもしれません。今は地道に説明しながら、理解を深めていこうとしている段階です。社員すべてが自分ごととして自分の言葉で説明できるように。

 

その一環として、今年9月から、 社員には費用を一部補助する制度を始める予定です。自分の生活に取り入れることで初めて意識に変化がみられると思うのです。

 

社員にも理解を深めてもらいながら全社あげて取り組みを進めて、まわりの企業も巻き込み、ムーブメントを起こしていきたいと思っています。最終的なゴールは、まぐろに関わる水産業、流通業、飲食業のみんなで一緒に電気を自然由来のものに変えることです。これまで大量に消費していたエネルギーの問題を解決するために、業界あげて行動を起こすのです。

 

その際のポイントであり課題は、どこまで本業への関わりを深め、いかに持続可能なものにするかだと思っています。本腰を入れて考えなければ、まぐろが絶滅する前に、日本のまぐろ問屋がなくなる可能性もあります。

 

日本のまぐろがおいしいのは当たり前なんです。おいしいことを前提に、新しい前提をつくる。それが環境負荷をかけないことです。サステナブルというと、まぐろの場合は、本まぐろが絶滅危惧種に指定されるなどいかに保存するかという課題も浮上しますが、その解決策でも大量のエネルギーを必要とします。私たちまぐろ業者が積極的に考えるべき課題だと思っています。

 

電気は選べるのだったら選べた方がいい。そういったことを水産業や流通業、飲食業で、さらにはそれ以外の業界でもしっかりと考えるきっかけをつくりたいです。

商品の購入を通して会社にお金を払うのはその会社への投資

 

――「まぐろでんき」を広めていくうえで課題に感じていることはありますか?

 

水産業や流通業、飲食業などはコロナ禍の影響も大きく受けているので、コストが上がる選択はなかなか難しいという課題があります。ただ、この環境負荷の問題に関しては、3~5年後には私たちの取り組みは当たり前になると確信しています。

 

特に、Z世代と呼ばれる20歳前後の人たちはSDGsや社会貢献への意識が高い。自然を守りたいという想いを通して、消費者と流通、生産者がつながる時がくると思っています。

 

その一歩として、まず私たちが再生可能エネルギーという新しい選択肢をつくるんです。

 

以前、学生さんから手紙をもらったことがあります。その手紙には、「商品の購入を通してお金を払うことはその会社への投資です」と書かれていました。まさにその通りで、再生可能エネルギーの「まぐろでんき」を活用した私たちのまぐろを食べてもらうことで環境負荷を軽減しているという意識が、10倍おいしく感じてもらうことにつながると思っています。すると誰かに届けたくなる。そういった循環が広がると、売り上げ的にもコスト分を超えることが可能になると思うのです。

 

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そう考える会社が、10年後も成長を続けていけるのではないでしょうか。今は違和感をもつことも、3~5年後にはみんなが当たり前のように再生可能エネルギー100%を目指すようにしたいです。

若い世代と組織や業界に変化を起こしたい

 

――サステナブルな事業展開を企業が目指しているかどうかについては、若い世代の人たちの中でも仕事選びの優先度が高いと感じます。消費の面でもこれからその変化が加速していくのかもしれません。

 

この10年間の変化と、それまでの50年間の変化を比べた時に、この10年間のほうがスピード感があったと思います。携帯電話やパソコンなどのIT環境をみても。若い人たちはすべてデジタルネイティブで、価値観も多様で考え方も柔軟です。

 

三崎恵水産では、若い人たちにどんどん活躍してもらって組織や業界に変化を起こしていきたいと思っています。

 

将来的な計画として、2050年には月でお寿司屋さんをしたいんです。月で寿司を食べるって夢があるじゃないですか。また、この先、人口増と自然資源の減少により動物性たんぱく質が取り合いになる可能性もおおいにあります。生のまぐろだけじゃなくて、今開発が進んでいる代替たんぱく質の分野にも取り組んでいきたい。既存の常識を超えて、未来を見据えたチャレンジをさまざまな角度から実践していきたいですね。

 


 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。